平成31年3月および4月初旬、我国周辺での中露両軍の活動


2019-04-05(平成31年)  松尾芳郎

平成31年3月および4月初旬における我国周辺の中国軍、ロシア軍の活動は相変わらず活発でいささかの衰えも見せていない。しかし我国のマスコミでは全く取り上げず、防衛省統合幕僚監部から次の「お知らせ」として簡単に公表されただけ。

(According to the Ministry of Defense Joint Staff Japan, Chinese and Russian Forces movements around the Japanese Islands were kept high as usual during March and early April period of 2019. Seven notable reports have issued.)

「おしらせ」;―

03/20 公表:中国機の東シナ海の飛行について

03/27 公表:ロシア機の日本海における飛行について

03/28 公表:中国海軍艦艇の動向について

03/30 公表:中国機の東シナ海および太平洋における飛行について

04/01 公表:中国機の東シナ海および太平洋における飛行について

04/02 公表:中国海軍艦艇の動向について

04/03 公表:ロシア海軍艦艇の動向について

 

以下に概要を紹介する。

 

03/20 公表:中国機の東シナ海の飛行について

3月19日(火)に中国空軍Y-9哨戒機2機が沖縄本島西北西の東シナ海の我国防空識別圏に侵入、周回飛行を繰り返して退去した。航空自衛隊南西航空方面隊那覇基地所属のF-15戦闘機が緊急発進、領空侵犯を防いだ。

3月19日Y-9

図1:(統合幕僚監部)3月19日飛来の中国軍Y-9哨戒機2機のうちの1機。基本形は空軍用の中型輸送機Y-9で、全長36 m、翼幅38 m、全備重量65ton、貨物積載量20 ton、航続距離1,000 km。

3月19日航跡

図2:(統合幕僚監部)3月19日我が国防空識別圏を侵犯した中国軍Y-9哨戒機2機の航跡。

 

03/27 公表:ロシア機の日本海における飛行について

3月27日ロシア空軍IL-38哨戒機1機が、日本海に面した島根県隠岐の島と竹島の間を北東に進み、本州と北海道西岸に広がる我が国防空識別圏を侵犯、飛行を続けて、シベリア方面に立ち去った。航空自衛隊では各航空方面隊から戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯に備えた。

3月27日IL-38

図3:(統合幕僚監部)イリューシンIL-18型4発ターボプロップ旅客機を対潜哨戒機に改装したのがIL-38。1967年から量産、58機が製造されロシア海軍は35機を受領、5機がインド海軍に引き渡された。[IL-38]はIL-18の胴体を4 m伸ばし、主翼を3 m前方に移し前部胴体のみを与圧室にしている。尾部には潜水艦探知用のMAD(磁気探知装置)を装備。前部胴体下のドームはレーダー。胴体前後にある兵装庫は前にソノブイ、後ろに対潜魚雷を格納する。

3月27日航跡

図4:(統合幕僚監部)3月27日のロシア空軍(海軍?)IL-38哨戒機の航跡。

 

03/28 公表:中国海軍艦艇の動向について

3月28日午前3時、鹿児島県口永良部島の西100 kmの海域を南東に進む中国海軍ジャンカイII級フリゲート2隻およびフチ級補給艦1隻の合計3隻の艦隊を発見、同艦隊はその後鹿児島県大隅海峡を通過し太平洋に向かった。発見追尾したのは海上自衛隊鹿屋基地第1航空群所属のP-3C哨戒機である。

3月28日530

図5:(統合幕僚監部)ジャンカイ(江凱)II級/ 054A型フリゲート(530)「徐州/Xuzhou」は2番艦、2008年の就役。ジャンカイ(江凱)II級は満載排水量4,500 ton、速力27 Kts、の大型フリゲート。艦橋前方には、HQ-16対空ミサイルが米海軍のMk-41 VLSと似た32セルVLS(垂直発射装置)に収められている。艦中部にはYJ-83 対艦ミサイル4連装発射機2基を搭載。YJ-83は射程200 km、最終段階での速度はマッハ1.5。HQ-16対空ミサイルを搭載したことで僚艦防空能力を持つ。1番艦「舟山(529)」が2008年就役した後27番艦「日照」まで完成、中国海軍の主力フリゲートとして整備されている。

3月28日532

図6:(統合幕僚監部)ジャンカイII級532は「荊州/Jingzhou」、21番艦で2016年の就役。

3月28日890

図7:(統合幕僚監部)903A型「福地」級補給艦の4番艦、艦番号890は2013年就役の「巣湖/Chaohu」。[903A]型は満載排水量23,000 ton、航続距離10,000 n.m.の大型艦。フランス製SEMT 16PC2-6V400エンジン2基を搭載、速力20 kt.で同型艦は6隻。同級にはやや小型20,000 ton級の[903]型2隻がある。

 

