スペースX、「ファルコン9」打上げロケット1段目の再使用に成功


2017-04-07(平成29年) 松尾芳郎

2017-04-08 改定(1ページの誤字の訂正)

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図1:(SpaceX) 2017年3月30日、ケープカナベラルNASA宇宙基地から打上げられたファルコン9。この1段目ロケットは“図2”に示す昨年4月に打上げ後回収されたものを再使用したロケットである。

 

電気自動車「テスラ(Tesla)」で有名なイーロン・マスク氏はスペースX社の創立者でもある。スペースX社は、去る3月30日にルクセンブルグ(Luxembourg)のヨーロッパ通信衛星社(SES)の新しい通信衛星 ”SES-10”の打ち上げに「ファルコン9」の1段目を再使用して成功した。これで打ち上げコストの低減に大きな1歩を踏み出した。

再使用の1段目ロケットは、昨年4月の国際宇宙ステーション(ISS)への貨物輸送に使ったものを海上で回収し整備したロケットである。

カリフォルニア州ホーソーン(Hawthorne, Calif.)にあるスペースX社はこれまでに、「ファルコン9」打上げ後に第1段ロケットの回収に9回成功している。しかし、それの再使用に成功したのは今回(3月30日)が初めてである。

マスク氏は、打上げ後再び1段目ロケットを回収したあと次のように語っている。「今日は宇宙開発事業にとり素晴らしい1日となった。地球周回軌道上への打ち上げロケットで最も高価な1段目ロケットがこれからは何度も使えることになる。回収する際は、ロケットを再噴射して減速しながら尾部から着陸させるが、我々はこの技術の実用化に完全に成功した」。

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図2:(SpaceX) 2016年4月9日にNASAの追跡機 (chase plane) が撮影した写真。ファルコン9の23回目飛行、国際宇宙ステーション(ISS)向け貨物輸送ミッション “CRS-8” で貨物モジュールを搭載、宇宙空間で分離してISSに輸送した。その後1段目ロケットは、写真のように海上の無人バージ (drone ship)に無事着陸、回収された。これを整備し、再び今回の利用に供した

“SES-10” 衛星を乗せたファルコン9は、東部標準時(EDT) 午後6時27分に打上げられた。9基のマーリン(Merlin)エンジン付きの1段目ロケットは2分38秒間燃焼した後停止し、その8秒後に後マーリン・エンジン1基付きの2段目ロケットが点火した。1段目ロケットは地表に向け落下し始め、打ち上げ開始から6分19秒後に再点火、減速しながら2分13秒後に海上に待機する無人バージ(robotic barge)に尾部から静かに着地した。

「ここまで到達するのに15年かかった。長い道のりで数々の苦難を乗越えなければならなかった。スペースXのチームメンバーの信じられない努力を心から誇りに思う。これで宇宙開発上の大きな段階に踏み出すことができ、その喜びは言葉では言い尽くせない」とマスク氏は心境を語った。

今回の打上げは、スペースX社が借用するNASAのケネデイ宇宙センターの第39A発射台で行われた。近くにある同社のケープカナベラル(Cape Canaveral) 発射台は、昨年9月ファルコン9の打ち上げ準備中に、2段目に燃料注入中に爆発事故を起こしたため破損し、現在修理中で使用できない。

今回3月30日の打上げに使われたファルコン9の1段目は、最初に述べたように、昨年4月に宇宙ステーション向け貨物輸送に使われ、回収され、ホーソーンの本社工場で整備後、テキサス州にある同社の試験場で試験されてから、ケープカナベラルに送られた。スペースX社では、ファルコン9での衛星打上げ費用は公示価格で6,200万ドル、しかし1段目再使用での打上げの場合は10%ほど減額できるとしている。

打上げ後、1段目は無事に着陸したが、マーリン・エンジン1基装備の2段目は20万lbs推力で、着火加速してから一旦停止し、再点火して53秒間推力を維持し、衛星 ”SES-10”を地球静止通軌道上(GTO=geostationary transit orbit) に載せることに成功した。2段目から衛星を分離したのは、計画通り発射後32分後になった。

通信衛星 “SES-10” は、エアバスの ”Eurostar E3000 bus” を基本にし、 Kuバンド使用トランスポンダー(transponder) 55基を搭載し出力13 kWで、67度西に傾斜する静止軌道上に位置し、寿命は15年を想定している。打上げ時の重さは 5.3 ton、軌道上の位置修正や変更はソーラーパネル電力による電気推進によるが、補助にキセノン・スラスター(Xenon thruster)も使える。

現在古いSES衛星2基がボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー、向けのサービスを行なっているが、今後は “SES-10” 1基で、メキシコを含め南米全体へのサービスを行うことになる。

SES-10

図3:(SES) SES-10はエアバス防衛宇宙部門(Airbus Defense and Space)が作る衛星で、現在使用中のAMC-3及びAMC-4衛星の後継機となる。スペイン語圏(ブラジルはポルトガル語)であるラテンアメリカ諸国の通信事情を飛躍的に向上させる。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Aviation Week Network Mar 31, 2017 “SpaceX Reflies Falcon 9 First Stage for Paying Customer” by Frank Morring, Jr.

Wikipedia “SpaceX reusable launch system development program”

TokyoExpress 2017-02-10 “スペースX社、ファルコン9で次世代通信衛星10基を打上げ、1段目の回収にも成功“

SES “SES-10’s mission”

SpaceX March 30, 2017 “SES-10 Mission”