EUは2019年に革新的旅客機の開発を決めるか


2016-02-29 松尾芳郎

 

エアバスが出資するEUの航空機設計機構「Bauhaus Luftfahrt」は、EUが主唱する「Clean Sky 2航空宇宙研究プログラム」の一つとして、「胴体尾部に装備するハイブリッド型電気推進装置(PFC=Propulsive Fuselage hybrid-electric concept)」の具体案を発表し、小型の実証機を作り試験することを提案した。

これは、EUが出資する「Dispursal (=distributed Propulsion and Ultra-high bypass rotor study at aircraft level(分散配置型エンジンおよび超高バイパス比ローターの研究)およびDMFC=Distributed Multiple-fans concept)(分散配置型複数ファン)航空機の研究」の1つである。「PFC」案とは、機体の尾部に3台目のガスタービンを取付け、胴体後部に生じる境界層後流を吸い取り抵抗を減らそうというもの。両翼下面には、開発中の超高バイパス比ターボファン(UHBPR)を取付け、飛行に必要な推力を得る。

胴体尾部エンジン案

図1:(Central Institute of Aviation Motors)「胴体尾部エンジンの概念図( PFC=Propulsive-Fuselage Concept)」胴体尾部に装備するエンジンで大型ファンを駆動、胴体表面に生じる境界層を吸収し推力を発生、抵抗を減らす。両翼下面には超高バイパス比(UHBPR)エンジンを装備する。

分散配置型エンジン案

図2:(Central Institute of Aviation Motors)「分散配置型ファンの概念図(DMFC=Distributed Multiple-fans Concept)」、翼胴一体型機の上部後縁に複数の電動ファンを配置し、翼上面の境界層を吸収して空気抵抗を減らし、エネルギーを加えて推力を得る。これらファンは胴体に装備するエンジンが発電する電力で駆動する。電動ファンは普通のファンエンジンのファンに比べずっと小型で、超電動モーターで駆動する。ファン後ろのステーター部分は、電動ファン全体を支える構造を兼ねるようにする。超電動モーターに使う電磁石は極めて強力で、磁化されると乗用車一台を軽々と持ち上げる位の磁力(17 Tesla)を発生する。電動ファンは上昇、巡航では推力を出すが、降下時には空気流で回転、発電し、電力を蓄える仕組みにする。

 

「胴体尾部エンジン構想(PFC)」の場合、尾部エンジンは、新たに設ける大型の胴体ファン(fuselage fan)を回し、胴体外周を流れる空気を円筒形のダクトを通して吸入する。胴体外周の空気流は胴体との摩擦で流れが遅れ境界層となり厚くなるがこれを胴体ファンで吸入し、運動エネルギーを与えて抵抗を減らすと同時に推力を出す。

胴体ファンは、図4に示すように、尾部エンジンの低圧タービン(LPT)で駆動するが途中に減速ギアボックス(減速比5:1)を入れ、LPTは効率の良い高速回転をし、ファンは低速回転して推進効率を上げる。しかし将来は、両翼のエンジンで発電機を回し、その電力で胴体ファンを回す「ターボ・エレクトリック動力機構(turbo-electric powertrain)」を検討したい、としている(Bauhaus Luftfahrtの担当責任者Julian Bijewitz氏の話)。

上述の「Dispursal」研究は、340人乗り、航続距離4,800 nmのエアバスA330-300機をベースにして、2035年以降の実現を目標にしている。先ず、超ハイ・バイパス比(UHBR=ultra-high-bypass-ratio)エンジンの完成を待って、操縦システムなどを全て電動化する「オール・エレクトリック・システム(all-electric system)」、燃料電池式APU装置(fuel-cell auxiliary Power unit)、などを採用する。これを「先進型A330(advanced reference aircraft)」と呼び、現在のA330-300と比べブロック燃料消費(block fuel)を32%節減する。

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図3:(Airbus) 「Dispursal」研究の基本は写真のA330-300型機、340席、巡航速度マッハ0.80、航続距離4,800 nm (8,890 km)で、1994年1月より就航中。新型エンジン[RR Trent 7000]装備のA330-800neo、-900neoは、翼幅を64 mに延長し、パイロンを新設計にしたことなどで座席当たりの燃費は原型機(-200および-300)より14%改善している。

 

航空機設計機構「Bauhaus Luftfahrt」によると、「胴体尾部エンジン構想(Propulsive Fuselage concept)」をこの「先進型A330」に適用し巡航速度をマッハ0.79にすれば、さらに11%の効率向上が期待できると云う。巡航速度をマッハ数で0.1遅くすることで、4,800 nm飛行に要する時間は11時間から16分増えるだけだ。

