令和2年3月、我が国周辺における中露両軍の活動


2020-04-07 (令和2年4月) 松尾芳郎

統合幕僚監部発表の中露両軍の活動は、2月に比べかなり活発で7件に達した。加えて、中国海警局の艦艇による尖閣諸島周辺領海と接続水域への侵犯はほぼ連日行われ、我が海上保安庁巡視船との睨み合いが続いた。

またロシア太平洋艦隊は、4月2日〜8日の間、我国の北方領土である択捉島、国後島の周辺海域に大艦隊を動員してミサイルを含む実弾射撃演習を実施している。これは北方四島の返還には絶対に応じないとするロシア側の強い意志の表れと言える。統幕発表の3月末におけるロシア艦隊の行動はこの演習に参加するための動きである。我国の政府、国会、報道機関は、武漢ウイルス感染問題ばかりに集中、中露両国が仕掛けるこのような安全保障上の動きには全く触れていない。

中国湖北省武漢市に始まったコロナ・ウイルスは今や世界に蔓延、各國政府は対応に追われている。しかし皮肉なことに、ウイルス流行の影響で、4月に予定された習近平主席の来日は延期され、また5月のロシア政府主催の対独戦勝利75周年記念式典への安倍首相の出席も取止めとなった。この2件は、我が国内に根強い中露両国への追従の動きに歯止めを掛けることになり、せめてもの効用となった。

 

3月19日 公表  中国海軍艦艇の動向について

3月23日 公表  中国機の東シナ海における飛行について

3月24日 公表  ロシア機の日本海、オホーツク海および太平洋における飛行について

3月25日 公表  中国機の東シナ海および日本海における飛行について

3月26日 公表  中国艦艇の動向について

3月27日 公表  ロシア海軍艦艇の動向について

3月27日 公表  ロシア海軍艦艇の動向について

3月30日 公表  海上自衛隊艦艇と民間船舶の衝突事案について(第1報)

 

以下に統幕公表の事案の内容を簡単に紹介する;―

 

3月19日 公表  中国海軍艦艇の動向について

3月18日(水)午前10時、宮古島南東80 kmの海域を東に進む中国海軍ルーヤンII級ミサイル駆逐艦1隻、ジャンカイII級フリゲート2隻、およびフチ級補給艦1隻を発見した。発見・追尾したのは海上自衛隊那覇基地第5航空群所属の「P-3C」哨戒機である。その後これらの艦艇は、沖縄本島と宮古島間の宮古海峡を北上、東シナ海に向け立ち去った。

3:18 ルーヤンIII 117

図1:(統合幕僚監部)「ルーヤンIII/旅洋III」型は[052D] 型駆逐艦で、[052C]を改良した最新の防空駆逐艦。1番艦「昆明」は2014年に就役。写真の[117]は5番艦「西寧(Xining)」、2017年の就役。同型艦は13隻が完成済み、建造中を含めると23隻になる。満載排水量7,500 ton、全長160 m、速力29 kt。兵装は対空/対艦/対巡航/対潜用のミサイル発射用8セル型VLSを8基(合計64セル)装備する。これにHQ-9B対空ミサイル、YJ-18対艦ミサイルなどを搭載する。海自の「あたご」型イージス艦よりやや小型だが、総合性能はほぼ同じ、しかし数では中国海軍が圧倒的に多い。

3:18 ジャンカイII 550

図2:(統合幕僚監部)「ジャンカイII/江凱II」型は「054A」フリゲートで、2008年に1番艦が就役。満載排水量4,500 ton、全長137 m、速力27 kt。米国のMk41 VLSに似た32セルVLSに、射程120 km のHQ-16対空ミサイルを搭載。対艦ミサイルは艦中央部にYJ-83型射程180 km、を4連装発射機2基に格納している。[045A]フリゲートは外洋艦隊用で防空能力の強化をしている。写真は[550] 14番艦「准坊(Weifang)」、2013年就役、北海艦隊に所属。同型艦はすでに30隻+が建造されている。

3:18 ジャンカイII 599

図3:(統合幕僚監部)写真は[599] 26番艦「安陽(Anyang)」2018年8月就役、東海艦隊所属。その他「ジャンカイII級フリゲートについては前図説明を参照。

3:18 フチ 968

図4:(統合幕僚監部)903A型「福地」級補給艦、写真の[968]は2019年就役の9番艦「可可里西湖/Kekelixihu」。[903A]型は満載排水量23,000 ton、航続距離10,000 n.m.の大型艦。フランス製SEMT 16PC2-6V400エンジン2基を搭載、速力20 kt.で同型艦は7隻。同級にはやや小型20,000 ton級の[903]型2隻がある。

 

