2036(令和8)年7月3日 鳥居徹夫(元・文部科学大臣秘書官)
今年2月の衆院選を巡り、連合(日本労働組合総連合、芳野友子会長)が組合員を対象にアンケートを実施したところ、小選挙区での投票先は自民党が29.6%でトップとなった。国民民主党は27.7%、中道改革連合(略称:中道)は26.0%であった。
衆院選直前に立憲民主党と公明党の衆院議員が合流した中道は、連合が候補者支援を呼びかけた国民民主党を下回った。比例ブロック代表の投票先は国民民主党(38.8%)、中道(22.0%)、自民(19.0%)の順。
連合は5月21日、「組合員の政治アンケート」と「第51回衆議院選挙の取り組みのまとめ」も記者発表した。
◆支持政党は、国民民主党、自民党、立憲民主党の順
また、連合が組合員対象に実施したアンケートで、支持する政党を聞いたところ、国民民主(26.8%)が最も高く、自民(15.5%)、立憲(11.3%)、中道(4.6%)の順、中道改革連合が4位に沈んだ。
アンケートは2月の衆院選での投票行動などを分析するため行われ、約5万5000人が回答した。
連合は衆院選で201人の候補者を推薦したが、当選は40人にとどまり、2024年衆院選の149人から大幅に減った。
連合の芳野友子会長は5月21日の記者会見で、中道結成が衆院選直前だったことに触れ、「中道の位置付けを短期間で整理することが非常に困難で、中道の政策も組合員に浸透させることが難しかった」と語った。
中道改革連合の小川淳也代表は22日の記者会見で、「冷静に受け止める」と述べるにとどまった。
一方、国民民主の榛葉賀津也幹事長は22日の記者会見で、国民民主党が「年収の壁」の見直しなどを実現してきた実績を挙げ、「組合員が(国民民主党が主導する)政治に期待した。この期待やモメンタム(勢い)を失いたくない」と手応えを語った。
アンケートによると、2月の総選挙で「投票に行った」と回答した組合員は、84.4%(投票日当日50.3%、期日前投票24.1%)を占め、連合組合員は、全国平均の投票率(56.3%)より30%以上も高かった。
連合組合員の投票行動が大寒波の中、全国平均より高い中で、小選挙区で自民党に投票した連合組合員が3割近くでトップということになる。
「総選挙で、候補者もしくは政党に投票した理由」を見ると、「労働組合が推薦しているから」 (小選挙区:27.8%、比例代表:31.4%)、「政策・公約がよかったから」(小選挙区:26.8%、比例代表:32.1%)。
小選挙区選挙では「信頼できそうな人物だから」「他に入れるよりはまし」、比例代表選挙では「支持 または期待できる政党だから」などの理由が あげられている。
「労働組合が推薦する候補者の周知度」については、「知っている」が84.6%を占め、「組合役員経験なし層」でも74.7%と高い。
「労働組合の政策実現のために望ましい労働組合と政党との関係」では「政策を通じてその都度、支持・協力政党を決める」が 38.5%で最も多かった。
つまりアンケートでは、組合員の政治政策への関心が高く、投票率が高く、投票先のトップは小選挙区では自民党、比例代表では国民民主党という結果である。
総選挙に向け急いで結成された中道改革連合に、連合組合員は冷やかであったということであろう。
◆連合との連携関係がなかった中道改革連合
政治アンケートと同時に公表された、連合の「第51回衆議院選挙の取り組みのまとめ」では、自民党の大勝、中道改革連合の惨敗、国民民主党の現状維持となった総選挙結果と、連合の総括などについて以下の通りである。
(1)働く者・生活者のための政治を取り戻す、極めて重要な局面と位置づけ、政治をリビルドする(作り直す)としたが、連合がめざす与野党が互いに政策で切磋琢磨する政治体制から大きく後退した現状に強い危機感を覚える。
(2)政党との関係では、推薦・支援を検討していた多くの小選挙区で競合したことは極めて残念であった。
連合として、中道改革連合の位置づけを整理することは困難とした上で、選挙戦に突入せざるを得なかった。
(3)国民民主党、立憲民主党には、連携して野党としての役割を発揮することにより、 山積する重要課題に真摯に取り組む国会の実現を期待する。
(4)中道改革連合との関係については、連合の組織内(構成組織、地方連合会)で丁寧に議論を深めていく。
(5)連合として今次総選挙の結果を真摯に受け止め、連合出身議員政治懇談会とより一層緊密に連携するとともに、連合 政策・制度推進フォーラムの充実をはかり、政策・制度の実現に邁進する。
ちなみに2月8日に投開票が行われた第51回衆議院選挙で、連合は201名の候補者を推薦し、小選挙区では16名、比例代表では24 名の合計40名が当選した(前回2024年は204名を推薦し、149名が当選)。
