ボーイング、ボンバルデイア「C Series」の低価格販売を提訴


2017-06-07(平成29年) 松尾芳郎

 

ボンバルデイアが開発したC Series機は、PW1500Gエンジン付きで、目標を100-150席級に絞り最新の技術で開発した狭胴型機である。新型エンジン付きの他の大型機の比べ乗客1人当たりのコストは18%まで改善できる。

胴体は、5列客席で広々としており、先進アルミ・リチウム(Aluminum Lithium)合金製で競合機より5 tonも軽く、先進複合材を使う主翼、後部胴体、尾翼などの軽量化と相まって、同クラス現用機に比べ20%の燃費節減を達成している。

PW1500Gエンジンはファン・バイパス比12:1、実用エンジン中最大で、燃費節減に大きく貢献している。

コクピットはロックウエル・コリンズ(Rockwell Collins)のPro Line Fusionアビオニクスで纏められ15 inch液晶ディスプレイ、2重のフライト・マネジメント・システム(FMS)などを備え、視程ゼロでCAT IIIa自動着陸が可能。

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図1:(Bombardier) C Seriesには、108-133席級のCS100型と130-160席級のCS300型の2機種がある。CS100型は2016年7月からスイス航空(Swiss Global Airlines)で就航中。CS300型は、2016年12月からエア・バルチック(AirBaltic)で就航開始している。2017年4月での確定受注数はCS100が123機、CS300が237機で合計360機、このほかにオプション、発注覚書等を含め約800機の未確定がある。今年3月での引渡し済みはCS100が8機、CS300が5機となっている。競合する機種は、CS100にはエンブラエルE195-E2、CS300にはボーイング737 MAX7(現在の737-700に相当)、エアバスA319neoなどがある。

 

ボーイング(Boeing)は、5月半ば過ぎにカナダ、モントリオール(Montreal)を本拠とするボンバルデイア(bombardier)社を相手取り、米國国際貿易委員会(US International Trade Commission) に、不当廉売の疑いありとして提訴した。

米国の大手航空会社デルタ航空は、2016年4月にボンバルデイア製狭胴型機C Series 100型の購入を選定、確定75機+ オプション50機の購入契約をした。そして契約には、CS100を35機納入後は機種を大型のCS300に変更可能となっている。

CS300型はボーイング737-7型と直接競合する客席数サイズのため、CS300にも低価格が適用されるとボーイングには手痛い打撃となる。

ボーイングは、この契約は極めて低価格で、カナダ政府の補助金がなければ実現し得ない、と主張している。ボーイングは、CS100 1機あたりの契約価格は1,960万ドルで、これは製造コスト3,320万ドルより大幅に低価格だ、としている。

ボンバルデイアは「ボーイング主張の価格は推測に過ぎない。しかし、どの機体でもローンチ・カストマーには特別価格で提供するのが業界の慣例だ。デルタの場合も米国初のC Series 100導入なので例外ではない」、と反論している。

エアライン全般に関わるニュースを扱う”Airways News”サイトでは、デルタとの契約は、CS100の公示価格7180万ドルを65-70%減額し2700万ドル前後で締結された、と報じている。ボーイングとエアバスの2社が支配する狭胴型機市場に、新規参入を目指すボンバルデイアにとり、大手の一角デルタ航空との契約は重要な一歩なので、低価格での納入を約束したものである。

ボーイングによれば、CS100の低価格販売の影響で、ユナイテッド航空との間で結んだ737の販売契約は、予定価格を下回るものとならざるを得なかった、と云う。

 

(注)一説によると、ボーイングはユナイテッド航空との交渉で、61機の737-700の売込みに成功したが、1機当たり2,200万ドル(これは公示価格の73%減に相当)で契約した模様。ユナイテッドは現在737型を310機運航しており、機材の共通性からも737系列を選んだとも言える

 

訴状は109ページで、ボーイングは次のように述べている;—

「ボンバルデイアは狭胴型機の市場で、かつてエアバスが成功したと同じ戦略で、成功を目論んでいる。エアバスが導入し成功した狭胴型機戦略で、米国航空機業界はマクドネル・ダグラス及びロッキードの両社が市場から撤退するなど、手痛い犠牲を強いられた。エアバスはこの手法を通じて世界市場の半分を手中に納め、これにより米国の産業界は失業と倒産など計り知れない打撃を被った。」