3月23日 公表  中国機の東シナ海における飛行について

3月23日(月)中国空軍Y-8早期警戒機1機が沖縄本島西方/尖閣諸島北方の我国防空識別圏(ADIZ)内を侵犯・飛行したので航空自衛隊那覇基地南西航空方面隊から戦闘機を緊急発進させ、警戒に当たった。空自戦闘機が撮影した「Y-8 早期警戒機」の写真はやや不鮮明。数年前米国の軍事情報サイトに「中国の新型早期警戒機[ KJ-500] あるいは「高新10号」として紹介された。

本機は、陜西航空機工業が製作する[Y-9]中型輸送機を基本に派生した早期警戒機で[KJ-500]と呼ばれ、レドーム内にAESAレーダーを3面に取付けてある。2015年から運用開始。全長36 m、翼幅38 m、最大離陸重量65 ton、航続距離5,200 km、エンジンはFW6JC型5,100 SHP x 4基を搭載している。

我国防空識別圏(ADIZ)に姿を見せるのは珍しい。

3:23 Y-8航跡

図5:(統合幕僚監部)3月23日Y-8早期警戒機の飛行経路。

3:23 Y-8

図6:(統合幕僚監部)3月23日に空自戦闘機が撮影した「Y-8早期警戒機」。

 

3月24日 公表  ロシア機の日本海、オホーツク海および太平洋における飛行について

3月24日(火)、ロシア空軍のTu-95戦略爆撃機2機、Su-35戦闘機を2機、および型式不明機2機、の計6機が我国本州日本海沿岸に相次いで飛来、北海道西岸をかすめ、Tu-95爆撃機2機は宗谷海峡を通り我国北方領土の国後島―択捉島間を往復した。航空自衛隊は中部航空方面隊および北部航空方面隊から戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。

3:24 ロシア機6機航跡

図7:(統合幕僚監部)3月24日(火)ロシア空軍機 [Tu-95]、[Su-35]、および型式不明機、合計6機の飛行経路。このうちTu-95戦略爆撃機2機は本州日本海沿岸の能登半島沖から北上、北海道西岸をかすめ、宗谷海峡北を通り国後、択捉両島間に達し、反転して引き上げた。

3:24 Tu-95

図8:(統合幕僚監部)度々紹介するが、ツポレフTu-95型機は改良型Tu-95MS「戦略ミサイル輸送機」の名称で63機が配備中。軸馬力14,800 hpのクズネツオフNK-12MAターボプロップを4基、最大離陸重量185㌧、最高速度925 km/hr、航続距離は6,400 km。海軍用に対潜哨戒機Tu-142がある。Tu-95MSは、超音速対地攻撃用ラドガ(Raduga) Kh-15巡航ミサイル(射程300 km) 6発を胴体内のドラムランチャーに搭載。派生型のTu-95MS-16型は、ラドガ(Raduga) Kh-55亜音速・射程2,500 kmの巡航ミサイルを胴体内に6発と翼下面に10発、計16発搭載できる。従ってTu-95は、我が国防空識別圏( ADIZ)の外から容易に目標を巡航ミサイルで攻撃できる。

3:24 Su-35

図9:(統合幕僚監部)スーホイ(Sukhoi) Su-35は、Su-27防空戦闘機を改良した機体で、NATO呼称は「フランカーE (Flanker-E)」。単座、双発の高機動性(super maneuverable)戦闘機、コムソモリスク・アムール航空機工場で生産中。ロシア空軍は推力偏向装置を付けた[Su-35S] 型を110機以上を配備している。中国空軍も2018年から導入、少なくとも24機を広東省に配備している。

 

3月25日 公表  中国機の東シナ海および日本海における飛行について

3月25日(水)、中国海軍所属のY-9情報収集機1機が対馬海峡南側を東シナ海から日本海に飛行し、反転して同じ経路で東シナ海に戻った。航空自衛隊では西部航空方面隊から戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。

3:25 Y-9航跡

図10:(統合幕僚監部)3月25日の中国海軍のY-9情報収集機が飛行した経路。

3:25 Y-9

図11:(統合幕僚監部)中国海軍Y-9情報収集機。陜西航空機が作るY-9多用途輸送機を情報収集機に改造した機。Y-9は、アントノフ(Antonov) An-12輸送機を国産化した陜西Y-8Fを基本に胴体を延長し、貨物搭載量は25 ton、人員なら100名+を運べる。西側のC-130J輸送機に相当するサイズ。

 

3月26日 公表  中国艦艇の動向について

3月24日(火)、午後4時、海上自衛隊佐世保基地第3ミサイル艇隊所属の「おおたか」が、下対馬南西150 kmの海域を北東に進む中国海軍ジャンカイII級フリゲート1隻を発見・追尾した。中国艦は対馬海峡を北に進み、日本海に進出したが、25日(水)には反転、往路と同じ経路で東シナ海に向け航行した。

