2017-02-25(平成29年) 松尾芳郎
図1:(US Air Force Photo/R. Nial Bradshaw) ヒル空軍基地( Hill AFB, Utah)から出発しネリス空軍基地のRed Flag演習に向かう第388及び第419戦闘航空団( 388th and 419th Fighter Wing ) のF-35A戦闘機。今回の演習には13機が参加し、出撃回数は110回に達した。両航空団は共に“初期運用能力 (IOC=Initial Operational Capability ) “ 認定を取得済み。”完全戦闘能力 (FOC=Full Operational Capability) “資格認定は “3F ソフト ”付きで2018年になる予定。2019年末には3個戦闘機中隊合計78機のF-35Aがヒル空軍基地に駐留することになる。
(注)戦闘航空団(Fighter Wing)とは;—
第388戦闘航空団は、3個戦闘機中隊とそれを支援する地上業務担当の数個中隊で編成される。戦闘機中隊 (FS =Fighter Squadron ) は、第4FSがF-16C戦闘機18機、第421 FSがF-16CG戦闘機24機編成、そして第34 FSが世界初のF-35A戦闘機部隊として2016年8月に発足した。これに伴い従来のF-16は順次退役中。
第419戦闘航空団は、予備空軍(ARC=Air Reserve Component)でヒル空軍基地に本拠を置く。第388戦闘機中隊(FS)がその中心。
ネバダ州南端にあるラスベガスはリゾート都市として知られ、日本からも大勢の観光客が訪れる。ラスベガスの北西に隣接する「ネリス空軍基地(Nellis AFB (Air Force Base, Nev.,) 」は世界最大の空軍基地の一つだ。ここは、スイスの半分の広さに相当する15,000平方マイルの広大な演習空域と4,700平方マイルの演習地域(Test and Training Range) に接している。空軍の実弾演習の75%はここで実施されている。
このネリス演習場では毎年大規模な演習が行われるが、その一つが ”RED FLAG”演習で、米空軍だけでなく海軍、海兵隊、さらに同盟諸国の空軍も参加して行われる。
今年は”RED FLAG 17-1”として1月23日-2月10日の3週間実施された。今回は、これまでにない規模の、対空ミサイル(SAM)、レーダー妨害装置、多数の敵空軍機「赤 (Red Force)」が準備され、友軍「青 (Blue Force)」パイロットに大きな負荷が加わるように設定された。空対空戦闘や一部の対地攻撃演習は各種のシュミレーション技術を使って行われたが、対空ミサイル(SAM)相手の訓練では実弾が使用された。
米国は長年にわたって戦闘機の開発に力を入れてきたが、中露など仮想敵国は、地対空ミサイル(SAM)と対空レーダーの性能を向上させ防空システムの強化を進めてきた。このため今ではF-16、F-15、F-18など第4世代戦闘機では、最新の防空システムを突破するのは不可能になりつつある。
今回の大規模演習の目的は、空軍が如何にして仮想敵の強力な防空システムを突破し目標を破壊できるかを証明することにあった。これがユタ州ヒル空軍基地の第388及び第419戦闘航空団から第5世代戦闘機F-35Aを参加させた理由である。
F-35Aはステルス性に優れているので敵レーダーに捕まりにくく、SAM発射地点に接近でき、SAM発射前に誘導爆弾で攻撃できる。これは第4世代戦闘機にはできない攻撃法である。F-35は、地上からの脅威を取り除いた後、再び上昇して敵戦闘機を攻撃できる。
今回の演習でF-35は期待以上の成果を示し、優れたセンサー群を駆使した情報収集能力で友軍機に情報を伝達、友軍の攻撃能力を高めることに貢献した。これで、これまで高コストだという非難やソフト開発で生じた様々な遅延に対する非難に、答えを示したことになる。
この演習でF-35Aは仮想敵のF-16戦闘機と渡り合い「相手機15機を撃墜しF-35の喪失は1機」つまり“15 : 1 キル・レシオ (kill ratio)” の好成績を達成した。しかし一部では、F-22ラプター戦闘機の援護を受けながら高スコアをマークしたのでF-35単独の成果ではない、と厳しい評価をする向きもある。
