「CPS」“通常兵器による迅速な全世界攻撃システム”の開発/”Conventional Prompt Global Strike” developing by U.S.


2019-03-09(平成31年)  松尾芳郎

 

「CPS」は「CPGS」(Conventional Prompt Global Strike system)とも呼ばれ、核弾頭搭載ICBM (大陸間弾道ミサイル)と同様、緊急な脅威が発生するや直ちに、通常兵器で地球上いかなる場所にも1時間以内に精密誘導攻撃するシステム、である。

米国防総省は、中国が開発中の極超音速滑空飛翔体(hypersonic glide vehicle) を深刻な脅威と受け止め対策を急いでいる。極超音速滑空飛翔体は、音速の5倍以上の速度Mach 5+で、大気圏内を飛行・目標に着弾する次世代型兵器。

(CPGS can deliver a precision-guided conventional weapon by air anywhere in the world within one hour. China and Russia has boosted about developing hypersonic weapons to ignore deployed early-warning system. The hypersonic weapons can hit moving aircraft carrier or critical land targets. CPGS will be effective such threat )

このため従来の防空システム(BMD=ballistic missile defense)では迎撃が不可能となる。「ICBM」などの弾道ミサイルは、Mach 5+の速度で飛ぶが進路変更がないので、イージス(Aegis) システム[SM-3]などで迎撃できる。

”極超音速滑空飛翔体” は、弾道ミサイルなどで大気圏外に打上げられ、切り離された後、大気圏内をMach 5〜20の極超音速で進路・方向を絶えず変えスキップしながら滑空飛行をして目標に接近、ダイブして着弾する。

米空軍とDARPA(国防先端技術研究局) は、航空機発射型の“超音速滑空飛翔体(hypersonic glide delivery vehicle)”開発に取り組んでいる。海軍は潜水艦発射型弾道ミサイル(Trident IIのようなSLBM)で滑空飛翔体を発射すべく研究している。国防総省では「CPGS」を最重点項目と位置付け2018年から5カ年間計画で総額$1.9 billion (約2,100億円)を投入、2020年代初めの実用化を急いでいる。

 

以下に「CPS」/「CPGS」の開発状況と、ロシア、中国における「極超音速飛翔体」の現況を簡単に紹介して見よう。

 

DARPA「HTV 2/極超音速技術飛翔体」

HTV-2

図1:(DARPA)「HTV-2」(Hypersonic Technology Vehicle 2/極超音速技術飛翔体)。「HTV-2」は“DARPA (国防先端技術研究局)”が開発した極超音速滑空飛翔体(hypersonic glide vehicle)で製造はロッキード・マーチン社、機体は炭素繊維複合材。

「HTV 2 = Falcon Hypersonic Technology Vehicle 2」は、極超音速飛行に必要な技術データを収集するために作られた。得られたデータは[CPGS](通常兵器による迅速な全世界攻撃システム)開発に使われる。

「HTV-2」は無人飛翔体、打上げ後大気圏内をMach 20 (時速21,000 km)で飛行する。これはニューヨーク・ロサンゼルス間を12分で飛ぶのに相当する。

「HTV-2」は、2010年4月22日に初飛行、バンデンバーグ空軍基地(Vandenberg AFB, California)からMinotaur IVロケットで高度160 kmに打上げられ、太平洋上のクエゼリン(Kwajalein)島まで7,700 kmを飛行した。30分間の飛行だったが、途中で通信システム(telemetry system)が故障したため、速度Mach 17〜22の範囲の139秒間の飛行を含め、9分間の空力データを収集して終了した。

2回目で最後となる試験は2011年8月11日に行われた。打上げ後の再突入時には空気との摩擦で機体は3,500度F(1,930度C)になる。この高熱で機体表面が剥離したため安全システムが作動、機体は海上に墜落した。

DARPAは、HTV-2の1回目の飛行で空力データと飛行性能データを収集、2度目の飛行で機体構造の高温時データを取得できたとして、実験を終了した。

HTV-2h飛行経路のコピー

図2:(DARPA) ファルコン(Falcon) HTV-2 の飛行経路。HTV-2は大気圏内をMach 20で滑空飛行をする。この速度は20,900 km/hr、ニューヨーク・ロサンゼルス間を12分で飛ぶのに相当する。HTV-2には多くのセンサーが取り付けられ、未知の飛行環境データを収集した。

次の[X-51A]を含め「極超音速滑空飛翔体」は、この図とほぼ同様の航路で飛行する。[X-51A]は、航空機/地上/水上艦/潜水艦のいずれからでも発射できる。高度10,000 m以上をMach 5+ で巡航し、目標に接近すると滑空降下し弾頭を分離、ここから数千個の弾片を極超音速で投射、1平方マイル( 2.5 km2) 内を破壊する。この威力は戦術核兵器と同規模である。

 

ボーイング[X-51] ウエイブライダー(Wavelider)

