中国空軍H-6爆撃機など8機が対馬の南側を往復


2017-01-10(平成29年) 松尾芳郎

 

防衛省統合幕僚監部の発表(29-01-09)によれば、1月9日に中国空軍H-6型爆撃機6機、Y-8早期警戒機1機、Y-9情報収集機1機からなる8機編隊が、東支那海から我国の防空識別圏である対馬の南側に侵入飛行し、対馬海峡を通過して日本海に入った。その後反転して中国本土方面に飛び去った。航空自衛隊では戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。

一方、韓国上海聯合ニュースによると、中国空軍機約10機が9日の10時から15時にかけて韓国南部、済州島南の離於島付近の韓国防空識別圏に侵入した。これに対し韓国空軍はF-15及びF-16戦闘機約10機を緊急発進させ対処した。中国軍機10機のうち8機は日本の防空識別圏である対馬海峡を通過、往復した機体と同一である。

聯合ニュースでは、今回の中国軍機の飛行は、南支那海問題で圧力を強める米国と日本に対する武力誇示であると同時に、韓国が配備を決めた最新の地上設置型弾道ミサイル迎撃システム[THAAD]に対する威嚇だ、と見ている。

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図1:(統合幕僚監部)今回対馬海峡を往復したH-6爆撃機は昨年秋に3回宮古海峡を通過したのと同じH-6K型である。H-6爆撃機 は1969年から配備が始まり派生型を含み現在120機ほどが配備中。原型はロシアのツポレフTu-16で、西安航空機で国産化。H-6K型は、長距離巡航ミサイルDF-10Aの空中発射型KD-20(射程2,000 km)を6基搭載するよう改造した機体だ。乗員3名、全長35m、翼幅34.4m、最大離陸重量76ton、エンジンはロシア製D30KP-2をリバース・エンジニアリングで国産化したWS-18を2基装備。巡航速度790km/hr、戦闘行動半径3,500 km、兵装搭載量は9トン。コクピットを含む電子装備もTu-16から大幅に改良、性能が一新している。

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図2:(統合幕僚監部)航空自衛隊機が9日に撮影したY-9情報収集機。Y-9は、後述のY-8をベースに性能向上した中国開発の機体。水平尾翼両端に補助垂直尾翼がある。元来は20 tonの貨物積載可能な輸送機である。2012年から空軍に配備中。写真は機首、胴体前部側面、胴体後部側面にアンテナを装備しているELINT型(レーダー電波等を受信解析する情報収集)で、「Y—9JB」と呼ぶ情報収集機らしい。統幕監部によると機体上部に新たにアンテナが設置されており、これは衛星とのデータリンクに使われる、と云う。全長36 m、翼幅38 m、最大離陸重量65 ton、エンジンはFWJ-6Cターボプロップ5,100 HPを4基。

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図3:(統合幕僚監部)航空自衛隊機が9日に撮影した早期警戒管制機Y-8。ウクライナのアントノフ設計局が作ったAn-12型輸送機を中国がライセンス生産したのがY-8輸送機。1981年から陜西飛機工業で75+機が生産された。Y-8は輸送機型が基本だが、多様な電子偵察用に改造されている。写真はその一つ、昨年4月20日宮古海峡を通過したのと同じ「Y-8洋上偵察機(Y-8ASA)」である。機首のレドームにはイギリス・タレス社から入手した高性能「スカイマスター(Skymaster)」空中捜索レーダーが入っている。中国海軍は4機を保有、東海艦隊の作戦支援任務に従事している。全長36 m、翼幅38 m、最大離陸重量65㌧、航続距離5,700 km、エンジンはWojiang WJ-6C ターボプロップ、5,100軸馬力が4基。

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図4:(統合幕僚監部)2017年1月9日の中国軍機8機の飛行航跡。

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図5:日本(青)、中国(赤)、韓国(緑)の防空識別圏(ADIZ = Air Defense Identification Zone)。我国の防空識別圏は1945年に米GHQが設定した空域を踏襲している。防空識別圏を飛行する飛行機はあらかじめ当局に飛行計画を提出するよう求められる。中国は2013年11月に東支那海に防空識別圏を設定、我国ADIZに大きく食い込む形で我国領土の尖閣諸島を含め一方的に設定し、現在に至っている。中国国防省は、設定に伴い防空識別圏内を飛行する他国機に対し飛行計画を提出するよう求めたが、日本、米国などからの抗議で、この要求を撤回した。

 

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