03/30 公表:中国機の東シナ海および太平洋における飛行について

3月30日、中国空軍のH-6爆撃機4機、Tu-154情報収集機1機、および戦闘機2機、合計7機が相次いで沖縄本島と宮古島の間、宮古海峡上空を通過太平洋に進出、その後往路と同じ経路で都海峡を通過東シナ海へ立ち去った。航空自衛隊では那覇基地所属のF-15戦闘機を緊急発進させ領空侵犯に備えた。

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図8:(統合幕僚監部)H-6はロシアTu-16バジャー爆撃機を1959年から西安航空機でライセンス生産した機体。以来改良が重ねられ現在のH-6K型となり巡航ミサイル搭載機として配備中。長距離巡航ミサイルを6基搭載できる。乗員3名、全長35m、翼幅34.4m、最大離陸重量76 ton。複合材使用の率を高め、エンジンは国産WP-8型からロシア製のD-30KP-2型に換装、推力を30 %アップ、燃費は20 %向上した。2007年1月に初飛行、2011年5月から配備。巡航速度790km/hr、戦闘行動半径3,500 km、兵装搭載量は9 ton。搭載の巡航ミサイルCJ-10Kは射程2,000 km、米国のトマホークに匹敵するもので、我国領空に接近せずに公海上どこからでも目標を攻撃できる。

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図9:(統合幕僚監部)同上4機のH-6爆撃機のうちの1機。

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図10:(統合幕僚監部)TU-154情報収集機 今も生産中のロシアのツポレフ(Tupolev)製3発旅客機で、1,000機以上が生産された。1972年から使われており、以来改良が続けられ多数の派生型が生まれた。中国空軍は民間用のTu-154Mに大型の合成開口レーダー(SAR)を取付け電子偵察機(ELINT)に改造、Tu-154MD型として使っている。Tu-154Mは、最大離陸重量は100 ton、航続距離6,600 km、エンジンはD-30KUターボファン、推力23,000 lbs (100 kN)を3基。中国空軍司令部直轄部隊の第34輸送機師団(北京南苑基地)に配備中、6機がSAR付きELINT仕様である

3月30日7機航跡

図11:(統合幕僚監部)3月30日の中国空軍機の航跡。

 

04/01 公表:中国機の東シナ海および太平洋における飛行について

4月1日、中国空軍のY-9情報収集機1機とH-6爆撃機2機が沖縄本島と宮古島の間、宮古海峡上空を通過し太平洋に進出し再び同海峡上空を通り東シナ海に戻った。航空自衛隊で那覇基地所属のF-15戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯に備えた。

4月1日Yー9

図12:(統合幕僚監部)陜西航空機が作るY-9多用途輸送機を情報収集機に改造したのが本機。Y-9は、ソビエト時代のアントノフ(Antonov) An-12輸送機を国産化した陜西Y-8Fを基本にし、胴体を延長した機体で、貨物搭載量は25 ton、人員なら100名+を運べる。西側のC-130J輸送機に相当するサイズ。2009年から中国空軍に配備が始まっている。

4月1日H-6

図13:(統合幕僚監部4月1日に宮古海峡を往復したH-6爆撃機2機のうちの1機。

4月1日中国

図14:(統合幕僚監部)4月1日に宮古海峡を往復した中国機の航跡。

 

04/02 公表:中国海軍艦艇の動向について

4月2日午前9時、沖縄県宮古島東北東100 kmの海域を北西に進む中国海軍のジャンカイII級フリゲート2隻およびフチ級補給艦1隻の合計3隻の艦隊を発見、その後同艦隊は沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を北西に進み、東シナ海に立ち去った。発見追尾したのは海上自衛隊佐世保基地第13護衛隊所属の護衛艦「さわぎり」である。なお、これら中国艦艇は前述した3月28日に鹿児島県大隅海峡を東進したものと同一である。写真説明は3月28日の記述を参照されたい。

4月2日530

図15:(統合幕僚監部)

4月2日532

図16:(統合幕僚監部)

4月2日890

図17:(統合幕僚監部)

 

04/03 公表:ロシア海軍艦艇の動向について

4月2日午後11時、上対馬の北東120 kmの海域を南西に進むロシア海軍ウダロイI級駆逐艦2隻およびドウブナ級補給艦1隻を発見、同艦隊は対馬海峡を南下し、東シナ海に向け航行した。発見追尾したのは海上自衛隊佐世保基地第8護衛隊所属護衛艦「きりさめ」である。

4月2日564

図18:(統合幕僚監部)海自護衛艦「きりさめ」が撮影したウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦(564)。満載排水量8,500㌧の大型対潜艦、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリコプター2機、それにSA-N-9型個艦防空ミサイルを装備する。1980—1991年にかけて12隻が作られ、現在8隻が就役中。太平洋艦隊には4隻が配備されている。日米海軍のイージス艦に近い性能と兵装を持つ。

4月2日572

図19:(統合幕僚監部)前図参照。

4月2日補給艦

図20:(統合幕僚監部)満載排水量9,000 ton、速力16 knot。

 

―以上―