2017-04-08(平成29年) 松尾芳郎
図:(Space X) 去る3月31日ケープカナベラル基地から打上げられる“ファルコン9”、今回初めて1段目ロケットに再使用ロケットが使われ、成功した。
イーロン・マスク氏は、3月31日のファルコン9の1段目の再使用成功を受けて、「2017年中に1段目再使用の打上げを6回行い、2018年にはこれを2倍の回数に増やす」としている。実現すれば、これはまさに宇宙開発の大革命となる。
今回のファルコン9再使用の成功の陰で、見落とされているのが打上げた通信衛星SES-10を覆っていたフェアリングの回収だ。このフェアリングは2分割型で価格は600万ドル、その片方をパラシュートで回収することに成功した。フェアリングは、自身のスラスターと操作可能なパラシュートを使い海上の所定の位置に着水、回収された。さらにマスク氏によれば、2段目ロケットの回収も試みるという。
目標は、これら回収技術の開発を通じて打上げコストを大幅に削減することだ。これまで2回続いた打上げ失敗の経験で難しさを身にしみて体験したマスク氏は、今回の再使用成功で大いに勇気付けられ、自社資金を投入して再使用技術の確立に力を入れている。
スペースX社の打上げロケット再使用計画とは;—
n 改装修理なしに1段目再使用を10回に伸ばす
n 改装修理をして再使用回数を100回にする
n 現在の1段目ロケットの保有数は、1回使用済みが8基、2回使用済みが1基
「再使用技術の開発には誰も目を向けてこなかった。これまでに自己資金10億ドル以上を投入してきたが、ここでやっと実用化の目処がついた」とはマスク氏の言葉である。
スペースXは、これから再使用ロケットを使って低価格の打ち上げ費用で顧客を増やし、開発費を償却することになろう。同社では、1段目ロケットを改装修理なしの簡単な整備で10回の打上げに使い、改装修理をした場合は100回の使用を目指すとしている。
今回の打ち上げ成功の以前に、数社から“再使用打上げが成功すれば、再使用ロケットで契約したい”との申し出を受けている。これからは再使用ロケット仕様の契約がますます増えるだろう。
同社は、現在1回使用済みの1段ロケットを8基、2回使用済みを1基、保有している。このうち1基を歴史的な記念として政府に譲渡することを提案中、また2基は、今年末に打上げる最初の大型ロケット“ファルコン・ヘビー(Falcon Heavy)”のサイド・ブースターとして使う予定だ。”ファルコン・ヘビー“の1段目は3本全て回収・再使用する。
図:(Space X) スペースX社の本社工場はカリフォルニア州ホーソン(Hawthorne, Calif.)にある。2002年にイーロン・マスク氏により設立された。写真は工場内で生産中のファルコン9の1段目ロケット。1段目ロケットはマーリン、エンジンを写真のように9基取付ける。
スペースX社は、今回の再使用成功に満足することなく改良に取り組んでいる。3月31日の再使用1段目ロケットを回収したところ、頂部にある安定用グリッド・フィンが大気圏再突入の際に焼損しているのが見つかった。このフィンはアルミ合金に耐熱コーテイングしたものだが、今後は耐熱性の高い鍛造チタン合金に改める。
図:(SpaceX) ファルコン・ヘビーでは、1段目に同じロケットが3本使われる。図は1段目の上部に取付けられている再突入時の安定用フィンの想像図。これまではアルミ合金製だったが、今後はチタン製に変わる。
価格:
マスク氏によると「ファルコン9の打上げ価格は6,120万ドル(約70億円)、しかしフェアリング、1段目ロケットなどの再使用が可能になれば、価格は4分の3位に下げられる」という。
約6,000万ドルのうちスペースX社は40%ほどの粗利益(gross margin)を得ているので、直接の打上げ原価は3,670万ドル程度になる。スペースX社のグエイン・ショットウエル(Gwynne Shotwell)社長は“1段目ロケットを再使用すれば打上げ価格は30%低減可能”と話している。つまり4,280万ドルになると云うことだ。
価格は契約機数によっても変わる。ルクセンブルグに本社のあるSES社はスペースX社の最大の顧客で、今回の打上げは最初の再使用ロケットと云うこともあり、3,000万ドルに近い低価格で契約したとされる。
打上げロケット全体の価格の40%は1段目ロケットが占めている。したがって1段目ロケットの価格は2,750万ドルと言える。
ファルコン・ヘビー:
2017年末打上げ予定の“ファルコン・ヘビー”は、これまでの最大のロケット“デルタIVヘビー(Delta IV Heavy)の2倍ほどのパワーを持つ世界最大のロケットだが、打上げコストは3分の1に過ぎない。地球周回軌道にボーイング737型機と同じ54 tonの重量を打上げることができる。
“ファルコン・ヘビー”は“ファルコン9”が示した信頼性を継承するロケット。1段目は、9基のマーリン(Marlin)・エンジン付き“ファルコン9”の1段目を3本接続し、合計27基のマーリン・エンジンで、離昇時の推力は5,000,000 lbsにもなる。これで将来の有人火星探査飛も可能となる。
ファルコン・ヘビーの打上げの様子を想像して描いたソペースX社製の動画を参照されたい。
3本の1段目の回収の手順がわかる。
n ペイロードは大型の複合材製フェアリングに収められ宇宙空間に運ばれる。また有人宇宙船“ドラゴン(Dragon)”の打上げも可能だ。
n 2段目ロケットは“ファルコン9”と同じ、1段目ロケットが燃焼を完了し分離してから点火、推力210,000 lbsのマーリン・エンジンで所定の軌道にペイロードを投入する。この際エンジンは数回停止、再点火を繰り返して行う。エンジンの燃焼時間は合計397秒。
n 1段目ロケットは、ファルコン9の両脇に同じファルコン9の1段目をサイドコア(side cores)あるいはブースター(boosters)として取付ける。コア3本で合計27基のマーリン・エンジンとなり、離昇推力22,800 kN (5,130,000 lbs)、真空中推力24,680 kN (5,550,000 lbs) を出す。離昇時は3本ともフル推力を出すが、すぐに中央コアは推力を減らし、サイドコアが分離すると再びフル推力になる。
“ファルコン・ヘビー”の最初の打上げは、サウジアラビアの“アラブサット6A ( Arabsat 6A)”通信衛星で、ケープカナベラル空軍基地から発射される。
図:(Space X) ファルコン・ヘビーの全体図。1段目はファルコン9の1段目の両脇に同じものをサイド・ブースターとして取付ける世界最大の打上げロケット。1段目上部にある4角の板は、回収時に開く安定用フィン。また下部の黒く描かれた部分は回収着陸時に開く脚である。
—以上—
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Aviation Week Network Apr 4, 2017 “Elon Musk Plans Rapid Shift to “Flight-proven” Falcon 9s”
SpaceNews April 25, 2016 “SpaceX’s reusable Falcon 9: whataare thereal Cost saving for customers?” by Peter B. de Selding
SpaceX “The world’s Most Powerful Rocket FALCON HEAVY”