パリ航空ショーでエアバスが発表したA321XLR、ショー期間中に226機を受注


2019-06-29(令和元年) 松尾芳郎

 

エアバスはパリ航空ショー(2019-06-17 ~23日開催)の初日に、長らく期待されていたA321XLRの開発を発表した。A321XLRは、狭胴型機最大の航続距離8,700 kmを飛行でき、座席当りの燃費は現用機より30%以上少ない。ボーイングが検討中の新中型機NMAより2年早く就航する。

(Airbus launched the long-expected A321XLR on the opening day of the Paris Air Show. The A321XLR is the single-aisle jetliner offer as next step for the A321neo family. It will offer more range up to 8,700 km, 30 % lower fuel burn per seat than Boeing 757. )

A321XLR写真

図1:(Airbus) A321neo XLRは、航続距離8,700 km、客席数は標準2クラスで180~220席、全長44.51 m。床下貨物室にはLD3コンテナ/パレットを10個搭載できる、時速はマッハM 0.82、最大離陸重量101 ton、2023年末の就航を目指す。

エアバスA320系列機は双発の狭胴型機で短中距離用。1988年から就航した基本の「A320系列機」と、エンジンを新型にした「A320neo系列機」がある。

A320系列機には座席数、航続距離によりA318、A319、A320、A321がある。A320は1988年3月にエアフランスで初就航した。これまでに8,100機以上を受注し、大部分が納入済みで、間も無く生産を終了する。

A320neo系列機はエンジンを新型に変え、ウイングレットを付けて燃費を改善した機体で、2016年から就航した。系列機にA319neo、A320neo、A321neoがあり、受注は合計で7,000機ほど、新しい型なので引渡しは未だ1,000機程度である。基本形のA320neoが2016年1月からルフトハンザ航空で就航している。”neo”とは”new engine option”の略で新型エンジン装着機の意味。

A32XFAMILYv1.0

図2:(Airbus)エアバスA320系列機の比較図。基本のA320と比べA321は胴体長さが6.94 m延長している。A320の翼上にある2個の非常口は、A321では翼前後のドアに変更された。A321は離陸重量がA320の83 tonから96 tonに増えたため、中央胴体とランデングギアが強化されている。A321では、性能を維持するためフラップを2段式(double slotted flaps)に改め、さらに翼後縁を変更し翼面積を124 m2から128 m2に広げている。翼幅は変わらない。A320系列機の客室の幅はボーイング737より17 cm以上(7 inch)広く狭胴型機の中では最も大きい。

 

A321neo

A320neo系列機で最も大型のA321neoの機体構造は、基本のA320と95 % が共通。neo系列機は最小の改良で最大の効果を得ていると言って良い。A320neo系列機のエンジンはCFM Internationalの[LEAP-1A]またはPratt & Whitneyの[PW1100G-JM]のいずれかを選べる。パイロットは他のA320系列機の操縦資格があれば追加訓練なしでA321neoの操縦ができる、つまり法的には“共通資格(Common Rating)”が適用されている。

A320neo系列機は、基本のA320系列機に比べて座席あたりの燃費は20 %向上し、航続距離は900 km伸びている。同じ航続距離にした場合は積載量を2 ton増やせる。

A321neoは、2010年12月に開発が決まり、初飛行は2016年2月。

A321neoは、客室ドアを増やし最大座席数244席で証明を取得済み(許容される席数は、非常脱出を想定してドア合計の開口面積で決まる)。2017年5月にバージン・アメリカ(Virgin America)航空に引き渡され就航した。

 

長距離用の狭胴型機A321 LR (“neo”表示を省略、以下同様)

A321LRは、A320neo系列機で最も胴体が長く、最大離陸重量は97 ton、中央翼内に3つ燃料タンクを追加(ACT=Additional Center Tanks)、2クラス206名の乗客を乗せ7,400 km (4,000 nm)を飛べる。これで、従来の狭胴型機で飛べなかった広範囲の大西洋横断路線が可能になった。A321LRは、2018年10月にEASA(European Aviation Safety Agency・欧州航空安全庁)およびFAA(Federal Aviation Administration・米国連邦航空局)から証明を取得した。1号機は、2018年11月にローンチ・カスタマーのアルキア・イスラエル(Arkia Israeli)航空に納入された。

 

超長距離用の狭胴型機A321XLR

A321neo系列機の性能を更に向上したA321XLRは、2023年の就航を目指して開発が始まった。A321XLRは、中央翼後部に燃料タンク(RTC=Rear Center Tank)を増設、最大離陸重量を101 tonに増加、このためランデイング・ギアを強化し、フラップを改良する。これで8,700 km (4,700 nm)の超長距離運航を可能にする。現在使われているボーイング757と同じ路線に使え、しかも座席当りの燃費は757より30 % 少なくなる。

