米海軍、5月31日に新空母「ジェラルド R. フォード」を受領


米海軍の空母「ジェラルドR. フォード(Gerald R. Ford) 」[CVN 78] は、ハンチントン・インガルス工業-ニューポート・ニース造船所 ( HII-NNS = Huntington Ingalls Industries-Newport News Shipbuilding) で建造された次世代型空母である。2017年4月8日に試験航海を開始、その後試験を続け5月26日の最終試験を完了し、米海軍は5月31日にニューポート・ニースで「フォード」[CVN 78]の引渡しを受けた。

フォード出港

図1:(US Navy / Wikipedia) 米海軍の「ジェラルドR.フォード」[CVN-78] が初めて自力で航海に出たところ。米空母としては40年振りとなる新設計で数々の新技術が採用されている。背景には空母「ジョージ・ワシントン」[CVN-73]が見える。同型艦2隻、「ジョンF.ケネデイ」[CVN-79] 2020年就役予定、「エンタープライズ」[CVN-80] 2023年就役予定、が建造中または計画中である。

 

「フォード」は1975年に完成した「ニミッツ(USS Nimitz)」(CVN 68)以来となる新設計の空母で、また2009年就役の「ジョージH.W.ブッシュ (USS George H. W. Bush)」(CVN 77) 以来の新造空母となる。

「フォード」は広大な飛行甲板を備え、搭載する航空機数が増え、防御用の兵装が充実し、搭載する航空燃料も多くなっている。そして航空機発艦用カタパルトは、従来の「蒸気カタパルト」に代わる初めての「電磁カタパルト(EMALS = Electromagnetic Aircraft Launch System) 」となり、着艦用には「先進着艦制動装置 (AAG = Advanced Arresting Gear)」が採用されている。これらにより「フォード」の出撃率は「ニミッツ」級に比べ30%程度向上する。さらに発電能力は在来型空母の3倍にもなり、50年間と予測される寿命期間中に追加必要となるあらゆる電力増加要求に対処できる。

「フォード」は今年夏には、退役する空母「エンタープライズ(USS Enterprise)」(CVN-65)の交代として艦隊に配属され、任務に付きながら乗員の訓練も兼ねて細部の修正を行い、2020年に正式に実戦配備に就く。

フォードの図

図2:(HII-NNS) HII-NNSが描いた「フォード」(CVN 78)の側面と上甲板の図。着艦用の斜め甲板には「先進着艦制動装置(AAG)」を備えている。発艦用「電磁カタパルト(EMALSD)」は、発艦用甲板に2基、着艦用甲板に2基を備える。舷外エレベーターは右舷に2基、左舷に1基設けられる。図には多数のF-35C戦闘攻撃機、へリコプター3機、それにE-2D早期警戒機が3機ほど描かれている。

 

「フォード」は、開発費を含め総建造費は129億ドル(1兆4,200億円)とも言われ、米国海軍史上で最も高価な艦である。

満載排水量100,000 ton、全長337 m、飛行甲板最大幅は78 mで世界最大。動力は新型のA1B加圧水型原子炉2基で4基の蒸気タービンを駆動、4軸のスクリューを回す。速力は最大30 kt +、乗員は操艦要員約2,200名、航空団要員約2,500名。兵装は、近接対空20 mm機関砲ファランクスCIWS 3基、RAM 近接対空ミサイル((SAM) 21連装発射機(RIM-116) 2基、発展型シースパロー対空ミサイルESSM短SAM 8連装発射機(RIM-162) 2基。レーダーは、空中・水上目標を探知・追尾し迎撃指令を出すSPY-3 多機能型レーダー (Xバンド、Sバンド併用型)を1基備える。搭載航空機数は75機以上。搭載航空機の最大発艦重量はそれぞれ、F/A-18スーパー・ホーネット/ 30 ton、F-35CライトニングII / 32 ton、E-2Dアドバンスド・ホークアイ/26 ton、となっている。

 

「電磁カタパルト(EMALS = Electromagnetic Aircraft Launch System) 」はGeneral Atomics社製だが、米海軍長官シーン・スタックレイ(Sean Stackley)氏によると、未だ解決しなければならない問題が残っている。同長官は去る6月16日開催の上下両院合同公聴会(Congressional Hearing)で次のように証言した;—

「F/A-18スーパー・ホーネット戦闘攻撃機に追加燃料タンクを付けた状態で発艦試験をしたところ機体・燃料タンクに振動を生じた。このためソフトを改善し、システムの改良を進めている。[EMALS]は高度にコンピュータ化されていて、軽量の無人機から大型の戦闘攻撃機まであらゆる種類の固定翼艦載機の発艦時の速度を正確に制御でき、機体構造に負担の掛からないスムースな加速ができる。さらに電磁カタパルト[EMALS]は、将来必要に応じ射出重量を30%増やすことができる。占有スペースは蒸気カタパルトに比べずっと少なくて済み、整備も簡単になると云う利点がある。」

これに対し公聴会では、「電磁カタパルト[EMALS]は技術的に完成の域に達しているのか、そうでなければ「フォード」の再設計にも繋がりかねず、さらに予算が必要になる」との質問が出た。

現在使われている「蒸気カタパルト」は1950年代に開発されたもので、艦の蒸気タービンからパイプで蒸気を抽出して作動する。1機の発射に600 kg以上の蒸気を必要とする。甲板上のレールの下に蒸気で作動するピストン(シャトルとも呼ぶ)がありこれが飛行機の首輪に接続され射出する。米空母が使用中の[C-13]型は長さ99 m、36 tonの航空機を140 ktに加速して発射する。蒸気カタパルトの欠点は、加速の衝撃で航空機の構造を傷めること、装置が大きくスペースを占有すること、整備に手間がかかること、電磁カタパルト[EMALS]に比べ単位時間内に発艦できる機数が少ないこと、さらに小型無人機など軽量機の発射が難しいこと、などが挙げられている。