連合は、国民民主党と立憲民主党を「連携政党」と位置づけているが、中道改革連合とは正式な連携関係は結んでいない。
中道改革連合には政党ではなく候補者単位で支援ということである。
◆党員や支持者、支援団体に
「中道結成」追認を求めた立憲民主党の身勝手
解散総選挙を直前に控えた2026 年1月16日、立憲民主党と公明党は、この間の両党を取り巻く厳しい状況を背景に、新党「中道改革連合」 を結成すると発表し、総務省に届出を行った。
新党結成に向けた立憲民主党の両院議員総会では、衆議院の立候補予定者は離党した上で新党に入党すること、参議院議員および地方組織については総選挙後に合流することが確認された。
新政党の綱領および基本政策の公表は1 月19日、結党大会は1月22日に開催され、立憲民主党からは146名中144名が中道改革連合に入党した。
総選挙まとめによると、連合本部には、1月13日に「選挙協力、統一名簿方式、新党結成」の複数の方向性が示され、新党結成発表の直前に最終的な結論が伝えられた。
立憲民主党が中道改革連合になったので、支援団体は立憲民主党と同様に支援せよというのである。
労働団体が政党と支持協力・連携関係を持つのは、政策の一致であって、政局の道具ではない。支援組織は政党の「下駄の雪」ではない。
にもかかわらず政党は、その候補者を労働組合が無条件に応援するのが当然と思っている。
「下駄の雪」とは、下駄にくっついた雪が、下駄を履いている人の意思に伴って、どこまでもついていくとのたとえで、去年までは26年間続いた自民・公明協力の、公明党を指していた。
かつては強権的で市役所職員へのパワハラで問題のあった市長を、知事候補や参議院議員候補に推薦したのが立憲民主党で、地方連合や労働組合に支援を求めたという事例もあった。マスコミや左翼団体の受けが良く、当選有力であったが、そこで働く組合員は軽視されているとしか思えない。
とりわけ官公労出身の組織内議員は、国会においても身近な職場サイドの制度上の不合理の改善よりも、政局や政府与党のスキャンダル追及などを重点的にアピールしている。
たとえば建物立ち退き交渉の担当職員に「火をつけて捕まってこい」などと暴言を吐いた市長を、国政選挙で推薦せよというのである。
職場で問題となっている非正規職員(年度任用職員と呼ぶ)への依存体質や、市民の個人情報に関わる業務を外注し、その下請けがUSBメモリーを紛失し大騒動に発展した市もあり、その対応に正規職員が追われた事件もあった。
勤労者に敵対する人物を、立憲民主党推薦だからと支援を求めることは「勤労者のクビを自分で絞める」ことに他ならない。
ちなみに中道改革連合は、自らの選挙総括で「支援団体への説明が全く不十分であり選挙戦の最前線に立つ関係者にすら十分に共有されなかった」と分析。その上で「立憲民主党と公明党の支持基盤と得票実績を勘案すれば、一定の議席を確保できるとの前提に立ったこと」を最大の誤算とし、最も反省すべき点として、「急激に変化する民意の動向を掴み切れず、加えて、新党の立ち位置やイメージを強いメッセージ性を持って有権者に訴求し切れなかった」と総括している。
◆総選挙は、政権選択選挙である
労働組合でも、組合で推薦した政党や候補者の支援活動を行うのは、執行委員であり職場委員である。一般の組合員に「なぜ推薦候補の応援をするのか」「どういう政策なのか」が確信を持てないと、働きかけても説得力を持たないし、運動の広がりに欠ける。
逆に「連合の方針だから」といっても、その組合員が組合の支援政党、推薦候補者に反発したならば、高市首相や女性総理に親近感を持つことも起こりうる。
総選挙では、高市総理の「首相が高市早苗で良いか、野田佳彦や斎藤鉄夫が良いかを問う総選挙だ」とアピールが功を奏した。
当選した衆議院議員は、特別国会の首班指名で総理大臣の候補者に投票する選挙人なのであり、総選挙が政権選択選挙と言われる所以でもある。
一方、国民民主党に対しても「連合の総選挙まとめ」は、次のように指摘した。
「国民民主党は公示前から1議席増となったものの、前回(2024年)第50回衆議院選挙で比例名簿登載者が足りずに3議席を他党に譲ったこと、加えて今回は自民党から比例2議席が配分されたことなどから、議席を減らしたとの見方がある」と手厳しい。
国民民主党も、自党の闘いを「なんとか踏みとどまった」としつつ、「多くの候補者に おいて日常活動が不足していること」、「組織の脆弱性から、着実に集票を広げていく地上戦を展開できず、空中戦に終始した」、「新鮮味のあるイメージを打ち出せなかったことが無党派層の離反を招いた面もある」と総括している。
◆政党の興廃はネーミングにあり、トップのキャラも
