スペースX、スターシップ第13回試験飛行、衛星放出とインド洋着水に成功


2026-8-12(令和8年) 松尾芳郎

スペースXは7月24日に、同社のスターベースから巨大ブースターを使い第13回目のスターシップ試験飛行を行った。経過はほぼ完璧で全長53 mのスターシップは、オーストラリア沖のインド洋に計画通りに完全な状態で着水した。しかし残念な事に着水したスターシップを回収すべくオーストラリアに曳航を試みたが失敗、8月7日に水没した。

(The SpaceX Starship conducted its 13th test flight on July 23, lifting off from the company’s Starbase in South Texas. Things went so well on the flight 13, 52 m long Starship splashed down as planned in the Indian Ocean off the coast of western Australia. SpaceX is towing it to the western Australia to get a better look. But is not to  succeed.)

図1:(SpaceX)スターシップ第13回試験飛行は、スターシップ40号機とブースター20号機の組合わせで行われ、予期以上の大成功を収めた。

図2:(Space.com)ブースターのラプター・エンジン33台の推力で上昇するスターシップ第13回試験飛行。

2026年7月24日夕刻5時51分(C.T.)スターシップは、第13回の試験飛行としてテキサス州スターベース(Star Base)から打上げられた。これはスターシップとスーパー・ヘビーV3の組合わせの2回目の飛行になる。また、スターシップ最初のの次世代型スターリンクV3衛星の放出試験でもある。

打上げは、スーパー・ヘビーの33台のラプター3エンジンが噴射開始、上昇してメキシコ湾(Gulf of America)に向けて上昇した。順調に上昇を続け、打上げ2分21秒、ブースター側エンジンの噴射中に、スターシップ側のエンジン6台を始動する「Hot -Staging」方式でスターシップを分離し、スターシップはそのまま宇宙空間へと上昇した。

スーパー・ヘビー・ブースターは、スターシップ分離後、打上げ2分18秒後に全エンジンを停止して姿勢変換を始める。打上げ6分27秒後にエンジン再起動・6分53秒後にエンジンを停止し、機体姿勢を所定の方向に向け予定した速度で降下する。スーパー・へビーV3にとって、ラプター33台の操作で降下するのはこれが初めて。打上げ6分27秒に再噴射、降下速度を落としながら、打上げ6分53秒後にエンジン停止して湾内に無事着水した。

図3:(SpaceX)スーパー・ヘビー・ブースターから「Hot-Staging」方式で分離したスターシップ。ラプター・エンジン6台が稼働中なのが分かる。

スターシップは6台のラプター・エンジン推力で上昇して、予定した速度で軌道飛行に移る。打上げ8分5秒でスターシップの全エンジンを停止、打上げ16分40秒で計画通りスターリンクV3衛星20枚の放出を開始、打上げ27分39秒後に放出を完了・成功した。地上の技師たちは、無線通信とレーザー・リンクで全ての衛星と交信して重要な情報を入手した。スターリンク衛星は、計画した軌道上に展開してから、20分後に予定通り大気圏に突入・消失した。

スターシップは、打上げ後38分58秒から今後の宇宙飛行で必要となるラプター・エンジン1台の再噴射試験飛行を行った。

スターシップは打上げ47分30秒後に大気圏再突入を開始、4枚の操舵フラップを使いながら打上げ1時間2分23秒後に遷音速、同3分1秒後に亜音速に減速する。同5分1秒後にエンジン噴射開始、同5分12秒後にエンジン3台を噴射して減速しながら降下、続けて2台、最後に1台とエンジンを減らし、打上げ後1時間5分21秒後にインド洋上の目標点に無事軟着水し、横倒しとなった。着水点にはドローンが待機、一部始終を撮影、管制センターに送付した。

図4:(SpaceX)インド洋に着水するスターシップ。海面に到着して横転した。右下の「エンジン作動図」で2台のエンジンが噴射中と判る。ドローが撮影した動画。

  • スターシップ・システム

「スターシップ・システム(Starship System)」とは、「スターシップ宇宙機(Starship Spacecraft)」と「スーパー・ヘビー・ブースター(Super Heavy Booster / Rocket)」の組合わせで構成されている。完全な再使用可能システムで、人員・貨物を地球周回軌道、月、火星、その遠方に輸送する。地球周回軌道なら100トン以上を輸送できる。大きさは、高さ40階建ての高層ビルと同じ124 m、直径は9 m。

