米空軍、極秘の大型無人偵察機[RQ-180 ]の一部を公表


2019-11-11(令和元年) 松尾芳郎

 

エビエーション・ウイーク誌はおよそ6年前に空軍が極秘裏に開発中のノースロップ・グラマン(Northrop Grumman)製の大型無人機の存在を報じた。( “Secret New UAS Shows Stealth, Efficiency Advances”, Dec. 6, 2013)。このステルス無人機は、[RQ-180] と名付けられ、仮想敵国上空に侵入し(penetrating)「諜報、監視、偵察( ISR=intelligence, surveillance and reconnaissance)」をするのを主任務とする。すでに配備が始まり数を増やしつつある。

[RQ-180] は、2010年に初飛行し、2014年末からは運用試験、評価試験が続けられてきた。

(Almost six years after Aviation Week reported the existence of a large, classified unmanned air vehicle developed by Northrop Grumman, the aircraft is dubbed the RQ-180, is believed to have been flying since 2010 and under operational test since 2014.)

エビエーション・ウイーク誌によると、このほど運用試験が終了しカリフォルニア州ビール空軍基地(Beale AFB, Calif.)に第427偵察中隊が新設され、[RQ-18]を7機+を配備して運用を開始したと云う。

機体の詳細は不明だが、カリフォルニア州やネバダ州での試験飛行や部隊配備を通じて目撃情報が増え、次第に明らかになりつつある。

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図1:(youtube)[ RQ-180]無人偵察機は、敵地上空奥深くに侵入し「諜報、監視、偵察( ISR=intelligence, surveillance and reconnaissance)」ミッションを行うのが任務。飛行試験は2014に開始され、2019年にビール空軍基地に第427偵察中隊として新設、運用を開始した。翼幅40 m、常用高度18,000 m、滞空時間24時間、と言われている。

空軍による仮想敵国への【侵入「諜報・監視・偵察[ ISR ]」】ミッションは、ロッキード製 [SR-71 ]高速偵察機が1999年に退役するまで行われてきたが、その後は空白が続いている。しかし[ RQ-180 ]の配備で再び世界の紛争地域に対する[侵入 ISR ]ミッションが再開されよう。 スクリーンショット 2019-11-08 13.12.38

図2:(Wikipedia) 1994年にシエラ・ネバダ山脈(Sierra Nevada Mountains)上空を飛ぶ[SR-71]B訓練機。通常のコクピットの後ろに教官用のコクピットが見える。ロッキードSR-71ブラックバード(SR-71 Blackbird)は、空軍の長距離・高高度飛行・マッハ3級のステルス形状の戦略偵察機。ロッキードが1960年代に開発したA-12偵察機を原型として開発され、空軍は1964-1998年の間に32機を保有し【 侵入・ISR 】ミッションを行なってきた。うち12機が失われたがいずれも事故で喪失したもので、敵の攻撃で撃墜されたものはない。[SR-71A]のスペックは;―乗員2名(パイロットと偵察担当士官)、全長32.7 m、翼幅17 m、最大離陸重量78 ton、エンジンP&W J58 アフトバーナー推力25,000 lbs(110 kN)を2基、最大速度マッハ3.32、航続距離5,230 km。

 

[RQ-180]の開発経緯;―

[SR-71]ブラックバードが1999年に退役して以来、米空軍には厳重な防空網を突破し【侵入ISR】ミッションを遂行する機体が無くなった。これを復活させるため[RQ-180]の開発がスタートした。

[RQ-180]は、米海軍が「統合無人戦闘機システム」開発計画にノースロップ・グラマンが名乗りを上げたのが最初だった。しかし海軍が無人艦上戦闘機を欲したの対し、空軍は大型・長距離無人爆撃機を要求したため、2005年に計画がキャンセルされた。

