エアロジェット・ロケットダイン、「RDE」回転デトネーション・エンジンの開発を進める


2017-01-13(平成29年) 松尾芳郎

2017-01-14 改訂(誤字の訂正)

 

70年以上前にジェットエンジンが出現してから、飛行機の安全性は向上し効率は著しく改善されてきた。しかし、タービン入口温度を上げ、コンプレッサーの圧力比を高め、ファン速度を遅くする減速ギアを入れたGTFなどの手段でも、これからのガスタービンの性能向上は最早限界に近づいている。

これを乗り越える手段として、空気と燃料の混合気の加圧と燃焼を根本的に改める方策の研究が進んでいる。すなわち、過去数十年にわたり米海軍、米空軍、NASA、ロシア、日本、フランス、中国などのエンジン研究者達が追い求めてきた「RDE= Rotating Detonation Engine(回転デトネーション燃焼サイクル・エンジン)」がそれである。ここでは混合気の加圧をコンプレッサーに依るのではなく、爆発燃焼の力を使う「pressure-gain combustion(爆発燃焼サイクル)」で行う。「爆発燃焼」はガスの伝搬速度が超音速なのに対し、現行の火炎伝搬方式の燃焼は音速以下に止まる。このため理論的に「爆発燃焼」では高い効率が得られ、燃費の向上(10-25%)と高い排気速度・出力が期待できる。

米海軍では、130隻の艦艇の主機関に計430台のガスタービンを使っており、その燃料費は年間20億ドルになるが、「RDEが実用化され適用されれば3-4億ドルの節減が見込まれると云う。

しかし「RDEには安定性と騒音に問題があり、この解決のために研究が続けられている。爆発は超音速なので、燃料と空気の供給を極く短時間で行う必要がある。爆発を高サイクル/連続化するには、それに対応して燃料/空気の混合気を適切に遅滞なく燃焼室に供給する仕組みが求められる。

エアロジェット・ロケットダイン社では、この「RDE理論を具体化し、これまでの7年間に700回以上の燃焼試験を繰り返してきた。当面は地上用エンジンに適用する考えだが、将来は航空機用エンジンに組入れたいとしている。

RDE=Rotating Detonation Engine(回転デトネーション燃焼サイクル・エンジン)」は;—

l   当面は地上用ガスタービンに適用する

l   一旦スタートすると「RDEサイクル」は安定して燃焼を続ける

l   「pressure-gain combustion(爆発燃焼サイクル)」は熱効率を飛躍的に向上させ、燃費を大きく改善する可能性を秘めている

l   エアロジェット・ロケットダイン社の「RDE」は米国エネルギー省のフェイズII研究項目に取上げられている

l   「RDE」は、将来のガスタービンの燃焼室やパルスジェットに取って代わることになりそうだ

現在のガスタービンは、空気を圧縮し燃料と混ぜた混合気を一定圧力(constant pressure)で燃焼させる仕組みである。一方「pressure-gain combustion(爆発燃焼サイクル)」では、空気・燃料の混合気は急速に圧縮され一定容積(constant volume)の下で爆発燃焼する。一定容積の燃焼室内での爆発で極めて高い圧力が生じるため熱効率と燃費で15%以上の改善が可能である。

しかし「爆発燃焼サイクル」を効率よく持続することは非常に難しい。これまで20年以上にわたり研究が進められて来たが、実用化には未だ成功していない。

DF-TECH-Detonate-1_AerojetRocketdyne

図1:(Aerojet Rocketdyne)「エアロジェット、ロケットダイン社」では、不安定な「RDE」燃焼とタービンとの相互作用の実験を続けている。

 

しかし、エアロジェット・ロケットダイン(以下「AR社」)は、米国エネルギー省の「国立エネルギー技術研究所(NETL=National Energy Technology Laboratory)と協力して「RDE=Rotating Detonation Engine(回転デトネーション燃焼サイクル・エンジン)」で問題を解決できると考えている。「RDE」案を評価した米国政府のエネルギー省(US Energy Department)は次のように説明している;—『「RDE」は環状配置の簡単な燃焼室で、爆発の衝撃波が環状の燃焼室に沿って伝搬し混合気を連続して圧縮する。』

「AR社」は、エネルギー省から「RDE」研究に関し680万ドルの契約を貰ったが、これを基に米国各地の大学で通常方式のガスタービンを「RDE」燃焼方式に変換する研究を進める予定だ。これで全体の効率を少なくとも5%向上することを期待している。

