米国防総省、中国の軍備拡張に対抗し、対艦ミサイルの増強を急ぐ/New US Defense Strategy realizes Demand for Anti-ship Weapons again


2019-03-04(平成31年) 松尾芳郎

 

2018年末から米海軍では対艦ミサイルの更新、増強を開始した。米空軍はサウスダコタ(South Dakota)州第28爆撃航空団(28thBomb Wing)所属のB-1B爆撃機に最新の長射程対艦ミサイルAGM-158Cの配備を始めた。

B—1B超音速爆撃機は核攻撃のために開発されたが、10年ほど前から海上に展開する敵艦艇を攻撃する任務が追加され、多目的爆撃機へと変身した。

従来米軍の基本戦略は、海上から敵の陸上目標を攻撃することを主眼にしてきたが、近年の中国軍、特に海軍の増強が急速に進んでいるのを受けて、対艦攻撃に重点を置くようになってきた。現在次の2項に取組んでいる;—

  •  空軍の爆撃機と海軍の戦闘攻撃機に対艦ミサイルの配備促進。
  •  海軍艦艇に搭載中の対艦ミサイルを新型に更新。

(For past three decades, U.S. military focused on attacking targets on land from the sea. But a surge of Chinese investment in offensive naval capabilities has inspired a new strategy, “sinking ships”. USAF bomber and Navy fighters deploy anti-ship missile, and the Navy is rushing several new type anti-ship missiles to its surface ship.)

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図1:(US Air Force) AGM-158C JASSM。全長4.3 m、最大射程560 km、炸薬454 kg、重量950 kg。単価は$1 million(1億1000万円)。

海軍は複数の取組みを進めている。高空から飛来する弾道ミサイルと海上を超低空で飛ぶ巡航ミサイルを迎撃するため、レイセオン製「SM-6」ミサイルの配備を始めている。2006年に「SM-6」で退役フリゲートを目標に試射を行い成功、これで海軍は「SM-6」を“対艦ミサイル”としても使うことにした。

レイセオンは、また、対地攻撃用巡航ミサイル「トマホーク」に新しいセンサーを取付け対艦攻撃ができるよう改良している。

しかし水上艦隊司令官リチャード、ブラウン副提督(Vice Adm. Richard Brown, commander of Naval Surface Forces)は、“「SM-6」や改良型「トマホーク」では不十分で、より高性能な長射程の多目的ミサイルが必要だ”と言っている。

海軍は1970年代からずっと対艦ミサイルに、レーダー誘導方式(active radar homing- guided)のボーイング製「ハープーン(Harpoon)」巡航ミサイルを使ってきた。

今年(2019)就役する新しい“沿岸戦闘艦(Littoral Combat Ship)”には、レイセオン/コングスバーグ(Raytheon/Kongsberg)製の新型対艦ミサイル「NSM (Naval Strike Missile)」を搭載する。「NSM」はセンサーに赤外線撮像シーカー(imaging-infrared seeker)を備え、目標を視認して自律飛行で接近、着弾する。

海軍、海兵隊はさらに高性能な兵装を模索中で、5年以内に超音速・長射程ミサイル、中射程巡航ミサイル、および車両積載型地対艦ミサイルの実用化を目指している。

これらは中国が配備する「YJ-12」およびロシアの対艦ミサイル「3M22 Zircom」および「3M-14T Kalibr」に対抗するため。

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図2:(US Air Force) テキサス州デイエス空軍基地(Dyess AFB, Texas)第7爆撃航空団(7thBomb Wing)所属のB-1B爆撃機に「AGM-158C」 対艦ミサイル(JASSM-ER)を搭載する整備員。

中国軍は、洋上を航行する空母を攻撃できる超音速滑空ミサイルを開発中だが、海軍ではこれを迎撃、破壊できるミサイルの開発を進めている。前述のブラウン副提督は「Mk-41 VLS (垂直発射装置)から発射可能な極超音速(hypersonic)迎撃ミサイルが必要だ」と主張してきた。これに基づき水上艦艇および潜水艦から発射できる極超音速滑空ミサイル(hypersonic glide vehicle) の開発構想が始まった。これは「CPS」(Conventional Prompt Strike/通常型兵装による即時攻撃)と呼ばれる滑空ミサイル(glide vehicle)で、空軍のB-52爆撃機および陸軍の車載型ランチャーからも発射できる。

