日本の次期戦闘機”F-3”の開発構想固まる


2016-10-19(平成28年)  松尾芳郎

 

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図1:(防衛省技術研究本部)次期戦闘機”F-3”の25DMU(平成25年デジタル・モックアップ/Digital Mock-up)案。

 

2015年10月の「防衛装備庁」発足に伴い、同庁に合併、廃止された技術研究本部が数年前に発表した“将来戦闘機に関する研究開発ビジョン”と題する論文がある。内容は「ロシア、中国で増勢が著しい戦闘機と開発中のステルス戦闘機の脅威に対抗するため、我国が開発配備すべき新戦闘機の構想」が示されている。“新戦闘機”は数的劣勢を質的優位で補うため「高度に情報(Informed)化/知能(Intelligent)化され、瞬時(Instantaneous)に敵を叩く「i3 Fighter」が必要で、我国が持つ優れた技術を結集した機体を実現したい、としている。具体的には;–

①   射撃機会を増やすのと無駄弾を無くすために、誰かが撃てる、打てば当たるクラウド・シューテイング、

②   電波妨害に負けないフライ・バイ・ライト・システム、

③   世界一の素材技術を使い、敵を凌駕するステルス性、

④   世界一の半導体技術で次世代型ハイパワー・レーダ、

⑤   世界一の耐熱材料技術で次世代高出力スリム・エンジン、

の開発を目指す。

これが開発を目指す“次世代戦闘機”の基本になっている。

政府は次世代戦闘機について、独自開発に踏み切るか、外国機の改修型にするか、あるいは既存の外国機の輸入にするか、を2年以内に決定する。防衛省は次世代戦闘機に“F-3”の名を冠し2030年代に配備することを要求している。

防衛省は技術研究本部の構想を基に、海外には存在しない、また、現存する戦闘機の改修型でもない、独自の ”F-3” 戦闘機案を2010年代前半にまとめた。これが2年前の平成25年に”25DMU”として公表された機体で、大型、ステルス形状、大型空対空ミサイルを収納する大容量のウエポンベイを備え、長距離飛行ができる戦闘機である。

我国が求める将来戦闘機は;—

①      要件であるステルス性、航続距離、大容量のウエポンベイを備えた戦闘機は世界に存在しない。

②      既存の機体の改修でも得られない。

従って防衛省は独自開発を提唱している。

航空自衛隊は、2年後の2019年3月末に ”F-3” 開発の方針(独自/外国機の改良/輸入)が決まれば、直ちに詳細な要件を公表する予定だ。空自の意見は当然防衛装備庁の検討にも影響を及ぼすものと見て良い。

しかし政府内には、国産戦闘機についてはコストの観点から異論があり、「もっと小型の戦闘機の開発に取り組むべき、小型にすれば輸出の道も開けるのではないか」と主張がある。

しかし小型戦闘機にすれば市場があるか、と云うと極めて疑わしい。”F-3” が姿を表す2030年代は丁度ロキード・マーチン製F-35が生産の佳境にある時期で、輸出を目指すのであればその差異を強調しなくてはならない。

防衛省の ”F-3” 担当技術者は、25DMUの機動性について余り言及していないが、これは同機が近距離戦闘ではなく長距離戦闘を志向しているためと見られる。同技術者は、また、英独で開発中の長距離空対空MBDAメテオール(Meteor)ミサイルの使用にも言及している。本命は日本製の三菱電機製AAM-4Bミサイル(直径20.3 cm)あるいはその改良型だが、この代替としてMBDAメテオールも考えている。

 

防衛装備庁では、米軍採用のレイセオン製AIM-120 AMRAAMは射程(100 km未満)が不充分なので検討の対象にはない、としている。

これら3種の空対空ミサイルの比較については、TokyoExpress 2014-08-05 作成「欧州製「ミーテイア」空対空ミサイルに日本製シーカーを搭載」に記載してあるので参照されたい。

