2019-11-04(令和元年) 松尾芳郎
令和元年10月、我国周辺での中露両軍の活動は依然として高い水準で続いている。防衛省統合幕僚監部が特異事象として公表したのは次の7件。(According to the Japan’s MOD Joint Staff, Russian and Chinese Forces movements around the Japanese Islands were kept active during October, 2019. Seven reports have issued.)
ロシア軍の活動は先月行われた首脳会談後もいささかの変化もないし、また中国については、ここに掲載した特異事象4件の他に、連日の尖閣諸島周辺への領海侵犯問題(米国ペンス副大統領も指摘)、さらに9月に起きた北海道大学教授の拘束問題、などがある。安倍首相は来日した中国の王岐山副主席に邦人拘束事案への前向きな対応を促した。中国では2015年以降、少なくとも13人の日本人が逮捕され、その大半がスパイ容疑で起訴されている。“前向きな対応を促す”のではなく、厳重抗議し釈放を要求すべきだし、成り行き次第では来春予定の習近平主席の国賓来訪をも再考すべきと思う。
10-01 [公表] ロシア海軍艦艇の動向について
10-08 [公表] ロシア海軍艦艇の動向について
10-22 [公表] ロシア機の日本海および東シナ海における飛行について
10-28 [公表] 中国海軍艦艇の動向について
10-28 [公表] 中国海軍艦艇の動向について
10-29 [公表] 中国機の東シナ海および日本海における飛行について
10-30 [公表] 中国海軍艦艇の動向について
以下に公表された特異事案を紹介する。
10-01 [公表] ロシア海軍艦艇の動向について
10月1日火曜日午前6時、北海道宗谷岬の北西65 km の海域を日本海からオホーツク海に向けて東に進むロシア海軍艦艇、グリシャV級小型フリゲート1隻、ナヌチカIII級ミサイル護衛哨戒艇1隻、およびズボズドチカ級兵器輸送艦1隻の計3隻を発見した。発見追尾したのは海上自衛隊余市基地第1ミサイル艇隊所属の「わかたか」である。
本件に関し「ロシア海軍情報管理局」は“小型ロケット艦スメルチ(423)”の近代化改修の完了とそれに続く日本海での対艦ミサイル、艦載砲、対空ミサイル・機関砲の射撃試験を大きく報道した。同級は現在太平洋艦隊に1隻しかないが、続けて増強される予定。
図1:(統合幕僚監部)ロシア海軍では、グリシャ(Grisha)級を1124型小型対潜艦と呼び、1970年代から90隻以上を建造した。グリシャV型はその最新版で28隻が就役中。満載排水量1200トン、速力34 kt、対潜ロケット砲2基 (96発)など強力な対潜装備を持つ。
図2:(統合幕僚監部)本級は「プロジェクト12341」小型ロケット艦と呼ばれる「コルベット」艦。本艦は「スメルチ(423)」。1985年に就役、ペトロパブロフスク・カムチャツキー軍港に配備されている。2019年10月にカムチャツカ半島の北東修理センターで近代化改修を完了したばかり。改修で、対艦ミサイルを「アムラート」3連装発射筒2基から「ウラン」4連装発射筒4基に改めミサイル16基を搭載する。また艦尾に搭載する76 mm単装砲 AK-176を最新型のAK-176MAに換装している。「ウラン」は、空対艦および艦対艦有翼ミサイルで[ Kh-35 ]と呼ぶ。射程130 km、重量610 kg、炸薬145 kg、全長4.4 m、翼幅1.3 mのミサイルである。米海軍の「ハープン」に規模は似ているが、エンジンはターボファンを使用。飛行速度は亜音速、高度5~10 mを慣性誘導で飛行、目標に接近するとレーダー誘導に切り替わり着弾する。
図3:(統合幕僚監部)ズボズドチカ級兵器輸送艦「アカデミック・コワリョーフ」
10-08 [公表] ロシア海軍艦艇の動向について