衆議院の立憲民主党と公明党の離党者が集まった新党「中道改革連合」は惨敗であった。
小選挙区で、公明票が立憲候補者に上乗せされ、自民党票が減るという単純計算にはならなかった。
逆に、立憲民主党からは、創価学会に距離を置く宗教票が逃げ、「選挙区は自民候補、比例は公明」の自公協力パターンが崩れた。
足し算はできても、引き算が苦手なのが、新旧メディアである。これまで立憲民主党に投票していた層は、自民党に距離を置く層や、自民党にお灸を据えたいという層も多く、盤石な立憲民主党の支持層ではなかった。つまり漠然とした支持が多かった。立憲民主党の岩盤支持層は、労働組合票を除くと少ない。
オッサン政党とオジサン政党の合流は、落ち目の政党にとってはサバイバルを賭けた死活問題であったが、生活者や国民の関心事ではなかった。
新しい政党立ち上げの成否は、政党のネーミングと、政党トップのキャラがポイントとなる。大義名分や理念・政策は二の次になってしまう。
政党名の『中道』からは、勤労者や生活者、庶民のイメージは浮かばないし、トップの顔からは若さとか躍動感や魅力が感じられなかった。
選挙のための野合、生き残りへの選挙互助会の新党に、みらいはなかった。新党「負け犬」への合流には、公明党は前向きだが、立憲民主党の参議院議員は抵抗感が強い。
最近の報道では、新たに衆議院の中道と、参議院の立憲民主党と公明党が一体となり、名称も新たに新しい政党の結成という動きもあるとのこと。つまり政党のネーミングを含め、中道というマイナスの名称を消し去ろうというのであり、参議院や地方議員の中道への合流ではないということになる。
◆労働組合と政党は、それぞれ独立した組織
新党結成から短期間で「中道」という政党名が浸透しきれなかったほか、政党のトップのキャラや政党の名称などにも、敗因の要因であったとみられる。新党結成は「選挙目当て」「野合」との批判もあった。
立憲民主党やメディア、そして自民党議員においても、労働組合は「反政権、自公政権タタキ勢力」というイメージが今日でも強い。
労働組合が、一部野党の候補者を応援することをもって、労働組合は政党の下請け機関であるかのような報道も一部に行われている。労働組合が、あたかも左派勢力であるかのような誤解を与えている。
労働組合は、勤労者の雇用・労働政策など政策制度課題の解決を目指す政党や議員を支持し、選挙活動にも取り組むのである。
言うまでもなく労働組合は、政党ではなく、政治団体ではない。労働組合も政党も、それぞれの目的をもった独立した組織である。
したがって労働組合は、政党の都合に関わらず、支援に動いてくれる「下駄の雪」ではないし、ましてや政党の下請け機関ではない。
一部マスコミや立憲民主党などは、反自民の政治勢力を、労働組合は無条件で選挙支援するものと勘違いしている。労働組合や大衆団体が、政党の手足のようなイメージが依然として強い。
かつてロシア革命を牽引したレーニンは「労働組合などの大衆組織は、前衛党(共産党)によって指導される」とするドグマで、労働者・人民を扇動した。
政党(前衛党)が上部組織で、労働組合など大衆組織は下部機関とされる。それゆえ戦後かなり長期間、共産主義思想が強かった時期にみられた労働組合観を引きづっている。労働組合は、革命や大衆運動の組織体ではないのである。
かつて安倍晋三政権時代に、連合の加盟組織の基幹労連と電機連合で「組合員の意識調査」を実施したことがあったが、支持政党のトップは自民党であった。
今回は官公労も合わせた連合全体の調査である。
前連合会長の神津里季生は「(連合)組合員は、普通の市民・国民である」と強調していた。
連合の芳野友子会長は5月28日、千葉県で開いた連合中央委員会で、「政治アンケート」の結果から、「選挙における労働組合からの働きかけが年々、減少していることも明らかとなり、実際の投票行動を左右する力が小さくなってきているように見える」と述べるとともに、「自民支持層が少しずつ増えているという実態がある」と指摘した。
さらに連合傘下の労組に国民民主党や中道の政策を伝えて支持拡大を図る必要があるとの考えを示した。
しかし政治アンケートにあるように、連合組合員の政治への関心は、全国平均の投票率より高く、小選挙区では自民党の候補者に投票するという傾向。中道への支持は、衆参とも4番目。
政党やマスコミが、いかに反高市内閣を叫ぼうとしても、一般の連合組合員は数合わせの政党と、議員や候補者の支援にウンザリしている。
組合員は、支援する政党が、政局やパーフォーマンスで活動しているのか、組合員・国民の生活向上に向けて行動しているのかを、じっくりと観察している。
そして、そのことが選挙時における投票行動に直結していると言えよう。