 X-51A Waverider

図3:(US Air Force) ボーイング製[X-51A] ウエイブライダーは無人超音速実験機、スクラムジェットでMach 5 + (5,300 km/h以上)で飛行する。[X-51]は自身が生じる衝撃波(shock waves) の圧縮揚力(compression lift) で浮揚する。大きさは全長7.62 m、空虚重量1.8 tonで現在の航空機搭載用ミサイルと変わらない。航続距離は1,000 km+でF-35戦闘攻撃やB-2爆撃機に搭載できる。図は[X-51A]が母機から発射され自身のロケット・ブースター(濃い灰色部分)で加速中の想像図。ブースターはMach 5近くに加速した後分離され、[X-51A]本体(薄い灰色部分)は搭載するスクラムジェットの推力でMach 5.1に加速し飛行する。 

航空機発射型の極超音速巡航ミサイル(hypersonic cruise missile) ボーイング[X-51] ウエイブライダー(Wavelider) は、スクラムジェット(scramjet)を動力として2010年に初飛行に成功した。

2013年5月1日に行われた4回目の試験では、高度17,000 mでB-52戦略爆撃機から発射され、後部の固体燃料ブースターでMach 4.8に加速、分離後ロケットダイン(Rocketdyne)製[SJY61] スクラムジェットを3分半作動させて高度21,000 mに上昇、Mach 5.1の高速飛行を6分以上行い、そのあと予定通りダイブして太平洋に突入した。

2019年国防予算では、[X-51A]開発費を前年比30 %増の$278 million (300億円)にして実用化を急いでいる。初期生産型は2021年に出現する予定。

 

レイセオン「TBG」(Tactical Boost Glide hypersonic weapon program / 戦術極超音速グライダー計画)

 レイセオンTBG

図4:(PRNewsforto / Raytheon) レイセオン製の戦術極超音速グライダー[TBG]が大気圏上層を速度Mach 5+で飛行する想像図。機体は空気との摩擦で高温になるため、精密電子機器は先進材料製耐熱シールドで保護する必要がある。

DARPA/米空軍は、2019年3月レイセオン社と、「TBG = Tactical Boost Glide hypersonic weapon program (戦術極超音速グライダー)」2号機を$63.3 million (70億円)で開発する契約を結んだ。「TBG」1号機もレイセオンの開発で、2016年10月にDARPAから$174.7 million (約200億円)で受注している。

「TBG」は航空機発射型の航続距離900 kmの中距離極超音速グライダーで、空軍のロケット・ブースト型「極超音速通常弾頭攻撃兵器(HCSW=Hypersonic Conventional Strike Weapon) とDARPAのスクラムジェット推進型「極超音速大気吸入兵器構想(HAWC=Hypersonic Air-breathing Weapon) を統合化したもの。

米空軍は、この以前に「TBG」基本の[AGM-183A]空中発射型迅速対応兵器(AARW=airborne Rapid-response Weapon)の開発を決定、2018年8月に開発費$480 million (530億円)の支出を決めている。初飛行は今年末になる。空軍では「ARRW」の初期運用能力(IOC)を2021年に取得したい、としている。

DARPAが進めるスクラムジェット使用の[HCSW]はやや遅れ、ロッキード・マーチン社への発注は2018年4月に$928 million(1,030億円)で行われ、初期運用能力(IOC)取得は2022年になる。

「TBG」の形状は発表されていない。DARPAの[HYV-2]やそれを元に後縁をW型にした形状、あるいは[X-51]ウエイブライダー、などの形式が取り沙汰されている。

 

ロシア「アバンガード(Avangard)」極超音速滑空飛翔体など

 アバンガード

図5:(Ministry of Defence of the Russian Federation)ロシア国防省は「アバンガード(Avangard)」極超音速滑空飛翔体が速度Mach 27の飛行試験に成功した、と発表した(2018-12-26)。12月26日ウラル山脈南にある基地から発射され6,000 km離れたカムチャツカ(Kamchatka)半島の目標に正確に着弾した。「アバンガード」はメガトン級の核爆弾を携行、コースと高度を変えながら大気圏をジグザグに極超音速で飛行、目標に向かうので迎撃は不可能。また地上配備のレーダーによる遠距離からの探知も極めて難しい。

ロシアは複数の極超音速兵器の開発を進めていて、[Yu-71] hypersonic gliderは数回の試験に成功済み、2020年までに配備を始める。[Zircon]対艦ミサイルは飛行速度Mach 8 (6,100 km/hr)、2018年12月までに5回の試験に成功している。2021年から量産を開始、2022年から海軍に配備を始める。

CNBCニュースは、ロシアは2018年10月に極超音速飛翔体(HGV=hypersonic glide vehicle)、「Avangard (アバンガード)」の配備を開始、と報じた。プーチン大統領は昨年3月の連邦議会で「ロシアは2019年からHGVの配備を開始する」と発言し、この報道を裏付けている。

