2019-07-05 (令和元年) 松尾芳郎
6月28、29の両日行われたG20大阪サミットでは、安倍総理はプーチン大統領、習近平主席と相次いで会談したが、いずれも我国との間にある懸案事項は棚上げにしたまま笑顔で握手する見せかけの友好関係を演出した。
ロシアとの間では、ロシアが不法に占拠している北方4島の返還問題があり、この解決なくしては両国間の平和条約締結はあり得ない。
中国との間では、スパイ活動の疑いで数名の邦人が拘束され懲役刑に処されているし、沖縄県尖閣諸島の周辺では連日中国海警局の艦艇が接続水域及び領海への侵犯を繰り返している。
またここに示すように6月も中露両軍は我が国周辺で相変わらず活発な動きを見せている。
ロシアおよび中国との真の友好関係を樹立するには、両軍による我国周辺での行動を中止すること、及び前述の諸問題の解決が前提でなくてはなるまい。
6月の両軍の動きで特に注目すべきは、10日早朝から深夜にかけて空母「遼寧」をを含む中国艦隊が東シナ海から宮古海峡を通過、太平洋に進出した件、それと20日にロシア空軍戦略爆撃機の2機が我が国領空を侵犯した件である。いずれもマスコミで大きく報道された。
図1:(AAFP=時事)2017年1月2日、南シナ海演習で撮影された空母「遼寧」の写真。6月10日の写真は夜間撮影のため不鮮明なので代わりにこれを掲載する。「遼寧(Lianning)」はソ連が崩壊前に建造を始めたアドミラル・クズネツオフ級空母「バリヤーグ」の未完成艦を、ウクライナから購入(1998年)、中国が10年以上掛けて完成(2012年)した艦である。満載排水量は約60,000 ton、飛行甲板長305 m、速力30 kt、J-15艦上戦闘機24機と各種ヘリコプター14機ほどを搭載する。発艦はスキージャンプ方式、カタパルトはない。
令和元年6月統合幕僚監部発表「報道発表資料」と令和元年6月 防衛省発表「お知らせ」
統合幕僚監部発表の「報道発表資料」と防衛省発表の「お知らせ」の合計9件を示す。
- 06/10 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
- 06/11 公表 中国海軍艦艇の動向について(空母遼寧など太平洋に進出)
- 06/11 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
- 06/13 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
- 06/16 公表 中国機の東シナ海及び太平洋における飛行について
- 06/17 公表 中国海軍艦艇の動向について
- 06/20 お知らせ ロシア機による領空侵犯について(本件は令和元年6月 防衛省発表の「お知らせ」)
- 06/21 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
- 06/24 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
以下に「報道発表資料」及び「お知らせ」の内容を紹介する。
1. 06/10 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
6月8日(土)午前5時、北海道宗谷岬の西120 kmの海域を東に進むロシア海軍ステレグシチー級フリゲート1隻とロプチャーI級戦車揚陸艦1隻を発見した。その後これら艦艇は宗谷海峡を抜けオホーツク海に向け航行した。
発見、追尾したのは海上自衛隊余市第1ミサイル艇隊所属の「くまたか」である。
図2:(統合幕僚監部)ロシア海軍の「最新鋭コルベット」。ステルス形状で、水中抵抗も従来船型より25%減となった。満載排水量2,200 ton、全長104,5 m、速力27 kt、マスト頂部はSバンド3次元レーダー、マスト本体は最新式の閉囲型で内部に各種レーダーが装備されている。兵装は、対空戦用にGSh-630M 30 mm ガトリング砲2基、陸上用対空ミサイルS-400を艦載用にし12セルのVLS(垂直発射装置)に装備。さらに対艦用に3M24ウラン対艦ミサイルを4連装発射筒2基に搭載している。小型だが高性能のフリゲートだ。艦番号[333]は2017年就役の3番艦「ソベルシェンヌイ」で太平洋艦隊に配属され頻繁に姿を現している。同型艦は4隻で、3隻はバルチック艦隊に配備中。現在3隻が建造中でいずれも太平洋艦隊に配属される予定。
