2017-01-03(平成29年) 松尾芳郎
図1:(US Navy)初のF-35Bによる離着艦試験(OT-1)が強襲揚陸艦「ワスプ」で行われた(2015-05-19)。参加したF-35Bは6機、甲板上に2機が見える。左右の張り出し部は航空機昇降用の舷外エレベーター。
東アジアの軍事的緊張の高まりを受けて、米海兵隊は最新型攻撃機「F-35B」の世界初の配備先として我国の岩国基地を決定、今年1月中にも配備する。これは最新のステルス攻撃機「F-35 JSF (Joint Strike Fighter)」の世界初の海外展開になる。岩国基地に展開するのは海兵隊第121攻撃飛行隊(Marine Corps Attack Sqdn.(VMFA) 121)だ。
これに備え「VMFA 121」飛行隊は、強襲揚陸艦「アメリカ」で訓練を続けてきた。「アメリカ」には12機のF-35B、2機のMV-22Bオスプレイ、それにUH-1YとAH-1Zの2機のヘリを搭載して訓練が行われた。
訓練について海兵隊航空部隊副司令官ジョン・デイビス(Jon Davis)中将は次のように語っている;—
「訓練は、中国軍の対空ミサイル・システムからの熾烈な攻撃を受けながら島嶼上陸を強行すると云う想定で3日間(11月18—20日)行われた。ここでF-35Bは、比類なきセンサー、素晴らしいレーダー、卓越した攻撃兵装、運動性能、を示し、MV-22Bオスプレイによる強行着陸の護衛などを含め、期待を遥かに超える成果を発揮した。」
「F-35B」「VMFA 121」の岩国展開に伴い、現在ノーホーク(Norfolk, Va.)を母港とする強襲揚陸艦「ワスプ(USS Wasp)」(LHD-1)を、今年秋に我国の佐世保基地に移動させる。これは在日米海軍再編計画の一つで、現在佐世保に在泊する強襲揚陸艦「ボノム・リシャール(USS Bonhomme Richard)」(LHD-6)と交代させるもので、2016年11月初めに発表された。これに伴い「ボノム・リシャール」はサンデイゴ(San Diego, Calif) 海軍基地が母港となる。
「ワスプ」はこの程近代化改修を終え、海兵隊の「F-35B」の運用が可能となった。「F-35B」は短距離離陸・垂直着陸(STOVL = Short Takeoff and Vertical Landing)ができる戦闘攻撃機で、陸上基地のみならず強襲揚陸艦を含む空母での運用が可能な汎用性の高い機体だ。
図2:(US Navy) 2015年5月25日、「ワスプ」から発艦する「F-35B」。
米海兵隊は2016年初めに、東アジアに駐留する海兵隊第31遠征部隊(31st MEU =31st Marine Expeditionary Unit)を支援するため、海兵攻撃第121飛行隊(Marine Corps Attack Sqdn.(VMFA) 121)“グリーン・ナイト(Green Knights)”を岩国海兵隊基地に展開する、と発表済み。
海兵第3航空団司令官(3rd Marine Aircraft Wing Commander)ミカエル・ロッコ(Michael Rocco)大将は、次のように述べている;—
「陸海両用の戦闘能力を備えた「F-35B」の岩国への派遣は2017 年秋までに行なう。2017年1月に最初の10機を岩国基地に空輸し、8月に6機を追加し合計16機とする。秋には強襲揚陸艦「ワスプ」から「AV-8Bハリアー」攻撃機を降ろして佐世保に回航、これに「F-35B」16機を搭載、運用することになる。」
これに備え「ワスプ」には、戦闘システムを中心に大規模な改修が行われ、Mk 2 Ship Self Defense System、SPQ-9B 探索レーダー、Mk 57シー・スパロー・対空ミサイルなどが新型に換装され、さらにLink 16を含む通信機能が最新型に改められた。
「F—35B」:
図3:(Lockheed Martin) 2016年10-11月、強襲揚陸艦「アメリカ(LHA-6)」で5機の「F-35BライトニングII」が離発着試験を繰り返し実施した。「アメリカ」は「タラワ」級の後継艦で2014年の就役、V-22オスプレイ数機と、F-35Bを標準で12機、最大で20機搭載できる。満載排水量45,000 ton、長さ257 m、幅32 m、速力22 kt。母港はサンデイゴ海軍基地(San Diego, Calif.)。
F-35ライトニングII (F-35 Lightning II) は第5世代の戦闘攻撃機で、米3軍では2035年までに合計2,400機、金額にして400億ドル以上の調達を予定している。F-35は、ステルス性、超音速飛行、機動性、に優れ、各種センサー情報とネットワーク機能が統合化され、卓越した生残性を備えている。空軍用、海兵隊用、海軍用として3種類があり、それぞれ「F35A CTOL (Conventional Takeoff & Landing)」、「F-35B STOVL (Short Takeoff &Vertical Landing)」、「 F-35C CV (Carrier Vehicle)」と呼ばれている。
「F-35B」には昨年7月に、系列機の先陣を切って初期戦闘能力(IOC=Initial Operational Capability)が付与されている。米海兵隊は340機、イギリス海・空軍では138機、またイタリア海・空軍も60機前後をそれぞれ調達する予定だ。
