「クラトス」社開発の無人攻撃機、2018年完成を目指す


2017-02-17(平成29年) 松尾芳郎

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図1:(Kratos) クラトス社が開発中の無人攻撃機「XQ-222」、2018年の完成予定。「XQ-222」は、かなり大型で、我国の富士重工が開発中の無人機「TACOM」の倍ほどもある。

 

「クラトス (Kratos) 」社は、日本ではあまり知られていない。正しくは「KTTS = Kratos Technology & Training Solutions Inc.」と言い、“情報技術”、“衛星通信”、高度な技術を要する“訓練”などを業務とする。

同社は米国防総省 (DOD=Department of Defense) の中堅クラスの契約企業で、無人機、衛星通信、マイクロ波電子装置、サイバー攻撃対策、ミサイル防衛などの分野で活動している。従業員は約2,600名、大半がNSC (National Security Clearances (国家防衛秘密アクセス認可証明)を保有している。本社はサンデイゴ(San Diego, Calif.)、TTS部門はアレキサンドリア(Alexandria, VA.)にあるが、全米各地に支所が散在している。

「クラトス」社は、射撃訓練用の無人標的機を国防総省に納めているが、最近は無人攻撃機「XQ-222」の開発に取組んでいる。無人攻撃機は有人機に比べ格段に安くでき、国防総省のデジタル時代の核心技術“第3の戦略手段 (Third Offset Strategy)” の考えに沿った装備といえる。

「XQ-222」は、この程米空軍研究所(Air Force Research Laboratory) の「低価格無人攻撃機実証 (LCASD=Low-Cost Attritable Strike UAS Demonstration)」計画で選定され、30ヶ月の期間と300万ドルの費用で開発を契約した。

「クラトス」社のCEO エリック・デマルコ(Eric DeMarco)氏は「XQ-222」について次のように語っている;—

「我が社はすでに高性能の標的無人機 (target drones) の技術を保有しており、2年以内に「XQ-222」無人攻撃機を完成させることが可能だ。「XQ-222」はかなり大型で500 lbs爆弾 (250 lbs小口径爆弾“SDB”なら2発)を搭載して4,800 km (戦闘行動半径は2,400 km) を飛ぶことができる。従ってグアム島のアンダーセン空軍基地(Andersen AFB)から、片道攻撃で中国の東部と北朝鮮の軍事施設を攻撃できる。

 

(注)小口径爆弾とは「GBU-39 “SDB” =Small Diameter Bomb」で、250 lbs (110 kg)型の精密誘導滑空爆弾である。レーダー、赤外線ホーミング、レーザー誘導の3モード・センサーを備える。長さ1.8 mで中距離空対空ミサイルAIM-120 AMRAAMの半分、従ってAIM-120のラックに2発搭載できる。幅19 cm、90 kgの高性能炸薬AFX-757を搭載して目標から約100 kmの距離で発射する。半数必中界5-8 mの精度で目標に命中する。「GBU-39」はボーイング製だが、これから配備が始まる性能向上型の「GBU-53」はSDB-IIとも呼ばれ、レイセオンが製造する。航空自衛隊でも「GBU-39」の装備が始まっている。

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図2:(Raytheon) レイセオン製Small Diameter Bomb II (SDB-II)は今年初めから量産が始まった。F-15を初めとする各種戦闘機の主翼下面のラックに多数(20発+)搭載できる。大きさは「GBU-39 SDB」とほぼ同じで主翼、尾翼は折りたたみ式。

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図3:(Kratos) 4機編隊の「XQ-222」無人攻撃機が250 lbs小口径爆弾GBU-39を投下している想像図。XQ-222は全長8.8 m 、翼幅 6.7 m 、最大速度マッハ0.85、飛行高度 は15 m-30,000 m 。

 

「XQ-222」は、クラトス社“無人システム部門”(サクラメント(Sacramento, Calif,.) の旧Composite Engineering社)で開発中である。本機の電子装備品、アビオニクス、飛行ソフト類はクラトス社製、またパラシュート帰還システムとターボジェット・エンジンは他社製を購入、使用する。