就航予定は、ボーイングが検討している同サイズの新型機[NMA (New Midmarket Airplane)]より2年も早い。[NMA]については、TokyoExpress 2017-06-26 “ボーイング新中型機(NMA)構想とエンジン選定“を参照されたい。

座席当りの燃費はA320系列機より20 %少なく、年間CO2ガス排出は大きく減り、乗客と空港周辺が受ける騒音範囲は半減する。

客室内装は、全席フルフラットのビジネス席仕様から244席の全席エコノミークラス仕様まで選択できる。内装にはエアバスが開発した最新の”Airspace by Airbus”仕様になっていて、乗客の疲労軽減に役立っている。特に頭上の手荷物収納棚(overhead storage bins)は、在来型より40 %も容量が増え”XL bins”と呼ばれる。

パイロットは他のA320neo機と同様”共通資格(common rating)”で乗務することが認められる。

A321XLR就航可能路線

図3:(Airbus) A321XLRは8,700 km (4,700 nm)の超長距離路線を飛べる。これで札幌―デリー、中東からバリ島、日本からオーストラリア、ローマからニューヨーク、マイアミからブエノスアイレスなどの路線に使える。

 

航空ショー期間中、エアバスは363機を受注

エアバスの発表によるとショー期間中に受注(確定、覚書/Firm, MOU & LOI)した機数は合計で363機、この3分の2になる226機をA321XLRが占めた。

一方ボーイングは、737MAXの飛行停止が続いていることが影響し、期間中の受注は292機にとどまった。ボーイングの最大の受注は、英国航空を含む欧州エアラインを保有する[IAG =International Airlines Group]からの200機に達する737MAX 購入覚書である。他には大韓航空から787-9と787-10合計20機のMOU署名などが注目される。

以下にエアバスの機種ごとの受注機数を示す。

・A220系列機 85機

A220は旧ボンバルデイア(Bombardier)のCSeries型機、双発狭胴型で100席級のA220-100と130席以上のA220-300がある。-100は2016年7月スイスエアで、-300は2016年12月エアバルチックでそれぞれ就航を始めた。今年5月までの受注数は-100 /95機、-300 /461機。ショー期間中にALC (Air Lease Corp)が50機、Nordic Aviation Capitalが20機などを発注した。

・A320neo系列機 127機

ショー期間中の受注は、サウジアラビア航空(Saudi Arabian Airlines)から30機、ALCから23機、Accipiter Holdingsから20機、中華航空から11機、セブ・パシフィックから5機、などとなっている。

・A321XLR 226機

本題のA321XLRはショー初日に発表されたばかりだが、受注はアメリカン航空/50機、インデイゴ・パートナーズ(Indigo Partners )/50機、カンタス航空/36機、ALC/27機、サウジアラビア航空/15機、イベリア/エア・リンガス(Iberia/Aer Lingus)/14機、セブ・パシフィック/10機などとなっている。

・A330neo系列機  24機

セブ・パシフィック/16機、バージン・アトランテイック/8機。それにVirgin社はALCから6機をリースする。

 

A321XLRを発注した主な企業について簡単に紹介してみよう。

・アメリカン航空(American Airlines)

本社はテキサス州フォートオース(Fort Worth, Texas)にあり、保有機数、収入、輸送旅客数、発着地点数などで世界最大の航空会社。傘下のリージョナル航空「アメリカン・イーグル」(American Eagle)を含めると、ダラス・フォートオーなど全米10箇所のハブ空港などから毎日6,700のフライトで50万人の乗客を輸送している。従業員総数は13万人。2018年7月で運用する機数は956機、このうちの422機はエアバスの機体で、アメリカンは世界最大のエアバス機ユーザーである。他にボーイング757を34機、エンブラエル190などを運用中だが2020年代前半に退役し、737MAXとA320neoに置き換える。広胴型機は主としてボーイング機で、767では世界3位の機数、777では世界第5位。エアバスA330も運用している。

American A321XLR

図4:(Airbus S.A.S.2019-cpmputer rendering by FIXION-photo by dreamstine.com-MMS-2019) アメリカン航空がパリ航空ショー2019で50機発注したエアバスA321 XLRの完成想像図。発注内容は、現在アメリカンが発注済みのA321neoのうち30機をA321XLRに変更し、新たに20機を追加して合計50機とするというもの。A321XLRはA321neoと90 %以上共通でエンジンも同じものを使う予定。今回の発注で同社のA321neoとA321XLR合計発注機数は115機となった。

 

・インデイゴ・パートナーズ(Indigo Partners)