10月7日(水)正午、上対馬の北東60 km の海域を日本海から東シナ海に向け南西に進むロシア海軍艦艇、スラバ級巡洋艦1隻、ウダロイI級駆逐艦1隻、およびドウブナ級補給艦1隻、計3隻を発見した。発見追尾したのは海上自衛隊佐世保基地第3ミサイル艇隊所属の「しらたか」である。
これに関し「ロシア海軍情報管理局」は、10月10日付けで「太平洋艦隊艦船支隊東シナ海で対テログループの訓練を実施した」と題し、「太平洋艦隊旗艦・ロケット巡洋艦ワリヤーグ(011)、大型対潜艦アドミラル・バンテレーエフ(548)、中型海洋補給船ペチェンガの3隻が東シナ海で対テログループの訓練を行なった」と報じた。
図4:(統合幕僚監部)度々紹介するように「ワリヤーグ」(011)は太平洋艦隊の旗艦。1989年就役、2008年に近代化改修を完了。満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で空母機動部隊攻撃が主任務。3隻が配備中。両舷に見える4本ずつの筒の中には、射程距離700 km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン(Vulkan)」対艦ミサイルが装備されている、各筒に2基ずつ、合計16基を搭載している。
図5:(統合幕僚監部)これも度々紹介するが、ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦は「1155型大型対潜艦」と呼ぶ。[548]は「アドミラル・バンテレーエフ(Admiral Panteleyev)」。満載排水量8,500㌧、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリコプター2機、SA-N-9型個艦防空ミサイルを装備する。1980—1991年に12隻が作られ、8隻が就役中、太平洋艦隊には4隻が配備中。イージス艦に近い性能と兵装を持つ。
図6:(統合幕僚監部)満載排水量9,000 ton、速力16 knot。
10-22 [公表] ロシア機の日本海および東シナ海における飛行について
10月22日(火)、ロシア空軍のTU-95型戦略爆撃機2機が対馬海峡を通り日本海と東シナ機を往復した。航空自衛隊戦闘機が緊急発進、領空侵犯を防いだ。なおこれら2機は、我国固有の領土だが現在韓国が実効支配する竹島付近を飛行したため、韓国空軍の戦闘機も緊急発進した。
本件に関しロシア軍事専門メデイアは「戦略ミサイル輸送機Tu-95MSの2機が日本海、黄海、東シナ海で所定の計画飛行を実施した。この訓練飛行には、護衛のためのSu-35S戦闘機とレーダー警戒・誘導のための哨戒機A50VKが同行した。途中、韓国空軍のF-15およびF-16戦闘機と日本航空自衛隊のF-2戦闘機がロシア機に接近してきた。」と報じた。
図7:(統合幕僚監部)10月22日、ロシア空軍戦略爆撃機Tu-95 2機およびSu-35S戦闘機、A-50VK哨戒機の飛行航跡を統合幕僚監部の発表した地図に、ロシア側メデイア情報を加えて作成した図。
図8:(統合幕僚監部)ツポレフTu-95型機は1956年配備開始の古い機体だが、現在は改良型Tu-95MS(戦略ミサイル輸送機)となり63機が配備中。軸馬力14,800 hpのクズネツオフNK-12MAターボプロップを4基、最大離陸重量185㌧、最高速度925 km/hr、航続距離は6,400 km。海軍用に対潜哨戒機Tu-142がある。Tu-95MSは、超音速対地攻撃用ラドガ(Raduga) Kh-15巡航ミサイル(射程300 km) 6発を胴体内のドラムランチャーに搭載。派生型のTu-95MS-16型は、ラドガ(Raduga) Kh-55亜音速対地攻撃用射程2,500 kmの巡航ミサイルをランチャーに6発と翼下面に10発、計16発を搭載できる。
10-28 [公表] 中国海軍艦艇の動向について
