2018年11月の中国、ロシア両軍の我国周辺における動き


2018-11 28(平成30年)  松尾芳郎

 

10月末から11月の中露両軍の我国周辺での動きは、日露平和条約交渉の動きや、米中間の貿易戦争の激化の影響のためか、多少沈静化しているようにも見える。

しかし実態はさほど甘くはない。海上保安庁によると、中国海警局の公船は今月5日以降11日間連続で我国沖縄県石垣市尖閣諸島周辺の接続水域および領海の侵犯を繰り返し、今年の最長記録を更新した。そして24日には再び海警局公船4隻が尖閣諸島接続水域内に入り航行を続けている。さらに26日には中国空軍のY-9情報収集機が日本および韓国の防空識別圏を侵犯、東支那海と日本海を往復した。

日中両国は10月下旬の首脳会談で東支那海を「平和・協力・友好の海」とすることを確認したばかりだが、海洋覇権の拡大を狙う中国の姿勢は全く変わっていない。

中国海警局は、これまで非軍事組織である国家海洋局の指揮下にあったが、今年春の組織改正でこれを外れ、軍事組織の根幹である「中央軍事委員会」の指揮下にある「武警部隊」の隷下に入り、軍事組織となっている。このためか、後述する米国の議会諮問機関などでは、海警局公船と言わず、武装していることもあり単に海軍艦艇と呼んでいる。

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図1:(Yahoo)尖閣諸島と周辺の位置関係を示す図。

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図2:(外務省)尖閣諸島の詳細。中国海警局の武装船は連日のように久場島、魚釣島周辺の経済水域、領海を侵犯している。

魚釣り島

図3:(Wikipedia)尖閣諸島最大の島である魚釣島を、南東の南小島上空から撮影した写真。

 

10月14日には、米国上下両院の超党派で作る諮問機関「米中経済安保調査委員会」は次のような報告を出している。すなわち;—

「中国は、尖閣諸島を日本から奪取するため軍事力を土台とする攻勢を強め、日本の領海に海軍艦艇を侵入させるばかりでなく、航空機による頻繁な威嚇、侵犯を始めている」。「これは日本による尖閣諸島の施政権を否定し、日中両国間の軍事衝突の危険を高めるとともに、米国の尖閣防衛誓約への挑戦を示したものである」。

 

以下に防衛省統合幕僚監部などが発表した10月末から11月におけるロシア、中国両軍の我国周辺における軍事行動を示す。

 

10月29日公表「中国機の東シナ海および日本海における飛行」:

10月29日Y-9情報収集機1気が東支那海から対馬と九州間の対馬海峡を通り日本海に進出、再び往路と同じ航路を通り東支那海に戻った。航空自衛隊は戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。

10-29 中国機Y-9航跡

図4:(統合幕僚監部)

10-29 Y-9

図5:(統合幕僚監部)空自戦闘機撮影の中国空軍Y-9情報収集機9241号機。機首と胴体側面前後にアンテナを収める膨らみがあるので「Y-9JB」型らしい、我が空自、海自の通信、レーダー波、などを傍受し諜報活動を行うELINT型。基本形は空軍用中型輸送機Y-9で、全長36 m、翼幅38 m、全備重量65 ton、貨物積載量20 ton、航続距離1,000 kmとされる。

 

10月30日公表「中国海軍艦艇の動向」

10月28日午後5時半、下対馬の西北西35 kmの海上を北東に進む中国海軍「ジャンカイII級フリゲート」1隻を発見、同艦は日本海に進出したが翌29日には再び対馬海峡を南下、東シナ海に戻った。発見追尾したのは海上自衛隊鹿屋基地第1航空群所属の「P-3C」哨戒機である。

10-28ジャンカイII級

図6:(統合幕僚監部)中国海軍北海艦隊所属の江凱II級14番艦(550)Weifangである。満載排水量4,500 ton、速力27 Kts、の大型艦。艦橋前方には、HQ-16対空ミサイルが米海軍のMk41VLSと似た32セルVLS(垂直発射装置)に収められている。艦中部にはYJ-83 対艦ミサイル4連装発射機2基を搭載。YJ-83は射程200 km、最終段階での速度はマッハ1.5。江凱II級はHQ-16対空ミサイルを搭載したことで僚艦防空能力を持つ。1番艦「舟山(529)」が2008年就役した後27番艦「日照」まで完成、中国海軍の主力フリゲートである。

 