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図2:(防衛省技術研究本部) 99式空対空誘導弾(改)/ AAM-4BはAAM-4の改良型で、レーダが新型になり探知能力が向上し、射程距離(自立誘導距離)が伸び、巡航ミサイルなどの小型目標への対処能力が向上している。AAM-4に比べ自立誘導距離は1.4倍、スタンドオフ・レンジ(発射母機の離脱可能距離)も1.2倍になり、横行目標への追尾機能が向上している。誘導は、初期—中間は内蔵の慣性誘導と母機からの指令誘導、終末誘導は自機搭載レーダによるアクテイブ・レーダ誘導、指向性弾頭を備えるので撃墜率が大幅に向上している。IHI製の2段階燃焼ロケットで、燃焼時間が増大し射程がスパローの2倍に増えている。三菱電機が主契約企業で2010年度から量産、配備が進んでいる。現在進行中のF-15Jの近代化改修とF-2の改修で搭載可能機数が増えている。さらなる射程延長のため、固体燃料を廃し、ラムジェット推進とする案が検討されている。

全長3.66 m、操舵翼幅77 cm、弾体直径20.3 cm、重量222 kg、射程推定値100 km以上、速度マッハ4-5、単価6,500万円。

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図3:(防衛技研)「AAM-4B」開発に際し、提示された運用構想図。諸外国の空対空ミサイルは対航空機戦闘を主目的にして作られている。しかし「AAM-4B」は我国周辺の厳しい環境に対応するため、対航空機のみならず、大型地対空ミサイル、超低空を飛来する巡航ミサイルの迎撃が可能で、かつ、対電子戦能力/ECCM能力を向上させ、ミサイルの飛行方向を横切る形で飛ぶ目標の追尾能力をも向上させることを目標として完成された。

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図4:(防衛省技術研究本部)25DMUはレーダ反射を抑えるため形状に様々な工夫がしてある。推力33,000 lbsの“ハイパワー・スリム・エンジン”を2基装備する。

 

事実、2016-10-11作成の「空自、有人戦闘機機と無人機の混成部隊が2030年代に実現」も長距離交戦の考え方を裏付けている。

25DMUのイラストを見て、33,000 lbs級のエンジンを2基装備していることから、10年前に我国の購入要望を断ったロッキード・マーチン製F-22を思い浮かべる人は多い。しかし今では、防衛省はAIM-120 AMRAAM空対空ミサイルを使って近接戦闘をするF-22に関心を示していない。

エンジンはF-3の機体に先んじて完成させることで計画が進んでいる。推力は2012年に33,000lbsと発表されたが、その後変更されていない。

原型エンジンの燃焼室、高圧コンプレッサー(HPC)、高圧タービン(HPT)はそれぞれ個別に試験が行われ、高圧タービン(HPT)の試験は2015年度に完了。低圧コンプレッサー(LPC)と低圧タービン(LPT)の試験は2017年度中に終了する予定。そしてこれ等を組込んだ試作エンジンの試運転は2018年に行われる。

エンジンで最も注目されるのは、これまでの常識を破る高温1,800℃ (3,272F)で運転される点だ。この結果、エンジンは細く作ることができ、機体の前面面積を小さくできる。F-3が超音速巡航可能か否かは別として、機体前面面積を小さくするのは超音速で飛ぶ戦闘機の必要条件である。

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図5:(防衛省防衛技術研究本部)技術研究本部内の航空装備研究所では、次世代エンジン「ハイパワー・スリム・エンジン/High Power Slim Engine」の高圧タービン動・静翼の冷却性能確認の試験を実施(2015年7月発表)。タービン入口温度1800℃で運転されるため、高圧タービンの耐熱性能が極めて重要である。鍵を握るのは本図の冷却技術の他に、新素材セラミックス・マトリックス・コンポジット(CMC)で作るタービン・アウターシール、単結晶合金製のタービン静・動翼、それに新合金TMW-24鋳造合金製のタービンデイスクなどである。図示のエンジンがF-3用エンジンのカットビュー。開発・製造はIHIが担当している。