10月27日(日)午前8時、沖縄本島近くの久米島の南140 kmの海域を太平洋から東シナ機に向け北上する中国海軍艦艇、ルーヤンII級ミサイル駆逐艦1隻、ジャンカイII級フリゲート1隻、フチ級補給艦1隻、計3隻を発見した。発見追尾したのは那覇基地の海上自衛隊第5航空群所属「P-3C」哨戒機と佐世保基地の第46掃海隊所属「ししじま」である。なお、これら3隻は4月5日(金)に沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を南東に航行し太平洋に進出した艦艇と同一である。
図9:(統合幕僚監部)「旅洋(Luyang)型」は、「旅洋I型:広州級(052B型)」、「旅洋II型:蘭州級(052C型)」、「旅洋III型:昆明級(052D型)」に大別される。「旅洋I型」は試作。「旅洋II型」は中国版イージス艦(Chinese Aegis)と呼ばれ僚艦防空能力を持つ、6連装回転式VLSを8基搭載し、6隻が建造された。このうちの最終6番艦が写真の[西安/Xi’an」[153]」で東海艦隊所属、2015年に就役。満載排水量7,000 ton、速力30 Kt。なお「旅洋III型」は最新モデルで、2018年初めまでに18隻が製造中で、うち13隻が就役済み。
図10:(統合幕僚監部)「ジャンカイII/江凱II」型は「054A」フリゲートで、2008年に1番艦「舟山」が就役した。満載排水量4,500 ton、全長137 m、速力27 kt、HQ-16対空ミサイルを米国のMk41 VLSに似た32セルVLSに収めている。対艦ミサイルは艦中央部にYJ-83型を4連装発射機2基に格納している。[045A]フリゲートは外洋艦隊用で防空能力の強化を図っている。写真の[599]「安陽(Anyang)」は26番艦、2018年4月の就役。YJ-83は射程200 km、最終段階での速度はマッハ1.5。
図11:(統合幕僚監部)903A型「福地」級補給艦、写真の[966]は2016年就役の6番艦「高郵湖/Gaoyouhu」。[903A]型は満載排水量23,000 ton、航続距離10,000 n.m.の大型艦。フランス製SEMT 16PC2-6V400エンジン2基を搭載、速力20 kt.で同型艦は6隻。同級にはやや小型20,000 ton級の[903]型2隻がある。
10-28 [公表] 中国海軍艦艇の動向について
10月25日(金)午後11時、下津島南西250 kmの海域を東シナ海から日本海に向け北東に進む中国海軍ジャンカイII級フリゲート2隻を発見した。発見追尾したのは佐世保基地第3ミサイル艇隊所属の「しらたか」である。
10-29 [公表] 中国機の東シナ海および日本海における飛行について
10月29日(火)、中国海軍のY-9 情報蒐集機1機が対馬海峡を東シナ海側から日本海に入り、反転して再び東シナ海に戻った。航空自衛隊は戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。
図14:(統合幕僚監部)統合幕僚監部発表の中国軍[Y-9]哨戒機の航跡図に10月25日、27日、28日の中国海軍艦艇の航跡を加えた図。
図15:(統合幕僚監部)陜西航空機が作るY-9多用途輸送機を情報収集機に改造したのが本機。Y-9は、ソビエト時代のアントノフ(Antonov) An-12輸送機を国産化した陜西Y-8Fを基本にし、胴体を延長した機体で、貨物搭載量は25 ton、人員なら100名+を運べる。西側のC-130J輸送機に相当するサイズ。2009年から中国空軍に配備が始まっている。
10-30 [公表] 中国海軍艦艇の動向について
10月28日(月)午後9時、および10月29日(火)午後8時半、上対馬北東50~60 kmの海域を日本海から東シナ機に向けて南西に向かう中国海軍ジャンカイII級フリゲート1隻ずつを発見した。発見追尾したのは、それぞれ佐世保基地第3ミサイル艇隊所属「しらたか」と下関基地第43掃海隊所属の「とよしま」である。これらフリゲート2隻は図12および図13に示した10月25日(金)に対馬海峡を北上し日本海に入った艦と同一である。従って写真は省略する。
―以上―