今年1月に海軍は、カリフォルニア州チャイナ・レイク(China Lake, Calif.) のミサイル発射試験設備を改修して「極超音速CPS」ミサイルの発射試験用にすると発表した。海軍の滑空ミサイルの試験が終了すると、続いて2021年からは、空軍の極超音速通常型攻撃ミサイル(hypersonic Conventional Strike Weapon)と陸軍のAlternate Reentry Systemの試験を行う予定にしている。

[CPS]については別項で述べる予定。

海軍では、今年2月から冒頭に述べたAGM-158C JASSM-ERをF/A-18E/F戦闘攻撃機に搭載、試験を開始、秋までには“初期運用能力(initial operational capability)”資格を取得する。続いて2020年には最新の「AGM-158C Block 4」を最新の艦載型戦闘攻撃機F-35Cに搭載、運用を始める。

このように空軍、海軍、海兵隊を含む米軍は「AGM-158C」に大きな期待を寄せているが、まだ大量発注には至っていない。ロッキード・マーチン社は、空軍にAGM-158Cを10基納入し第28爆撃航空団に引渡したばかり。海軍は、第2次“初期少数生産(initial low rate production)”分として50基の「AGM-158C LRASM (Long Range Anti Ship Missile)」を発注している(昨年11月)。

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図3:(US Navy)ミサイル巡洋艦プリンストン(Princeton)から発射されたRGM-84 Harpoon(ハープーン)対艦ミサイル(2016年太平洋上演習)。ハープーンはMk-41 VLS(垂直発射装置)ではなく艦橋後方のランチャーから発射する。

しかしLRASMおよびその基本形のJASSM-ERの発注が増えるのは確実で、空軍は、大量生産用設備の準備のため$99.3 million(110億円)支出を決め、先般ロッキード・マーチンと契約した。空軍は対地攻撃用のためAGM-158Bミサイルをすでに360基発注済み。海軍は第3次初期少数生産分の発注について協議中である。

海軍では、航空部隊にLRASMの導入を進めると同時に、水上艦用の中/長射程の対艦ミサイルについて、「LRASM」・「NSM」・「ハープーン」のいずれにするか検討をしている。このうち「LRASM」と「NSM」は最新型のシーカーを備えたステルス設計、一方「RGM-84ハープーン」は1970年代の旧式設計だが、2018年8月に行われたリムパック(Rimpac=Rim of the Pacific Exercise)演習で6発の試射をおこない全て洋上の目標艦に命中した実績を持つ。このうちの2発は長期の在庫品で、費用$250,000 (約2,800万円)でGPS受信機と慣性誘導装置(INS)を新型に更新して試射に使ったもの。

ボーイングの巡航ミサイル・システム部長“ジム・ブライアン(Jim Bryan)”氏は「撃ち放し(fire-and-forget)能力のある精巧な新型ミサイルは非常に高価。これに対しハープーンは1977年以来7,500発を納入済みで、これらは僅かな費用で高性能化できる。」と主張している。

 

以下、本文中にある各種ミサイルについて概要を述べてみよう。([CPS]について別項で述べる予定)

 

AGM-158C LRASM (Long Range Anti-Ship Missile)

AGM-158C

図4:(Lockheed Martin)「AGM-158C LRASM」長射程対艦ミサイル。図1を参照。空軍のB-1B爆撃機に2018年末から配備が始まった。海軍のF/A-18E/F戦闘攻撃機への配備は2019年からになる。

「AGM-158C LRASM」は、ステルス形状、F/A-18E/FやF-35あるいは改修後のF-15J等に搭載、発射できるだけでなく、イージス艦等が装備する垂直発射装置「Mk-41」VLS からも発射できる。

「AGM-158C LRASM」は、発射母機あるいは艦艇からのISRやネットワーク・リンク支援やGPS航法にあまり頼らずに、自律誘導で特定目標に着弾する。

「AGM-158C LRASM」は前身の「AGM-158B JASSM-ER」と外形は変わらないが、複数波帯使用のRFセンサー、新型のデータ・リンクと高度計、等を新たに装備している。発射後は中高度で飛翔し目標に接近すると防空網を突破するため海面上数mの高度で飛行する。射程は、JASSM-ERの930 kmと比べ、装備重量が増えるので560 km程度になる。弾頭には高性能炸薬450 kg を装填するが、これを減らし燃料を増やせば射程は1,600 kmにも伸ばせる。