図2:(US Air Force) 遠方にはタキシー中の友軍「青 (Blue Force)」F-35Aの3機。手前には敵空軍「赤 (Red Force)」のF-16戦闘機 3機。敵空軍は”Aggressor Force”と云い、ロシアや中国空軍に模した塗装をし、専門部隊がある。
演習中最も注目されたのはF-35の先進アビオニクス・ソフトの性能だ。F-35は同時に飛来する対空ミサイル(SAM)3発を探知、脅威の高いものから対処できる。また複数のF-35同士で、戦場にある全ての脅威を個々に分別、共有し、協力して対処、排除できることを証明した。
そして敵の弱点を突いて防空システムを通過し、SAMを破壊し、友軍の第4世代機による攻撃を容易にした。F-35は自機が搭載するミサイル、誘導爆弾を消費した後も、戦闘空域に留まり友軍機に敵の最新データを送り続け、その攻撃を援助した。
演習を通じてF-35とF-22ラプターがチームを組むとさらに強力になることが判った。すなわちF-22は卓越した機動力を持つのでF-35を敵機の攻撃から守り、一方F-35はF-22を凌ぐアビオニクス能力で、戦場のあらゆる情報をF-22に伝えその行動を助ける。この両機がチームを組み戦闘空域に進出し、目標データを後続の第4世代機F-18、F-16、F-15などに伝達することで、一層高い成果が得られる。
この演習でF-35 のソフトの最新バージョン ” 3i ” がスムースに作動することが証明され、これまで “ 3i “ は、飛行中しばしば停止しパイロットが再起動しなければならない問題、目標情報が複数回表示されると云う問題があったが、今回の演習では全て解決したようだ。
図3:(USAF photo by R. Nial Bradshaw) 1月24日ネリス空軍基地に到着したヒル空軍基地(Hill AFB, Utah)からの388th 戦闘航空団所属F-35A戦闘攻撃機。
F-35プログラム
ここでF-35計画の現状に触れてみよう。
F-35統合プログラム局 (F-35 joint program office)長官のクリストファー・ボグデン空軍中将 (Air Force Lt. Gen. Christopher C. Bogdan) は、”RED FLAG”演習終了直後、2月16日下院軍事委員会(House Armed Service Committee)の証言で、「F-35プログラムの開発、生産、実績はこれまでになく順調に推移中」と前置きして次のように述べた。
1) F-35は米国のみならず、英国、イタリア、日本、イスラエルに引き渡しを開始している。
2) 2011年に価格、開発費、などの予定を改定した以降、それに沿って進んでいる。
3) 現在210機以上が完成、合計飛行時間は73,000時間を超えている。
4)兵装システムは、空軍/F-35Aと海兵隊/F-35B用はほぼ完成し実戦に使える状態になっている。
5) 海兵隊/F-35Bは世界最初の海外展開として、今年1月から日本の岩国基地に配備を開始、すでに10機が到着、訓練を始めた。イスラエルとイタリアではF-35Aが運用を開始している。
6) F-35A一機当たりの価格はエンジンを含み初めて1億ドルを切り、現在9,450万ドルになった。これは初期少数生産ロット10 (LRIP=low rate initial production lot 10) の価格である。
7) 2019年の本格量産開始時には1機当たり(エンジンを含み)8,000-8,500万ドルに低減される。この価格は米軍のみならず、発注済みの日本を含む諸国にも適用される。
8) F-35B及びF-35Cは海兵隊及び海軍にとり重要な次期戦闘機である。これらは現在のF-18やAV-8 IIハリアー(平均22年使用中)の更新として期待されている。
9) 10年後以降には、空母戦闘航空団の主力はF-35Cになり、卓越した戦闘力を備えることになる。
10) F-35Cは、ステルス性能、長距離戦闘行動半径、優れたセンサー、の力で敵の防衛網を突破し、多様な攻撃を行うことができる。
11)空軍/F-35Aは1,763機、海兵隊/F-35Bは340機、海軍/F-35Cは260機、海兵隊/F-35Cは80機、それぞれ購入する予定である。
F-35搭載のソフト
本文中にソフトウェアのバージョンが記されているが、ロッキード・マーチンによると、その概要は次の通り。
