2019-02-07(平成31年) 松尾芳郎
図1:(Viking Air) “デハビランド・カナダ(DHC)”社が1965-1988に製作していたDHC-6“ツイン・オッター(Twin Otter)”を、“バイキング・エア(Viking Air)”が引き継ぎ“Twin Otter Series 400”として製造中。DHC-6はターボプロップ双発3車輪固定脚19席の多用途機、DHCにより840機ほど生産された。2008年からは“バイキング”カルガリー(Calgary)工場でSeries 400を年産18機程度製造、これまでに140機ほどを出荷している。単価はUS $6.5 million(7億円)。エンジンはPWC PT6A-34 (750馬力)を2基。
図2:(Viking Air) “バイキング・エア“は、単発機DHC-2ビーバーや双発機DHC-6 ツイン・オッターにフロートを付け水上機に改造する仕事からスタートした。
カナダの航空機メーカーといえば ”ボンバルデイア(Bombardier)“の名が浮かぶだろう。同社は鉄道車両と航空機メーカーとして著名な企業だが、最近航空機部門を縮小、合理化を進めている。すなわち、狭胴型機”CSeries” をエアバスへ、ターボプロップ機”Dash 8 “を”ロングビュー・エビエーション/バイキング・エア” へそれぞれ譲渡し、リージョナル機”CRJ”系列機と高級ビジネス機”グローバル7500”へ集約しつつある。
(Aerospace giant Bombardier cuts 5,000 jobs worldwide over the next 12 to 18 months. The struggling plane and train maker will sell its Dash 8 Q 400 program and the de Havilland trademark to Longview Aviation. Earlier last year, Bombardier sold loss-making CSeries aircraft to Airbus with renamed A220.)
“ロングビュー・エビエーション・キャピタル(LAC= Longview Aviation Capital Corp.) ”社は、傘下に航空機製造の“バイキング・エア(Viking Air)”、“ロングビュー・エビエーション・サービス(Longview Aviation Services)などを擁している。
“バイキング・エア(Viking Air)” は、ブリテイッシュ・コロンビアにある航空機メーカー。昔”デハビランド・カナダ(DHC=de Havilland Canada)“社が製作していたDHC-2ビーバー(Beaver)やDHC-6ツイン・オッター(Twin Otter)の製造権を取得、改良型を製造し、部品の供給もしている。
”デハビランド・カナダ(DHC=de Havilland Canada)“社はトロント・ダウンスビュー(Downsview of Toronto, Ontario)にあった航空機メーカーで、英国デハビランド社がカナダ政府と協力して1928年に設立した。しかし1986年の民営化方針でボーイングに売却、その後ボーイングが経営引継ぎを断念、DHCは1992年にボンバルデイアによって買収された。
“バイキング・エア”は、1970年にニルス・クリステンセン(Nils Christensen)が設立し、初めはDHC-2やDHC-6を水上機に改造する仕事をしていたが、やがて部品製造にも乗り出した。2005年にはボンバルデイアから、DHCが製造中止した機体の型式証明(TC=type certificate)と部品製造権(STC= supplemental type certificates)を取得、部品の製造を行うようになった。2008年になるとDHC-6 Twin Otterを自社で改良した新型機” Twin Otter Series 400 ”を製造、販売を始めた。
2016年には、ボンバルデイアが作る消防飛行艇(Water bomber) CL-215、CL-215TおよびCL-415の製造権を買取り、製造を始めた。
2018年11月に親会社“ロングビュウ・エビエーション( LAC)”は、ボンバルデイア(Bombardier)から、“デハビランド(de Havilland)”の商標権とターボプロップ機”Dash 8 Q400” の製造権をUS $300 million(330億円)で購入することを合意、2019年末までに契約を完了すると発表した。
そして同社は、ボンバルデイア”Dash 8”の製造ラインを引継ぐ新会社“デハビランド航空機カナダ(de Havilland Aircraft Company of Canada)” をオンタリオ(Ontario, Canada)に設立する。この会社は、”CL-415”消防飛行艇も併せて生産するので、人員は2,000名を超える予定だ。
図3:(Longview Aviation) ボンバルデイアCL-415 消防飛行艇(water bomber)。カナダエア(Canadaair)社が、それまでの”CL-215”飛行艇のエンジンをPWC製PW100系列ターボプロップの最新型PW123AF出力2,380hp(馬力) 2基に換装し、アビオニクスを新しくしたのがCL-415。翼幅28.4 m、長さ20.4 m、最大離陸重量20 ton、航続距離2,500 km。ボンバルデイア社がカナダエアから製造権を取得したが、これもロングビュー社が引継ぎ、カルガリー(Calgary)で製造を始めている。CL-215とCL-415の生産数は165機、11カ国で使用中。