誘導(Guidance)にはBAE Systemsが開発したシステムが使われている。すなわちGPS/INS、RF受信機、レーダー警告受信機(radar warning receiver)、赤外線探知機(imaging infrared seeker / IFR infrared homing)、データ・リンク等で構成されている。ターミナル段階になると自動視認装置(automatic scene target matching recognition)でデコイでないことを確認して着弾する。また「AGM-158B JASSM」と同様、地上目標の攻撃能力もある。

我が国では先般閣議決定した[平成31年作成の中期防衛力整備5ヶ年計画]で本機の導入を決定した;—

  •  ロッキード・マーチン製の空対地ミサイルAGM-158B JASSM ER (Joint Air-to-Surface Standoff Missile Extended Range) を導入し、対地攻撃能力の強化を図る。
  • 「AGM-158B LRASM」を基本にした対艦ミサイルAGM-158C LRASM (Long Range Air-to-Ship Missile)を導入し、艦艇攻撃能力を増強する。

 

RIM-174 SM-6ERAM (Extended Range Active Missile) Raytheon

 SM-6

図5:(Raytheon) 「SM-6」はMk-41 VLS (垂直発射装置)から発射され、3つの機能を併せ持つ。すなわち、対空ミッション、弾道ミサイル防衛、対水上艦攻撃、ができる。

イージス艦が装備する弾道ミサイル防衛(BMD)用ミサイルは、レイセオン(Raytheon)社製の「SM-2」あるいは「SM-3」が使われえていることはご存知の通り。

「SM-6」はこの系列のミサイルで、本体は「SM-2」と殆ど同じ。シーカーには、同社製の中射程の空対空ミサイル「AIM-120C AMRAAM」のレーダー(active radar homing seeker) を使っている。これで来襲する敵ミサイルの複雑な機動に対処し迎へ撃つ。単価は$4 million (約4.4億円)。

重量は1.5 ton、全長6.6 m、直径53 cm、弾頭炸薬64 kg、エンジン2段式固体燃料、射程240 km、最高高度34,000 m、速度Mach 3.6。

「SM-6」は、次の3つのミッションを遂行する多機能ミサイルである。

  • 対空ミッション:2013年「SM-6」配備当初の目的は、来襲する敵航空機、無人機や巡航ミサイルを迎撃することであった。
  •  弾道ミサイル防衛:2015-2017年には、来襲する敵弾道ミサイルを最終段階(terminal stage) で迎撃する能力が実証され(3回迎撃実験に成功)、任務に追加された。
  • 対水上艦攻撃:2016年には、「SM-6」で敵水上艦に対する攻撃能力が検証され、長距離から水上艦や航空機を攻撃できることが判った。

2017年には最新版「SM-6 Block 1A」が海軍より認定され、現在では60隻以上の米海軍艦艇に搭載されている。これまでの納入数は500基に達する。

我国では、イージス艦および2019年度から設置工事が始まるイージス・アショアの防衛用として採用が検討されている。

 

Raytheon/Kongsberg Naval Strike Missile

NSM

図6:(Raytheon)「NSM= Naval Strike Missile」は、重量410 kg、長さ3.95 m、弾頭は125 kg HE blast-fragmentation((高爆発弾片型)、エンジンは、固体燃料ロケット・ブースターで加速し、それからマイクロターボ(Microturbo)製TRI 40ターボジェットで飛行する、有効射程は185km。

「NSM」(Naval Strike Missile) は、ノルウエイのコングスバーグ防衛・航空宇宙(Kongsberg Defence & Aerospace)社が開発した対艦、対地攻撃用ミサイル。2012年以降ノルウエイ、ポーランド、ドイツなどで採用されている。

2015年にレイセオン社と共同で米海軍の新しい沿岸戦闘艦(LCS=littoral combat ship)に搭載を提案、2018年5月に中射程対艦ミサイルとして採用が決定、最初の発注分12基を受注。2019年末から配備される。

本体は複合材製のステルス設計で、重量は400 kg+、射程は185 km、発射・加速すると固体燃料ブースターが分離、ターボジェット・エンジンで亜音速飛行、目標に向かう。弾頭にはドイツTDW社製の軽量(125 kg)・高強度チタン合金製弾片(blast/fragmentation) が搭載され、着弾時にはヒューズの作動で弾片が飛び装甲板を破壊する。