これに対しボンバルデイアは直ちに反論し、「ボーイングの主張する“革新的技術の発展が阻害される”とするのは誤った主張で、仮定の話に過ぎない」と言っている。

ボンバルデイアは次のように述べている;—

「ボーイングがデルタと契約できなかったのは、デルタの欲するサイズの飛行機の提案をできなかったためだ(デルタは100席級を求めていたが、737系列機には適当な機体がなかった)。さらに納期もデルタの要求よりかなり遅れたためだ」。

「C Seriesは米国内ではデルタ航空に最初に引渡されるが、初号機の納入は1年以上後になるので、すぐにボーイングに脅威となるものでない。またボーイングは、737で8年分の受注残、価格にして1,900億ドルの注文を抱えている。ボーイングの提訴は、エアバスの成功を過大評価して法規制を強めようとしている」。

「ボーイングの主張は、デルタのC Series選定に対する苦情に過ぎず、もしボーイングの主張が正しければ、デルタに続いて他社からもC Seriesの発注があるはずだが、現実はデルタの発注から13ヶ月経った今でも米国内での新規受注はない」。

ボーイングは、737の販売で次の4年間で2,600億ドルのキャッシュフローを獲得すると見られる。これについてもボーイングは、エアバスの前例が示すように政府支援のC Series の影響で減殺される恐れがある、としている。

このボーイングの政治的な動きに対し、カナダ政府は「ボーイングに発注を検討していたF/A-18E/Fスーパーホーネット(Super Hornet)戦闘攻撃機18機の購入計画を検討し直すと発表した。

この提訴に対する予備的判断は6月12日に下される。もしボーイングの主張が認められれば、デルタに対し輸入税の支払いが課せられる。

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図2:(Bombardier)写真は737MAX7及びA319neoと競合するボンバルデイアCS300型。客席数は130席(12F+118Y)から160席(1クラス)の範囲。108-133席級のCS100型/35 m胴体長に対し、CS300型は3.7 m 長い38.7 mになっている。翼幅は35.1 m で同じ。最大離陸重量はCS100/60.8 ton、CS300/67.6 ton。航続距離はCS100/5,700 km、CS300/6,100 km。エンジンはP&W製PW1500G系列でファン直径は185 cmである。CS100 は PW1519G推力18,900 lbs、またCS300 はPW1521G-1525G推力21,000 -23,300 lbsを、それぞれ2基装備する。

 

終わりに

民間航空業界では、新型機の最初のユーザー(ローンチ・カストマー/launch customer)に対して、メーカーは特別価格で提供することが慣例になっている。これには新型機導入で生じる故障、不具合を受け容れて貰う代償の意味合いがある。しかし「今回のデルタへのC Seriesの売込み契約は、業界の商慣習に反している」と云うのがボーイングの主張である。

C Seriesは2008年にルフトハンザ/スイス航空を最初の顧客として開発が決定したが、開発が遅れ費用がかさみ、ボンバルデイアでは一旦計画を中止した。そして2015年に新CEOの下で100-150席級に目標を絞り“再開発(relaunch)”し、2016年にデルタとの契約に成功した。従ってボンバルデイアは、デルタは“再開発”後のローンチ・カストマーとしている。

ボーイングは次のように指摘している;—

「開発開始後7年も経過してから価格を大幅に引き下げたのは業界の通念に反する。また、2015年時期にカナダ・ケベック州政府はC Seriesの開発費の半分に相当する10億ドルをボンバルデイアに出資した。さらにボンバルデイア社は、鉄道部門をケベック州の年金基金に15億ドルで売却し、これらで“再開発”資金を調達した。」

我国でもANAがボーイング787のローンチ・カストマーとして好条件で購入契約を結んだことはよく知られている。また、日本航空もエアバスA350XWB購入契約では、日本初の導入と云う理由でかなりの値引き価格で購入締結をしている。

 

 

—以上—

 

本稿作成に参考にした主な記事は次の通り。

Bombardier C Series Home

Aviation Week May 29-June 11, 2017 “Market Forces” by Graham Warwick

The Canadian Press May 29, 2017 “Boeing says Bombardier trade complaint aimed at preventing larger C Series” by Ross Marowits

Ch aviation 01 Jun, 2017 “Bombardier denies Boeing’s claims of C Series dumping”