図5:(SpaceX)スターシップ・システム。白い部分が「スーパー・ヘビー・ブースター」、黒い部分が「スターシップ宇宙機」。「スターシップ」は、半面が大気圏再投入のため「黒い耐熱タイル」で覆われている。

  • スターシップ宇宙機 (Starship Spacecraft)

「スターシップ宇宙機」は「スターシップ・システム」の2段目で、使用目的に対応して異なる仕様を準備している。人員、貨物を地球周回軌道、月、火星、その遠方に輸送する、また将来地球上各地に設置される宇宙港を結ぶ路線に使うこともあり得る。この場合飛行時間は一時間以内である。飛行後は発射台のパッドに帰還、再利用する。

大きさは、高さ52 m、直径9 m。燃料搭載量は」1,600トン、推力は1,614トン・フォース。

  • スーパー・ヘビー・ブースター (Super Heavy Booster)

スーパー・ヘビー・ブースターは「スターシップ・システム」の1段目で、超低温の液体メタン(CH4)/-183℃と液体酸素(LOX) /-183℃を燃料とする33台のラプター・エンジンを備える。飛行後は発射台に帰還、再使用できる。

サイズは高さ72 m、直径9 m、燃料搭載量は3,650 トン、推力は8,240 ton force。

  • ラプター・エンジン(Raptor Engines)

ラプター・エンジンは再使用可能で、「メタンー酸素(methane-oxygen)ステージド・コンバッション(staged combustion)」サイクルのエンジン。これはファルコン9用のマーリン(Marlin)エンジンの2倍の推力を出す。

「スターシップ宇宙機」には、6台装備、内側の3台は「スーパー・ヘビー」と同じ(大気圏用)で、外側3台は「ラプター・バキューム(Rvac=Raptor Vacuum)」型で宇宙空間・真空中で使う。

「スーパー・ヘビー」には、大気圏用のラプター・エンジン33台を装備、中心部の13台は推力方向変換可能エンジン(maneuverable engines)で、外周の20台は固定式でになっている。各エンジンは直径1.3 m、高さ2.9 m、推力250 ton force。

スターシップV3

これまでの経験を活かした第3世代の「スターシップ」、「スーパー・ヘビー」、「ラプター3」を組合せる「スターシップV3」が今回使われた。

スーパー・ヘビー・ブースターV3の改良点:

姿勢制御用グリッド・フィン(grid fins)がこれまでの4枚から3枚になり、各フィンは50 %大型になり強度も強化された。フィンは、ブースターを発射塔に据え付けたり、発射塔の「箸」でキャッチするのに使われる。さらに頂部はスターシップを分離する際、スターシップ側のエンジン噴射の高温を避けるため間隙を設けている。また、グリッド・フィン・シャフト、アクチュエーター、それらの固定機構は安全性を高めるためブースターの燃料タンク内に移されている。

図6:(SpaceX) ブースターV3の頂部改良箇所。

これまでスターシップとブースターの間にあった「中間段(interstage)」は無くした。これで分離の際には、ブースターの燃料タンク前方ドームは自身の構造強度とタンクの内圧で、スターシップ側のラプター・エンジンの排気圧と高温に耐えることになる。スターシップとブースターを結合するため「中間段」にあったアクチュエーター類は分離後ブースター側に収納される。

メイン・タンクから33台のラプター・エンジンに超低温の燃料を供給する燃料パイプは、完全に再設計されて太く(ファルコン9胴体と同じ位)なり、33台のエンジンが同時・直ちに始動できるようになり、姿勢制御も容易になった。

ブースター後端(底部)にある耐熱システムも再設計された。推力コントロールとアビオニクス・システムは統合化され一体となり、33台ラプター・エンジンの燃料流量・出力がネットワーク化された。これまで個々のエンジンは大きな耐熱シールドに覆われていたが廃止され、代わりに中央部にある13台のエンジンとそれぞれの推力偏向機構(thrust vector control hardware)の間に耐熱シールドが設置された。また従来あった炭酸ガス消火システムは取外した。

最後に、ブースターに液体メタン(CH4)と液体酸素(LOX)を注入するために1本のチューブで接続していたが、これを2本別々の接続に改め、操作を簡単・確実にした。

後述の「ラプター3」エンジンの出力増加で、1台当たり推力は507,000 lbsから551,000 lbsに増え、スーパー・ヘビーの離昇推力は1,800万ポンドに達する。これはアポロ時代のサターンVの2倍以上の推力である。

