2019-06-03(令和元年)松尾芳郎
令和元年5月における我が国周辺での中露両軍の活動は前月に比べ多少減ったものの、依然として続いている。防衛省統合幕僚監部が特異事象として公表したのは次の5件である。
(According to the Ministry of Defense Joint Staff Japan, Chinese and Russian Forces movements around the Japanese Islands were kept as usual during May, 2019. Five events were reported.)
中国軍事委員会の指揮を受ける人民武装警察部隊の海警総隊として再編された海警局の公船4隻よる沖縄県尖閣諸島周辺の接続水域および領海への侵犯が連日続いている。尖閣諸島海域への侵犯は4月中旬から50日間連続して行われている。
- 05/03 公表 ロシア機の日本海および東シナ海における飛行について
- 05/07 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
- 05/13 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
- 05/29 公表 中国機の東シナ海および太平洋における飛行について
- 05/30 公表 中国海軍艦艇の動向について
- 05/03 公表 ロシア機の日本海および東シナ海における飛行について
5月3日金曜日ロシア空軍のTu-142哨戒機2機が日本海から対馬海峡南側を通り東支那海に抜け、再び往路を同じ航路で日本海に戻った。航空自衛隊は戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。
図1:(統合幕僚監部)5月3日に対馬海峡南側を通過、日本海と東支那海を往復したロシア海軍のTu-142哨戒機2機のうちの1機。戦略爆撃機TU-95型機を対潜哨戒機にしたのがTU-142。新型のTU-142MZは北極海、太平洋で活動するロシア戦略原潜の位置を特定できる能力を持つ。ロシア海軍では27機を運用している。出力14,800hpのクズネツオフNK-12MPターボプロップ4基、最大離陸重量185㌧、最高速度925km/hr、航続距離は6,500km。
図2:(統合幕僚監部)5月3日のロシア海軍Tu-142哨戒機2機の行動は、ロシア・中国両海軍が黄海で行なっている”海洋協働-2019”演習に参加するためと思われる。
- 05/07 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
5月5日(日曜日)午前11時、下津島南西220 kmの海域を北東に進むロシア太平洋艦隊旗艦スラバ級ミサイル巡洋艦を発見した。発見、追尾したのは海上自衛隊第5護衛隊所属のイージス艦「こんごう」および呉基地第12護衛隊所属の護衛艦「うみぎり」である。
同日午後2時、同海域を北東に進むロシア太平洋艦隊のステレグシチー級フリゲート、キロ級潜水艦、およびイゴリ・ベロウソフ潜水艦救難艦の合計3隻を発見した。いずれも日本海に入ったことを確認した。発見追尾したのは第12護衛隊所属の護衛艦「うみぎり」および厚木基地第4航空群所属の「P-1」哨戒機である。
また5月6日(月曜日)午前6時、同海域を北東に進むロシア海軍ロプチャーI級戦車揚陸艦を発見した。発見、追尾したのは佐世保基地第2掃海隊所属の「たかしま」と厚木基地第4航空群所属の「P-1」哨戒機である。
これらのロシア艦艇はいずれも日本海に入ったことを確認した。また、これら艦艇は去る4月24日(水)および同26日(金)に対馬海峡を南下した艦艇である。
5月7日、本艦隊の行動について「「ウリヤノスク赤旗・親衛ロシア海軍情報局」は「親衛ロケット巡洋艦”ワリヤーグ“は、ロシアー中国演習”海洋協働-2019”の後にウラジオストクに戻ってきた」と題し、次のように報じた。
“ワリヤーグ”は、7隻の艦隊を率い、近年最大となるロシア・中国海軍双務演習「海洋協働2019」に参加した。演習は4月29日から5月4日まで黄海で行われた。途中青島に寄港したのを含み、黄海で砲射撃および深海爆撃を実施し、対潜任務、合同戦術操艦、訓練を行なった。“ワリヤーグ”は期間中3,000海里を航行した。
図3:(統合幕僚監部) 「ワリヤーグ(Varyag)」(011)は太平洋艦隊旗艦 。1989年就役で2008年に近代化改修を完了。満載排水量11,500 ton、空母機動部隊攻撃が主任務。同型艦は3隻が配備中である。両舷に見える4本の筒には、射程距離700km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン(Vulkan)」対艦ミサイルを装備、各筒に2基ずつ、合計16基を搭載している。
