赤色巨星ベテルギウスの減光は自身が放出するダストが原因か?


2020-03-23(令和2年)  松尾芳郎

Betelgeuse before and after dimming

図1:(ESO, M. Montarges et al) オリオン座の赤色巨星ベテルギウスはほぼ1年間で、輝度がそれまでの40 %に減光し、形も変わった。欧州南天天文台VLT (Very Large Telescope)が撮影した写真。一年前はほぼ光度が全周に一様に分布していたが、2019年12月には下半分が著しく暗くなった。

 

北天のオリオン座(Orion)の左肩にある赤色巨星ベテルギウス(Betelgeuse)の光度が急速に低下しているのが観測され、超新星爆発の前兆ではないかと騒がれた。しかしその後の観測で、ベテルギウス自身から放出される大量のダストで光が遮られ、これが光度低下の原因であると、報じられた。

(Late last year, amateur and professional astronomers noticed that the red supergiant star Betelgeuse dimming quickly and significantly, with its brightness plummeting by 40 %. Was this getting ready to explode as a supernova? However, new study reported, it turns out dust may be the culprit for building up what are likely false hopes of soon witnessing a massive explosion.)

 

昨年(2019)暮れにアマチュア天文愛好家と専門の天文学者が、ベテルギウスの光度が急速に低下し、以前に較べて40 %にも暗くなり、形も変わってきた、と報じた。このため超新星爆発が間もなく起きるのではないか、と天文学の分野で大きな話題となった。

しかし2020年3月に、ワシントン大学(UW=University of Washington)とローウエル天文台(Lowell Observatory)の二人の天文学者がこの見方を否定した。それによるとベテルギウスの輝度は変化していない、ベテルギウス自身から大量のダストが周囲の宇宙空間に放出されていて、これが地球の観測者への光を遮ったのだ、と述べている。

UWの天文学准教授エミリー・レベスケ(Emily Levesque)氏とローウエル天文台の天文学者フィリップ・マッシー(Philip Massey)氏は、ローウエル天文台の口径4.3 m の望遠鏡に分光計(spectrometer)を取り付けて2020年2月14日にベテルギウスを観測した。ベテルギウスからの光をスペクトル分析し処理した結果、表面が冷えて減光したと仮定した場合の温度に較べ、表面平均温度は著しく高いことを突き止めた。

すなわち「ベテルギウスの表面温度は3,600 +/- 25 K (3,325 ℃)と判明した。これは今回の問題提起以前に測定された温度より僅かに低いが、この低下幅は最近1年間の光度低下を説明するには全く足りない。ベテルギウスが放出する間欠的な大量のダストが星周囲を回り、それが地球からの観測視野に入って星からの光を遮っていると考えるのが妥当である」と述べた。

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図2:(Universe Today March 10, 2020 / ESO/P. Kervella/M. Montarges et al.) ESOの超大型望遠鏡(VLT)で捉えた写真。2019年12月にベテルギウスを取り巻くダストから放射される赤外線を示している。ベテルギウスから放出されるダストの雲が星本体から宇宙空間に大きく広がっていることが分かる。中心の黒い円盤は星の中心からの輝く光を遮るためのマスク、これで周辺の薄いダストを見易くしている。黒色円盤の周囲にあるオレンジ色の部分はベテルギウス本体を示している。ベテルギウスは、太陽系で言えば木星の軌道に達するほどの大きさで、想像を絶する巨大な恒星である。

 

ESOとは「ヨーロッパ南天天文台 / European Southern Observatory」のことで欧州14ヶ国とブラジルが共同で運営する天文観測施設。天文台はチリにあり、ラ・シラ(La Silla)、パラナル(Paranal)、ラノ・デ・チャナントー(Llano de Chajnantor)などに施設がある。超大型望遠鏡(VLT=very large telescope)は口径8.2 mでパラナルに設置されている。

前述のレベスケ氏はローウエル天文台での記者会見で次のように語っている。「我々は毎日の観測を通じて、この赤色巨星は明るさを周期的に変え、時折その表面からダストと呼ぶ物質を放出していることを知っている。表面温度が下がったり上がったりするのは、ダストの粒子が地球に届く光を遮ったり、晴れたりするためである。」

「表面温度の上昇・下降についてもう一つ考えられる理由は、ベテルギウスの内部で起きる巨大な対流で内部の高温物質が表面に浮上し、そして冷やされて沈み込む、と云うサイクルで生じるのではないかという見方である。これは太陽を含む恒星でよく観測されている現象である。ベテルギウスは重力が弱いこともあり、3~4個の巨大な対流セルが存在していると思われる。」

