ロシア軍、日本周辺で異常な行動—我国の領土返還要求を牽制


2016-11-24(平成28年) 松尾芳郎

 

統合幕僚監部発表 (28-11-22および28-11-18) 、インターファックス通信、ロシア海軍ニュースなどによると、我が国周辺におけるロシア軍の行動が異常なほど活発化している。これは近日開催予定の日露首脳会談を睨んだ行動と関係筋は受け止めている。すなわち;—

 

①   11月22日にはロシア海軍の対潜哨戒ヘリコプターKa-27型機 1機が尖閣諸島の大正島および久場島の接続水域 (沿岸から44 kmの範囲) に侵入、数時間にわたって飛行した。我が空自第9航空団(那覇基地)所属のF-15J戦闘機が緊急発進し、領空侵犯を未然に防いだ。

既報したが10月20日夕刻ロシア鑑定4隻が対馬海峡を南下、東シナ海、南シナ海で演習を行った。この艦隊はその後インドネシアに寄港するなどして、その一部の2隻(駆逐艦「ブイストルイ」と救助曳船「アラタウ」)が11月17日午後対馬海峡経由でウラジオストクに帰還した。しかし同行していた大型対潜艦「アドミラル・トリプツ」などは東シナ海にとどまり、演習を継続、その後12月のインド海軍との合同演習に参加する予定だ。今回尖閣の接続水域に飛来したのは、この大型対潜艦「アドミラル・トリプツ」の艦載ヘリKa-27だったと推定できる。

②ロシアのインタファクス通信は、ロシア太平洋艦隊の機関紙の記事を引用して、ロシア軍が我が北方領土の国後島と択捉島に移動式の対艦ミサイルを配備したと報じた。国後島には「バル」(射程120-260 km)、択捉島には「パスチオン」(射程350 km)がそれぞれ配備された。いずれも最新型のミサイルで、「パスチオン」は今年7月にロシア沿海州から日本海に向けた発射試験に成功した。このほど初めてロシアが実効支配するクリミヤ半島に配備されたばかり。続いて択捉島に配置するのは、ロシアが如何にこの地域を重視しているかの表れである。ロシアのショイグ国防相は、今年3月に千島列島全域に対艦ミサイルを配備し、北極海経由の海上交通路の防衛体制を強化する、と述べている。

 

日ロ間では今年12月に予定されているプーチン大統領の訪日を前に「北方領土はロシアに主権がある」としばしば発言し、領土交渉の進展を目指す日本側を牽制している。今回の対艦ミサイルの配備発表は、国後、択捉など北方4島の支配を誇示し、日本への引渡しを拒む姿勢を明確にしたものと受け止められている。

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図1:(統合幕僚監部)11月22日に尖閣諸島久場島と大正島周辺の接続水域(島から24海里・44 kmの水域)上空を数時間にわたり侵犯したロシア海軍艦載ヘリ「カモフ Ka-27 」。やや不鮮明なので鮮明な写真を参考までに次に示す。

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図2:(ロシア通信社ノーボスチ)ロシア海軍航空隊は約50機の艦載対潜ヘリ[ Ka-27 ]を保有しているが、かねてより電子機器類を換装する近代化改修が進められ、今年中に全機が[ Ka-27M ]となり完了する。乗員1-3名、搭載量4 tonまたは空挺隊員16名、最大離陸重量12 ton、エンジンTV3-117KMターボシャフト2基。航続距離は約1,000 km。

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図3:(統合幕僚監部)大型対潜艦「アドミラル・トリプツ」から飛来したと推定されるロシア海軍の艦載ヘリ「Ka-27」の飛行経路を黄色で示す図。久場島、大正島の黒線で示す領海に隣接する接続水域内(沿岸から44 kmの範囲)に侵入した

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図4:国後島に展開した対艦ミサイル「バル」は、ロシアの空対艦ミサイルKh-35型を地上発射型にしたミサイル、米国の対艦ミサイル「ハープーン」に性能、形状ともに似ている。

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図5:「バル」ミサイルは短射程の対艦ミサイルで、地上発射型はブースターを取付ける。重量は630 kg、亜音速飛行で超低空を飛行し、目標に到達する。

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 図6:P-800 パスチオン地上発射型対艦ミサイル。ミサイル本体は全長8.9 m、直径70 cmの発射コンテナーに収められ、全体の重量は3,900 kg。写真はランチャーに搭載され、発射コンテナーを発射位置にセットした状態。

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図7:超音速対艦ミサイル「パスチオン」は、大気圏を超音速で飛ぶ巡航ミサイルで、 P-800「オーニクス」ミサイルの地上発射型の名称。ソ連時代の長距離大型対艦ミサイル「P-700 グラニート」を小型化したように見える。エンジンは「固体ロケット・ラムジェット統合システム( IRR = Integrated Rocket Ramjet)」で、発射後はロケットで超音速に加速し、それからラムジェットに切り替わり、目標に向かう。射程は高度20,000 mをマッハ2.5で飛行し、目標に向け降下、突入した場合で約300 km。しかし、2012年11月には最大射程400 km の試射二成功している。本体には電波吸収材が使われ、対レーダ警戒装置が搭載され、必要な場合には回避運動ができる。対艦攻撃が主任務だが地上攻撃も可能。

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図8:(外務省)北方4島すなわち歯舞、色丹、国後、択捉、と北海道の位置関係。択捉島に対地攻撃も可能な超音速対艦ミサイル「P-800 パスチオン」が配備されたことで、北海道の東半分はその射程内に入る。

 

—以上—