図4:(統合幕僚監部)「ステレグシチー(Steregushchiy)」 級フリゲートは、ステルス形状で水中抵抗も従来船型より25%減となった。満載排水量2,200 ton、全長104,5 m、速力27 kt、マスト頂部はSバンド3次元レーダー、マスト本体は最新式の閉囲型で内部に各種レーダーを装備する。兵装は、対空戦用にGSh-630M 30 mm ガトリング砲2基、陸上用対空ミサイルS-400を艦載用に改良したものを12セルのVLS(垂直発射装置)に装備。さらに対艦用に3M24ウラン対艦ミサイルを4連装発射筒2基に搭載。艦番号[333]は2017年就役の3番艦「ソベルシェンヌイ」で太平洋艦隊に配属されている。同型艦は4隻が就役済みで、3隻はバルチック艦隊に配備。現在3隻が建造中でいずれも太平洋艦隊に配属される予定。
図5:(統合幕僚監部)近代化改修を終えて2017年に復帰したキロ級潜水艦「コムソモリスク・ナ・アムーレ(Komsomolsk-na-Amure)」。ジーゼル・エレクトリック動力の攻撃型潜水艦。ロシア海軍は改良型(636.3型) を含み28隻を保有する。水上排水量2,300 ton、水中排水量3,000- 4,000 ton、全長70-74 m、水上速力12 kt、水中速力25 kt。動力は1000 kWジーゼル発電機2基、出力6,800 shpモーターでスクリューを回す。45日間のパトロールができる。潜航深度は230 m。兵装は口径533 mmの魚雷発射管6門と魚雷18発、爆雷24個、対空ミサイル8発を装備。636.3改良型は対地・対艦攻撃用の巡航ミサイル“カリブー(Kalibur)”を発射できる。中国海軍に新型10隻を含む12隻、インド海軍に旧型10隻、イラン海軍に旧型3隻、ベトナム海軍に新型6隻、を輸出。
図6:(統合幕僚監部) イゴリ・ベロウソフ潜水艦救難艦は2016年6月就役、太平洋艦隊に配属された。満載排水量5,000 ton、全長100 mプラス、速力15 kt。写真中央の赤色は“深海潜水艇ペステル-1 As-40”、後部の黄色構造は”遠隔操作水中捜索救助装置パンテラ・プリュス“である。同艦はプロジェクト21300S救難艦と呼ばれ、5隻の建造を予定中。
図7:(統合幕僚監部)大型揚陸艦「オスラビア」。ロシア海軍ではプロジェクト775と呼ばれる揚陸艦。満載排水量4,000 ton、全長112.5 m、速力17.8 knot、艦内には全長95 m、幅4.5 m、高さ4.5 mのデッキが設けられ装甲戦闘車両24両を含み482 tonの積載能力がある。また海軍歩兵225名を収容できる。現在19隻が就役中。写真の艦番号[066]オスラビアは太平洋艦隊第100揚陸艦旅団に所属している。
- 05/13 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
5月11日(土)午前10時、北海道南西の松前半島の白神岬の西160 kmの海域を東に進むロシア海軍アドミラル・ゴルシコフ級フリゲート、バクラザン級救難曳船、エルブルス級航洋曳船の合計3隻を発見した。これら艦艇は津軽海峡を東進し太平洋に入ったのを確認した。発見追尾したのは八戸基地第2航空群所属「P-3C」哨戒機と第1ミサイル艇隊所属の「わかたか」である。これらのロシア艦艇は、3月28日(日)に対馬海峡を北上、東支那海から日本海に入ったものと同一である。
5月30日、本艦隊の行動につき「ウリヤノスク赤旗・親衛ロシア海軍情報局」は「北方艦隊の艦・支援船支隊は太平洋西部で捜索・救助支援演習を実施した」と題し、次のように報じた。
参加したのは最新鋭フリゲート艦「アドミラル・ゴルシコフ」、多機能物資・サービス支援船「エリブルス」、救助曳船「ニコライ・チケル」(バクラザン級救難曳船)、中型海洋給油船「カーマ」。艦隊は3月3日ノルウエー沖で潜水艦捜索訓練、英仏海峡を通過、ジブラルタル海峡を通り、地中海に入る。マルタ島沖で潜水艦捜索訓練を実施、3月21日には紅海に、それからジプチ寄港、アラビア海で対空戦闘訓練、スリランカのコロンボ港に寄港、それから4月23日中国青島で中国海軍創立70周年記念行事に参加した。4月26日に青島を出港、対馬海峡を通過してウラジオストックに到着。5月10日に出港、北海道・青森県の間の津軽海峡を通過して中部太平洋に向かった。そして5月15日にはハワイ沖に到着、周辺海域に止まり5月24日にはハワイ諸島の東側海域で対潜演習を実施した。
図8:(統合幕僚監部)ロシア北方艦隊1等多目的フリゲートの1番艦「アドミラル・ゴルシコフ(Admiral Gorshkov) 艦番号[454]は最新鋭のフリゲートで2018年7月に就役したばかり、今回が初めての遠洋航海。Admiral Gorshkov級フリゲートは[22350]型と呼ぶ。同級艦は他に3隻が完成済みで現在試験中。さらに2隻が北方造船所で4月20日に建造開始、起工式にはプーチン大統領が出席した。