図4:(Bombardier) “ボンバルデイア”は現在オンタリオ州ダウンスビュー工場 (Downsview, Ontario)で“Dash 8 Q400” ターボプロップ機を年産30機ほど作っている。この製造ラインを今年中に“ロングビュー・エビエーション”に引渡し、新設の“デハビランド航空機カナダ(de Havilland Aircraft Company of Canada)”が担当する。製造拠点はダウンスビューではなくオンタリオ州西部に新設、ここでDash 8と消防飛行艇CL-415を製造する予定。新工場従業員は2,000名規模になる模様。
“Dash 8 Q400” 機は、かつて”デハビランド・カナダ(DHC= de Havilland Canada)“社が製造し1984年から就航したリージョナル機。系列に”Q200”、”Q300”、”Q400”があり、約1,300機近くが作られた。現在68-90席級の“Q400” のみが製造中で、価格はUS $32 million(約35億円)。コスト削減のため中部胴体は中国瀋陽航空機(Shenyang Aircraft) で製作中。
Q400は、昨年までに508機が引き渡され、受注残は56機。エンジンはPratt & Whitney Canada製PW150 出力5,071 shp(軸馬力)を2基。最大離陸重量30.5ton、航続距離2,040 km。
我国ではQ400型を、ANA Wingsが24機使用中、日本エア・コミューター(Air Commuter) が11機使用していたが2018年末までに退役、ATR 72-600と交代している。
競合機は”ATR 72” 、これも双発ターボプロップのリージョナル機である。フランスのエアバス(Airbus)とイタリアのレオナルド(Leonardo)の合弁企業”ATR” が作る72-78席級の機体で、価格はUS $26 million(約29億円)。エンジンはPratt & Whitney Canada (PWC) 製PW127M 出力2,475 shp(軸馬力) 2基である。最大離陸重量23 ton、航続距離1,500 km。
Q400は性能面でATR 72に優っているが、価格が割高なため厳しい競争に晒され、70-90席級のターボプロップ機市場はATRが70 %を占有している。
“ロングビュー・エビエーショ”ンCEOのデイビッド・カーテイス(David Curtis)氏は、次のように語っている;—「90席級のDash 8 Q400は(ATR 72よりも大きく)十分競争力があり、今後大きな需要が見込まれる。今回の買収契約で飛行中の1,000機以上のDash 8系列機の整備サポートも行うので、事業規模は著しく拡大できる」。
ボンバルデイアは、1942年にケベック州(Quebec, Canada)でジョセフ・ボンバルデイア(Joseph-Armand Bombardier)氏が設立した企業で、厳しい冬を過ごすのに必要な雪上車(snowmobile)の開発・製造を行なっていた。1960年代からは大小様々な除雪車を開発し、中でもSki-Dooと名付けた雪上車は好評で4年間で8,000台以上も販売した。1964年に創業者が56歳で病歿、息子達が引き継ぎ近代的企業へと変身した。
1974年にモントリオール(Montreal)の地下鉄車両423両の受注に成功、これを基にバス、電車、車両など地上交通機関(mass transportation)分野に進出した。1982年にはニューヨーク市の地下鉄車両825両、総額10億ドル($1 billion)の受注に成功した(我国川崎重工が協力)。これはカナダ歴史上最大の単一輸出契約となった。2016年の従業員数は70,000人弱、売上高は160億ドルであった。
1980-1990年代に掛けて“鉄道”から“航空”分野に進出した。
1986年にカナダ政府が所有する航空機メーカーでビジネス機”Challenger”を製造する”カナデア(Canadair)”社をUS $140 million (155億円)で買収した。1992年には米国のボーイングから、Dash 8を製造中の”de Havilland Canada”を買い取った。また、米カンサス州(Kansas)の”リアジェット(Leajet)” 社をUS $75 million (85億円)で購入した。そして現在は、リージョナル機である”Dash 8 Q400”、と”CRJ700/900/1000”系列機、またビジネスジェット機の”Global Express”、”Challenger”、”Learjet”などを製造している。
ボンバルデイアは、ボーイング737やエアバスA320型機と競合する狭胴型機”CSeries” ”CS100”および”CS300”を開発、デルタ航空からの大量受注に成功した。しかしボーイングはこれに抗議、紆余曲折の末米政府は”CSeries”に対し219 %の関税を課する決定をした。これに対しボンバルデイアの出資者であるカナダおよびケベック州政府は、ボーイング製航空機の輸入停止等の手段で対抗している。