敵機や巡航ミサイルを模した無人標的機は、高高度から低高度の範囲で高精度の機動ができる必要がある。従って、無人標的機に目標捕捉センサーを取付け、250 lbs爆弾や対空ミサイルを搭載すれば、比較的容易に無人攻撃機にすることができる訳だ。

「XQ-222」は、後退翼でエンジン1基、ステルス性機体、速度マッハ0.9で飛行し、地上からブースター・ロケットで発射され、回収はパラシュートで行う。

「XQ-222」が低価格無人攻撃機実証計画 (LCASD)で成功すれば「クラトス社」にとり大きな成長の柱となる。「LCASD」計画には、空軍が730万ドルを出すが「クラトス社」自身は4,000万ドルを支出する。若し「逐次改良開発方式 (spiral development)」で開発が続くことになれば1億ドル以上の計画となる。「LCASD」計画では、年産99機の場合では1機あたりの単価は300万ドル(約3.3億円)、若し100機以上の生産となれば単価200万ドル(約2.2億円になると想定している。次世代戦闘攻撃機F-35の単価が80-100億円であるのに比べれば1/30程度。

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図4:(Kratos) 無人攻撃機「UTAP-22 wolf pack」が有人戦闘機の“編隊列機(wingmen)”として参加する模様の想像図。

 

「クラトス社」では、空軍向けに生産中の無人標的機「BQM-167A」(後述)を基本にして3年間に5,000万ドルを投じ、無人攻撃機「UTAP-22」を開発してきた。これが今回の「LCASD」提案の「XQ-222」のベースになっている。無人攻撃機「UTAP-22」は、航続距離2,600 km 、滞空時間3時間、飛行高度は7 m – 15,000 m、最大速度マッハ0.91、の性能で、胴体内に350 lbs、両翼下面にそれぞれ100 lbsの兵装を搭載できる。

2015年末にはカリフォルニア州チャイナレイク演習場(China Lake test range)で、海軍の「AV-8B ハリアー」攻撃機が無人攻撃機「UTAP-22」と協力して攻撃演習を行った。この演習で「UTAP-22」は有人攻撃機に従う“忠実な編隊列機 (loyal wingmen)”の役目を遂行すること証明した。

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図5:(Kratos) 2015年末のチャイナレイク演習場での試験に参加した海軍のAV-8B Harrier攻撃機(中央)と無人攻撃機「UTAP-22」2機。

 

国防総省は“国防革新装備試作品賞 (Defense Innovation Unit-Experimental Award)”の対象に ”総合演習で「UTAP-22」が行った大規模編隊飛行(swarm)”を選定、クラトス社に賞金1,260万ドルを渡した。この編隊飛行は今年(2017)の大演習でも行われる予定で、「UTAP-22」の継続発注につながる可能性が高い。

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図6:(Kratos) 「クラトス社」は無人攻撃「XQ-222」の開発に先立って、試作機「UTAP-22」を製作、2015年の海軍の有人攻撃機「AV-8Bハリアー」との共同演習に続き2017年の演習にも参加する。図は「UTAP-22」と「XQ-222」の比較で、後者は前者の2倍ほどの大きさで、兵装搭載量も倍以上になる。

 

クラトス社は、DARPA (国防先端研究計画局)主導の無人標的機に関わる「グレムリン計画(Gremlins program)」にも参画している。昨年始まったこのプログラムは、C-130輸送機に低価格の無人機を数十機搭載し、想定されるいろいろな場面で、発射し、ミッション終了後回収することを実証しようと云う試みである。クラトス社は無人攻撃機「UTAP-22」を小型化、低価格にしてこの計画に充てようとしている。

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図7:(Kratos) 無人攻撃機「UTAP-22」は簡単な発射機から飛び、回収はパラシュートで行う。

 