図4:(Wikipedia / Tosaka氏作成)「F-35B」の透視図、離着陸時にはコクピット背部のリフトファン・ドアが開き、後部のエンジン排気ノズルが下向きに曲がり、機体を浮揚させる。同時にエンジン・コンプレッサーからの抽気が翼下面のロールポストから吹き出して姿勢を保つ。エンジンは他の系列機と同じP&W F135、推力(アフトバーナ時)43,000 lbs (19.5 ton)。最大離陸重量 27.2 ton、兵装搭載量 6.8 ton。戦闘行動半径は865 kmで「F-35A」の1,160 kmより若干劣る。航続距離が短い点は、2018年に予定されるMV-22Bオスプレイのタンカー型機の配備で解消される。
2016年11月30日に公開された強襲揚陸艦「アメリカ」を使った「F-35B」の「開発試験 III (DT III =development Test III )」のビデオ(14分)を示すのでタップしてご覧頂きたい。
我国は空軍仕様の「F-35A」を42機発注済みで、4機はフォートワース(Fort Worth, Texas)で組立てられ、38機が三菱小牧南工場でライセンス生産される。米国の「F-35 型機FMS = Foreign Military Sales」(外国向け軍需品売却)プログラムの第一号として初号機が昨年末11月28日にルーク空軍基地(Luke AFB, Arizona) に到着、日本側に引き渡された。ここで空自パイロットと整備員の訓練が始まっている。「F-35A」は昨年8月に米空軍で「初期戦闘能力(IOC=Initial Operational Capability)」が認められ、すでに実戦配備が始まっている。
岩国基地:
図5:山口県岩国市にある米海兵隊が運営する軍民共用飛行場で、2,400 m級滑走路が2本(方向は020度/200度)ある。1938年に日本海軍飛行場として開設された。その後長い間、西側(図の左側)滑走路のみであったが、2010年に拡張工事で東側滑走路が完成し写真の姿になっている。拡張工事は埋立て面積214 ha、建設費約2400億円、これで総面積は790 haに拡張された。
岩国基地には、佐世保を母港とする強襲揚陸艦「ボノム・リシャール」の艦載機部隊を含む複数の部隊が駐留している。「ボノム・リシャール」の艦載機は第1海兵航空団第12攻撃飛行連隊のAV-8ハリアーII攻撃機、EA-6電子戦機などで構成されている。この他にF/A-18戦闘攻撃機、KC-130J空中給油機、などの諸部隊で、計75機が配置されている。
2017年度には厚木基地の第5空母航空団所属のF/A-18E/Fスーパーホーネット、EA-18Gグラウラー、E-2Cホークアイ、など59機がここに移転する。これで岩国基地は、嘉手納より大きい東アジア最大の米軍基地となる。
1957年以降からは航空自衛隊と共用、1967年からは海上自衛隊に移管され第71航空隊(US-2飛行艇部隊)、第81航空隊(EP-3及びOP-3Cなど電子戦情報収集機部隊)など、が駐留している。
また、民間空港が併設され、2012年末からANAの定期便が就航している。
強襲揚陸艦「ワスプ」:
図6:(US Navy)スエズ運河近くのシナイ半島東アカバ(Aqaba)湾を航行する「ワスプ」。艦上には海兵隊第29航空隊第263テルトローター飛行隊(VMM 263)所属MV-22オスプレイ6機が見える。艦橋の前方の台には対空ミサイル“シー・スパロー”がある。同型艦は8隻あり最終の8番艦「マキン・アイランド」は2009年に就役、数年前に当時の我国防衛大臣が訪問見学している。F-35B攻撃機は通常10機程度、最大20機搭載が可能とされる。
「ワスプ」(LHD-1) は1989年7月に就役した「ワスプ」級強襲揚陸艦10隻の1番艦で、海兵隊員最大2,200名を収容可能。主な任務は、上陸作戦で空中と水上の両方から同時に兵員資材を揚陸することにある。格納庫から飛行機を甲板に運ぶため2基の舷外エレベーターを備える。艦尾より上陸用エアクッション艇(LCAC)を発進できる。満載排水量約4万トン、全長257 m、幅32 m、動力は蒸気タービン7万軸馬力x 2基で速力23 kt。
海自が保有する「いずも」級ヘリ空母は、満載排水量27,000 ton、全長248 m、幅38 m、動力はLM2500IECガスタービン(28,000 ps)4基で速力30 kt。LCACは搭載していない。SH-60K / J、MCH-101、など大型ヘリ14機を搭載する。同型の2番艦「かが」は2017年3月に就役する。
「いずも」級は「ワスプ」級と比べ、排水量では小型、強襲揚陸能力はLCAC搭載がないので劣るが、飛行甲板はほぼ同じ大きさ、速度では勝る。海自では、「F-35B」の運用は考慮外としているものの、その能力は十分備えている。「いずも」級に固定翼攻撃機を搭載すれば、移動航空基地を保有することとなり、我国に領土侵犯を企てる外敵に対し、十分な抑止力となり得る。
—以上—
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
USNI News November 3, 2016 “USS Wasp to Japan Next Year in Support of Marine F-35B Squadron Next year; USS Bonhomme Richard to San Diego” by Sam Lagrone
Aviation Week December 5-25, 2016 “Lightning Carrier” by Lara Seligman