図7:(SpaceX)ブースターのメイン・タンクから33台のラプター・エンジンに超低温燃料を供給する燃料パイプは再設計され著しく太くなった。これで全エンジンが同時に確実に始動できる。

スターシップV3の改良点;―

スターシップV3では推進システム(propulsion system)が完全に新しくなった。この変更で、エンジン始動方式が新しくなり、燃料タンク容量が大きくなり、飛行中の姿勢制御をする「reaction control system」を改良することができた。推進システムの更新でスターシップ後端(底部)にある漏洩燃料を貯める部屋を小型にできた。

後端・底部の燃料と電気系統配線を変更し、各エンジンの耐熱シュラウドを外し、後端の開口部を広げた。後部操舵フラップのアクチュエーターは2本だったが、モーター3個付きの1本に変更した。この改良で、帰還時発射台に戻る信頼性を高くでき、合わせて重量を軽くし、コストを節約できた。スターリンク衛星射出装置(Starlink PEZ Dispenser)に新型のアクチュエーターとインバーターを使い、各衛星の射出速度を早めた。これで将来フライト1回当たり60枚のスターリンクV3衛星を軌道に投入できるようになる。

こうしてスターシップは、長期間の宇宙飛行ができるように改良されている。改良点には;―より効率的な姿勢制御系統(reaction control systems)の装備、燃料供給配管(header feed system)の真空ジャケット被覆化、超低温燃料による循環冷却装置(cryogenic recirculation system)の駆動に高電圧アクチュエーターの採用、長期間宇宙巡航時に使う3台のラプター(RVac)に適量な超低温燃料を供給する専用の燃料管制装置の装備、が含まれる。

さらにスターシップが他の宇宙機とドッキングする際、ドッキング支援用として小型ドログー(docking drogues)4基を装備する、これで宇宙機同士間で燃料輸送可能にする。。

図8:(SpaceX)スターシップ宇宙機の地上試運転。

アビオニクス(avionics);―

スターシップとスーパーヘビーV3には、頻繁な使用に耐え完全な再使用可能、そして高信頼性のアビオニクスを搭載している。両飛翔体のアビオニクスは、バッテリー・インバーター・高電圧配電装置を組込んだ約60種類の特別仕様のアビオニクス・ユニット入れた「単一・パッケージ」になっている。ピーク時の消費電力は9 MWになる。複数センサー付き航法装置は、予想されるあらゆる事態に対処し精密な自律飛行ができるよう、性能が向上している。無重力化で燃料レベルを計測する新しいラジオ周波数帯センサーが装着され、これは今後の宇宙空間での給油作業に欠かせない装置となる。もう一つ、機体のあらゆる箇所、50箇所に状況をモニターする高速度(480 Mega bite/sec)の性能向上したカメラを取付けている。

ラプター3 (Raptor 3)エンジンの改良点:―

イーロン・マスク(Elon Musk)氏は7月中旬に、第3世代のラプター・エンジンである「ラプター3」の「大気圏内用(sea-level variant)」型の完成を発表した。宇宙空間で使う「ラプター3真空型 (Raptor 3 vacuum-level variant)」[RVac]の完成は数年後になる。

部品・コンポーネントの設計見直しと製造にはテスラ(自動車)製造で培った最新の3Dプリント技術を広範に適用、部品とシステム全体の単純化・軽量化に成功した。マスク氏は「今やスペースXは世界最先端の[企業内で開発した3D金属プリント技術]を持つようになった」と語っている。

「ラプター3」はエンジン冷却機構(ノズルの部分など)を再設計し冷却効果を改善したので燃料タンクとの間にあった各エンジン個別の耐熱シールドが不要になった。複雑な耐熱シールドを取外した結果、全体が簡単で軽くなり、消火器系統も取外した。

これでエンジン1台の重量は「ラプター2」の1,630 lgから1,525 kgになった。

図9:(SpaceX)「ラプター3」エンジンの外観、世界最高の3Dプリント技術で軽量・簡単に作られ、しかも推力は一段と増加し、そして再使用に必要な整備も簡単に済むようになった。

図10:(SpaceX)左からスーパー・ヘビー・ブースターで使われてきたエンジン「ラプター1(Raptor 1)」、「ラプター2(Raptor 2)」、「ラプター3(Raptor 2)」(いずれも大気圏内用)の外観。それぞれの下段には、推力が「トン・フォース(ton-force)」単位で「185tf」、「230tf」、「280tf」と書いてある。3Dプリント製法で複雑な部品・配管が驚くほど簡単になった。

