クエスト・コデイアック100型機と瀬戸内Seaplanes


2017-09-27(平成29年) 松尾芳郎

 

クエスト・コデイアック(Quest Kodiak) はクエスト航空機が作る高翼、非与圧式、単発、ターボプロップの不整地の離着陸が可能で、貨物や人員10名を運べる多用途機である。短距離離着陸性能を高めるために主翼には固定式ステップド前縁フラップを使っている。エンジンはプラット&ホイットニー・カナダ(P&WC) 製のPT6A-34ターボプロップ、出力750 shp、ドアは正副操縦士席の両側に1つずつと、後部に貨物積み下ろしと乗客乗降兼用の上下に開閉するクラムシエル・ドアを付けている。

ゴルフ場

図1:(Quest Aircraft) ゴルフ場に着陸したクエスト・コデイアック機。乗員1名を含み10名搭乗可能。長さ10.4 m、翼幅13.7 m、自重1.7 ton、最大離陸重量3.3 ton、エンジンはP&WC PT6A-34ターボプロップ750 hp。巡航速度は高度3,700 mで320 km/hr、航続距離2,000 km。短距離離着陸性能に勝れ、離陸滑走距離は285 m、フラップ出し状態での失速速度(stall speed)は60 kt (111 km/hr)。

 

クエスト(Quest)航空機は、人道支援用の頑丈な不整地離着陸可能な小型機の生産を目指して、2001年に14名のスタッフで米国アイダホ州サンドポイント(Sandpoint, Idaho)に設立された。2012年から2017年の間CEOを務めたのは米国ホンダ航空機などに居たサム・ヒル(Sam Hill)氏。

コデイアック100型機の設計主任はトム・ハミルトン(Tom Hamilton)氏、設計当初からフロート付き水上機を念頭にして前部胴体構造を検討してきた。同氏はそれ以前に1986年に炭素繊維複合材(CFRP)製フロートを製造するエアロセット(Aerocet)社を設立しフロート製造を始めていた。CFRPを選んだのは、それ迄のアルミ合金製のフロートは、重く、海水による腐食、水漏れが多く、整備に手間がかかるので、僻地で使う頑丈な機体には向かないと考えていたためだ。

クエスト航空機は、2015年2月に日本の常石グループ傘下の瀬戸内ホールデイングスに買収されたので、今では日本企業になっている。2016年6月にはサンドポイントの本社工場を2,500 m2から10,000 m2に拡張し、併せて研究開発部門を新設した。2017年1月からはビーチクラフト出身のロバート・ウエル(Rob Well)氏がCEOに着任、2015年の従業員数は184名。

クエスト・コデイアック100型機の設計開始は1999年、FAA型式証明は2007年5月に取得した。また2015年8月には、長らく待ち望んでいた水陸両用のエアロセット6650型フロートの取付け認可のFAA補完・型式証明(Supplemental Type Certification)を取得した。

このフロートはアルミ合金製と比べ150 kgほど軽く、かなり長いので安定性が良く、滑走抵抗が少ない。全体の98%が炭素繊維複合材で、ステップの設計が良いことと合わせ、離水滑走距離が短くなっている。フロート付き機体は、ランデイングギア、ブレーキ、油圧系統が不要になるので、それらと相殺して400 lbsほど重くなる。また巡航速度は3車輪式陸上機に比べ12 ktほど遅くなる。

またヨーロッパ航空安全庁からの型式証明も2017年4月に所得済みである。

顧客への引き渡しは2008年1月から始まり、2013年9月には100機目が完成、2016年12月には200号機が完成、それぞれ顧客に引き渡された。また世界各地に点在する僻地支援をするキリスト教会の人道組織“Mission Aviation Fellowship”に協力して機体を提供している。

最大の受注は、2016年11月に締結した日本の瀬戸内ホールデイングスからの20機の契約である。これで傘下の“瀬戸内Seaplanes(シープレーンズ)”社が、クエスト・コデイアック100の水陸両用機で2016年夏から運航を開始している。

クエスト100

図2:(Quest Aircraft) コデイアック100型は上を飛ぶ陸上機が原型で、写真の機体は胴体下面に着脱可能なカーゴポッドが取付けてある。陸上機型は単価が2億5000万ドルから3億ドル程度。下に見えるのはフロートを付けた水陸両用機。

kodiak-sideview

図3:(瀬戸内Seaplanes)瀬戸内Seaplaneが使っているコデイアック100水陸両用機。エアロセット6650フロート付きで価格425万ドル(4億5,000万円)と高価だが性能が良いので受注は十分期待できる。

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図4:(Quest Aircraft)フロートの前輪、フリーステアリングで地上着陸時には展張する。

Kodiak 100 フロート

図5:(Quest Aircraft)フロートの後輪は、地上着陸時には展張され、主車輪となる。前方に水切りステップが見える。フロート底面のフレア(膨らみ)は2段になっていて、底面は浅い角度、外側は深くしてあり、これで水切り抵抗を減らしている

コデイアックコクピット

図6:(Quest Aircraft) コクピットはガーミン(Garmin)製G1000。最新の合成視認表示機能付きで、離陸から着陸までの航法指示、他機との接近や地表障害物への接近を警告する対地接近警報の機能が充実、オートパイロットと統合され、パイロットの負荷を少なくしている。

 

瀬戸内Seaplanesは2014年11月に設立され、2016年8月から、広島県尾道市にある尾道フローテイングポートを拠点に、クエスト・コデイアック100水陸両用機を使い、遊覧飛行、チャーター便の営業を開始した。現在5機を受領し、毎日4便を運行中、50分の飛行で料金は一人約3万円+。社長は元航空局幹部の松本武徳氏。

 

—以上—

 

本稿作成の主な参考にした記事は次の通り。

Aviation Week Network Aug. 21, 2017 “Pilot Report: Quest Kodiak 199 with Aerocet Floats” by Freg George

BCA Sept 28, 2015 “Aeorcet 6650 Amphibious Floats” by Freg George

BCA Oct. 2015 “Quest Kodiak 100 Pilot Report / Operators Survey” by Freg George

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