前身のペンギン(Penguin)ミサイルと同様、「NSM」は目標に接近すると海上すれすれを不規則飛行し、敵防空網を突破して着弾する。

「NSM」には陸上型もありポーランド陸軍が採用している。基本編成は中隊で、1個中隊はミサイル4基搭載のランチャー3両とレーダーなど複数の車両からなる。

米陸軍第17砲兵旅団は昨年ハワイで実施されたリムパック(Rimpac)2018で、高機動ロケット砲システム(HIMARS)から「NSM」を発射、試験に成功した。また我が陸自派遣の第5地対艦ミサイル連隊は、国産の「12式地対艦ミサイル」を発射、目標に正確に着弾し成果を上げた。

「NSM」を航空機に搭載する「JSM=Joint Strike Missile」が2025年を目標に開発中で、完成すればF-35戦闘攻撃機のウエポンベイに2基収納される。オーストラリアが「JSM」実用化に期待している。

 

Maritime Strike RGM/UGM-109ETomahawk (トマホーク) Block IVRaytheon

 トマホークBlock IV

図6:(Raytheon)飛行中のRGM/UGM-109E トマホーク」。重量1,300 kg、通常弾頭では高性能炸薬450 kgを搭載。ブースター付きの場合は重量1,600 kg。全長は5.56 m、ブースター付きでは6.25 m、直径52 cm、翼幅2.67 m、速度Mach 0.74。エンジンはWilliams International製F107-WR- 402ターボファン推力700 lbs、バイパス比1 : 1を装備する。

「トマホーク」は長射程・亜音速の巡航ミサイルで、水上艦および潜水艦から発射する。厳重な防空網を突破して1,600 km以上離れた目標に、精密な攻撃ができる。これまでに中東、イラク、リビヤなどの戦闘で2,300発が使用された、また試験飛行は550回以上実施されている。

「トマホーク」は、terrain-following radar(地表追尾型レーダー)で高度15-30 mの超低空を飛行する。航法と目標探知にはGPS/INSを使い、ミサイルに搭載した攻撃計画の地図と照合しながら飛び続け、最終段階では、「水平攻撃モード(horizontal attack mode)」を選んだときは目標上空で炸薬が点火・爆発する。また「上昇-急降下モード(pop-up and dive mode)」を選ぶこともできる。命中精度(CEP =circular error probability/目標を中心として50%の確率で着弾する範囲の半径)は10 m。

最新型は「xGM-109E Tomahawk Block IV」で、2004年から実戦配備が始まった。攻撃計画(mission planning)の作成/搭載に要する時間は大幅に短縮され、即応性が向上した。

水上艦艇発射型「UGM-109」に比べ、潜水艦発射型「RGM-109」は魚雷発射管からキャニスターに入れて発射するので価格が高い。「RGM-109」は潜水艦から十分な安全距離になってからロケット・ブースターで飛行を開始する。ブースターが燃え尽きるとジェットエンジンで水平飛行が始まる。

Block IVを改良し再認証(recertification)を受ければ、2040年まで実戦配備が可能となる。米海軍はレイセオン社に対し再認証に必要な改修部品を2016年にBlock IV本体を含め$303 million(330億円)分発注したが、続いて今年2月末に$25.2 million (28億円)分を契約した。

「トマホーク」は1980年代にBGM-109の名前で、亜音速・低空飛行の核弾頭搭載巡航ミサイルとして開発された。これを長射程型の通常弾頭搭載型に改良したのが「RGM/UGM-109」トマホーク。英海軍は潜水艦発射型を使っている。米海軍では4,000発以上を購入しているので単価はBlock IVで$1.87 million (2億円)。

 

RGM-84 Harpoon (ハープーン)Boeing

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図7:(US Navy) 「ハープーン」は全長3.8 m(航空機発射型)、4.6 m(水上艦、潜水艦発射型)、直径34.3 cm、重量515 kg(航空機発射型)、691 kg(水上艦、潜水艦発射型)、誘導方式は慣性誘導(INS)と目標接近後はアクテイブ・レーダー、弾頭は高性能炸薬224 kg、射程は90-124 km、速度はMach 0.85。単価はハープーンBlock IIで$ 1.2 million (1億3000万円)。