「グレムリン計画」が予定通りに推移すれば、危険性の高い作戦で貨物機や爆撃機から軽量小型の無人機(drones)を多数発射して敵の防空網を突破し、偵察、デコイ(decoy=囮)、電子攻撃、爆撃の任務を遂行できる。

「グレムリン計画」のフェイズ1契約は、「クラトス」、「ゼネラル・アトミックス」、「ダイネテイックス」、「ロッキード・マーチン」の各社を対象にして、各400万ドルで締結された。各社は現在「概念設計の実証(proof-of-concept)」のための、フェイズ2契約(2,000万ドル)、フェイズ3契約(3,300万ドル)を獲得しようと競合している。「クラトス社」によれば、この種の小型無人機(drone)は、数千機の規模で生産すれば単価は70万ドル程度になるとしている。

フェイズ2では、今年3月に2社が選定され、2017年末か2018年始めに1社に絞られ実証飛行試験が行われる。

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図8:(DARPA) 増大する仮想敵の脅威に対抗するため、多数機で構成する安価な小型無人機システム(UAS=unmanned air system)を使う構想が生まれた。これらUASはお互い連絡し合いながらミッションを行う。戦場近くまで大型輸送機や爆撃機で空輸され、発射され、任務遂行後空中で回収し、整備後に再使用することを目指す。

 

現在「クラトス社」が手がけている無人標的機をまとめて見よう。

国防総省の2017年度予算が承認されれば、クラトス社は無人機システム部門を2年以内に2倍に拡充し、海軍の新しい高性能の無人標的機BQM-177Aの初期少量生産(low-rate initial production)に入りたい考えだ。

BQM-177AはBQM-167Xの改良型で、高翼型、MicroTurbo製TR-60-5+エンジン付きの標的機で、海軍艦艇を脅かす最新の対艦巡航ミサイルを模している。

空軍の無人標的機BQM-167は13年前から使われており、クラトス社は今年辺りに更新機が検討されると予想している。陸軍用のMQM-178 Firejetの生産は今年も継続される予定。

無人標的機3種

図9:(Kratos) クラトス社が生産中の無人標的機3種。これらで取得した技術が無人攻撃機「UTAP-22」や「XQ-222」開発の背景にある。上から順に、空軍用「BQM-167A/i」、海軍用「BQM-1777A/i」、陸軍用「BQM-178」。型式の末尾の「i」は「輸出型」の意味。

 

無人機の開発は我国でも行われ、以前紹介済みだがここに再録する。

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図10:(防衛装備庁) 富士重工業・航空宇宙カンパニーが、防衛技研(現在の防衛装備庁)と共同で1995年から開発に取組んできた「無人機研究システム(TACOM)」。硫黄島基地をベースに試験が繰り返されている。写真は左が防衛装備庁の塗装、右が航空自衛隊塗装の無人機。背景には擂鉢山が見える。大きさは、全長5.2 m、翼幅2.5 m、高さ1.6 m、重量700 kgで、クラトス社の「UTAP-22」とほぼ同じ。しかし回収は自律飛行で着陸して行われるので、多少複雑になっている。航続距離数百km、上昇限度12,000 m。

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図11:(防衛装備庁)「無人機研究システム(TACOM)」はF-15J戦闘機の翼下に吊り下げて離陸し、空中で発進、自律飛行で偵察任務を行い、任務終了後は基地に帰還・着陸する。現在では「新無人偵察機システム(FFRS)」と呼び、実用化に向け開発が進んでいる。空自は2030年頃には有人戦闘機と無人機の混成部隊を運用したいとしている。詳しくはTokyoExpress 2016-10-11 「空自、有人戦闘機と無人機の混成部隊が2030年代に実現」2-3ページを参照されたい。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week Network Feb 7, 2017 “Kratos Combat Drones go on the Offensive” by James Drew

KRATOS Unmanned System Division home

DARPA “gremlins” by Scott Wierzbanowski

TokyoExpress 2016-10-11 「空自、有人戦闘機と無人機の混成部隊が2030年代に実現」

TokyoExpress 2016-11-02 「生産性向上を進める富士重工」