2018-03-17(平成30年) 松尾芳郎
米国の軍事情報紙[Defense Industry Daily Mar 08, 2018]によれば、「米国国防安全協力局(DSCA=Defense Security Cooperation Agency)は、日本が要求中のMk 15 ファランクス CIWSの改修キット24基分、価格4,500万ドル(約50億円弱)の売却を承認」、と報じた。これは現在日本の海上自衛隊艦艇が装備しているファランクスBlock 1またはBlock1B Baseline 1システムを、最新のBaseline 2に変更するための装備品、予備部品、マニュアル、ソフトウエア、その他必要な支援など全てを含んでいる。メーカのレイセオン社は、同社のタスコン(Tuscon, Arizona)工場でキットの準備を始める。
最近の中ロ両国の超音速対艦ミサイルの性能向上に対処するため、米国などの海軍艦艇の対空防御システムの性能向上が一層求められるようになってきた。米海軍当局によれば、今後の艦載の対空防御システムは3層構成とするのが望ましいとされる。
すなわち、50 kmから18 kmの高層域をシー・スパロー(RIM-7 SSM=Sea Sparrow)対空ミサイルまたは発展型シー・スパロー(RIM-162 ESSM=Evolved Sea Sparrow)が受け持つ、18 kmから1.8 kmの中層域はファランクス改良型のシーラム(SeaRAM)が担当、その内側/最も自艦に近接した低層域をファランクスCIWSで防御すると云う仕組みである。
低層域対空防御を担当するファランクス [CIWS=close-in weapons system] (シューズ)は、「Mk 15」と呼ばれ米海軍が1980年にゼネラル・ダイナミックス社ポモナ(Pomona)部門の協力で開発したシステムで、その後レイセオン社が引き継ぎ今日に至っている。現在米英両国や日本など16カ国の海軍と沿岸警備隊の艦艇に使われている。2007年2月までに約900基のファランクス・システムが製造され、これに使う機関砲弾は300万発以上が生産された。
ファランクスは、高速で飛来する対艦(対地)ミサイル(ASM)、航空機、無人機、対艦砲弾などを探知、ターミナル段階(terminal phase)で迎撃・破壊するレーダー誘導の機関砲システムである。ファランクスは、探索、検知、脅威度判定、敵データ解析、追跡、射撃、破壊、射撃停止、の一連の動作に必要な装備を一体化した、自己完結型のシステムである。搭載する艦側の支援なしで、自動的に任務を遂行できる。ただし電力の供給は艦側から受ける。
最新型Block 1Bの場合、システム全体の重量は6.2 ton、高さ4.7 m、銃身の上下可動範囲・俯角/仰角は-25度/+85度、左右可動範囲は150度ずつ、機関砲可動速度は116度/秒。有効射程は秘密だが1.8 kmと言われ、最大射程は3.5 km程度と見られる。
類似のシステムとして、中国の[Type 739 CIWS]、ロシアの[AK-630]、オランダの[Goalkeeper]、イタリアの[DARDO]などがあるが、いずれも搭載艦側からの支援が必要であり、作動装備一体化の点でファランクスCIWSが優っている。
艦載用として開発、改良されてきたが、最近米陸軍では陸上配備型を開発、配備するようになった。
図1:(US Navy) 最新型のファランクスBlock 1B Baseline 2システム。白いドーム内には、頂部に探索用アンテナ、胴部に追跡用アンテナを納めている。レーダーの使用周波数はKuバンド(12-18 GHz)。ドーム側面には赤外線探知装置(FLIR=forward-looking infrared)とビデオ追跡装置を備える。20 mm機関砲は、銃身長2 m の6銃身M61A1型バルカン・ガトリング・ガン(Vulcan Gatling Gun) 自動砲である。
図2:(Raytheon) ファランクスBlock-1Bシステムの図解。
特徴;—
最新型のファランクス“Block 1B”は、図2で“赤外線探知装置FLIR)”と表示した統合型電子光学(Electro Optic)センサーが付加され小型目標への対処能力が向上している。この改良で、小型・高速の航空機、ヘリコプター、無人機(UAS)やドローンへの対応も可能になった。またファランクスは、現用艦艇の戦闘管制システムに組み込んで、そのセンサーや火器管制システムの支援を受けることもできる。
背景;—
ファランクスは、1978年にBlock 0が完成、1980年に米海軍のコーラル・シー(Coral Sea)に取付けられた。それから1988年にはウイスコンシン(Wisconsin)にBlock 1が取付けられた。そして“Block 1B”が完成、1999年にアンダーウッド(Underwood)(FFG-36)に装備された。
最新型Block 1Bは、機関砲砲身長さをそれまでの1.5 mから約2 mに延長、駆動方式の改善、弾着パターン最適化機関砲(OGB=Optimized Gun Barrels)への変更、赤外線探知装置(FLIR=forward looking infrared system)の追加、などをしている。
FLIRにより、敵目標の探索、追跡、射撃の性能が一層向上している。