「RGM-84/UGM-84/AGM-84 」ハープーン(Harpoon)は、1977年から使われている亜音速巡航ミサイル。米海軍では1965年に、浮上した潜水艦を攻撃するミサイルの開発を始めたが、潜水艦を「鯨」と呼ぶので、それを撃つ「銛」、すなわち「ハープーン/Harpoon」と名付けた。

航空機発射型「AGM-84」:固体燃料ブースターがない。水上艦発射型「RGM-84」:固体燃料ブースターで加速し、ターボジェットで飛行する。潜水艦発射型「UGM-84」:は、キャニスターに格納し魚雷発射管から発射・浮上、固体燃料ブースターで加速、ターボジェットで飛行する。

「ハープーン」は数回の大改修で射程が伸び、誘導精度が向上している。米国が主なユーザーだが、日本、英国など32ヶ国で使われている。

1977年に水上艦に配備が始まり、航空機への搭載はその2年後からになった。2009年の「ハープーンBlock II」になると自動目標視認(ATA=Automatic Targeting Acquisition) 技術を導入、これとINS/GPS誘導機能を組み合わせ、自律機能で遠距離の目標を攻撃可能になった。2015年からは「Block II+ER (extended range)」の開発が行われている。これは破壊力を維持しつつ重量を半減する弾頭に変更、改良型エンジンを搭載し、射程を248 km に延伸する。ボーイングでは、今年(2019)に最終試験を行い、初期運用能力を獲得したい、としている。

我が海上自衛隊では多数の艦艇に対艦ミサイルとして「ハープーン」が使われてきた。しかし「むらさめ」型護衛艦以降からは性能で勝る国産の「90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)」、続いて「17式艦対艦誘導弾(SSM-2)」が搭載されるようになった。

 

Chinese DF-21 (Dong-Feng 21/東風21)

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図8:(Sinodefence wordpress.com) 「DF-21D」は車載移動式発射装置(TEL= Transporter-erector-launcher)から発射する2段式固体燃料中距離弾道ミサイル(2 stage IRBM)である。中国側発表の改良型は、全長14 m、直径1.4 m、発射重量20 ton、弾頭は核あるいは高性能炸薬いずれも使用可能、弾頭重量は600 kgで複数弾頭型も開発済み。射程は3.000-4,000 kmで支那大陸から日本全土およびグアム(Guam)島を射程内に納める。誘導はINS慣性誘導、ターミナル段階ではアクテイブ・レーダー誘導で着弾する。命中精度はCEP(半数必中界)で10 m、このため空母キラーと呼ばれる。

DF-21は2段式固体燃料ロケット(2-stage solid-fuel rocket)で、弾頭は1個で核弾頭あるいは通常炸薬いずれも搭載できる中距離弾道ミサイル(intermediate  ballistic missile)である。1991年から実戦配備が始まり、米国防総省2008年の推定では80基程度が配備済み、年産10基程度の割合で配備が進んでいるので現在は200基ほどに増えているか?「DF-21D」はTEL搭載の車載型だが、航空機発射型の開発も進めている。

最新型DF-21Dは、世界初の対艦弾道ミサイル(ASBM= anti-ship ballistic missile) 。米国家航空宇宙情報センター(National Air and Space Intelligence Center) によると、DF-21Dは2009年から配備が始まり、弾頭は、目標近くのターミナル段階では最高速度Mach 5で飛行し、目標確認と迎撃回避のため複雑な経路で飛行する“MaRV=maneuverable reentry vehicle”機能を備えている。

米海軍の某調査機関によると(2017年6月)、西太平洋で紛争が起きると直ちに、「DF-21D」と改良型「DF-26」を発射、日本国内の米軍基地と在泊する艦船、およびグアム基地を一斉攻撃する作戦、と言う。

米海軍は、空母打撃群防衛のためBMD駆逐艦/イージス艦を配備するが、弾頭を再突入前に撃破する「SM-3」のみでは不十分、再突入後の複雑な動きをする弾頭を捕捉、撃墜する「SM-6」の配備を急いでいる。

 

Chinese YJ-12超音速対艦巡航ミサイル

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図9:(Thai Military and Asian Region) YJ-12超音速対艦ミサイルと、その原型のロシア製Kh-31の比較図。YJ-12は全長6.3 m、本体直径39 cm、発射時重量2.5 ton。