その後海空軍別々に計画が始まり、海軍は[UCAS-D] (unmanned combat air system-demonstration・無人戦闘機・実証計画)、空軍は[classified program](秘密プログラム)として個別に始まった。海軍は[UCAS-D]を発足、ノースロップ・グラマン[X47B]の開発をスタート、空軍の「秘密プログラム」は既述のように2013年12月にエビエーション・ウイーク誌でその存在が明らかにされた。

[RQ-180]は空軍の秘密資金で開発され、ボーイング、ロッキード・マーチンを含む3社競合の末、2008年にノースロップ・グラマンが選定され、2013年から少数機生産体制で空軍への納入が始まった。ネバダ州南部にある米空軍の秘密試験・訓練場「エリア51 (Aria 51))」を写した衛星写真によると、この時期に翼幅40 mを超える航空機を収納する大型ハンガーが新設され、[RQ-180]の試作はここで行われたものと関係筋は観ている。勿論、量産はパームデール(Palmdale, Calif.)にあるノースロップ・グラマンの工場を拡張して行われる。

[RQ-180]の任務、すなわち【侵入「諜報・監視・偵察(ISR)」】について、空軍は明らかにしていない。しかし、すでに運用中の無人偵察機[RQ-4] グローバル・ホーク(Global Hawk)は亜音速・非ステルス形状なので【侵入】偵察が難しいため、[RQ-180]がこの任務を代行するものと多くの専門家は想定している。

また空軍は、保有済みの無人偵察・攻撃機[MQ-1]プリデーター(Predator)や[MQ-9]リーパー(Reaper)も、敵の厳重な防空網を突破して【侵入「諜報・監視・偵察(ISR)」】ミッションを行うには不十分とし、今後の増勢は考えていない。

[RQ-180]が実用化されると、空軍との契約で別途ノースロップ・グラマンが開発する有人長距離爆撃機(LRS-B = Long Range Strike Bomber)計画[B-21ライダー]に影響が出るかも知れない。

有人長距離爆撃機(LRS-B)計画/ [B-21]とは、現有爆撃機の後継となるもので、世界中いかなる地点にでも通常あるいは核攻撃できる長距離機で、生残性の高い次世代爆撃機システムである。すなわち現在の[AGM-86] ALCMに変わる新空中発射型長距離巡航ミサイル(Long Range Stand-off Weapon)、全地球即時攻撃ミサイル(Prompt Global Strike missile)を搭載、併せて電子攻撃を含む【侵入「諜報・監視・偵察(ISR)」】機能を備える。

[RQ-180]の構造・性能;―

[RQ-180]の構造は全く分かっていないが、AESAレーダー、敵レーダー受信装置、電子攻撃装置などを装備している。現在空軍が20機ほど運用しているロッキード・マーチン製の無人偵察機[RQ-170]センチネル(Sentinel)/翼幅20 mよりもずっと大型のステルス機で、長距離飛行ができる。[RQ-180]は、大きさは[RQ-4]グローバル・ホークの翼幅40 m、重量14.6 ton、とほぼ同じくらい。性能も滞空時間は24時間、航続距離は22,000 kmで、同程度の模様。

2017年初めには、運用試験の最終項目となる長距離飛行試験が秘密裡に行われた。これは「マゼラン計画(Project Magellan)」と名付けられ、カリフォルニア州エドワーズ空軍基地から飛び立ち、超高空に上昇、北極点に到達して再び基地に帰還した。これで自律航法システムの性能を確認した。

このように滞空時間は[RQ-170]センチネルの6時間よりずっと長い。またステルス性は、[F-22]ラプター、[F-35]ライトニング戦闘機に匹敵する極めて小さなレーダー反射面積(RCS=radar cross section)であることが確認されている。

比較のため関連の機体を紹介する;―

参考のため、文中で触れた関連する機体について簡単に紹介する。

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図3:(US Navy) ノースロップ・グラマンが試作した空母搭載用の無人戦闘機[X-47B] (UCAV=unmanned combat aerial vehicle)。DARPA (国防先端研究開発局)の[J-UCAS]「統合無人戦闘機システム」開発計画に基づいて2機が試作された。[X-47B]は、2011年に初飛行、2014年9月から2015年5月に掛けて航行する空母上での運用試験を実施、完了した。全長11.6 m、翼幅19 m(折畳時は9.4 m)、最大離陸重量20.2 ton、エンジンP&W F100-220U 1基、航続距離3,900 km。