3:24 ジャンカイII 515

図12:(統合幕僚監部)写真の[515]はジャンカイII級/江凱II級23番艦の「濱州(Ninzhou)」。その他江凱II級については図2の説明を参照のこと。

 

3月27日 公表  ロシア海軍艦艇の動向について

3月26日(木)午前11時、北海道北端の宗谷岬の北西95 kmを東オホーツク海に向けて進むロシア太平洋艦隊の18隻からなる大艦隊を発見した。発見・追尾したのは海上自衛隊余市在の第1ミサイル艇隊所属「わかたか」および八戸基地第2航空群所属「P−3C」哨戒機である。

「ロシア連邦国防省公式サイト」によると、この艦隊は太平洋艦隊旗艦スラバ級ミサイル巡洋艦「ワリヤーグ」を始めとする艦隊で、4月2日から8日に実施されるオホーツク海南の千島列島、国後島水道および択捉島海峡で実施するミサイル射撃を含む実弾射撃演習に参加するため移動である。この演習は3月25日からウラジオストク南のピョートル大帝湾で行われた機雷原の掃海訓練から始まり、15隻の戦闘艦艇、12隻の支援艦、20機ほどの航空機が参加する。

特に、シベリア沿海州とカムチャツカの航空基地からは、対潜航空隊の対潜哨戒機Tu-142とIl-38が参加して、潜水艦の捜索、識別、追跡の訓練を行う。また対潜ヘリコプターKa-27PLは、艦隊に随伴し潜水艦捜索演習を行う。

ロシア東方軍管区発表によると国後、択捉両島近海での演習に参加する主力艦艇は次の通り。これらは全て以下に示す海上自衛隊が撮影、公表した写真と一致している。

スラバ級ミサイル巡洋艦「ワリヤーグ」(011)

ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦「ブイストルイ」(715)

ウダロイI級駆逐艦2隻:「アドミラル・トリプツ」(564)、「アドミラル・バレンテーエフ」(548)

グリシャV級小型フリゲート2隻:「メチェーリ」(323)、「ソビエツカヤ・ガバ二」(350)

タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇6隻:ロケット艇R-14(924)、R-24(946)、R-297(954)、R-20(921)、R-18(937)、R19(978)、

マルシャル・ネデリン級ミサイル観測支援艦:複合測量艦「マルシャル・クルイロフ」

アルタイ改級補給艦2隻:中型海洋補給船「イリム」、「イジョラ」

オホーツク級航洋曳船:海洋曳船「アレクサンドル・ピスクノフ」

アムール級工作船:水上修理所PM-59

オビ級病院船「イルテイッシュ」

スクリーンショット 2020-04-05 14.11.19

図13:(Google) 3月26日宗谷海峡を通過した18隻からなるロシア太平洋艦隊は4月2-8日の間、国後水道と択捉海峡付近の海域でミサイル発射を含む大規模な実弾発射演習を行なっている。「北方4島の日本への返還はあり得なない」とする強い意思表示の表れか。

3:26 スラバ 011

図14:(統合幕僚監部)写真「ワリヤーグ」(011)は太平洋艦隊の旗艦。1989年就役、2008年に近代化改修を完了。満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で空母機動部隊攻撃が主任務。同級は3隻が配備中。両舷4本ずつの筒には、射程700 km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン(Vulkan)」対艦ミサイルを、各筒に2基ずつ計16基を搭載。昨年暮れ12月16日に東シナ海から対馬海峡を通り日本海に向け航行した。

3:26 そブレメンヌイ 715

図15:(統合幕僚監部)“駆逐艦「ブイストルイ」(715)”。排水量8,000 ton、対空、対艦戦闘が主任務。注目されるのは、両舷に装備する超音速対艦ミサイル「P-270モスキート」SS-N-22 SSM 4連装発射筒。「モスキート」は全長10 m、弾頭に炸薬300 kgを搭載、マッハ2-3で120 kmを飛ぶ。改良型の「P-800 オニークス」はさらに性能が向上。いずれも固体燃料ロケット・ラムジェット統合推進システムを使った巡航ミサイル

3:26 ウダロイI 548

図:16(統合幕僚監部)ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦「アドミラル・バレンテーエフ」(548)。本級は「1155型大型対潜艦」と呼び、満載排水量8,500 ton、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、ヘリコプター2機、SA-N-9型個艦防空ミサイルを装備。1980-1991年に作られ8隻が就役中で太平洋艦隊には内4隻を配備。イージス艦に近い性能を持つ。昨年12月16日に図14ワリヤーグに随伴して日本海に入った。