「YJ-12」はラムジェット飛行、レーダー誘導形式の空対艦超音速ミサイルで、ロシア製Kh-31を改良、射程400 km、高性能炸薬205 kg を搭載する。これはハープーン対艦ミサイルの射程130 kmより長く、対空ミサイルSM-2およびスパロー(射程170 km)の迎撃可能圏外から攻撃できる。速度は低空ではMach 2、高空ではMach 3.2とされる。目標から約90 kmのターミナル段階では、液体燃料ラムジェットブースターでMach 5に加速、高度15 m の低空で迎撃を回避しながら目標に向かう。空母打撃群(carrier strike groups)の水上レーダーが探知しても僅か45秒で至近距離になるので迎撃が難しい。中国空軍のSu-30MKKやJ-11B戦闘攻撃機は戦闘行動半径約1,500 kmなので、これ等が「YJ-12」を携行、発射すれば支那大陸から1,900 km 離れた遠距離の攻撃ができる。

「YJ-12」による飽和攻撃(saturation attack) に対処するには、艦隊の持つセンサー機能を統合して、「SM-6」ミサイルで迎撃すると共に、友軍戦闘機で敵戦闘機を「YJ-12」発射前に撃墜する必要がある。

「YJ-12」には、ブースター付きの艦載型「YJ-12A」と地上発射型「YJ-12B」があり、「YJ-12B」は移動式発射車両(TEL=transporter erector launcher)に搭載する。これを、2018年春から南支那海スプラトリー諸島(Spratly Islands/南沙諸島)に建設した複数の軍事基地に配備したことが確認されている。

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図10:(防衛省報告「南シナ海情勢」)南シナ海スプラトリー諸島(Spratly Islands) の位置。図は中国軍による軍事基地化が行われている島嶼を示す。スビ礁(Subi Reef)、ファイアリークロス礁(Fiery Cross Reef)、クアテロン礁(Cuarteron Reef)、ジョンソン南礁(Johnson Reef South)、ミスチーフ礁(Mischief Reef)、ヒューズ礁(Hughes Reef) 、ガベン礁(Gaven Reef)、の7箇所で埋立て工事を行い人工島が完成、軍事拠点化されている。米軍情報によると、ミスチーフ礁、ファイアリークロス礁、スビ礁、の3箇所にはそれぞれ大型機用滑走路が完成し、軍用機24機を収容する格納庫が建設され、長距離地対空ミサイル、CIWS近接防空システムなどが配置されている。図に青色の帯で示すようにこの海域はシーレーン(海上交通路)と重複しており、紛争が起きると真っ先に我国の海上補給路が遮断されることを意味している。我国マスコミや政治は、この現実から顔を背けほとんど語らず、危機に対応しようという気がない。全てアメリカ任せで良いのだろうか。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week newsletter Feb. 7, 2019 “New US Defense Strategy Rekindles Demand for Anti-Ship Weapons” by Steve Trimble

Aviation Week Oct. 14, 2013 “US Navy under pressure to compete Anti-Ship missile” by Amy Butler and Jen DiMascio

DefPost November 16, 2018 “Lockheed Martin Wins $172M Contract for Lot 2 Produxtin of AGM-158C Long Range Anti-Ship Missile (LRASM)”

Raytheon Home 01/09/2019 “One Missile, Many Missions – SM-6 Missile gives Surface forces more Power in morePlaces”

Raython 01/25/2019 “A Missle for the US Navy – Raython, Kongsberg partner for New, Over-the-Horizon Weapon”

Naval Technology “Harpoon Block II Anti-Ship Missile”

Jane’s 360 08 November 2018 “Image show ground-launched variant China’s YJ-12 anti-ship missile” by Gabriel Dominguez

Congressional Research Service January 8, 2019 “Conventional Prompt Global Strike and Long-range Ballistic Missiles: Background and Issues”

The WARZONE November 7, 2017 “China shows off Hypersonic Vehicle Test Model after US Navy Weapon Test” by Joseph Trevithick

The WARZONE October 4, 2018 “Navy Spends Millions on Sub-Launched Hypersonics as USAF puts New Hypersonic X-plane” by Joseph Trevithick

Defense Industry Daily Feb 28, 2019 “Tomahawk’s Chops: XGM-109 Block IV Cruise Missiles”

Missile Threat 06.15.2018 “Harpoon”

TokyoExpress 201901-13”新防衛大綱は防衛力の抜本的強化を目指す“