2016年オシュコシュ・エアベンチャー・ショー


2016-07-29( 平成28年) 松尾芳郎

 

7月25日から31日までの一週間、全米試作機協会(EAA=Experimental Aircraft Association)が主催する世界最大の航空ショウ「EAA AirVenture 2016」が開かれている。EAA AirVentureは毎年夏に一週間開催される。会場のオシュコシュ(Oshkosh, Wisconsin)のウイットマン・リージョナル空港(Wittman Regional Airport)には、世界80ヶ国から55万人以上の航空関係者、愛好家が訪れ、同空港に着陸する飛行機は1万機に達し、期間中は世界一の超繁忙空港となる。

以下はそのハイライトである。

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図1:(EAA)世界最大の飛行艇「マーチン・マース」が初めてEAA AirVenture 2016に参加するためウイスコンシン州に飛来した。「マーチン・マース(Martin Mars)」は第二次大戦中に米海軍の輸送機として6機製作された。飛来したのは現存する2機中の1機「ハワイ・マース」で、翼幅は61 m、最大離陸重量は75 ton、エンジンはライトR-3350型2,500 hp x 4基、航続距離は7,500 km。現在は隣接するカナダのブリテイッシュ・コロンビア州ポート・アルバーニ(Port Alberni)のカールソン・フライング・タンカー社が所有し、消防飛行艇(7,200ガロン[27 ton]の水を搭載)として主に森林火災の消火に使われている。写真は会場に隣接したウネバゴ湖(Lake Winnebago)に着水する姿。乗員はパイロット2名とエンジニア2名の4人。

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図2:(John Morris/Aviation Week)世界最大の消防飛行艇「マーチン・マース」がオシュコシュ・ウイットマン空港のランウエイ18/36(180度/360度の方位)上で放水中の様子。消防飛行艇で最もよくある質問に「どうやって水を搭載するの?」がある。答えは、機長は着水して速度を70 ktsに下げて、出力調整をエンジニアに委ねる。エンジニアは水吸込みドアを開き、毎秒1 tonの割合で水を吸入する。吸入するに従い重量が増えるので、機速を60-70 ktsになるようエンジン出力を調整する。水搭載に掛かる時間は25秒程度になる。タンクが一杯になると、機長が吸込みドアを閉じ離陸に移る。

 

USA Today紙は期間中の見過ごせないエベントとして、そのいくつかを紹介している;—

月曜:午後に行われる展示飛行のあと、夕方から会場のボーイング100周年記念広場で行われるロックバンド”Third Eye Blind”の演奏会。このバンドは最近20年間に1,200万枚のレコード売上げをした人気グループ。

火曜:自作機による事故死を今後10年間に現在の半分に減らす方策についての発表会があり、優秀案には賞金が授与される。

水曜:夕刻から日本軍の真珠湾攻撃75周年を模した飛行“トラ・トラ・トラ”が、テキサス州の航空愛好者団体“記念空軍(Commemorative Air Force)”によって行われる。復旧した零戦を使い、この数年毎年行われている。

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図3:(EAA)日本海軍機動部隊による1941-12-08( 昭和16年)のハワイ真珠湾攻撃を再現した零戦によるデモ飛行。当時日本海軍は空母6隻、戦艦2隻などで構成する機動部隊をハワイ北に進出させ、そこから約350機の零戦、97艦攻、99艦爆の大編隊が2波にわかれて発進、オアフ島を急襲、在泊中の戦艦8隻を含む米太平洋艦隊に大損害を与え、基地航空機340機以上を破壊した。我が軍の損害は、未帰還機29機と同時攻撃に参加した特殊潜航艇5隻の喪失。

 

木曜:沿岸警備を担当するコースト・ガード(Coast Guard)/海上保安庁に相当、の航空部門が発足したのは1916年だが、これを記念する各種展示が行われる。

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図4:(John Morris/Aviation Week)コースト・ガードはエアバス・ミリタリー製CN-235輸送機を中距離偵察用に改良し、スペインで作るHC-144オーシャン・セントリー(Ocean Sentry/洋上監視)を18機使っている。すなわち海上パトロール、麻薬や密入國阻止、災害対策、人命救助を任務としている。将来は36機まで増やす予定。HC-144は最大離陸重量16.5 ton、翼幅26 m、航続距離2,900 km、エンジンはGE製CT7ターボプロップ1,870 hpを2基。

 

金曜:在郷軍人に感謝するパレードがボーイング記念広場で行われ、同時に先の大戦で使われた飛行機の展示が行われる。

土曜:ボーイング創立100周年を記念してキャセイパシフィック航空747-8F貨物機が飛来し、ボーイングのB-17爆撃機(12,000機以上を生産)、B-29爆撃機(約4,000機を生産)と共に展示される。