「Avangard (アバンガード)」は、速度11,200 km/hr (Mach 27)で飛行、目標に向かう。核弾頭、通常弾頭、いずれでも搭載できる多弾頭多目標再突入型弾頭(MIRV=multiple independently targetable reentry vehicle)を搭載する。発射は[UR100N]、[R-36M2]、[RS-28]などのICBMに搭載され、大気圏外に打上げられ、そこから極超音速滑空に入る。2015年から発射試験が繰り返し行われ2018年末に完了した。プーチン大統領は「隕石のような速度で攻撃するので迎撃は不可能」と語っている。

 

中国/「DF-ZF極超音速滑空飛翔体(HGV=hypersonic glide vehicle)

 中国DF-ZF

 

図6:「DF—ZF」HGV(極超音速滑空飛翔体)は、DF-21などの中距離弾道ミサイルで打上げ、大気圏に再突入、Mach 6の速度で滑空飛行、目標に向かう。

中国は、2018年8月に極超音速機の試験に成功したと発表した。これは核弾頭を携行し、あらゆる迎撃システムを突破できる、と述べている。

「DF—ZF」と呼ばれる極超音速滑空飛翔体(HGV=hypersonic glide vehicle) で2014年1月に初飛行し、2017年11月までに7回の試験に成功済みで2020年からの配備を目指している。試験は、いずれも中国北西部の山西省太原衛星発射センター(第25基地)から「DF-21」などの中距離弾道ミサイル(IRBM)で高度30,000 mに打上げられMach 6の速度で飛行して回収された。

「DF-ZF」は速度Mach 5 〜10 (〜12,300 km/hr) と推定され、核または通常弾頭を搭載、精密誘導で米海軍空母打撃群を攻撃することが可能。極超音速グライダーなので、「SM-3」などのイージス(Aegis) 迎撃システムは役に立たない。対応にはレーザー(laser)やレール・ガン(rail gun)が必要だが、実用化されていない。

米議会の“米中経済および安全保障検討委員会(U.S.-China Economic and Security Review Commission) “ は、「中国の極超音速グライダーの開発は急速に進行中で2020年には実戦配備される」と報告している。

 

終わりに

 

近年ロシアおよび中国は、極超音速技術の開発を積極的に進めており遠距離からの精密攻撃能力を著しく高めつつある。中ロの[HGV]が数年後に多数配備されるようになると、米海軍の空母打撃群(CSG=Carrier Strike Group) 、グアムや在日米軍の基地だけでなく、我国の主要都市、重要施設も、全て攻撃対象になる。

米国では議会が主導し超党派で対応を急いでいる。これを受け国防総省は既述のようにボーイング「X-51A」やレイセオン「TBC / AGM-183A」の開発・配備の促進に本腰を入れている。

米国の対応に比べ我国の政府、メデイアは“日中国交正常化”や“日露平和条約”などを言うばかりで安全保障からは目を背け、誠に危機感に乏しい。それでも先に閣議決定した「31中期防」の陸自編成概要の中に「2026年度に島嶼防衛用高速滑空弾部隊2個大隊を配備する」と記されたのはせめてもの救いと言うべきだろう。

最後に「ランド研究所(Land Corporation)」が作成した7分間の[Hypersonic missile Nonproliferation](極超音速ミサイルの拡散防止)と題する動画を紹介する。極超音速滑空飛翔体の解説で、極超音速とは何か、B-52から発射される「X-51A」、[HTV-2]、さらに迎撃の困難さ、などが要領良く解説されている。2017年9月作成なので[TBC/AGM-183A]には触れていない。英語を聞かなくても画像だけで十分理解できるので是非ご覧頂きたい。

youtu.be/FyUTNRIuAqc.webloc

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした記事は次の通り。

 

International Defense, Security & Technology January 9, 2019 “US, Russia and China Leading World Hypersonic Weapons Race for Prompt Global  Strike Capability, Strategic Bombing from Outer Space and Defeating All Missile Defenses”

The Dipromat March 21,2018 “US Signals Major Boost to Hypersonic Weapons in 2019” by Steven Stashwick

Sputnik news 29,12, 2018 “Russia’s New Avangard Hypersonic Nuke Missile Prompts Panic in USA”

DARPA “Falcon HTV-2” by Dr. Peter Erbland

Aviation Week .com Mar 5, 2016 “DARPA Awards Raytheon C0ontract for 2ndTBG Hypersonic Weapon” by Graham Warwick

Air force Technology 6 March 2019 “Raytheon wins DARPA contract to develop TBG hypersonic weapons”

Raytheon 03/05/2019 updated “Fast and Formidable – Raytheon is developing missiles that travel at 5-times the speed of sound”

Boeing Mediaroom. Com May 3, 2013 “Boeing X-51A WaveRider sets Record with Successful 4th Flight”