TECH-TURBOSIDE

図4:(Bauhaus Luftfahrt) 「胴体尾部エンジン概念図(Propulsive Fuselage concept)」は「胴体ファン(fuselage fan)」で、胴体全周に生じる空気流の境界層を吸い取り、抵抗を減らし、エネルギーを加えて推力を出す。外径が4 mになる「胴体ファン(fuselage fan)」は、赤色で示すコア・エンジンの低圧タービン(LPT)シャフトで駆動する。駆動シャフトの途中に減速比5:1の減速ギアを入れ、LPTは高速回転、胴体ファンはLPTの5分の1の低速で廻す

 

「胴体尾部エンジン(Propulsive Fuselage concept)」(No.3エンジン)の最大の問題はこれに伴う重量増である。エンジン重量だけでなく、胴体が長くなり、尾翼の重量も増えるためだ。

この重量増は、ブロック燃料消費の低減でかなりの部分が相殺される。「胴体尾部エンジン」付き機体は「先進型A330」より空虚重量で6%重くなる。しかし燃費改善で搭載燃料が減るので、最大離陸重量(MTOW)の比較では1.3〜4.6%重くなるだけだ。

これからは「胴体尾部エンジン」の取付けの細部の検討を進め最適化を図り、損失を減らす工夫をする。

2030年代の就航を目指す革新的航空機に使う技術の実現のため、EUでは政府/業界が協力して2014年から10年の予定で45億ドルを投じ、「Clean Sky 2」計画を推進中である。「Clean Sky 2」計画の一つとして、この「胴体尾部エンジン」付きの小型実証機を作り試験することが期待されている。この変形として「ハイブリッド電気推進(hybrid electric propulsion)」式航空機の実証試験を並行して行えば、将来航空機への道筋がはっきりしてくるだろう。

EUの研究陣は、2019年までに「胴体尾部エンジン」付き旅客機か、あるいは「電気推進(E-Thrust)」型旅客機の、実証試験機の開発を決めたい、としている。

「ハイブリッド電気推進(hybrid electric propulsion)」式航空機は図2に示す、ガスタービンで発電機を駆動、この電力で翼胴一体型機(BWB=Blended Wing Body)の翼後縁に並べた複数のファンを回して飛行する航空機で、2050年ごろの実現を目標にしている。この計画にはエアバス、ダッソー、サーブ、スネクマの各社が参加している。「Clean Sky 2」には、スネクマが開発中の「2重反転オープン・ローター(CROR=contrarotating open Rotor)エンジンがあり、スネクマはA340-600型機にCRORを搭載、2020年末の飛行試験を提案している。

「超高バイパス比(UHBR=ultra high by-pass ratio)」エンジンは、Rolls-Royceが開発中の「ウルトラ・ファン(UltraFan)」で、2018年に飛行試験をする予定だ。

「ハイブリッド電気推進(hybrid electric propulsion)」式航空機は先ず小型の無人機に搭載、試験するのがコストとリスクを少なく出来るので、この方法で2022年末に試験を始めたいと、している。

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図5:(Rolls-Royce)「超高バイパス比(UHBR=ultra high by-pass ratio)」エンジンは、ロールス・ロイスが開発中の2軸式「ウルトラ・ファン(UltraFan)」で、(バイパス比15+:1)2025年の実用化を目指している。低圧タービン(LPT)でファンを廻すが、途中、つまり中圧コンプレッサー(IPC)とファンの間に減速ギアを入れ、ファンは低速、LPTは高速回転できるようにし、共に高い効率を得る。またファンには、ピストンエンジン機時代のプロペラで実用化された可変ピッチ機構を採用する。コアには最新の耐熱技術(CMC)を使い、全体の圧力比を70:1に引き上げる。これらで現在のトレント700エンジン対比で燃費を25%+改善する。ファン・ブレードはカーボン・チタン(CTi)複合材で作り、可変ピッチ機構とするのでスラスト・リバーサーは不要になる。したがってナセルは空気抵抗の少ないスリム・ライン・ナセルにできる。

—以上-

 

本稿作成の参考にした主な記事は以下の通り。

Aviation Week network Feb 8, 2016 “Europe to Decide in Radical Airliner Demo in 2019” by Graham Warwick

Central Institute of Aviation Motors(CIAM) “DisPursal Project : Distributed Propulsion and Ultra-high By-pass Rotor Study at Aircraft Level” by Artur Mirzoyan @ 1-2 July 2014

Rolls-Royce “Better power for a changing world” by Mark Thomas @ 2014

Rolls-Royce & EADS plan “E-thrust” Hybrid Electric Airplane @ Jul 5, 2013