中国軍機と艦艇、最大規模で沖縄列島から太平洋に進出、反転


2017-03-03(平成29年)  松尾芳郎

 

防衛省統合幕僚監部の3月2日付発表によれば、同日午前から午後にかけて中国軍機合計13機が東シナ海から沖縄本島と宮古島の間の上空を通過、太平洋に進出、その後反転し引き返した。那覇基地の航空自衛隊第9航空団所属のF-15戦闘機が緊急発進し、領空侵犯に備えた。

 

(注)那覇基地には空自第9航空団が配備され、配下に第204飛行隊と第304飛行隊がある。いずれもF-15J戦闘機 20機+で構成され、沖縄列島防衛の任に当たっている。

 

宮古海峡を往復したのは Y-8早期警戒機1機、機種不明爆撃機6機、それに機種不明戦闘機6機、の合計13機であった。

 

(注)中国空軍で稼働中の爆撃機は、旧ソ連ツポレフ設計局製Tu-16をハルビン航空機工場でライセンス生産した「H-6」のみである。1957年以降生産が続けられ、多くの改良型が作られ、現在は2007年初飛行の「H-6K」が配備されている。「H-6K」型は翼下に6基の巡航ミサイルCJ-10K(射程1,500 km程度)、また海軍型「HK-6D」では空対艦ミサイルYJ-83K(射程120 km)を搭載する。航続距離は6,000 kmに達する。従って今回往復の爆撃機はこの系列機と思われる。

中国空軍の戦闘機は、ロシア、スーホイ設計局が米国のF-15、F-14などに対抗するため1982年から量産を始めた「Su-27」を基にしたものが多い。中国は1993年から76機を輸入した。1995年末にライセンス生産契約をして「J-11」として約100機を生産した。「J-11」は3,600 kmの航続距離を持つ。その後改良型のSu-30MKK多目的戦闘機を76機輸入、空軍に配備している。海軍はこの改良型Su-30MK2を24機購入し、これを艦上戦闘機としたJ-15を生産、使用中。新華社通信が「2日に中国海軍の戦闘機が海軍艦艇と西太平洋で演習を行った」と報じているので、この6機の戦闘機はSu-30 MK2あるいはその国産型J-15と推定される。

 

また、同じ3月2日、宮古島の南東120-200 kmの太平洋上の海域で中国海軍ミサイル駆逐艦ルーヤンIII級1隻とルーヤンII級1隻が航行しているのを、海上自衛隊第12護衛隊呉基地所属の護衛艦「うみぎり」が確認した。さらに海上自衛隊第5航空群那覇基地所属のP-3C哨戒機が、久米島の南南西90kmの太平洋上で中国海軍ジャンカイII級フリゲート1隻を発見した。その後これら3隻は北西に向かい宮古海峡を通過、東シナ海方面に航行した。

3月2日y-8

図1:(統合幕僚監部)早期警戒管制機Y-8。ウクライナのアントノフ設計局製のAn-12型輸送機を中国がライセンス生産したのがY-8輸送機で1981年から陜西飛機工業で75+機が生産された。Y-8は輸送機型が基本だが、多様な電子偵察用に改造されている。写真はその一つ、今年1月9日対馬海峡を通過、日本海を往復したのと同じ「Y-8洋上偵察機(Y-8ASA)」である。それ以前にもしばしば沖縄列島周辺に姿を見せている。機首のレドームにはイギリス・タレス社から入手した高性能「スカイマスター(Skymaster)」空中捜索レーダーを納める。中国海軍は4機を保有、東海艦隊で作戦支援を任務としている。全長36 m、翼幅38 m、最大離陸重量65㌧、航続距離5,700 km、エンジンはWojiang WJ-6C ターボプロップ、5,100軸馬力が4基。

 

(注)3月2日宮古島南東海域で中国艦艇を発見した護衛艦「うみぎり」はDD-158、基準排水量3,500 ton「あさぎり」型の8番艦である。1991年に就役し、推進機関はガスタービン4基2軸で、出力54,000馬力、速力30 kt。

うみぎり

図2:(海上自衛隊)護衛艦「うみぎり」DD-158。前甲板には62口径76 mm単装砲、その後ろに対空ミサイル短SAM発射機、艦橋左に白く見えるのは20 mm対空機関砲(CIWS)、煙突横の斜めは対艦ミサイル発射筒、後甲板には哨戒ヘリがある。

3月2日

図3:(統合幕僚監部)ミサイル駆逐艦「旅洋III (Luyang III) 型」:「長沙」艦番号173、2015年就役の新造艦で南海艦隊所属。次図「旅洋II級」の改良型で、ステルス形状を強めている。フェーズド・アレイ・レーダーアンテナが新型に換装されている。同型艦は11隻が就役済みと見られる。1隻が建造中。我が海自のイージス艦に匹敵すると言われる。

3月2日2

図4:(統合幕僚監部)ミサイル駆逐艦「旅洋II (Luyang II) 型」、「海口」艦番号171。「旅洋II (Luyang II) 型」は「052C型」蘭州級とも呼ばれる。「海口」艦番号171は、2005年始めに就役、南海艦隊に所属。「旅洋II型」は、フェーズド・アレイ・レーダーアンテナを艦橋四周に貼り付けた中国版イージス艦。HHQ-95対空ミサイルの6連装回転式VLSを8基搭載している。満載排水量約7,000 ton、速力29 kt、エンジンはドイツMTU製V型20気筒ジーゼルエンジン2基とウクライナ製UTG-25000ガスタービン2基を組合せて使っている。「Z—9」ヘリコプター2機を搭載する。同型艦は6隻。

3月2日3

図5:(統合幕僚監部)フリゲート艦「江凱II (Jangkai II )型」で054A型と呼ぶ。「湘潭」艦番号531は同型艦24隻完成のうちの22番艦で2016年2月に就役したばかり。南海艦隊所属。満載排水量約4,000㌧。さらに1隻が建造中。僚艦防空能力を備えた中国海軍の主力フリゲートである。対空ミサイル短SAM HHQ-16 は米海軍と似た32セルのVLS(前部甲板)に納めている。この他にYJ-83対艦ミサイル4連装発射機2基を備える。後部にはKa-2またはZ-9ヘリコプター1機を搭載する

3月2日中国軍機と艦艇

図6:(統合幕僚監部)中国海空軍機13機の航跡と中国艦艇3隻の活動海域を示す図。3月2日の演習は沖縄本島と宮古島のすぐそばで行われた。河野統合幕僚長は2日の記者会見で次のように述べた。「空自戦闘機のスクランブルは、今年度すでに1,000回を超え、通年で過去最高を更新した。背景には中国の活動が非常に活発化し、その範囲も広がっていることが原因だ」と述べている。

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図7:我が国防衛の最前線、トカラ列島と沖縄列島の全体図。来るべき中国軍の侵攻に備え、我が国は万全の迎撃体制を整えなければならない。しかし、3月2日の中国軍の威嚇演習について相手側の国営通信が報じているのに、我が国メデイアは一部を除き大半が無視、パンダ妊娠?の報道には熱心だが。

 

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