2019-07-18 (令和元年) 元・文部科学大臣秘書官 鳥居徹夫
昨年の国会では、働き方改革関連法と改正入管法(出入国管理及び難民認定法の改正)が審議・成立し、ともに4月から施行され3カ月が経過しました。
昨年の第197回臨時国会で成立した改正入管法は、人材確保が困難な産業分野で、外国人材受入れ拡大のための在留資格の創設などを盛り込んでいます。(2018年12月8日成立、12月14日公布、2019年4月1日施行)
◆外国人労働者の、円滑な受け入れ拡大へ
この4月からスタートした改正入管法の主な内容は、以下のようになっています。
(1) 新たな在留資格「特定技能」が設けられ、一定の技能が必要な業務に就く「特定技能1号」と、熟練技能が必要な業務に就く「特定技能2号」の在留資格を新設する。
(2) 受入れ機関(外国人労働者の雇用先)については、労働関係法令、社会保険関係法令を遵守し、報酬額(給与)は、日本人と同等またはそれ以上とする。
(3) 外国人労働者の支援のため、新たに登録支援機関を設置できる。この登録支援機関は、出入国在留管理庁の登録を受け外国人を雇用する受け入れ企業の委託を受け、入国前のガイダンスや住宅確保、生活相談、日常生活や職業生活などの支援を行う。
この登録支援機関は、技能実習生を受け入れる監理団体と異なり、個人や営利企業も申請できる。支援の実施状況などを報告する義務があり、違反すれば登録を取り消されることもある。
(4) 法務省の内局であった入国管理局を格上げし法務省の外局として新たに「出入国在留管理庁」を設置する。
外局に格上げされた「出入国在留管理庁」は、定員を大幅に増やし(470人増の5432人、平成31年度法務省予算より)、外国人材の受入れ拡大にも対応していく。
◆生活や雇用、社会保障、日本語教育などの支援策など
改正入管法の施行に向けて、政府は2018年12月25日に「基本方針(特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針)」「分野別運用方針(特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針)」を閣議決定しました。
受入れ対象の特定産業分野は次の14分野で、2019年から今後5年間で34万5千人を上限としています。
①介護,②ビルクリーニング,③素形材産業,④産業機械製造業,⑤電気・電子情報関連産業,⑥建設,⑦造船・舶用工業,⑧自動車整備,⑨航空,⑩宿泊,⑪農業,⑫漁業,⑬飲食料品製造業,⑭外食業。
また雇用形態は、フルタイムとし原則として直接雇用とする。例外的に「農業」「漁業」の2分野のみ派遣形態も認める、などです。
基本方針によると、日常会話と業務に必要な日本語能力を条件としています。
「特定技能1号」の場合、在留期間は最長5年で、同一業種や業務内容が似ていれば転職を認めるとしています。ただし家族を伴うことはできません。
また同日の関係閣僚会議で決定した「外国人との共生に向けた総合的対応策」は126項目あり、生活や雇用、社会保障、日本語教育などの支援策など多岐にわたります。
とくに制度運用について、「基本方針」は次のように提起しました。
①人材が不足している地域の状況に配慮し、大都市圏その他の特定地域に過度に集中して就労することとならないよう,必要な措置を講じるよう努める。
②国内の取り組みとして、関係機関の連携強化による悪質な仲介事業者(ブローカー)等の排除の徹底、国外では、保証金を徴収するなどの悪質な仲介事業者等の介在防止のため必要な方策を講じること。
③必要に応じて関係閣僚会議において,分野別運用方針の見直し,在留資 格認定証明書の交付の停止または特定産業分野を定める省令から当該分野の削除の措置を検討する。
④改正法施行後2年を目途として検討し必要があれば見直す。
◆外国人の就労者数は、国内で約150万人
2018(平成30年)年末時点の在留外国人は273万人(法務省在留外国人統計調査)。日本で就労する外国人は総数で約146万人(平成30年10月末現在、厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況について」)で、その内訳は次のようになっています。
①就労目的で在留が認められる者(いわゆる「専門的・技術的分野の在留資格」)約27.7万人、
②身分に基づき在留する者(「日系人などの定住者」「永住者」「日本人の配偶者等」等) 約49.6万人、
③技能実習(技能移転を通じた開発途上国への国際協力が目的) 約30.8万人、
④特定活動(EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士候補者など) 約3.6万人、
⑤資格外活動(留学生のアルバイト等) 約34.4万人。
これに今年4月から、新たに在留資格「特定技能」が加わります。
◆新たに在留資格「特定技能」を創設
改正入管法で、新たに在留資格「特定技能」が創設されました。この在留資格「特定技能」は、人材不足の分野に限り、 を受け入れるための在留資格となっています。
新たに創設された在留資格「特定技能」は、「特定技能1号」と「特定技能2号」に分けられます。
「特定技能1号」は、特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格で、前記の14分野です。在留期間は最長5年で、同一業種や業務内容が似ていれば転職を認めるとしています。ただし家族を伴うことはできません。
この新たに創設される在留資格「特定技能1号」は、初年度2019年では外国人技能実習生からの移行を見込んでいます。
外国人技能実習生で「技能実習2号」を取得した者(3年程度)は、試験等免除で、在留資格「特定技能」に移行できるとしています。
この「特定技能1号」の受け入れのうち、初年度2019年は、実習期間を終えた外国人技能実習生からの無試験での移行が大半となります。ただし技能実習2号の職種・作業には、関連する特定技能1号の分野が存在しないものもあります。
「特定技能1号」の外国人に対して、「基本方針」は、
①生活オリエンテーション、
②生活のための日本語習得の支援,
③外国人からの相談・苦情対応,
④外国人と日本人との交流の促進に係る支援が明記されています。また転職する際にハローワークを利用する場合についても「ハローワークは、希望条件、技能水準、日本語能力等を把握し適切に職業相談・紹介を実施する」としています。
「特定技能2号」は、特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。対象は「建設」「造船・舶用工業」の2分野に限られ、「特定技能1号」取得者からの移行となることから、制度開始の2年後(2021年)に本格導入されます。
◆制度変更でなく、実態とのギャップを埋める
政府は、国会でも「単純労働者は受け入れない」「移民政策ではない」と強調してきました。
この改正入管法でも、政府は新たに在留資格「特定技能」を設けたのであって、政策転換ではないと強調しています。
今回の法改正は、外国人労働者が定着し生活している実態と、これまでの法体系や制度とのギャップを埋めることに焦点が当てられているようです。
つまり抜本的な制度変更ではなく、新たな在留資格「特定技能」の創設に加え、外国人労働者の職業生活や日常生活の支援、そして就労拡大の円滑化という側面もあると言えましょう。
ー以上ー