一方、電磁カタパルト[EMALS]は開発に手間取り、このために「フォード」の完成が3年延期されたと云う。これからトランプ大統領の「蒸気カタパルトに戻すべき」との発言につながった(2017年5月11日)ようだ。

レールガンの原理

図3:電磁カタパルト[EMALS]の原理図。大電流をレール(2本)と飛翔体(ピストンあるいはシャトルあるいは弾丸)を通して流すと、飛翔体には電磁誘導により矢印の方向に力が働く。これがレールガン(Railgun)の原理。これをカタパルトに使ったのが電磁カタパルト[EMALS]である。[EMALS]の必要な電力は、ピーク時には60メガワットを消費する。この膨大な電力はイージス艦の最大出力の半分にもなる。従って十分な電源を持つ艦でないと搭載は難しい。

EMALSの拡張性

図4:(General Atomics)「電磁カタパルト」(EMALS)の拡張性を示す図。「フォード」級大型艦から左の全長250 m級の小型空母まで、電源を備えれば搭載可能である。また発射航空機は重量1.15 tonの小型無人機からF-35C重量32tonの大型機まで幅広く対応できる。

 

「フォード」には着艦用にGeneral Atomics製の「先進着艦制動装置 (AAG = Advanced Arresting Gear)」が採用される。これは現用のMk 7油圧システムに変わるもので、水圧タービンと大型インダクション・モーターを組合せた簡単なシステムで整備が容易、スムースな制動で機体に大きな負荷が掛からず、軽量機から大型機まで広範囲な機種に対応可能、と云う特徴を持つ。

「着艦制動装置」(Arresting Gear)とは、空母に着艦する航空機を捕捉、ブレーキを掛け安全に停止させる装置である。着艦用甲板上に横切るように数本のワイヤを配し、航空機の着艦用フックを引っ掛けその運動エネルギーを吸収、停止させる。これまでのシステムでは、着艦機の運動エネルギーを油圧緩衝システムで吸収、航空機を停止させる方式が使われている。

AAG

図5:(General Atomics) 「フォード」搭載の「先進着艦制動装置」(AAG)の解説図。着艦用甲板に4本の制動ケーブルがあり、この1本に着艦機のフックが掛かると、甲板下に示す水圧タービンとインダクション・モーターでケーブルの張力が制御され、着艦機がスムースに停止する。システム全体はデジタル方式でコントロールされている。

AAG GA

図6:(US Navy graphic)「先進着艦制動装置」(AAG)のシステム・ダイヤグラム。1本のケーブルの両端は甲板下の[AAG]装置に繋がりコンピュータ制御で飛行機を停止させる。

 

終わりに

米空母は、1975年に「ニミッツ」(Nimitz)級が就役してから40年間で「ジョージ・ブッシュ」に至るまで合計10隻が建造された。各艦には多少の違いはあるものの、いずれも動力は原子力、満載排水量100,000 ton、全長330 mの大型艦で搭載機は70機前後に達する。

この後継艦がここに述べた「ジェラルド R. フォード」[CVN 78]である。「フォード」は、「電磁カタパルト」(EMALS)、「先進着艦制動装置」(AAG)を装備、その他電子装備品や対空兵装が最新型に更新され、全体として自動化・省力化が進んでいる。「フォード」の完成で、米海軍はこれからの半世紀も世界の海を支配し続ける決意を示した、と言える。

一方我が海上自衛隊には空母はないが、2015年に就役したヘリ空母「いずも」と2017年就役の同型艦「かが」がある。「いずも」級は満載排水量27,000 ton、甲板長248 m、動力はGE / IHIライセンス生産のLM2500IECガスタービン出力28,000 psを4基、と電源としてGE製LM500-G07ガスタービン3500 キロワット4基を備えている。対空兵装はかなり強力で、近接防御用20mm 機関砲システム(CIWS) 2基と近接対空ミサイルRIM 116 SeaRAM 2基を持つ。搭載ヘリは、SH-60K哨戒ヘリ7機、MCH-101輸送ヘリ2機など合計14機。レーダーは国産のOPS-50 AESA方式を装備する。

「いずも」級は「フォード」に比べると、遥かに小型で動力兵装共に比較にならないが、多少の改造で小型空母に変身も不可能ではない。図4の左端に示す艦型のように「電磁カタパルト」の装備も出来、そうすればF-35Cクラスの戦闘機の運用も可能になる。平成29年度防衛予算に「電磁カタパルト」の基本である「レールガン」の開発に21億円を計上した事を考えると、開発の筋道がついたように思える。中国の空母「遼寧」及び先日進水した2番艦にはいずれもカタパルトがないため、専門家はその能力を疑問視している。しかし関係筋では、3番艦以降には蒸気または電磁カタパルトを装備すべく開発が進行中、としている。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

America’s NAVY News Service 4/8/2017 “Future USS Gerald R. Ford Underway for Builder’s Sea Trials”

America’s NAVY News Service 6/1/2017 “Future USS Gerald R. Ford Delivered to the Navy”

Defense Industry Daily June 28, 2017 “EMAS/AAG: Electro-Magnetic Launch & Recovery for Carriers”

Business Insider May 16, 2017 “The Navy’s most futurestic aircraft carrier is one step closer to dominating theopen seas” by Alex Lockie

General Atomics “EMALS”

Naval Air Systems Command “Advanced Arresting Gear (AAG)”