スターベースの発射台(launch pad) 2の改良点;―

発射台2は、スターシップ第12回発射で使われた。第13回目の前に燃料タンク設備を全体的に増加・強化し、輸送ポンプを増やし、早く燃料を注入できるようにした。

発射塔(launch tower)は、捕捉用の「箸(chopstick)」を短くし動きを早くした。「箸」駆動用のアクチュエーターは、油圧式から電動式にしたので動きが速くなり、信頼性が向上した。スターシップ宇宙機に燃料を送るパイプのアームは強化され脱着時間が短くなった。燃料供給が終わると、素早く開き後ろへ回転し、発射時の高熱噴煙で被る影響を少なくした。

図11:(SpaceX)発射塔2にある「箸(chopstick)」は短くなり拡がり角度が大きくなり、電力アクチュエーター駆動になった。

発射台(launch mount)は、完全に再設計され構造部材の荷重分担(load shearing)、復元性(throwback reliability)、噴射する火炎から飛翔体を護る性能、が著しく向上した。発射台の内側には、新しい火炎を分離する通路が設置され、台の頂部には火炎防護板が付き、発射後に再修理する必要をなくした。発射台にあるスーパー・ヘビー燃料供給用着脱式接続機構は、台の反対側に移されメタンと酸素の供給を分離・並行して行えるようにした。安全性向上のため、ブースター燃料供給システムにある多数の抽気バルブ、分離バルブ、フィルター類は発射台横の防護区画(hardened bunker)内に移され、ロケットからも離され、メタン・酸素施設から遠くした。

図12:(SpaceX)改良した発射台とブースターのラプター・エンジン33台の噴射試験。

終わりに

今回の試験飛行は、今年5月に実施された第12回飛行に続き、改良されたスターシップV3による2回目の飛行となった。第12回飛行では、スーパー・ヘビーは帰還時にエンジンの一部が作動せずメキシコ湾にハード・ランでイング、またスターシップ宇宙機もエンジン1台が不作動のまま十分な減速ができず着水するなどトラブルが起きた。対策が採られた第13回飛行では、これらの問題点が全て解消し、軟着水したスターシップ宇宙機は耐熱シールド側を表にした状態で海面上に浮かんだ。併せて第3世代のスターリンク衛星20枚の射出にも成功した。

スターリンク衛星網事業はスペースX社にとり最大の収益事業で、マスク氏は「AI(人口頭脳)」事業拡充のため将来ソーラー・パワー・スターリンク衛星を100万台に増やす」と言っている。

8月4日にマスク氏は「第14回のスターシップ・フライトは今月(8月)中に行い、実用型スターリンクV3衛星を発射・地球周回軌道に展開し、終わったら宇宙港の発射塔に帰還し「箸」で捕捉する」と語った。

第13回で着水したスターシップ宇宙機は、詳細点検のためオーストラリア西岸に曳航を試みたが失敗、8月7日に水没した。これが今回唯一の失策となった。

トランプ憎しで固まっている某紙は、トランプ氏と近いマスク氏の第13回飛行を不完全・一部失敗と報じた。報道は正確であるべきで “坊主憎けりゃ袈裟まで憎い”のスタイルは良くない。

図13:(SpaceX)インド洋に着水したスターシップをオーストラリア西岸に曳航中の写真。

―以上―

本稿作成の参考した記事発語の通り。

  • SpaceX July 24, 2026 Starship’s Thirteenth Flight Test
  • CNN July 24, 2026 “SpaceX Starship megarocket hits key milestones in ‘Lucky 13’ test flight as big hurdles loom” 
  • SpaceX News May 12, 2026 “Introducing Starship V3”
  • ROBOTAXI August 8, 2026 “Raptor 3 Starship engine is lighter, kess complicated, yet more powerful and reusable” by Iqtidar Ali
  • Space.com August 8, 2026 “’Not looking good right now’: Starship likely to be lost at sea 2 weeks after epic 13th test flight, Elon Musk says” by Mike Wall
  • Space.com August 4, 2026 “’SpaceX wants to launch next Starship this month and catch it,too, Elon Musk says in 1st earning call since historic IPO” by Mike Wall
  • TokyoExpress 2025-10-16 “スターシップ11号、打ち上げ成功“
  • TokyoExpress 2024-10-23 “スターシップ・ブースター打上げ後再び発射台に戻すのに成功
  • TokyoEpress 2022-02-20 ”スペースX、スターシップスーパーヘビーの打上げ近づく“