中国空軍大型輸送機Y-20を受領、調達目標は1,000機!以上


2016-07-25(平成28年) 松尾芳郎

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図1:(I.T.C.JDBY.NET) 写真は2016-06-17撮影のY-20輸送機。Y-20は高翼、“T”尾翼、エンジン4基装備の戦略輸送機で、2013年に初飛行し、翌年には珠海航空ショーで公開された。短距離離着陸性能を持ち、最新のグラスコクピットを備える。全備重量220 ton、全長47 m、翼幅50 mでC-17よりやや小さく、エアバスA400M輸送機や我国の川崎製C-2輸送機よりかなり大きい。

Modern Day Face Off Chinese Y-20 Strategic Transport AirCraft Going Head to Head with American C-17 Globemaster III Heavy Airlifter (6)

図2:(Global Military Review) 2014年珠海航空ショーで米国のC-17 グローブマスターIII輸送機(左)と中国空軍Y-20輸送機(右)が並んだ写真。C-17は1991年1月の初飛行で、2015年末に生産終了。279機が作られ米空軍で222機が使われている。C-17は最大離陸重量265 ton、最大積載量77.5 ton、M1戦車または兵員100名以上を輸送できる。航続距離は4,000 km以上、エンジンはP&W F-117-PW-100ターボファン(PW2000の軍用型)、推力40,000 lbs(180 kN)を4基。

 

中国空軍(PLAAF=People’s Liberation Army Air Force)は、2016年7月6日に中国国営航空機工業(AVIC)の西安航空機が作る大型輸送機「Y-20」2機を公式に受領した。航空宇宙専門誌”HIS Jane”によると、AVIC大型機開発担当主席Zhu Wian氏は「中国空軍は将来「Y-20」を1,000機!必要とするだろう」と言明したという。これは驚くべき数字で、米空軍の大型輸送機保有は、C-17が222機、それにC-5が46機に過ぎない。

中国の通信社によると、Y-20は昨年末に開発が完了、今年初めに5号機が完成した。そして6月15日に機体番号11051と11052の2機が四川省 Qionglai空軍基地で第4輸送師団第12連隊に引き渡された。空軍当局は、2014年には400機を揃えたい、と言っていたが、このほどこれを改め、1,000機以上の保有が目標と言っている。

中国人民解放軍戦区管轄域

図3:(Wikipedia) 四川省は図3の中央付近にあり、小説「三国志」の「蜀」のあった地域である。これまで「成都軍区」に属していた。2016-02-01の国防部発表によれば、これらの軍区を廃止して、統合作戦指揮組織である5個の「戦区」に新編し、人民解放軍と人民武装警察の統合指揮組織となった。この結果「成都軍区」は南部の雲南省と貴州省が離され「南部戦区」となり、青海省、ウイグル自治区、甘粛省などと共に「西部戦区」となった。

 

Y-20の性能諸元の公式発表はないが、関係筋によると離陸重量は220 ton、積載量は66 ton。米空軍のC-17輸送機の積載量77 tonには及ばないが、中国陸軍の新型戦車58 ton級の「99A2」を運ぶのに十分な力がある。最大積載量での航続距離は4,500 km、積載量を40 tonにすれば7,800 kmを飛ぶことができる。これで日本は勿論、ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリア、アラスカなど広大な範囲に、戦車を含む大型戦闘車両と大量の兵員を展開することができる。

エンジンは、現在ロシア・ソロビエフ(Solovyev)製D-30KP2ターボファン、推力21,000 lbs(12 ton)を4基装備する。中国ではGEの技術を利用して大型ターボファンを開発中だが、将来は自国産のエンジンに換装する計画だ。一つは1960年代のGE F101をコピーしたWS-10で推力は27,600 lbs、もう一つは、Comac C919旅客機用に搭載するCFM Leap-1Cで推力30,000 lbs、これを国産化してWS-20とし、換装することを検討中である。

主翼はウクライナ・アントノフ(Antonov)設計局が開発、尾翼と胴体後部はボーイングC-17の形状に酷似している。構造全般に複合材を多用し、重量軽減を図っている。今の所空中給油機能はないがいずれ備えることになる。

外形はロシア/ウクライナのアントノフ(Antonov)An-70輸送機と似ているが、胴体はやや太く室内幅は5.5 mでC-17より1m弱狭いが高さは4.5 mで長さは約25 mとなっている。設計は、アントノフの技術者の助言によるところが大きい。また米空軍のボーイングC-17輸送機と多くの点で似ているが、これはその設計を盗用したためと云う。すなわち元ボーイング従業員で、中国生まれで米国籍を持つDongfan Chungは、2008年2月11日にFBIに逮捕された。理由はC-17を含む航空宇宙関係の機密事項を中国に持ち出したこと。

中国空軍の輸送部隊の現状は、18機のロシア製イリューシンIl-76型機と3機のIL-78タンカーが主力だが、Y-20の完成に伴い著しく能力が向上することになる。

以前にも紹介したが、中国軍高官が2014年に語った「Y-20が100機規模で配備されれば、日本の6大都市に3日間で15個空挺師団を送り込み占領することが可能」の言葉がいよいよ現実味を帯びてきた。我国としては、侵攻に備えて十分な国防能力を備えておく必要がある。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week July 18-31, 2016 “Fat Girl” by Bradley Perrett

HIS Jan’s 360 17 June 2016 “PLAAF reportedly receives first Y-20 Airliner” by Gareth Jennings

Military-today.com “XAC Y-20”

AINonline Defense Jun 20, 2016 “China’s Own Airlifter Enter Service” by Mike Yeo

GlobalaSecurity.org “Y-20 Kunpeng / Y-XX Grand Canal”