図3:(統合幕僚監部)プロジェクト775と呼ばれる揚陸艦。満載排水量4,000 ton、全長112.5 m、速力17.8 knot、艦内には全長95 m、幅4.5 m、高さ4.5 mのデッキがあり装甲戦闘車両24両を含む482 tonの積載能力がある。また海軍歩兵225名を収容できる。現在19隻が就役中。写真の[055]は太平洋艦隊第100揚陸艦旅団に所属。
2. 06/11 公表 中国海軍艦艇の動向について(空母遼寧など太平洋に進出)
6月10(月)午前7時、沖縄県沖縄本島近くの久米島の北西270 kmの海域を南東に向かう中国海軍のルージョウ級ミサイル駆逐艦1隻およびフユ級高速戦闘支援艦1隻を発見した。
発見追尾したのは海上自衛隊呉基地第12護衛隊所属の「うみぎり」、横須賀基地第11護衛隊所属の「やまぎり」、および舞鶴基地第14護衛隊所属の「まつゆき」である。
また同日午後9時、同じ久米島の北西350 kmの海域を南東に進む空母「遼寧」、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦1隻およびジャンカイII級フリゲート2隻の計4隻を発見した。
発見、追尾したのは上記「まつゆき」と那覇基地第5航空群所属の「P-3C」哨戒機である。
その後、これらの艦艇は沖縄本島―宮古島間の海域を南下、太平洋に向け航行した。なお「フユ」級高速戦闘支援艦は、初めて姿を現した艦である。これら4隻の写真は夜間の撮影のため極めて不鮮明である。
相前後して宮古海峡を通過した「遼寧」を含むこれら6隻の艦隊は、グアム島近くの海域に進出、演習を行ったものと見られる。
図4:(統合幕僚監部)「ルージョウ/旅洲」級は[051C]型と呼ばれ、ロシア製S-300 長射程(高度25~30 km)のS-300FM対空ミサイル8連装回転式VLSを前甲板に2基、後部構造物に4基(合計48発)装備する防空駆逐艦。対艦兵装はYJ-83対艦ミサイル(C-803)の4連装発射機2基を備える。写真の[116]は「瀋陽」で2006年就役で2番艦[116]「石家荘」と共に北海艦隊に所属。満載排水量7,100 ton、全長155 m、速力30 kt。これを改良したのが[052C]型駆逐艦である。
図5:(統合幕僚監部)中国海軍補給艦の中で[901]型と呼ばれ2隻が作られ、写真の艦番号[965]「呼倫湖」はその1番艦。2017年9月就役の最新大型輸送艦。満載排水量48,000 tonで、これまでの主力補給艦[903/903A]福地型の2倍近いサイズ。空母機動部隊の専用補給艦として建造された。米海軍の空母随伴の戦闘支援艦「サプライ」級を参考に作られたと言われる。艦中央に門型の補給ポスト3基が見える。艦尾には大型ヘリ発着可能な甲板があり、艦載ヘリZ-8を2機搭載する。推進動力には4基のガスタービンを採用、2軸推進で最大25 ktの速度で空母艦隊と同行する。
図6:(統合幕僚監部)空母「遼寧」。「図1の説明を参照」
図7:(統合幕僚監部)「ルーヤンIII/旅洋III」型は[052D] 型駆逐艦で、前身の[052C]を改良した最新の防空駆逐艦。1番艦「昆明」は2014年に就役。写真の[117]は5番艦「西寧」で2017年就役。同型艦は12隻が完成済み、建造中を含めると23隻になる予定。満載排水量7,500 ton、全長160 m、速力29 kt。兵装は対空/対艦/対巡航/対潜ミサイル発射用8セル型VLSを8基(合計64セル)を装備する。これにHQ-9B対空ミサイル、YJ-18対艦ミサイルなどを搭載する。我国の「あたご」型イージス艦に比べるとやや小型だが、総合的な性能はほぼ同じ、しかし数では圧倒的に中国海軍の方が多い。