F-35に搭載するソフトは8,000,000行以上にもなり、同じ第5世代戦闘機F-22の4倍以上になる。その範囲は、フライト・コントロールから搭載の各種センサー情報を統合し、戦場での複雑な状況を理解しやすく表示することまでを含む。
F-35ソフトは次の機能をカバーしている。
1) フライト・コントロール
2) レーダー機能管理
3) 通信、航法、識別
4) 電子攻撃
5) レーダー、電子光学照準システム(EOTS)などの統合
6) ミサイル、誘導爆弾などの発射
ソフトウエアは次の6段階で開発されて来た。
1) Block 1A/1B – 1AはF-35の戦闘能力の78%までをカバーし、訓練飛行ができる。Block 1Bはそれにセキュリテイ機能を加えたソフト。
2) Block 2A – Block 1Bにデータ・リンク、電子攻撃、ミッション結果表示、の機能を加えたソフト。F-35の戦闘能力の86%をカバーする。
3) Block 2B – データ・リンクの拡張、友軍機とのデータ共有、初期兵装使用能力を備えるソフト。2015年7月に海兵隊F-35BはBlock 2Bの初期運用能力(IOC)認定を取得済み。F-35の戦闘能力の87%をカバーする。
4) Block 3i – Block 2Bと同じ戦闘能力を持つ。違いはコア・プロセッサーを新型に変更した点。空軍のF-35Aは2016年8月にBlock 3iのIOC認定を取得。Block 3iでF-35の戦闘能力の89%をカバーする。これが現在の状態。
5) Block 3F – このソフトでF-35の戦闘能力は100%発揮できる。現在完成に近づきつつある。ただし、これで、我が空自が要求中の長距離空対空ミサイル「AAM-4B」、及び英国が要求中の長距離空対空ミサイル「Meteor」の運用が可能になるかは不明。
—以上—
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Aviation Week Net work Feb 6, 2017 “F-35 Demonstrates at Red Flag with 15:1 Kill Rate” by Lara Selingman
Nellis Air Force Base News “Exercises & Flight Operations RED FLAG”
Nellis Air Force Base News “Red Flag 17-1 Kicks off At Nellis AFB”
Nellis Air Force Base News “red Flag 17-1 Pushes domain, 5th gen Integration”
Nellis Air Force Base News “F-35A Stealth bring Flexibility to Battlespace”
Popular Mechanics Feb 7, 2017 “F-35 Scores Impressive 15:1 Kill Ratio at Red Flag” by Jay Bennett
The AVIATIONIST Feb 05, 2017 “F-35’s Kill Ratio with Aggressors Stands at 15:1 During Red Flag 17-01” by David Cenciotti
AEROTECHNEWS Feb 17, 2017 “F-35 Program makes Significant, Solid Progress, Official Says” by Terri Moon Cronk
Lockheed Martin F-35 Lightning II “Software Development-A Digital Jet for the Modern Battlespace”
TokyoExpress 2017-01-03 “米海兵隊、今年1月にF-35Bステルス攻撃機を岩国基地に配備ー初のF-35B海外展開となる“
TokyoExpress 2016-07-22 “F-35ステルス戦闘機における英国の役割“
TokyoExpress 2015-12-20 “国内生産のF-35A 初号機組立てが名古屋で開始“