中国空軍戦略爆撃H-6K、太平洋上でグアム攻撃演習を実施


2017-11-04(平成29年) 松尾芳郎

中国爆撃機H-6K

図1:(統合幕僚監部)中国空軍H-6爆撃機が、初めて宮古海峡を通過太平洋に進出したのは2013年10月日であった。写真はその時に航空自衛隊戦闘機が撮影。H-6はソビエト時代のTu-16バジャー爆撃機を1959年から中国でライセンス生産した機体。以来改良が重ねられ現在のH-6K型となり巡航ミサイル搭載機として配備されている。最新のH-6N型は中距離弾道ミサイル(MRBM)・射程900 kmのDF-26D型(後述を参照)を発射でき、遠距離から洋上を航行する空母を超音速弾頭で攻撃可能。DF-26Dミサイルは2010年から実戦配備についている。

 

米国防総省は、中国軍がアジア太平洋区域で空軍の活動を強めていることに強い懸念を示している。

ハワイ真珠湾-ヒッカム基地にある米統合軍では、米国のデフェンス・ニュースに対し、10月31日火曜日、中国軍のH-6Kバッジャー(Badger)爆撃機が、米軍の要となる基地の一つグアムを標的にした攻撃演習を行い、ハワイ近くにも飛来したことを明らかにした。

中国の某軍事アナリストは「H-6K爆撃機をグアム近くに飛ばさなくても我々にはグアムを直撃できる弾道ミサイルがある」として、この報道を馬鹿げた話と否定した。

しかしロシア系通信社Sputnike Newsは、「中国軍はH-6K重爆撃機で米軍基地のあるグアムを攻撃する訓練を行い、米国に警告メッセージを発した」と報じた。続けて「これは中国が西太平洋上で米国の脅威に対抗するため、米国領土近くで圧力を強める戦略の一つである。今回のH-6K爆撃機のグアム近傍への飛行は、中国本土から通常あるいは核弾頭付きの弾道ミサイルを使い攻撃可能なことも改めて示したものである。」と述べている。

よく知られているように中国は南シナ海に多数の人工島を建設、戦闘機等を配備し日常的に活動を繰り返し、さらに東支那海においても積極的な活動を行なっている。また中国は、米国が対応に困るような非軍事的手段で米国と同盟関係にある諸国に対し影響力の拡大を図りつつある。

DF-26 China

図2:(中国軍網)2015年9月に行われた中国軍観閲式で天安門広場を行進する中国ロケット軍所属のDF-26(東風26)弾道ミサイル部隊。DF-26は射程3,000 – 4,000 kmで中国本土から日本本土は勿論、グアム基地を攻撃できる。グアム・エキスプレスあるいはグアム・キラーとも呼ばれ、世界で最も優れた中距離弾道ミサイルと称している。2段式固体燃料ロケットで、弾頭には1,200 – 1,800 kgの通常炸薬または核爆弾を搭載する。自走式ランチャー(TEL) はTaian特殊車両が製造する12 x 12 型で長距離を自走できる。中国軍事筋によると、DF-26は航行中の空母やイージス駆逐艦の攻撃も可能な高い命中精度を有する。全長14 m、直径1.4 m、重量約20 ton。米空軍情報機関の推定では2017年中頃で16両以上のTELが配置済みでその数は増加中、とされる。

 

米統合軍のこの発表は、統合参謀本部議長ジョセフ・ダンフォード(Joseph Dunford)海兵隊大将の太平洋軍基地訪問に合わせて、行われた。

同時期の10月29日には、我国の統合幕僚長河野克俊海将は米太平洋軍司令部で韓国を含む3カ国参謀総長級会談に参加、ダンフォード大将等と北朝鮮の核・弾道ミサイル脅威を含む西太平洋の問題について議論を交わした。

米軍事筋では、北朝鮮との問題について「北朝鮮の核開発の脅威が増大しているが、紛争が起きても我々は勝利できる」と明言している。しかし中国との問題については「事態の進展を、懸念を抱きながら注視している」と指摘している。

ダンフォード議長はこの会見では述べなかったものの安倍総理を訪問した際の会談(2017-08-18)等、機会あるごとに、中国の軍事的能力の増大に深い懸念を抱き、次のように語っている。すなわち;—

「中国はこの地域に対し長期的スパンで我々に挑戦してきている。その軍事力増大の加速具合を観るにつけ、米国は太平洋での我々の同盟諸国との連携を一層強める必要があると痛感している。我々はこの地域(太平洋)で妥協するつもりは一切ない。」

「昨年度(2016年)日本は、中国軍機による防空識別圏(ADIZ)侵犯に対処するため、900回もの戦闘機の緊急発進/スクランブルを行なった。中国は、自国の防空識別圏を一方的に拡大設定し(2013年末)、その中に日本の領土である尖閣諸島域を含める、と宣言している。以来、日中両空軍の睨み合いが続くことになった。このため日本は沖縄の那覇基地に第9航空団を新設(2016年1月)、ここに第204飛行隊、第304飛行隊(共にF-15J戦闘機20機+で編成)を配置し、中国軍機の侵犯に備えている。」

「こうして武装した中国空軍のJ-11あるいは改良型のJ-16戦闘機と航空自衛隊F-15J戦闘機が、毎日のようにお互い接近・対峙を続けている。加えて米空軍の嘉手納基地第44戦闘機中隊、第67戦闘機中隊所属のF-15C/D戦闘機による中国機牽制の飛行も増加している。」

 

終わりに

中国軍H-6K爆撃機のグアム基地攻撃訓練について、我が国のメデイアは殆んど取り上げなかった。グアムあるいはハワイ攻撃作戦が発動されれば、わずか15分前後でDF-26ミサイル弾頭が着弾する。日本本土が攻撃目標にされた場合も同様だ。飛来する弾頭の数が少なければ現在のイージス艦の迎撃ミサイルSM-3と地上配備のTHAADミサイルあるいはペトリオットPAC-3で対処可能である。

しかし、多数の弾頭が同時に飛来し、そこにH-6Kが発射する巡航ミサイル(+弾道ミサイル)が加われば、迎撃側の対応は著しく困難になる。ダンフォード統幕議長の懸念もこの飽和攻撃への対応にある。

我が国防衛省は来年度予算で、陸上配備型イージス・システム「イージス・アショア」を2基配備することを決めたばかりだが、実戦配備されるのは5年後2023年になる。それまでは現有6隻のイージス艦と建造中2隻の完成を待たねばならない。

トランプ大統領は、訪日に続き中国訪問が予定されている。ここで習主席と米中和解が進展することに期待を寄せる向きもあるが、上述のように現実は厳しい。常に最悪の事態を想定し、アメリカに頼るだけではなく、自分で備えを固める必要がある。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした記事は次の通り。

Defense News.com Oct.31, 2017 “China has practiced bombing runs targeting Guam, US says” by Tara Copp

Sputnik News Nov. 01, 2017 “Chinese Military Exercises featuring H-6K Heavy Bombers dropping payloads on the US territory of Guam are meant to send a message to Washington, according to Military analysts”

News Week Oct. 31, 2017 “CHINA, CREATOR OF ‘GUAM KILLER’ MISSILE, PRACTICES BOMBING U.S. TERRITORY AFTER NORTH KOREA RESUMES THREAT” by Tom O’Conner