ロシア機、中国機、相次いで我国の防空識別圏内を飛行


2017-08-25(平成29年) 松尾芳郎

 

防衛省統合幕僚監部によれば、8月22日、23日、24日の3日間、ロシア機及び中国機が相次いで我国周辺に設定されている防空識別圏 (ADIZ) 内に侵入、飛行した。これに対しその都度航空自衛隊では戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯に備えた。

北朝鮮の弾道ミサイル発射の脅威に備え警戒を強める日米韓3国に対し、北朝鮮を支援する立場をとるロシア・中国は、緊張の高まりに対応し北朝鮮を援助する目的で側面からこのような行動に出たものと思われる。

その行動概要は次の通り。

 

1)8月22日:ロシア海軍IL-38哨戒機1機が、日本海能登半島沖に接近、秋田、青森両県沖から北海道日本海沿岸に沿って北上した。図1、図2参照

2)8月23日:ロシア空軍TU-95爆撃機2機が韓国の日本海沿岸から対馬-九州間の対馬海峡を抜け東支那海に入り、反転して沖縄本島-宮古島間の宮古海峡を通過して太平洋に進出、日本列島太平洋沿岸に沿い北上、北海道択捉島-国後島の間を抜けオホーツク海へ立ち去った。

Sputnik News及びReuters通信によると、この飛行は護衛にSu-35戦闘機を伴ない、新型のTu-95 MS型爆撃機で実施し、折から実施中の米韓合同軍事演習を牽制し、合わせて情報収集を行った、と言う。なお情報集のためにA-50早期警戒機も同行した。A-50は米空軍のE-3 AWACSに相当する早期警戒管制機である。図3、図4参照

3)8月24日:中国空軍H-6 爆撃機6機が東支那海から沖縄本島-宮古島間の宮古海峡を通過太平洋に出て北西に変針、紀伊半島沖に進出、反転して往路と同じ経路をたどり東支那海に入った。図5、図6参照

o8-22 IL-38 哨戒機

図1:(統合幕僚監部)イリューシンIL-18型4発ターボプロップ旅客機を対潜哨戒機に改装したのがIL-38。

IL-18哨戒機は、1967年初飛行、以来40機近くがロシア海軍で使われている。IL-18の胴体を4m伸ばし、主翼を前方に移動し、尾部には潜水艦探知用のMAD(磁気探知装置)を装備している。前部胴体の下にあるドームはレーダー。胴体前後には兵装庫があり対潜魚雷などを収納できる。2017-04-11と同-14に2機ずつ、いずれも日本海沿岸に飛来している。北朝鮮の弾道ミサイル発射予告で、我国のレーダー網が活動するのを探知、偵察、牽制するのが目的と思われる。

 

08-22 IL-38航跡

図2:(統合幕僚監部)8月22日、IL-38哨戒機の飛行経路。

 

08-23 TU-95爆撃機

図3:(統合幕僚監部))ロシア空軍戦略爆撃機ツポレフTu-95型機。1956年に配備が始まったが今でもロシア空軍の重要な一翼を担う。

Tu-95戦略爆撃機は2017-04-11に能登半島沖に接近し周回飛行を行い、同12日には太平洋沿岸を房総半島沖まで接近飛行している。1984年から新型のTu-95MSに更新、63機が配備されている。タス通信によれば、今回飛来したのは、最新型のTu-95MS。

Tu-95MSは射程2,500 kmの巡航ミサイルKh-15を6発、胴体内のドラムランチャーに搭載可能、我国全域がその射程に入る。Tu-95MS-16型では、ラドガKh-55巡航ミサイルをランチャーに6発と翼下面に10発搭載する。

軸馬力14,800hpのクズネツオフNK-12MAターボプロップを4基、最大離陸重量185㌧、最高速度925km/hr、航続距離は6,400km。海軍用に対潜哨戒機Tu-142がある。

08-23 TU-95航跡

図4:(統合幕僚監部)8月23日に朝鮮半島の日本海沿岸から対馬海峡を通り、東支那海に入り、反転して宮古海峡を通過、日本列島太平洋沿岸に沿い飛行したTu-95SM 2機の飛行経路。統幕監部発表の2枚の地図を1枚にまとめて表示した。

08-24 中国H-6 爆撃機

図5:(統合幕僚監部)H-6爆撃機 は1969年から配備が始まり派生型を含み現在120機ほどを運用中。

H-6の原型はロシアで1954年から1993年に使われたツポレフTu-16中型戦略爆撃機で、西安航空機で国産化、1968年から使われている。2009年から配備が始まったH-6K型を戦略爆撃機と自称している。複合材を多用し、戦闘行動半径3,500 kmに伸ばし、コクピットには多機能型液晶デイスプレイを装備、機首には強力なレーダーを備える。

当初は核爆弾(20 kt級)用だったが、現在は翼下面に長距離巡航ミサイルCJ-10AあるいはYJ-12対艦ミサイルを6基搭載する。H-6K爆撃航空団は18機編成なので、これが空母打撃群を攻撃するとなると、合計100発以上のYJ-12超音速ミサイルが一度に飛来することになる。

乗員3名、全長35m、翼幅34.4m、最大離陸重量76ton、エンジンはロシア製D30KP-2を国産化したWS-18 を2基装備する。巡航速度790km/hr、兵装搭載量は9トン。2011年以降最初の部隊が第8航空師団に配備されてから順次増強され、しばしば西太平洋に進出し、日本、グアムを目標にした長距離巡航ミサイルの攻撃訓練を行っている。2016-9-26と同11-25、2017-07-16と同08-12に宮古海峡を通過、往復している。H-6Kが積む巡航ミサイルCJ-10Aは射程1,500 km、500 kgの炸薬を持ち、米国のトマホークに匹敵するもので、我国領空に接近せずとも公海上どこからでも目標を攻撃できる。

08-24 中国H-6航跡

図6:(統合幕僚監部)8月24日紀州沖に飛来した中国空軍H-6爆撃機6機の飛行経路。西日本全体と東日本の一部がその巡航ミサイルの射程内に入る。

防空識別圏ADIZのコピー

図7:我国の防空識別圏(ADIZ)を示す。

 

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