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図5:(Ed Turner / EAA)キャセイパシフィック航空のB747-8F貨物機。747の3度目の改良型で2011年10月から引き渡し開始(Cargolux)、これまでに74機が就航、キャセイパシフィック航空はその内13機を運航中。最大離陸重量448 ton、貨物搭載量134 ton、航続距離は8,000 km以上、エンジンはGenx-2B67推力66,500 lbs(296 kN)を4基装備する。同型機に旅客機型もあり、こちらは51機が就航中。

 

日曜:最終日とその前日には、カナダ空軍第431展示飛行中隊(Snowbires)が久し振りにEAA AirVentureに参加、華麗なデモ飛行を行う。

 

オシュコシュで展示されたこの他の珍しい機体を取り上げてみよう。

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図6:(John Morris/Aviation Week)パイパーが作る最新高性能の「PA-46-500TP M600」型ビジネス機、「マリブー・メリデイアン(Malibu Meridian)」と呼ばれ、PA-46系列の最新型。与圧室6人乗りでエンジンはP&W PT6A-42A、出力600 shpのターボプロップ機である。最大速度507 km/h、航続距離2,600 km、ガーミンG3000グラス・コクピット・アビオニクスを装備する。価格は285万ドル(約3億円)。

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図7:(John Morris/Aviation Week)シラス・エアクラフト(Cirrus Aircraft)社では、開発中のビジョンジェット(Vision Jet) SF50のFAA型式照明は間も無く取得できる模様。シラスは、単発6人乗りの小型ジェットSF50を2機オシュコシュに持ち込み展示している。SF50は2008年7月に初飛行、今年5月から量産を始めている。エンジンはウイリアムスFJ33-5A型推力2,000 lbsを1基、胴体に背負っている。離陸重量は2.7 ton。単価は196万ドル(約2億円)。

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図8:(John Morris/Aviation Week)同じくシラス・エアクラフト製SR22は軽量小型の飛行訓練、習熟用の機体だが、国境監視やパトロールなどにも使える多用途機。エンジンはContinental IO-550-N 6気筒310 hpで、非常時にはパラシュートを開き安全に着地できる。現在世界で最も売れている単発小型機である。2001年から2013年までに4,000機以上を出荷している。写真は中東のエミレーツ(Emirates)航空の飛行訓練学校が初級訓練に使うSR22で、同校はドバイ(Dubai)空港にあり合計22機を使う予定。価格は50万ドル(約5,000万円)。

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図9:(John Morris/Aviation Week)ウクライナの首都キエフ(Kiev)郊外ブロバリ(Brovary)のSoftex Aero社でビクトル・バシュチェンコ(Viktor Vashchenko)氏が設計した複合材製の4人乗り双発小型機「ソフテックス(Softex)V24」。エンジンはRotax 912水平対向型で100 hp、改良型のSoftex V24Lはエンジンをライコミング(Lycoming) IO320型160 hpに換装、それぞれ翼上に装備する。

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図10:(Maureen Spuhler / Aviation Week) F-16戦闘機と編隊飛行する“ベイビイ・ダック(Baby Duck)”と名付けられたP-5 1Dムスタング。この名称は第二次大戦末期の欧州戦線で活躍した米陸軍第8空軍所属のハーバート G. コルブ大尉の乗機に付けられたもの。ただし、この機体は当時のものではなく、「ムスタング記念航空(Mustang Historic Military Aircraft)」が所有し「軍用機遺産財団(Warbird Heritage Foundation)」が運用している。

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図11:(Maureen Spuhler / Aviation Week) F-16との編隊飛行を終えて着陸したP-51D “ベイビイ・ダック”。P-51はノースアメリカン製で1942年1月から配備が始まり、主として欧州戦線で活躍した。”D”型はその最新版でロールスロイス“マーリン(Merlin) 66”型エンジンを装備、12.7 mm M2/AN ブローニング機関砲を6挺備えていた。航続距離が2,700 kmと長く英本土からドイツ国内深くまで侵攻できた。15,000機以上が作られ、米国以外でも英国を始め多くの国々で使われた。大きさは翼幅11.3 m、最大離陸重量5.4 ton、今の機体に比べると小さいが、当時としては十分な大きさだった。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Aviation Week Network Jul 25, 2016 “New to Oshkosh” by John Morris

Aviation Week Network Jul 25, 2016 “Among The Oshkosh Stars” by John Morris

Aviation Week Network Jul 26, 2016 “Oshkosh Air Show is Full of Surprises” by John Morris

Aviation Week Network Jul 26, 2016 “ Martin Mars Dwarfs The Seaplane Base at Oshkosh” by John Morris

Fox6 Now.com July 25, 2016 “EAA AirVenture, which draws more than 10,000 aircraft to Oshkosh, now officialy underway” by Katie Delong

Oshkosh Northwestern part of the USA Today Network July 19, 2016 “7 can’t miss events at EAA AirVenture 2016” by Nthaniel Shuda