 

F-3用エンジンについては次の動画を参照されたい。

 

既述したようにロイター通信によれば、今年(2016) 7月防衛省は次期戦闘機 ”F-3” の開発とそれに続く100機の生産に、海外のメーカーに協力を促す書簡を送った。これによると開発、量産に関わる事業規模は4兆円を超えるとされ、早速ロッキード・マーチンから参加の意思表示がなさている。

次期戦闘機の配備開始は2030年代とされるだけで詳細は不明だが、2000年に就役した三菱製“F-2”戦闘機の更新用と位置付けられている、従って”F-2”は30年余り使われることになる。”F-2” はロッキード・マーチン製F-16戦闘機をベースに大型化した機体で約90機が製造されている。空自の主力戦闘機 ”F-15”は三菱がボーイングのライセンス生産で、”F-2” よりもさらに長く使われており約200機が配備されている。

“F-3” については ”25DMU” を修正した ”26DMU” 案があったが、その前身で運動性能の高い ”23DMU”や”24DMU” よりも運動性は劣っている。”26DMU”は長距離飛行性能に重点を置き、機動性は2の次と云う従来の考えを強調しただけであったので、結局取下げられた。

我国が42機を発注しているロッキード・マーチン製F-35を基本にして、主翼を大型化し、兵装庫を拡大する案も検討されたが不採用となり、要件を満たした全く新しい戦闘機を設計する方法が選ばれた。

戦闘空域で敵との間隔を長距離に維持することの是非については賛否両論がある。米国の元空軍パイロットは「長い間隔を保っても数分間維持するのがやっとだ。友軍機の中には敵との間合いを狭める機がいるため、他の僚機が長間隔を維持していても、同士討ちの恐れがあるためミサイルを発射できない。」と話している。

“F-2”の任務には、空戦の他に対艦攻撃と対地攻撃がある。この更新機である ”F-3” には当然この任務が付与される。

防衛省では ”F-3” に組み込むべき技術を、技術実証機三菱 ”X-2” を使って検証中である。”X-2 ” は、今年 4月22日に初飛行をしたが、今後2018年3月末までに50飛行、200飛行時間を行い、各種実証試験をする予定になっている。

“X-2” は、三菱名古屋空港から岐阜基地に向け初飛行し、そのあと2016-05-18に2度目の飛行を実施、6月に防衛装備庁に引き渡された。この2回の飛行で低速・直線飛行の基本データを取得し、これを基に各システムの校正を行い、数週間以内に本格的な技術実証試験に入る。

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図6:(防衛省航空自衛隊)写真は2016年5月18日に2度目の飛行をした”X-2” 技術実証機。三菱重工が主契約となり、2012年3月組み立て開始、2016年1月に完成機が公開され、同年4月22日初飛行で航空自衛隊岐阜基地に着陸。写真の2度目の飛行の後、防衛装備庁に引き渡された。

 

“X-2” は、開発期間中は ”ATD-X” と呼ばれていて、離陸重量は13 ton(29,000 lbs)、エンジンはIHI製”XF5-1” 推力11,000 lbsを2基備える。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Aviation Week Network Oct 14, 2016 “Japan’s Ideal Fighter would have to be Indigenous” by Bradley Perrett

防衛省航空装備研究所“ジェットエンジンの現在、そして次世代への挑戦”by 鹿野信太郎

防衛省技術研究本部2015-07月発表“次世代エンジン主要構成要素の研究・高圧タービン冷却性能試験”

Military BBS Link “99式空対空誘導弾(AAM-4)”

TokyoExpress 2016-10-11作成「空自、有人戦闘機機と無人機の混成部隊が2030年代に実現」

TokyoExpress 2014-12-08 改定3「我国の次世代戦闘機「F-3」の概念設計が進む」

TokyoExpress 2014-08-05 作成「欧州製「ミーテイア」空対空ミサイルに日本製シーカーを搭載」