Block 1B Baseline 2は、レーダーが改良型となり、検知能力、信頼性、脅威度判定性能がさらに向上し、同時に整備コストが低減する。米海軍では2019年から改修を始める。海自護衛艦では「むらさめ」型以降から改修が始まる。
図3:(海上自衛隊)「むらさめ」型護衛艦は1991-2002年の間に9隻建造された。むらさめ(101)基準排水量4,550 ton、満載排水量6,200 ton。装備するCIWSは旧式のBlock 1 x 2基、これを平成30年度予算でBlock 1B Baseline 2に改修する。
冒頭に触れたが米陸軍では、ファランクスを改良して対ロケット砲弾システム(C-RAM=Counter-Rocket Artillery Mortar System)として採用、2005年から配備を始めている。
Block1Bの価格は約560万ドル(6億円弱)とされる。
米海軍では、ファランクス[CIWS]に加え、ファランクスの機関砲部分を海・空軍で使う空対空ミサイルに変えたシーラム(Sea RAM)システムを順次追加配備しつつある。
図4:(U.S.Navy) SeaRAM(シーラム)。20 mm機関砲CIWSの機関砲部分を対空ミサイル11発収納のランチャーに置き換えたシステム。レイセオン社開発のRAM (Rolling Airframe Missile) Block 2は2016年3月に完成、米海軍の新造艦のみならず在来型イージス艦にも追加配備中、また我が海自のヘリ空母「いずも」級2隻に搭載されている。有効射程18 km、来襲する超音速対艦ミサイルを含む目標を探知、追尾、発射、撃破する。
システム概要;—
ファランクスCIWSシステムは3つの主要部分から成る;すなわち、—白色ドーム部分に内蔵する追跡用レーダー、6銃身の20 mm機関砲、その下にある機関砲弾を収納する弾倉。追跡用レーダーは、目標を追跡する機能と自身が発射する機関砲弾の追尾機能を併せ持つ。
Block 1Bの重量は6.12 ton、発射弾数は対艦ミサイルや航空機に対しては4,500発/分、小型目標に対しては3,000発/分、弾倉に搭載する弾数は1,550発、タングステン製徹甲破壊弾(APDS=Armor Piercing Discarding Sabot)を使っている。
図5:(世界の艦船2018-01 126 page 「護衛艦」から作成) 平成29年末(2017)の海上自衛隊保有の護衛艦は潜水艦、補給艦などの補助艦艇を除き、ヘリコプター搭載護衛艦(DDH) 4隻、ミサイル護衛艦(DDG) 8隻、汎用護衛艦(DD / DE) 28隻を含む計46隻。備考欄にある「僚艦防空能力(local area defense)とは、FCS-3A多機能型レーダーと射程50 km程度の発展型シー・スパロー対空ミサイル(RIM-162 ESSM)を備え、自艦のみならず僚艦の防空も担当する能力を云う。
[FCS-3A]レーダーは、防衛省開発の艦載レーダー、射撃指揮装置と対空レーダーを統合した装置で、Cバンド(4-8 GHz帯)使用の4面固定式平板アンテナで全方向を探索できる。これにミサイル誘導用のXバンド(8-12 GHz帯)を追加している。AESA (active electronically scanned array ) 方式で、平成21年(2009)就役のヘリ空母(DDH)「ひゅうが」に [FCS-3] の原型が搭載された。その後就役した汎用護衛艦(DD / DE)「あきずき」以降の各艦にはレーダー素子を窒化ガリウムに改めた性能向上型の[FCS-3A]が搭載されている。探知距離は200 km をはるかに超える。
図6:(Wikipedia)汎用護衛艦(DD) 「あきずき」の艦橋に取り付けられたFCS-3Aレーダー。大きいのがCバンド、小さいのがXバンド用のレーダー・アンテナである。
図7:(Wikipedia)ヘリ空母「いずも」級2番艦「かが」の艦橋に搭載されたOPS-50Aレーダー・アンテナ。「いずも」級の火器は、自己完結型のファランクス20 mm 機関砲CIWSとSeaRAMだけ。したがってFCS-3の射撃管制能力(Xバンド使用)は不要で、対空捜索と航空管制に限定したFCS-3AのCバンド部分をOPS-50Aとして搭載している。
—以上—
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Defense Industry Daily Mar 08,2018 “DSCA clears Phalanx conversion kits for Japan”
United States Navy Fact File, updated January 25, 2017 “MK 15 Phalanx Close-in Weapons System (CIWS)”
Navysite.de “Mk-15 Phalanx Close-in Weapons System”
NavWearps March 2018 “20 mm Phalanx Close-in Weapon System(CIWS)
Popular Mechanics Apr 12, 2016 “The Navy’s Ship Defense Missile JustzDeadlier” by Eric Tegler