夏の参院選、野党の候補絞り込みへ急展開


2019-05-23(令和元年)   文部科学大臣秘書官 鳥居徹夫

 

  • ダブル想定で、参院選一人区で野党共闘が加速

景気の悪化や、米中貿易戦争の激化もあり、10月の消費税の税率アップが先送りされる可能性が強くなってきた。

その時には「国民に信を問う」と、自民党の萩生田幹事長代理が発言したこともあって、衆議院を解散し参議院との同時選挙という見方が強くなってきた。

野党陣営も「ダブルなら野党パンク」と小沢一郎らが危機感を煽ったこともあり、ここにきて候補者絞り込みに急展開している。

それまで野党側は、一人区に複数の候補者が出馬の動きもあり、共産党以外は候補者が決まっていない選挙区も5月連休前までは多かった。

立憲民主など野党5党派(立憲民主、国民民主党、共産党、社民党、社会保障を立て直す国民会議)は5月21日に幹事長・書記局長会談を開き、32ある一人区について28選挙区で野党候補者の一本化に合意ないし大筋合意したという。

共産党は、これまで24選挙区で公認候補を擁立していたが、うち20選挙区で取り下げた。

共産党候補への一本化は、現時点で福井と、合区の鳥取・島根、徳島・高知の3選挙区もとなった。

複数区でも、国民民主党が京都などで公認候補者を取り下げ、千葉などで公認候補の擁立を見送った。国民民主党の政党支持率は、4月末の旧自由党との合併後も1%台に低迷したままで、広島、静岡など現職議員がいる選挙区の守りとなっている。それは他党の支援を期待したいからではないか。

立憲民主党は、埼玉、神奈川の選挙区で2人目の候補者擁立を断念した。また広島選挙区では国民民主党の現職との競合を避け、候補者擁立を見送った。

いずれにしてもダブル選挙の動きが急浮上したことから、一人区を中心に一本化を図り、野党が競合する複数区についても候補者調整を急ピッチで進めようとしている。

 

  • 東京は立憲民主党が独占。国会議員ゼロの国民民主党

民進党から枝分かれした立憲民主党は、国民民主党から議員引き抜きを公然化している。

東京23区では、国民民主党所属の伊藤俊輔議員を、立憲民主党が引き抜いた。その伊藤議員は、立憲民主党から候補を立てられたら比例復活もおぼつかない。その選挙区は前回の総選挙で国替えさせられた櫛渕万里(元ピースボート事務局長)の本来の選挙区である。

3月末の「枝野ドクトリン(当面の活動方針)」は、次期衆院選の立憲民主党の候補には「前回他党や無所属で立候補し、立憲民主党と政策理念を共有する人」も対象に含めると明記した。

つまり野党共闘に距離を置き、立憲民主党は自党勢力の拡大を狙うということなのである。

実際に参議院の東京選挙区では、国民民主党からの出馬が予定されていた塩村文夏を立憲民主党の候補者に引き抜いた。そして立憲民主党から2人目の候補者を擁立し、国民民主党の擁立の余地を狭めることとなった。

東京では、国民民主党の国会議員は伊藤俊輔が引き抜かれゼロとなった。一方、立憲民主党は衆議院9名、参議院2名と国会議員を独占している。首都東京では、国民民主党は壊滅状態にとなったのである。

 

  • 無原則な野合、野党候補の絞り込みが加速

立憲民主党は、国民民主党が参議院選挙で壊滅的状況となり解党・分党が避けられないとみているようである。

東京ばかりではない。千葉でも国民民主党から除籍処分を受けた長浜博行元環境相を擁立した。しかし国民民主党は対抗馬を擁立することができなかった。

「枝野ドクトリン」は、国民民主党の現職や候補者を引き抜くなど、東京の流れを全国に展開となると、国民民主党は追い詰められる。

立憲民主党が候補を見送った選挙区で国民民主党の当選議員も、立憲民主党になびくことは目に見えている。

枝野戦略は、旧民進党系のほとんどを結集し、共産党とも共闘を重ね、かつて1960~70年代の社共共闘の再来を構想しているのではないだろうか。

つまり野党間には理念や政策の一致すらなく、あるのは無原則な野合である。

 

  • 政局の節目であったイノシシ年

今年はイノシシ年である。イノシシ年は、統一地方選挙と参議院選挙があり、これまでも政局の節目となっていた。

前回のイノシシ年は12年前2007年であり、首相も安倍晋三であった。

この2007年の参院選では、改選125議席のうち、自民が37議席という惨敗を喫し、野党民主党は60議席を獲得し参議院で第一党となった。安倍首相は選挙の1カ月半後に退陣表明した。

この年は一人区29のうち23選挙区で野党が勝利したのであり、選挙の帰趨は一人区の獲得議席がポイントとなる。

6年前2013年の参議院選挙では、自民党は一人区31のうち、岩手と沖縄を除く29選挙区で議席を得たが、3年前2016年では一人区32のうち当選者は21名と後退し、野党系が11名となった。

2016年で野党が11勝と善戦したのは、一人区においては民進・共産・社民・生活(小沢一郎系)の野党4党が、候補者を一本化したからであった

今年の改選者は、野党が競合した6年前2013年の改選組であり、一人区の自民党の苦戦は否めない。

今回も、与党自民党は取りこぼしが多いとみられる。

それは統一地方選挙の直後の参議院選挙であり、地方選挙後の国政選挙で自民党は苦戦を強いられている。

自分の選挙を終えたばかりの地方議員の動きが鈍くなるからである。

(敬称略)