インデイゴ・パートナーズは米国フェニックス(Phoenix, Arizona)に本社のある低価格航空事業(LCC)への投資をする企業である。今回A321XLRを新たに32機発注し、既発注のA321neoのうち18機をA321XLRに変更し、合計50機購入の覚書(MOU)を交わした。米国のフロンテイア航空(Frontier Airlines)、チリ(Chile)のジェット・スマート(JetSMART)、メキシコのボラリス(Volaris)、ハンガリー(Hungary)のウイズ・エア(Wizz Air)、が傘下にある。

今回発注の50機は、12機をジェット・スマート、18機をフロンテア、20機をウイズ・エアに配分する。

現在各種エアバス機295機を運用し、発注中を含めると合計636機を所有することになる。

A321XLR-JetSMART

図5:(Airbus S.A.S.2019-cpmputer rendering by FIXION-photo by dreamstine.com-MMS-2019) チリのジェットスマート(JetSMART)社はインデイゴ・パートナーズ経由で12機のA321XLRを受領運航する。

A321XLR-Frontier

図6:(Airbus S.A.S.2019-cpmputer rendering by FIXION-photo by dreamstine.com-MMS-2019)米国のフロンテアー・エアラインズ(Frontier Airlines)は、インデイゴ・パートナーズ経由で18機のA321XLRを受領する。

A321XLR-Wizzair

図7:(Airbus S.A.S.2019-cpmputer rendering by FIXION-photo by dreamstine.com-MMS-2019)ハンガリーのウイズ・エア(Wizzair)はインデイゴ・パートナーズ経由で20機のA321XLRを受領、運航する。

 

・ALC (Air Lease Corporation)

ALCは米国の航空機リース会社で、2010年にステイーブン・ウドバーヘイジー(Steven F. Udvar-Hazy)氏が設立した。本社はロスアンゼルス。現在エアバス、ボーイング、エンブラエル、ATRの各種航空機345機をを所有、世界の95航空会社にリースしている。

ショー期間中、ALCはエアバス機100機を発注した。内訳はA220-300 (旧ボンバルデイアCSeries) を50機、A321XLRを27機、A321neoを23機。これでALCは387機のエアバス機を運用することになり、リース企業の中でエアバス機の3番目の顧客となる。

ALCは、このほかにボーイングの広胴型機787-9を5機発注した。その他に787-10型機10機を大韓航空にリースすると発表している。

A321XLR-ALC

図8:(Airbus S.A.S.2019-cpmputer rendering by FIXION-photo by dreamstine.com-MMS-2019)ALCが27機発注したA321XLRの完成予想図。

 

結び

A321XLRの開発決定を受けて、ボーイングは検討中の[NMA=New Midmarket Airplane]の決定を急がれている。伝えられるところでは[NMA]は、757と767の中間のサイズで、[Boeing 797]と仮称されている。225席級で航続距離9,300 kmの型と、275席級で8,300 kmの型の2機種が検討中。最終の開発決定は2020年に行い、2025年の就航を目指す、と言うもの。

前述のようにA321XLRは、2クラス206名または最大244名を乗せ8,700 km飛行でき、2023年末の就航を予定している。

ボーイングは[NMA]のエンジンについて、昨年6月に推力45,000 lbs以上で燃費はボーイング757のそれより25 %以上改善、が要件と、メーカーに通知した。これに対応するにはファン・バイパス比は10:1程度になる。なお757は、2004年生産終了までに1,050機が作られ、座席数200~289、航続距離7,500kmの狭胴型機。エンジンはロールス・ロイスRB211系列またはP&W2000系列を2基装備している。

2019年2月にロールス・ロイスは開発中のウルトラ・ファン(Ultrafan)が間に合わないため参加しないと発表した。GE/CFMは、[NMA]の市場規模を見極め独占受注が可能なら、新エンジン開発に踏み切るとしている。試算ではA321XLRや「NMA」クラスの中型機の市場規模は2000~4000機とされ、エンジンを新規開発する場合、独占受注でないと収支を償えないとされる。

PWAは20年の歳月と100億ドル以上を投じて完成したPW1000G ギヤード・ターボファン(GTF=Geared Turbofan)の改良で対処する。すなわち生産中のA321neo用のPW1135G-JM(推力35,000 lbs )の大型化で対応できる。

 

-以上-

 

 

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Aviation Week Show News Jun 17, 2019 “Airbus Launches A321XLR on Back of ALC Order” by Jens Flottau

Airbus June 19, 2019 “American Airlines agrees to order 50 Airbus A321XLRs”

Airbus June 17, 2019 “Air Lease Corporation to order 100 aircraft, including the new A321XLR”

TokyoExpress 2017-06-26 “ボーイング新中型機(NMA)構想とエンジン選定“