図8:(統合幕僚監部)「ジャンカイII/江凱II」型は「054A」フリゲートで、2008年に1番艦「舟山」が就役した。満載排水量4,500 ton、全長137 m、速力27 kt、HQ-16対空ミサイルを米国のMk41 VLSに似た32セルVLSに収めている。対艦ミサイルは艦中央部にYJ-83型を4連装発射機2基に格納している。[045A]フリゲートは外洋艦隊用で防空能力の強化を図っている。写真の[576]「大慶」は17番艦で2015年就役。
図9:(統合幕僚監部)説明は図8を参照。艦番号[598]「日照」は27番艦、2018年1月就役の最新型。同型艦は30隻になる予定。
3. 06/11 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
6月3日(月)午前10時、宮古島の北東165 kmの海域を南に進むロシア海軍ウダロイI級駆逐艦2隻を発見、その後両艦は宮古海峡を南下し、南北大東島周辺を航行、宮古海峡を往復するなどして6月8日(土)に宮古海峡から東シナ海に入った。なおこれら艦艇は4月2日に対馬海峡を南下したものと同一である。
発見、追尾したのは那覇基地第5航空群所属の「P−3C」哨戒機である。
図10:(統合幕僚監部)ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦(564)。満載排水量8,500㌧の大型対潜艦、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリコプター2機、それにSA-N-9型個艦防空ミサイルを装備する。1980—1991年にかけて12隻が作られ、現在8隻が就役中。太平洋艦隊には4隻が配備されている。日米海軍のイージス艦に近い性能と兵装を持つ。
図11:(統合幕僚監部)図10の説明を参照。
4. 06/13 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
6月12日(水)午前8時、下津島の南西150 kmの海域を北東に進むロシア海軍ウダロイI級駆逐艦2隻、及びドウブナ級補給艦1隻、合計3隻を発見した。その後同艦艇は対馬海峡を北上し日本海に向け航行した。
発見、追尾したのは佐世保基地第3ミサイル艇隊所属の「しらたか」と鹿屋基地第1航空群所属「P-3C」哨戒機である。
なおこれら艦艇は4月2日に対馬海峡を南下したものと同じである。
図12:(統合幕僚監部)図10の説明を参照。
図13:(統合幕僚監部)す10の説明を参照。
図14:(統合幕僚監部)満載排水量9,000 ton、速力16 knot。
5. 06/16 公表 中国機の東シナ海及び太平洋における飛行について
6月16日(日)中国軍のY-9情報収集機1機が東シナ海から宮古海峡を南東に通過し太平洋に進出、再び同じ経路を通って東シナ海に戻った。航空自衛隊では那覇基地から戦闘機を緊急発進させ領空侵犯を防いだ。
図15:(統合幕僚監部)陜西航空機が作るY-9多用途輸送機を情報収集機に改造したのが本機。Y-9は、ソビエト時代のアントノフ(Antonov) An-12輸送機を国産化した陜西Y-8Fを基本にし、胴体を延長した機体で、貨物搭載量は25 ton、人員なら100名+を運べる。西側のC-130J輸送機に相当するサイズ。2009年から中国空軍に配備が始まっている。
図16:(統合幕僚監部)
6. 06/17 公表 中国海軍艦艇の動向について
6月16日(日)午後3時、宮古島の東180 kmの海域を北西に進む中国海軍ジャンカイII級フリゲート1隻を発見、その後同艦は宮古海峡を北西に進み東シナ海に向け立ち去った。
発見追尾したのは那覇基地第5航空群所属の「P-3C」哨戒機である。
図17:(統合幕僚監部) 「ジャンカイII/江凱II」型は「054A」フリゲートで、2008年に就役した1番艦[529]「舟山」。図8の説明を参照。
7. 06/20 お知らせ ロシア機による領空侵犯について(本件は令和元年6月 防衛省発表の「お知らせ」である)
6月20日(木)、午前8時53分頃ロシア空軍のTu-95型戦略爆撃機2機が沖縄県の南大東島の領空に侵入3分後に退去した。2機はそのまま北東に飛行し、午前10時21分頃にそのうちの1機が東京都の八丈島付近の領空に侵入し2分後に退去した。航空自衛隊では那覇など複数の基地から戦闘機を緊急発進させ領空からの退去警告を行なった。しかし警告射撃は行わなかった。
