三菱MRJリージョナル機、顧客への引渡しを2018年に延期


—2008年に始まったMRJの開発は、これで完成までに10年を要するー

 

2016-02-01 松尾芳郎

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図1:(三菱航空機)昨年11月27日に3回目の試験飛行をする三菱MRJ90の初号機。初めてフラップと脚を収納し、高度15,000 ft、速力200 ktで飛行した。これ以後同機は飛行を中止し、主翼付け根と主翼を取付ける胴体中部の構造の補強とシステム・ソフトの改訂をしている。間もなく改修が終わり、2月中旬には飛行を再開する。

「MRJ90」は座席数88席、全長35.8 m、翼幅29.7 m、巡航速度マッハ0.74、航続距離2,120 km、最大離陸重量39.6 ton。エンジンは、P&W製ギヤード・ターボファンPW1217G、推力17,500 lbs (78.2 kN)が 2基である。量産に入ると、エンジン最終組立ては三菱重工で行われる。

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図2:(三菱航空機)2015年12月24日に発表された量産初号機の納入時期変更に関わる説明表。納入予定は従来公表の2017年中頃から1年遅れの2018年中頃へと変更された。飛行試験は、従来の予定では18ヶ月に圧縮して行う、としていたが、今回は国内、米国でそれぞれ大幅に延長し合計30ヶ月以上、2,500時間をかけて実施することになった。全体に十分な余裕を持たせたスケジュールとなっているので、これ以上の遅延はないと見られる。

 

昨年末12月24日、三菱航空機は4度目となるMRJリージョナル機の引渡し延期を発表、2018年中頃に遅らせるとした。これで2008年に開発をスタートしてから引渡しまで10年かかることになる。MRJ開発は2008年3月に始まり、当初は2013年末から納入する予定だった。

これでMRJの就航開始は、競争相手の一つ、エンブラエル E190-E2(106席)の就航とほぼ同時になる。エンブラエルはこれと並行してE195-E2(132席)とE175-E2(88席)の開発を進めていて、前者は2019年に、後者は2020年に就航する予定だ。特にE175-E2は、MRJ90と客席数が同じで直接競合するが、その就航時期の差は僅か2年しかない。

三菱では、10年に及ぶ遅延について「民間機の開発は50年振りとなるため基本的には経験不足が原因」としている。同じリージョナル機メーカーであるエンブラエルは経験が豊富で、目下開発中のE2モデルの原型となるE-Jet系列機は、開発開始から僅か5年で完成、就航することに成功している。

今回の改定でローンチカスタマーANAへの引渡しは、1年遅れの2018年4月から9月頃になる。ANAに続いて発注したアメリカの「トランス・ステイツ(Trans States Holdings)」と「スカイ・ウエスト(Sky West)」も受取りはほぼ同じ時期からになる。

MRJ初号機は、昨年11月27日に3回目となる試験飛行で、初めてランデイングギアとフラップを収納して飛行に成功した。その後、一旦飛行を中断して主翼付け根と接続する胴体のフレームを補強する工事をしている。また、各システムに組み込まれるソフトも最新版への更新も実施中だ。これらの改修は間も無く終わり、2月中旬から試験飛行を再開する。

構造の改修とは、昨年春に行った地上強度試験機による静的強度試験で、制限荷重の150%荷重(すなわち終極荷重)試験中に、主翼付け根と胴体側フレームに強度不足が検出され、補強が必要となったもので、以前から予定していた作業、と云う。飛行試験用の機体は補強板で処理するが、量産機では該当箇所を再設計し厚い部材に変更する。これによる重量増は数kg程度で、性能への影響はない、としている。

 

(注)終極荷重とは;— 飛行機の設計では、旋回などの運動、落下着陸(hard landing)、突風への遭遇、などを考えて、機体に掛かる荷重倍数を決めている。機体は、構造に加わる最も大きな荷重「制限荷重」に耐えなくてはならない。輸送機は戦闘機のような過激な運動をしないので「制限荷重」倍数として「2.5」を使っている。これに設計で使う安全率「1.5」を掛けた値を「制限荷重X 1.5」=「終極荷重」と呼んでいる。機体構造は静的強度試験で「終極荷重」に3秒間耐えなければならない。

 

三菱航空機岸信夫副社長は、これら改修の説明の中で「主翼/胴体の改修で予定が遅れるのではない」、「3回の試験飛行は、離陸性能、上昇下降性能、着陸性能、脚の出し入れ、フラップ動作特性(0-30度範囲)、高度15,000 ft 速度 200 ktまでの範囲の飛行特性、旋回性能、などの試験を実施し、すべて順調だった」と強調し、構造強度不足が遅延の原因とする説を否定した。

今回の型式証明取得、納入予定の変更については、次のように説明している;—

「シアトル・エンジニアリング・センターの専門家と名古屋本社の技術陣が協議し、全体の工程を見直した結果“いくつかの点で飛行試験の追加と試験内容の変更が必要になった”と判断し、それに沿って決めたものだ。不測の事態にも対応できるように時間に余裕を持たせ、見直して決めたスケジュールである。」そして「2号機の初飛行は今年4月−6月頃とする。」

この見直しでモーゼスレイク(Moses Lake, Washington)での飛行試験開始は2016年10月-12月からとなる。

別件だが、昨年末にMRJ90およびMRJ70の客席数の減席が発表された。これはエンブラエル(Embraer) E175-E2型機に対する競争力を高めるためで、客席間隔(seat pitch)を従来の29 inchから標準的な31 inchに改めることで生じた。この結果MRJ90は92席から「88席」へ、MRJ70は78席から「76席」へ、とそれぞれ減席となる。

三菱によると、この減席で機体重量が軽くなるが、性能に大きな変化はない。また機体重量は設計値を満足しており、重量増の対策として減席したのではない、と云っている。

この減席により重量が408 kg減るので、MRJ90の場合標準型(STD)の航続距離が2,120 kmに伸びる。競合するエンブラエルE175-E2は、客席数は88席、航続距離は2,060 kmで、ほぼ同じになる。

最後に現在のMRJの受注リストを記しておく。

MRJ受注状況

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week Jan 18-31, 2016 “Development Decade” by Bradley Perrett

Flightglobal 28 Jan. 2016 “MRJ prototype to resume flight tests in February” by Mavis Toh

Flightglobal 13 Jan. 2016 “Mitsubishi Aircraft has reduced the number of seats on both the MRJ90 and MRJ70, ostenishbly with the goal of increasing seat pitch” by Mavis Toh