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図4:(USAF)[RQ-4]グローバル・ホーク。写真はNATO向けの[RQ-4B]の初号機。NATOは5機を発注している。ライアン航空機(Ryan Aeronautical)が開発、現在はノースロップ・グラマンの1部門となっている。高解像度の合成開口レーダー(SAR=synthetic aperture radar)及び長視程電子・光学赤外線センサー(EO/IR=Electro-optical/infrared)を装備し、目標空域の上空を長時間飛行できる。1日で10万平方kmの範囲(韓国全域に相当)を監視・偵察できる。米空軍では[RQ-4B]を42機保有、海軍では主翼を強化した[MQ-4C]トライトン(Triton)の採用を決定、67機を発注している。我が航空自衛隊では3機を発注済み(2018-11-03)で2022年9月から引渡しされる。[RQ-4B Block 30/40]の主要スペックは次の通り;―全長14.5 m、翼幅は39.9 mでボーイング737旅客機とほぼ同じ、離陸重量14.6 ton、エンジンはロールス・ロイスF137ターボファン推力7,600 lbs、航続距離23,000 km、航続時間32時間、常用高度18,000 m。

RQ-170 センチネル

図5:(Lockheed Martin)ロッキード・マーチン[RQ170]センチネル(Sentinel/歩哨の意)は、米空軍がCIA用に開発した無人偵察機。2007年から供用開始、これまでに20機ほどが作られアフガニスタン戦線等で使われた。無尾翼で、翼幅は20 m、兵装は搭載しない。飛行高度はあまり高くない。離陸重量は4 ton+、エンジンはGE TF34を1基。胴体下面にAESAレーダー、EO/IRセンサーを収納する。2011年12月に1機がイラン革命防衛軍により撃墜され話題となった。イランはこれをリバース・エンジニアリングして類似の無人機を製作している。

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図6:(US Air Force) 有人長距離爆撃機(LRS-B)は[B-21ライダー(Raider/襲撃者の意)]と呼ばれ、開発は2015年にノースロップ・グラマンに決定。現在の空軍爆撃機[ロックウェルB-1ランサー]、[ノースロップ・グラマンB-2スピリット]、[ボーイングB-52ストラトフォートレス]、の後継機として開発中で、2025年配備を目標にしている。エンジンは、ロッキード・マーチン[F-35]戦闘機が使うプラット&ホイットニー製[F135]を共用し、コスト増を抑える。単価はおよそ600億円、少なくとも100機を調達する予定。

結び;ー

我国では殆ど報じられていないが、米国では多くの無人機が開発され次々と実用化が進んでいる。「米国はもはや世界の警察官の役目を放棄した、これからは新興国の時代だ」と言い募るマスコミは多いが、実情はそうでもない。ここで紹介した[B-21]戦略爆撃機や秘密のベールに包まれた[RQ-180]大型無人偵察機の開発は、いずれも米国議会で討議・承認された事案で、米国が「確立した世界秩序を守り抜く」決意を表明したものと言える。翻って、国防問題には目を瞑り、閣僚の瑣末な発言の言葉狩りに熱中する国会議員諸公を見ると情けなくなる。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Aviation Week Oct. 24, 2019  “USAF Unit Moves Reveal Clues to RQ-180 Ops Debut” by Guy Norris

Aviation Week Dec.6, 2013 “Secret New UAS Shows Stealth, Efficiency Advances” by Amy Butler and Bill Sweetman

Northrop Grumman Home “Northrop Grumman Autonomous Systems”

Northrop Grumman Home “Northrop Grumman Strike Systems”

U.S. Air Force Home May 02 2018 “Air Force selects location for B-21 Aircraft”