三菱MRJ90、米国で試験飛行開始、2018年ANA引渡し予定は堅持


 

2016-10-21(平成28年)  松尾芳郎

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図1:(三菱航空機)三菱航空機のMRJ90初号機 ”JA21MJ” は現地時間9月28日午後5時44分にワシントン州モーゼスレイクのグラント・カウンテイ空港 (Grant County AP, Moses Lake)に到着した。天候が安定し、航空交通量が少ないこの空域で型式証明取得のための試験飛行を始めた。

 

9月28日グラント・カウンテイ空港 (Grant County AP, Moses Lake)に到着したMRJ90 1号機の様子を示す動画があるので参照されたい。時間は2分。

 

https://youtu.be/tkIOcUdJKHw

 

 

MRJ90初号機 ”JA21MJ” は、日本時間9月26日午後1時28分に名古屋空港を離陸してほぼ4日かけて到着したことになる。最初は8月28日に米国に向けて出発したが、空調システムのモニター系統に異常を検知、2度引き返し、国内のマスコミから非難された。

その後新聞等で「 ANAへの引渡しは再び遅延、これで遅延は5回目となる」と報道されたが、事実は異なる。

10月3日午前、三菱航空機はこれを否定、MRJの製造を担当する親会社の三菱重工業とともに「現時点で納期変更を決定した事実はない」との声明を発表。

さらに10月14日、東京有明で開催中の「2016年国際航空宇宙展」で、森本浩道三菱航空機社長は「MRJの2018年納入計画は堅持する」と述べ、この発表を再確認した。

国内ではANAが15機を確定発注、オプションを10機とし2018年から受領する。一方、32機を確定発注している日本航空は、2021年から受領を予定している。

森本社長は、9月に米国にフェリーした初号機 ”JA21MJ” を含む、試験機5機の進捗状況を次のように語っている;—

赤と黒のラインの初号機 ”JA21MJ” は10月17日から飛行試験を始める。その後のニュースで、同日午後からモーゼスレイクで飛行試験を開始、3時間18分の飛行を成功裏に終えている。

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図2:(三菱航空機)10月17日午後1時20分グラント・カウンテイ空港から飛び立ち飛行試験に向かうMRJ初号機 ”JA21MJ”の姿。

 

赤いラインの2号機”JA22MJ”は5月に初飛行し、現在までに15回飛行試験を実施している。途中10月13日には試験飛行中に石川県能登空港に予定外の着陸をしたため、マスコミは大きく取り上げ“開発の将来に不安”と報道した。

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図3:(三菱航空機)5月31日に2時間10分の初飛行をした2号機”JA22MJ”は赤いラインの塗装である。

 

黒のラインの3号機(JA23MJ)は走行試験を実施し、10月中には飛行試験に投入する。

初号機と同じ塗装の4号機(JA24MJ)は9月25日、3時間の初飛行に成功。着陸してから初号機JA21MJの隣に駐機した。現在も名古屋空港(小牧)で試験を続けている。

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図4:(三菱航空機)手前の4号機“JA24MJ”は初飛行の後、奥に見える1号機”JA21MJ”の隣に駐機した。1号機と4号機は同じ赤黒基調の塗装である。

 

試験機は初号機から4号機までを米国に持ち込み、ANA塗装を施した5号機”JA25MJ”は8月20日小牧南工場第6格納庫から新設したばかりの最終組立工場に移動、国内に残り、小牧での飛行試験に投入する。

三菱航空機では、5機の飛行試験機のうち4機を年内に米国にフェリー、国内で試験する5号機と合わせて2018年前半までに2500時間の飛行試験を行う。そして2018年中期までに FAAと我国航空局の型式証明を取得する。証明取得後直ちにANAに引き渡す予定。

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図5:(三菱航空機)8月20日、ANA塗装をした5号機”JA25MJ”は、第6格納庫から新設の最終組立工場に移動し、最終仕上げを行う。

 

2018年の引渡し予定の再延期報道(誤報)から始まり、1号機の米国向けフェリー飛行の2度の引き返しや、2号機の試験飛行中に能登空港に着陸した件などで、国内マスコミは契約済みオプションの破棄の可能性にまで言及している。

しかし実態はマスコミの予想に反し、今年の受注状況は次のように堅調に推移している。

2016-07-11スエーデン航空機リース会社ロックトン(Rockton)と”MRJ”を確定10機とオプション10機の購入契約に向け基本合意に達した。

2016-08-31 米国航空機リース会社エアロリース(Aerolease Aviation, LLC)と、”MRJ90”を確定10機、オプション10機の正式契約を締結、2018年より引き渡し開始。

ロックトン社との基本合意を含め、MRJの合計受注機数は、確定233機、オプション170機、購入権24機、となっている。合計では427機となり、契約破棄は1件もない。

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図6:(三菱航空機)上からMRJ70/78席、MRJ90/88席、計画中のMRJ100X/100席。胴体長さはMRJ70が33.4 m、MRJ90が35.8 m。最大離陸重量はMRJ70が37 ton、MRJ90が39.6 ton。確定受注はMRJ90を指定する会社が大部分、MRJ70購入を決めた会社はない。しかし50機発注の米国トランス・ステイツ航空は大手航空との協定の関係で39 ton以下の機体にせざるを得ず、軽量のMRJ70を選ぶかもしれない。

 

外誌によると9月にマドリッド(Madrid, Spein)で行われた“欧州地区航空輸送業界総会(European Regions Airline Association General Assembly)で、三菱の営業担当幹部は「ANA向けのMRJ90初号機は最終組立工程に入っている。我々は現在大型のMRJ100Xの開発決定の時期を検討中である」と語った。

同氏の発言の要旨は次の通り;—

『MRJ系列機は、76席仕様のMRJ70、88席仕様のMRJ90があり、さらにMRJ100Xを検討中である。MRJ90は4度にわたる遅延で完成が遅れているが2018年中頃の就航を目指している。そして1年遅れでMRJ70を完成させる予定だ。

MRJ100Xは市場にとって極めて重要だ、開発決定の時期を真剣に探っている。我々は、MRJ100Xが100席級の市場で最も経済的な機体になることを目指している。

遅延が続いているMRJ90だが、ANAへの初号機引渡しは2018年中頃の目標に変更はない。現在3機が完成、2機が試験飛行中で3機目は間も無く飛び始める。型式証明取得の飛行は大部分が米国で行われる予定で、その中には“離陸中断試験”、“酷暑、高地での運用試験”も含まれている。証明取得試験用には5機を充当し、4機は米国での飛行試験、5号機だけは客室を装備して日本で試験に供する。

小型のMRJ70は2015年から製造に入り、2017年には初飛行する予定である。MRJ70は主要な部分がMRJ90と同じなため、飛行試験は2機で実施し、就航予定はMRJ90の1年後2019年中期になる。』

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Air Transport World Sept 29, 2016 “First MRJ test aircraft arrives in th US” by Victoria Moores

Air Transport World Oct 13, 2016 “Mitsubishi waits for right timing for MRJ100X” by Victoria Moores

Naver 2016-10-18“国産旅客機MRJ 初飛行〜納入まで“

日刊工業新聞“ニュースイッチ”2016-10-17 “MRJ[18年納入]三菱航空機社長、計画堅持目指す“

三菱航空機”News 2016”