ともあれベテルギウスは、今後10万年以内に内部コアが崩壊し超新星爆発を起こすことは間違いない。2020年2月以降ベテルギウスは再びその輝きを取戻しつつある。

「この赤色巨星は非常に活動的な星で、表面温度の変動、ダストの様子、内部に起きる巨大な対流現象、などについて我々に多くの事を教えてくれる。」とレベスケ氏は話している。

 

ベテルギウスの素顔

ここで赤色巨星ベテルギウス(Betelgeuse)についてJAXAおよびNASAの解説を基に復習してみよう。

この星は冬の天頂付近「オリオン座(Orion)」にある1等星(1等星は全天に21個ある最も明るい星々)、赤い色をしているので肉眼でよく見える。大きさは太陽の1,000倍なので、もし太陽の位置にあるとすれば、その大きさは木星の軌道あたりまで広がることになる。しかし質量は太陽の20倍しかなく、典型的な赤色巨星で近い将来(10万年以内)超新星爆発を起こすと考えられている。

太陽を含む恒星の中心部では、水素原子が核融合反応でヘリウム原子に変り、ヘリウム原子の中心核ができる。中心核は重力で次第に縮んで行き、その外側では核融合反応で水素からヘリウムが作られるようになり、星は次第に膨らみ始める。膨らんだ星は、内部は非常に高温だが表面は太陽(6,000 K)などよりずって低温(3,500 K)となり、赤く見えるので赤色巨星と呼ぶ。

太陽の20倍の質量の星は、誕生してから赤色巨星になるまで約900万年しかかからない非常に短命な星である。ベテルギウスは赤色巨星になってから4万年を経過している。

太陽の質量の10倍以上の恒星は、中心核が崩壊して超新星爆発を起こし一生を終えるとされる。種々の観測の結果ベテルギウスは今後10万年以内に超新星爆発で一生を終わるとされている。その後は、中性子星として小型(太陽と同じ位の大きさ)の高密度の天体として残ることになる。

太陽も一生を終える頃には外径が地球の軌道ほどにも膨らむと考えられている。

牡牛座のアルデバランは太陽の44倍の大きさの赤色巨星、主題のベテルギウスははるかに大きい(太陽の1000倍)ので赤色超巨星とも呼んでいる。

赤色巨星の中心核は重力で縮むので温度が上がり、やがて炭素や酸素、さらにはシリコンや鉄まで次々に重い元素が作られるようになる。爆発するとこれら原子は宇宙空間に飛散し、長い時間をかけてお互いが集まってガスとなり、それらが再び集まりやがて星が誕生する。

オリオン座

図3:(NASA )ハブル宇宙望遠鏡で撮影したオリオン座の写真。地球からこれらの星々までの距離は、ベテルギウス/640光年、リゲル(Rigel)/850光年、オリオン座大星雲で知られるM42星雲/1300光年、最も近いのはγ星/255光年、最も遠いのは三つ星の真ん中にあるε星/1800光年である。このようにオリオン座に限らず全ての星座の星々は平板状にあるのではなく遠近様々の距離にある。

この写真の欄外右上のベテルギウスとラムダ星を結ぶ線上には、最も見付けやすい星・牡牛座の1等星アルデバラン(Aldebaran)/67光年がある、また左下、リゲルとk 星を結ぶ線の延長上には、太陽以外で最も明るい恒星・シリウス(Sirius)/8.6光年/おおいぬ座、がある。

冬の大三角形

図4:オリオン座/ベテルギウスを見付けるため、その周辺にある「こいぬ座」および「おおいぬ座」の星々の関係位置を示した図。冬の天頂には、こいぬ座プロキオン、おおいぬ座シリウス、とオリオン座ベテルギウスの星が大きな三角形となり容易に識別できる。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

NASA 2020/02/17 “The Canging Surface of Fading Betelgeuse-APOD”

Fraser Cain / Universe Today March 13, 2020 “It Looks Like Betelgeuse was Dimming Because it was Dusty After All”

Joint Press Release Lowell Observatory and University of Washington March 06, 2020 “Dimming Betelgeuse Likely isn’t  Cold, Just Dusty, New Study Shows” by James Urton and Kevin Schindler

JAXA 宇宙情報センター“オリオン座”

JAXA 宇宙情報センター“ベテルギウス”

NASA Betelgeuse Night Sky Network