3:26 ウダロイI 564図17:(統合幕僚監部)写真は「アドミラル・トリプツ」(564)。ウダロイI級については図16の説明を参照のこと。

 3:26 グリシャV 323

図18:(統合幕僚監部)ロシア海軍では、グリシャ(Grisha)級を1124型小型対潜艦と呼び、1970年代から90隻以上建造した。グリシャV型はその最新版で28隻が就役中。満載排水量1200トン、速力34 kt、対潜ロケット砲2 (96)など強力な対潜装備を持つ。 写真は「メチェーリ」(323)。

3:26 グリシャV 350

図19:(統合幕僚監部)写真は「ソビエツカヤ・ガバ二」(350)。

3:26 タランタルIII 924

図20:(統合幕僚監部)「大型ロケット艇R-14 (924)」。コルベット艦で、満載排水量約500トン、対艦超音速ミサイル3M-80「モスキート」連装発射機を両舷に備え、敵水上艦隊の撃破を主任務とする汎用哨戒艇。さらに個艦防空用の対空ミサイル9K38イグラ発射機1基を持つ。最大速力41 kt。20隻以上が現役配備中。小型だが侮り難い兵装を持つ。

3:26 タランタルIII 946

図21:(統合幕僚監部) R-24

3:26 タランタルIII 954

図22:(統合幕僚監部)R-297

3:26 観測支援艦

図23:(統合幕僚監部)複合測量艦と呼ぶ「マルシャル・クルイロフ」。2017年に近代化改修を実施し太平洋艦隊に復帰した。昨年8月24日にも日本海からオホーツク海に宗谷海峡を通過している。

3:26 アルタイ補給艦z5

図24:(統合幕僚監部)「アルタイ改級補給艦」は2隻が航行した。

3:26 航洋曳船

図25:(統合幕僚監部)

3:26 アムール級工作艦

図26:(統合幕僚監部)

3:26 オビ級病院船

図27:(統合幕僚監部)海上自衛隊幹部学校トピックス062 2018-06-25「米海軍病院船マーシーと世界の病院船事情」によると、「オビ級病院船」は3隻あり、太平洋艦隊には3番船「イルテイシ」が配属されている。満載排水量11,600 ton、全長152 m、入院ベッド100床、手術室7室を備える。

 

3月27日 公表  ロシア海軍艦艇の動向について

3月26日(木)午後8時、下対馬南西200 kmの海域を東シナ海から北東に進み日本海に向かうロシア海軍のウダロイI級駆逐艦1隻およびドウブナ級補給艦1隻を発見した。発見・追尾したのは横須賀基地第1護衛隊所属「むらさめ」と鹿屋基地第1航空群所属の「P-3C」哨戒機である。

3:26夜 ウダロイI 572図28:(統合幕僚監部)ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦「アドミラル・ビノグラドフ」(572)。

本艦(572)は去る2月12日に対馬海峡を南西へ東シナ海に入った艦である。本級については図16の説明を参照のこと。

3:26夜 ドーブナ補給艦

図29:(統合幕僚監部)満載排水量9,000 ton、速力16 ktの補給艦で、前掲ウダロイI級駆逐艦と同行し2月12日に日本海から東シナ海に入ったもの。

 

3月30日 公表  海上自衛隊艦艇と民間船舶の衝突事案について(第1報)

統幕発表によると、30日(月)20時半ごろ屋久島の西約650 kmの東シナ海公海上で、航行中の護衛艦「しまかぜ」が中国漁船「MINFVDINYU」と衝突した。「しまかぜ」の被害は左舷水面から5 m上の箇所に1 m x 20 cmの破口を生じたが人員被害はなし。中国漁船については不明だが、13名の乗組員に行方不明者はおらず、自力航行ができる状態。。

環球時報3月31日によると、30日午後8時半ごろ海上自衛隊護衛艦「しまかぜ」が、鹿児島県屋久島の西650 kmの公海上で中国漁船と衝突した。双方に死者、行方不明者は出ておらず、両者とも自力航行が可能。このことから中国の漁船は通常の漁船ではなく頑丈な船舶のようだ、と報じた。

しまかぜ1

図30:(海上自衛隊)護衛艦「しまかぜ」(DDG-172) は佐世保基地第4護衛隊群第8護衛隊所属で基準排水量4,650 ton、満載排水量5,950 ton、全長150 m、1988年(昭和63)就役。SM-2対空ミサイル1基をMk13 Mod4ランチャーに装備。つまり僚艦防空担当のミサイル護衛艦[ DDG ]のはしりだが、艦齢30年以上となり退役が近い。次に続くのがイージス艦「こんごう」になる。

 

―以上―