11月2日公表「ロシア海軍艦艇の動向」

11月1日午後2時、北海道宗谷岬の東120 kmの海域を西方日本海に向かうロシア海軍ステレグシチー級フリゲート1隻およびアムガ級ミサイル補給艦1隻発見した。発見追尾したのは海上自衛隊大湊基地第15護衛隊所属「おおよど」と八戸基地第2航空群所属「P-3C」哨戒機。この2隻は10月10日に宗谷海峡を東進、オホーツク海に進出したものと同一である。「おおよど」は排水量2,000 tonの乙型護衛艦、「あぶくま」型の3番艦、1991年就役した。

11-01ステレグシチー

図7:(統合幕僚監部)写真は護衛艦「おおよど」が撮影したと思われる「ソベルシェーンヌイ」(333)。ロシア海軍ではプロジェクト20380/20385コルベットと呼び、排水量は2,000 ton以上、全長104 m、速力27 kt、航続距離約4,000浬、汎用ミサイル・カリブルNK、対空ミサイル・リドウートを搭載、対潜ヘリKa-27PSが発着できる。エンジンはロシア製デイーゼルDDA12000、大量の黒煙はデイーゼルエンジンの排煙。予定ではドイツMTU製デイーゼルを搭載するはずだったが、対ロシア制裁の発動で供給を拒否された。太平洋艦隊には、同型艦の3番艦である艦番号333「ソベルシェーンヌイ」のみが配属されているが、今後同型艦8隻が納入される予定。(TokyoExpress 2018-09-07 “8月末から9月のロ・中両軍の動き活発—ロシア大艦隊が宗谷海峡を通過“を参照)

11-01アムガ級補給艦

図8:(統合幕僚監部)

 

11月8日公表「ロシア機の日本海における飛行」

11月8日、ロシア海軍のIL-38哨戒機1機が、我国本州日本海側沿岸に沿って長時間飛行した。航空自衛隊では担当管区の航空団から戦闘機を緊急発進させ、監視を続け領空侵犯を防いだ。

11-08 IL-38航跡

図9:(統合幕僚監部)11月8日のロシア海軍IL-38哨戒機の航跡。

11-08 IL-38

図10:(統合幕僚監部)イリューシンIL-18型4発ターボプロップ旅客機を対潜哨戒機に改装したのがIL-38。1967年から量産、58機が製造されロシア海軍は35機を受領、5機がインド海軍に引き渡された。IL-18の胴体を4m伸ばし、主翼を3 m前方に移し前部胴体のみが与圧室になっている。尾部には潜水艦探知用のMAD(磁気探知装置)を装備。前部胴体下のドームはレーダー。胴体前後にある兵装庫は前がソノブイ、後ろが対潜魚雷を格納する。機首上部のアンテナは新開発の電子情報収集システム(Electronic Intelligence System)[ノベラ(Novella)P-38]である。空自戦闘機が撮影した本機は新型のIL-38N型で、ロシア海軍では8機を保有、いずれも太平洋艦隊に配属している。

11月26日公表:「中国機の東支那海および日本海における飛行」

11月26日中国空軍Y-9情報収集機1機が東支那海から対馬海峡を通り日本海に進出、竹島の西側で反転、往路と同じ経路で東支那海に戻った。航空自衛隊では戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯に備えた。

11月27日韓国合同参謀本部も本件に関する発表を行った(韓国中央日報)。11月26日中国軍Y-9偵察機が済州島北西からKADIZ(韓国防空識別圏)に侵入、日本の防空識別圏に入り、浦項南東80 kmから再びKADIZに入り北に進路を変え、対馬海峡を抜け日本海に入った。竹島付近で反転、往路と同じ経路で東支那海に離脱した。韓国空軍はF-15K、KF—16などの戦闘機10数機を緊急発進させて追跡、領空侵犯に備えた。

統合幕僚監部の発表に比べ、韓国側の発表はかなり詳しい。

韓国防空識別圏

図11:(韓国合同参謀本部/韓国中央日報)韓国軍発表のY-9の飛行航跡を示す図を一部修正したもの。

11-26 Y-9

図12:(統合幕僚監部)9231号機。Y-9の説明は前述の図5を参照されたい。

11月27日公表:「中国海軍艦艇の動向」

11月25日午後5時、下対馬西50 kmの海域を東支那海から日本海に向け北上するジャンカイII級フリゲート1隻を発見、追尾した。その後同艦は26日対馬海峡を南下、東支那海に入った。発見・追尾したのは海上自衛隊佐世保警備隊所属護衛艦「あまくさ」である。「あまくさ」は、多用途支援艦、外国海軍の航洋曳船に相当する。「ひうち」級の3番艦。基準排水量1,000 ton、速力15 kt、武装は小火器のみ。

11-25ジャンカイII級546

図13:(統合幕僚監部)江凱II級フリゲート「塩城(Yancheng)」(546)は、同型艦の10番艦で北海艦隊所属である。詳しくは前述の図6を参照されたい。

—以上—