2017-11-02(平成29年) 元・国務大臣秘書官 鳥居徹夫
焦点となった与野党議員の国会質疑時間の見直し
総選挙後の特別国会冒頭から、与野党議員の国会質疑時間の見直し論議が起きている。
先の第48回衆議院議員選挙で当選した自民党の3回生議員が、森山裕国対委員長に対し「野党議員に質問時間が過剰配分されていた」とし「各会派の所属議員数に応じた配分」を申し入れた。
衆院選の結果、自民、公明両党は全体の67%にあたる313議席を獲得した。ところが質問時間の配分は慣例で「与党2割、野党8割」と野党に偏重している。
森山裕国対委員長は見直しに向けて野党側と交渉すると応じた。
そもそも民進党など野党は、口では対案・提言と言うが、中身は反対のための反対で揚げ足取りの質問が多く、野党も質問者の確保が大変であった。時間を持て余すためか同じことを質問しているとの指摘も多い。
安倍総理は、機会あるごとに「謙虚に丁寧な説明に努めたい」と発言しているが、この総理の丁寧な説明は、多くの国民を代表する与党の質問者にこそ必要ではないだろうか。
与野党逆転となれば、時間配分の少なかった政党・議員に致命傷
そもそも「与党2割、野党8割」の質問時間になったのは民主党政権からである。一時、「与党1割、野党9割」となったこともあったという。
民主党政権までは、与党の質問時間も多かった。かつては議席数の割合の時期もあったという。
つまり質問時間は、各会派の議席数で割り当てていた。そののち国会対策として法案審議を進めたい与党が持ち時間を返上したため、野党の質問時間の割合が増えた。
これが与党の質問時間が減り、野党の割合が増えたという経過である。
それでも民主党政権の誕生前の麻生政権時代は「与党4割、野党6割」だった。
ところが政権が変わると、与党であった政党が、野党の立場から政府に質疑を求める立場となる。政権交代前は与党であった自民党の議員は質問が回ってこないために議員の質疑レベルが落ちてしまう。
実際、民主党政権で野党に転落した自民党議員の質疑には、場慣れしていないこともあってか稚拙なものもが多かった。
与野党逆転のときには、与党の有力議員も落選していたことから、否応なしに若手に質疑が押し付けられる。与党の質問時間の返上は、結果的に自民党が野党に転落したときは対応に苦慮するという事態をまねいた。
政権批判とならないよう、与党の質問を制約した小沢一郎
あの民主党政権の時に、極端に与党の質疑時間の割合が少なくなった。
民主党政権で、鳩山由紀夫が首相に選出されたときの民主党幹事長は小沢一郎であった。政権維持と国会運営の主導権を握るため小沢一郎は、次の方針を示した。
・政策は官邸で決める。党の役割は政権をまもること。政府批判の防波堤となること。
・新人議員は次の選挙で当選することが仕事。国会に拘束されず地元を回れ。
・民主党の政策調査会は廃止する。
・各団体から省庁への陳情は、民主党の幹事長室を通して行う。幹事長室で精査し省庁に伝える。
・与党民主党の委員会質問は極力減らす。
・与党内部から政権与党に文句を言わせない。質問主意書も与党議員から出さない。
多くのマスコミでは、民主党が与党時代に野党分を手厚くして「与党2割、野党8割」となったと報道されているが、実際は民主党の政権維持のための党内対策なのであった。
このように野党は、与党より質疑時間が多く配分されていることを既得権と勘違いしている。
諸外国では、質疑時間は議席数に応じて質疑時間を配分
与党の質問時間が少ないという慣行について、一部野党は「法案や予算案を国会に提出する前に、与党は法案の事前審査がある」「野党は政府をチェックしていく役割が大事」と、既得権化した質問時間の割合に反発しているが、これはおかしい。
法案の事前審査は、あくまでも国会提出前の与党内の手続きに過ぎず、公的なものではない。したがって議事録のような公文書はなく、ましてやテレビ放映はない。
言うまでもなく与野党にとって権威ある公的文書は、国会議事録である。
また政府(行政府)をチェックするのが立法府である。与党といえども、かつての民主党政権のように、与党が政権批判の防波堤になってしまってはならないのである。政府提出法案は、閣議決定されるが、それには全大臣の署名(各省庁の了解)が必要とされ、個々の与党議員にとって不十分な場合も多い。なかには与野党で法案修正されるとか、附帯決議がつけられるといったケースも多くみられる。
本来の質疑時間の割合は与野党の議席配分によるが、与党の質疑時間を返上するケースが頻繁に起きた。
つまり与党が早く法案を成立したいがために質疑時間を返上したことが、野党の質疑時間が多くなったという経過を直視すべきであろう。
ちなみに諸外国は、日本と同じ議院内閣制のイギリスにおいても、議員立法が多く、与党提出の議案や法案に対する質疑は、野党だけとなるケースも多いとのことである。(敬称略)
ー以上ー