2017年10月に、エアバスは”CSeries”プログラムに50 %+の出資を決定、米国モーバイル(Mobile, Alabama)にあるA320組立工場に第2の”CSeries” 組立てラインを設置する。エアバスは残りの出資についてもボンバルデイアと協議中である。
2018年11月には、“ロングビュー・エビエーション”に”Q Series”ターボプロップ旅客機プログラムを”de Havilland Aircraft”の商号と共に3億ドル(US $300 million)で譲渡することを決めた。
図5:(Bombardier) ボンバルデイア製グローバル(Global) 7500ビジネス機は2018年末に就航した。6000型を基本に新設計の遷音速主翼を取付け14,300 km(7,700 nm)を無着陸で飛行する。“CSeries”で開発したフライ・バイ・ワイヤ操縦システムを採用、胴体はアルミ・リチウム(Al-Li alloy)合金製、エンジンはGE製“パスポート(Passport)” 推力18,650 lbsを2基。全長33.8 m、翼幅31.7 m、速度Mach 0.85、最大離陸重量48.2 ton、最大席数19名。価格はUS $ 72 million (77億円)。Global 7500は好評で受注は100機以上。
図6:(Bombardier)ボンバルデイアが製造中の主力機はCRJ700(上)とCRJ900(下)、それにCRJ1000の合計3機種。これより大型のCSriesを開発したが、エアバス(Airbus)に売却 “A220”となった。CRJ700は70席級、CRJ90は90席級で、2007年以降は “NextGen”が付く改良型になっている。ブラジルのエンブラエル(Embraer)E-Jet系列機および三菱MRJと競合関係にある。CRJ700、CRJ800は共に、エンジンはGE製CF34-8C5を2基、航続距離はそれぞれCRJ700/2,550 km、CRJ900/2,850 km。受注と引渡しは昨年秋までの数字でCRJ700は350機/350機、CRJ900は480機/430機、CRJ1000は70機/60機、となっている。
2018-11-08 欧米の有力紙は一斉に「ボンバルデイア、5,000人を削減、資産$900 million(1,000億円)を売却」と報じた。すなわち;—
カナダの航空機および鉄道車両メーカー“ボンバルデイア”は、1年から1年半以内に、合理化と収益改善策のため、5,000人の人員削減と、”Dash 8 Q400” ターボプロップ機の生産から撤退する。
同社は世界最大の鉄道車両メーカーだが、この部門で2021年までに年間$250 million (280億円)のコスト削減を行う。
10年ほど前からボーイング、エアバスが独占する狭胴型機市場に参入すべく、新型機“CSeries”の研究開発に$5 billion( 550億円)を投入してきた。しかし“CSeries”は、完成はしたが2018年春にエアバスに売却され”A220” として就航している。
もう一つ、同社がモントリオールとダラスに保有するビジネス機パイロット訓練施設を、シミュレーター製造と訓練が専門のカナダ企業CAE社に$800 million (880億円)で譲渡、2019年末までに正式契約する。
(上述済みだが)”Dash 8 Q400”プログラムと”de Havilland”の商号を“ロングビュー・エビエーション”に$300 million (330億円)で売却、2019年末までに正式契約する。
同社の従業員は世界中で70,000名弱だが、資産売却に伴いそれぞれ人員は減少し、スリムになる見通しだ。
ボンバルデイアが航空機部門で事業縮小を決めたのは、この他に鉄道部門で最近発生した度重なる納期遅れと品質問題による課徴金問題、同社の金融部門の採算悪化、などがあったことが影響している。
—以上—
Aviation Week Com. Jan 25, 2019 “Canada’s Longview want to continue Q400 Production” by Graham Warwick
The Canadian Encyclopedia November 13, 2018 “Bombardier Inc.” by Jonathan Mcquarrie
Cizion News Nov 08, 2018 “Longview Aviation Capital, Acquires Dash 8 Program form Bombardier Inc.”
Longview Aviation Capital Home
Bombardeia Home
Montreal Gazette / The Canadian Press February 4 2019 “Metrolinx to slap Bombardier with financial penalties over late LRT car delivery”
BBC News 8 November 2018 “Aerospace giant Bombardier to cut 5,000 jobs worldwide”
Financial Times November 8, 2018 “Bombardier to cut 5,000 jobs and sell $900 million of assets”