本級は前級のソブレメンヌイ級駆逐艦の後継艦で、満載排水量4,500 ton、全長135 m、速力30 knot、上部構造は六角推の統合マストなど炭素繊維複合材で作られている。エンジンは巡航用デイーゼル(5,200 hp)と高速用ガスタービン(27,500 hp)を組合わせたシステムを2基搭載している。主な兵装は、艦首に130 mm速射砲1門、また艦対空ミサイルは3K96リドートで、これは短射程/15 km、中射程/120 km、超射程/200 km、の3種のミサイルを使い分けできる。対艦ミサイルは16セルにP-800やカリブルNKを搭載できる。
図9:(統合幕僚監部)救助曳船1番艦「ニコライ・チケル」は1989年4月就役の世界最大級のタグボート。
図10:(統合幕僚監部)多機能後方支援船の1番艦「エルブルス」は2018年4月就役の最新型支援船。
- 05/29 公表 中国機の東シナ海および太平洋における飛行について
5月29日(水)、中国空軍のY-8電子戦機1機が東支那海から対馬南に接近し再び東支那海に戻った。またY-9情報収集機1機が沖縄本島と宮古島間の宮古海峡を通り、東支那海と太平洋を往復した。航空自衛隊は戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を未然に防いだ。
図11:(統合幕僚監部) 中国はロシア製貨物輸送機An-12BをベースにY-8輸送機を開発した。Y-8輸送機は1981年から生産が始まり100機弱が作られた。これをベースに早期警戒機、洋上哨戒機、電子戦機など多数の派生型が実用化された。その一つが「高新1号」Y-8CB電子戦情報収集機。今回の機は新たに垂直尾翼頂部のアンテナと前部胴体側面に大きなフェアリングがあるので、改良型の「高新3号」Y-8G電子戦機か?。エンジンはWJ-6ターボプロップ4,250 hp x 4基、航続距離5,600 km。
図12:(統合幕僚監部)Y-9はアントノフ(Antonov) An-12輸送機を国産化した陜西Y-8Fを基本にし、胴体を延長した輸送機で、貨物搭載量は25 ton、人員なら100名+を運べる。西側のC-130J輸送機に相当する。2009年から中国空軍に配備が始まっている。これを情報収集機に改造したのが本機である。機首と胴体側面前後にアンテナを収める膨らみがあるので「Y-9JB」型?、我が空自、海自や米軍の通信、レーダー波、などを傍受し諜報活動を行うELINT (電子情報収集)型である。エンジンは中国製WJ-6C (5,100 hp)、最大離陸重量65 ton、貨物積載量20 ton、航続距離1,000 kmとされる。
図13:(統合幕僚監部)5月29日の中国空軍Y-8電子戦機とY-9情報収集機の飛行経路。
- 05/30 公表 中国海軍艦艇の動向について
5月26日(日)午前7時、宮古島北東100 kmの宮古海峡海域を南に進む中国海軍のジャンカイII級フリゲート1隻を発見した。同艦は宮古海峡から太平洋に出たが5月30日(木)に再び宮古海峡を北上、東支那海に戻った。発見、追尾したのは厚木基地第4航空軍所属の「P-1」哨戒機である。
図10:(統合幕僚監部)「江凱II」級フリゲートは「054A」型とも呼ばれ、試作の「江凱I」級を改良した艦で、満載排水量は4,000〜4,500 tonの大型艦。速度28 kt、航続距離は3,800 kmに達する。前甲板にはMk.41に似た32セルのVLSを備え、HQ-16対空ミサイル(紅旗16)を収納。HQ-16は、射程25〜42 km、射高17 km、速度マッハ4、特に超低空で飛来する目標への迎撃能力を重視したミサイル。この装備で「江凱II」級は僚艦防空能力を備えるフリゲートとなった。1番艦「舟山」2008年就役以来28隻が建造され、写真の「濱州」は23番艦、2016年の就役である。
- 中国海警局公船による連日の尖閣諸島周辺接続水域および領海の侵犯
中国軍事委員会の指揮を受ける人民武装警察部隊の海警総隊として再編された中国海警局の公船4隻よる沖縄県尖閣諸島周辺の接続水域および領海への侵犯が連日続いている。尖閣諸島海域への侵犯は4月中旬から50日間以上連続して行われ現在も続いている。これに対し我が海上保安庁は、巡視船を配置、音声警告と電光板の警告表示で対応するだけ、侵犯の詳しい情報を国民に知らせることもせず、また外務省もその都度抗議をする様子もない。政府の態度は何とも生ぬるい。
図11:(第11管区海上保安本部)4月5日以降、沖縄県尖閣諸島海域で接続水域および領海侵犯を繰り返す中国海警局公船として姿を現した海警1501。海警1501は5,000 ton級の大型武装船。
図12:我国固有の領土である尖閣諸島の島々。手前から南小島、北小島、魚釣島。この周
囲を中国海警局船が連日遊弋している。
―以上―