外務省では本件につきロシア駐日大使館に「遺憾だ」として厳重抗議した。Interfax通信によると、ロシア国防省は「計画通りの飛行で領空侵犯はしていない。これら2機は日本海から東シナ海を通り、南シナ海を通過、太平洋に出て日本列島に沿い北東方向に飛び。計14時間の飛行をした」と述べ、領空侵犯の事実を否定した。
図18:(防衛省・航空自衛隊)空自戦闘機が撮影したTu-95戦略爆撃機2機のうち1機。ツポレフTu-95型機は1956年配備開始の古い機体だが、現在は改良型Tu-95MSとなり63機が配備中。軸馬力14,800 hpのクズネツオフNK-12MAターボプロップを4基、最大離陸重量185㌧、最高速度925km/hr、航続距離は6,400km。海軍用に対潜哨戒機Tu-142がある。Tu-95MSは、超音速対地攻撃用ラドガ(Raduga)Kh-15巡航ミサイル(射程300 km)を6発、胴体内のドラムランチャーに搭載。派生型のTu-95MS-16型は、ラドガ(Raduga)Kh-55亜音速対地攻撃用射程2,500 kmの巡航ミサイルをランチャーに6発と翼下面に10発、計16発を搭載できる。羽田空港と八丈島との距離は270 kmなのでKu-15巡航ミサイルでも十分届く。
図19:(防衛省・航空自衛隊)説明は図18を参照。
図20:(防衛省・航空自衛隊)防衛省が公表した6月20のTu-95戦略爆撃機2機の飛行航跡を示す図に、インターファックス報道の内容を点線で追加したもの。Tu-95爆撃機2機はシベリヤから日本海に向かい、対馬海峡を通過、東シナ海に入り、台湾海峡を経由して、南シナ海へ、バシー海峡を抜け太平洋に入った。それから北東に進路を変え我国太平洋岸に沿い飛行、途中で南大東島および八丈島付近で我国領空を侵犯し、我が空自の対応をチェックした。
8. 06/21 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
6月21日(金)午前4時半、北海道宗谷岬の北西130 kmの海域を東に進むロシア海軍タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻を発見した。その後同艦艇は宗谷海峡を通過、オホーツク海に入った。
発見、追尾したのは余市の第1ミサイル艇隊所属の「くまたか」である。
図21:(統合幕僚監部) 海自ミサイル艇「くまたか」が撮影したタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇(921)。超音速対艦ミサイルSS-N-22連装発射筒を両舷に備える。現役にあるのは主にIII型で25隻、満載排水量462トン、速力36ノット、兵装はSS-N-22ミサイル4基と76mm単装砲1門。
SS-N-22対艦ミサイルはアメリカ国防省の識別番号で、ロシアでは「P270」モスキートと呼ばれる。[P-270]は全長約10 m、直径0.74 m、重量4.5 ton、弾頭は300 kg HEまたは200 k ton核弾頭。射程は最大で250 km、速度はマッハ M2.2~M3。推進はインテグラル・ロケット・ラムジェット(IRR)である。ソブレメンヌイ級駆逐艦、ウダロイII級駆逐艦にも搭載している。今は[P-270]の後継として[P-800]ヤーホント/オーニクスが実用化されている。
図22:(統合幕僚監部) 説明は図21を参照。
9. 06/24 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
6月23日(日)午後4時、宗谷岬北北東40 kmの海域を西に向かうロシア海軍ステレグシチー級フリゲート1隻とロプチャーI級戦車揚陸艦1隻を発見した。これらは宗谷岬を精神、日本海に向かった。
発見、追尾したのは余市の第1ミサイル停滞所属「くまたか」である。なおこれら艦艇は6月8日宗谷海峡を東進、オホーツク海に入ったものと同一である。(2ページ、3ページに記述済みなので写真は省略する)
―以上―