プードウー大学(Purdue Univ.)、ミシガン大学(Univ. of Michigan)、アラバマ大学(Univ. of Alabama)、セントラル・フロリダ大学(Univ. of Central Florida)、サウスウエスト研究所(Southwest Research Institute)、などと2016年11月に研究開始のための会議を持ち、2019年中期までに初期研究を完了する。この研究は「RDE」サイクル・エンジンの解析モデルを作るもので、ガスタービンと「RDE」の関連を、デトネーション燃焼の実証実験とコンピューター流体力学(CFD= computational fluid dynamics)を使って解析することになる。この中でプードウー大学では、燃焼室とタービンの組合せの研究を担当する。

「RDE」エンジンは、環状燃焼室とタービンとの組合せで効率を上げる方法だが、これに対しパルス・デトネーション・エンジン「PDE=pulse detonation engine」は、パルスジェットとも呼ばれ、円筒状燃焼室で爆発し、混合気の圧力を100気圧ほどまで高め、同時に燃焼室後部から噴出し推力を生じる仕組みだ。

このため「PDE」では燃焼室前部にシャッターを設け、爆発排気を燃焼室後部から噴き出すタイミングに合わせて、閉じる必要がある。

「RDE」、「PDE」ともに爆発毎に燃料/空気の混合気を圧縮せねばならない。「PDE」は、第二次大戦末期のドイツのV-1無人爆弾に使われたことで判るようにかなり以前から開発が行われてきた。最近では空軍研究所(Air Force Research Laboratory)がベンチャー企業と提携し、4基の「PDE」エンジン推力各200 lbs、を搭載した小型機を使い、2008年に試験飛行を行なっている。「PDE」ではバルブ/シャッターの高速開閉が必要なのに対し「RDE」は可動部分が少なく、燃焼プロセスが「PDE」と異なり連続的に制御し易いと考えられている。

「RDE」は、環状の燃焼室と排気ノズルから成り、その他端からは高圧の燃料/空気の混合気を順次噴出する仕組みになっている。混合気は点火されると爆発し、爆発ガスの衝撃波は環状燃焼室に沿って円周上に伝搬する。環状燃焼室内のガス波は方位角だけでなく軸方向にも広がるので、一端は排気ノズルから噴出し、他方は混合気噴射システムを加圧し混合気の圧力を高める。爆発ガスの圧力波は環状燃焼室内を円周方向に伝搬し、流入する混合気の運動エネルギーを減らし、これで「RDE」は高い効率が得られる。爆発プロセスは間欠的だが高速で行われるので、軸方向の流れはほとんど連続的になり、結果的には高い推進力が生み出される。

DF-TECH-Detonate-2_AIAA

図2:(American Institute of Aeronautics and Astronautics) 「RDE」環状燃焼室の概念図。「RDE=Rotating Detonation Engine(回転デトネーション燃焼サイクル・エンジン)」では、爆発は連続的に発生し、その爆発ガス衝撃波は、回転方向と軸方向に連続的に伝搬し、回転方向のガス波は混合気を圧縮し、軸方向のガス波は推力となる。従って「RDE」では、推力は「PDE」のような断続的でなく、連続的に生じる。

 

エアロジェット・ロケットダイン(AR)社の担当責任副社長タイラー・エヴァンス(Tyler Evans)氏は、『「RDE」は本質的に単純で頑丈であり、入手可能な技術だ、燃料節減に有効なこの技術を完成させ、軍用・民間の航空エンジンを含む多くの分野に適用して行きたい』と語っている。また『「国立エネルギー技術研究所(NETL)からの援助で、「RDE」の(混合気)圧縮技術は改良され、現在の実用化技術水準(TRL=Technology Readiness Level)の TRL-3からTRL-6に達する予定だ。」と話している。

我国では、名古屋大など各国公立大学をはじめ、早稲田、慶応、青山などの各私大、さらにJAXAなどが参加する日本燃焼学会会員を中心に、「RDE」を含む「デトネーション・エンジン」の研究が精力的に行われている。

 

—以上—

 

 

 

 

 

 

Aviation Week Network Dec 12, 2016 “Aerojet Rocktdyne Explores Detonation Engine Option” by Guy Norris

US Naval Research Laboratory “Rotating Detonation Engines”

Aerojet Rocketdyne Nov.29, 2016 “Aerojet Rocketdyne to Mature Rotating Detonation Engine Technology in Cooperation with Department of Energy”

Chinese Journal of Aeromautics Vol. 29, Issue1, Feb 2016 Pages 15-29 “Progress of Continuously Rotating Detonation Engines” by Rui Zhou, Dan Wu, Jianping Wang

日本学術振興会“平成27年度学術研究動向等に関する調査研究報告”

日本燃焼学会“デトネーションエンジン研究委員会について”