2016-09-02(平成28年) 松尾芳郎
図1:(AirportWeb.com) 8月27日にサウスウエスト航空のボーイング737-700型機の左エンジン(No.1)で、ファンケースが脱落する事故が起こった。ケース内側にはEEC冷却用エアダクト用の孔(整流用フィンに先端に見える)、その上の折れ曲がったダクトはT12センサーのベントダクト。機内から撮影した写真。
図2:(Airlive.net)同じくサウスウエスト航空737の胴体左側面にカウルが衝突して開けた孔、これで客室与圧がドロップした。
NTSBは、8月27日に発生した、サウスウエスト航空737-700登録機番N766SW/WN3472便の左エンジンCFM56B-7Bからノーズ・カウルが脱落した事故を重く見て、直ちに原因の調査を開始した。FlightGlobalによると、同機は2000年に製造され、飛行時間は57,200 hr、33,500サイクルとされる。
サウスウエスト航空によると、WN3472便は乗員5名、乗客99名を乗せてニュー・オーリンズ(New Orleans, Louisiana)を09:10に離陸、オーランド(Orlando, Florida)に飛ぶ予定だったが、途中高度31,000 ft (Flight level 310)を上昇中、ペンサコーラの西約150 kmあたりでNo.1エンジンのノーズ・カウルが脱落した。このため09:22にヒューストン(Houston)管制センターに連絡、同エンジンを停止、09:40に航路の途中のペンサコーラ(Pensacola, Florida)空港ランウエイ17に無事着陸した。
着陸後の点検では、ファンと前部のスピンナーは、装着された状態で、ファン・ブレードも外れていなかった。乗客の話では「離陸後13分ほどして、メキシコ湾上空で大きな音がした」と云う。ノーズ・カウル内側の吸音材パネルは少し残っており、これから見てカウルはエンジン・ファンケース前縁の外周部分から外れたようだ。カウルはファンケースに多数のボルトで結合されていて、3時と9時の位置に位置決め用ピンがある。
カウル自体は中空で軽量、エンジンへの空気をスムースに流すよう、またファン近くで氷結が起きないように設計されている。またカウルには、エンジン・エレクトロニック・コントロール(EEC=engine electronic control)冷却用の空気取入れ用とカウル前縁の防氷装置(TAI=thermal anti-ice)ダクトへのラムエア取入れ口が付いている。さらにファン入口温度(T12)センサーへのアクセスドアがあり、このドアはカウル前縁の加熱防氷装置からのベント・ドアの役目もしている。
機体構造の損傷は、主翼付け根前縁部分のフェアリングにカウルの部分が衝突した痕跡、主翼前縁付近上部の胴体側面、窓の下には衝突による破れが見られる。この胴体破れが客室与圧の低下の原因とみられる。さらに水平尾翼の前縁中央と左主翼の翼端のウイングレットにも損傷が発見された。
ファン・ブレードとファンケース・フランジに損傷がないところから、NTSBの調査はインレット・カウル取付け部分と、その部分に関係するシステムに焦点を当てて行われる模様。最も疑われているのはインレット防氷装置(TAI)、特にそのTAIバルブが故障し防氷装置ダクトあるいはベントを加圧し、破壊したか、あるいは取付けファスナーの破損である。しかし、カウルにかかる空気力の影響を勘案しながら、カウル脱落の原因の推定と破壊の進んだ経緯を想定するのはかなり難しそうだ。
サウスウエスト航空は、テキサス州ダラスに本拠を持ち、世界最大のLLC (Low Cost Carrier)。1967年に設立され、現在は毎日3,800便以上を運航し米国内線では最大の旅客数を誇っている。使用機材はボーイング737のみで、最も多いのが737-700型機の490機、-800の125機を含め、合計717機を運航している。発注済みは737 MAX7、MAX8を含め309機に達する。
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本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Aviation Week Network Aug 31, 3016 “NTSB Investigates CFM56 Failure in Southwest Boeing 737” by Guy Norris
Aviation Safety Network Database @27 August 2016
The Aviation Herald @ Aug 27, 2016 “Accident: Southwest B737 near Pensacola on Aug 27th 2016, uncontained engine failure” by Simon Hradecky