2020-05-03(令和2年) 松尾芳郎
令和2年4月、我国周辺における中露両軍の活動
統合幕僚監部が発表した中露両軍の活動は6件で、その中に中国海軍空母「遼寧」を中心とする空母打撃群が宮古海峡を航行、往復した動きがある。さらに台湾南方上空で中国空軍爆撃機などによる編隊演習、南シナ海では中国支配に対抗し米海軍がイージス艦による “航行の自由作戦”を実施した。
以下に統合幕僚監部公表の6件と読売、産経、日経及び外電が伝える関連情報6件を示す。
4月6日 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
4月9日 公表 ロシア機の日本海及びオホーツク海における飛行について
4月10日 Global Security:米空軍RC-135U偵察機、台湾南部海域を偵察飛行
4月10日 環球時報:H-6爆撃機、J-11戦闘機、KJ-500早期警戒機、台湾南部海域上空で演習
4月10-11日 米第7艦隊イージス駆逐艦「バリー」台湾海峡の中国側を南へ航行
4月11日 公表 中国海軍艦艇の動向について(遼寧を含む艦隊・太平洋へ)
4月18日 中国政府:海南省三沙市にパラセル行政区、スプラトリー行政区を設置
4月27日 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
4月28日 公表 中国海軍艦艇の動向について
4月28日 米第7艦隊イージス駆逐艦「バリー/Barry(DDG-52)」パラセル諸島海域を航行
4月29日 米第7艦隊イージス巡洋艦「バンカーヒル/Bunker Hill(CG-52)」スプラトリー諸島海域を航行
4月30日 公表 中国海軍艦艇の動向について(遼寧を含む艦隊・東シナ海へ)
中国は以前にも増して日本周辺で軍事活動を続けている。尖閣諸島の領有権主張で譲らず、日本の国防体制を試す姿勢を崩していない。
1 ~ 3月の中国海警局艦艇の尖閣諸島周辺への侵入は269隻で前年同期の57 %増。4月もほぼ連日尖閣諸島接続水域内を航行した。また上記・空母「遼寧」を含む艦隊が宮古海峡を通過、台湾東の海域で演習、往路と同じ航路で帰還した。
既報したように中国機に対する航空自衛隊戦闘機の緊急発進は、1 – 3月で152回に達している。中国は国内でウイルス感染症が拡大した1月以降も全く軍事活動を緩めず「台湾の独立阻止、尖閣諸島の領有化、南シナ海スプラトリーおよびパラセル諸島占領の既成事実化」を“政策”として推進している。政府系通信社新華網は「米国をウイルス地獄に投げ込もう、医療用物資の供給を止めろ」と報じた。中国政府報道官は、ウイルス感染防止に取り組む日米両国に対し、一層声高に強い口調で非難・攻撃するようになった。
我国は、3月29日に「安全保障関連法施行4周年」を迎えた。これで「米国は日本を守るが、日本は米軍を守らない」と云う「片務的日米安保条約」が、「自衛隊も米軍航空機、艦艇を守る」“双務的条約”にする方向に一歩近ずいた。これで日米の関係が緊密化し、米軍との共同演習などで抑止力の強化に努めるようになってきた。
4月22日には航空自衛隊F-15戦闘機など15機が、米本土から飛来したB-1B戦略爆撃機など5機と日本海、沖縄周辺空域で演習を行なった。東シナ海では10 ~ 11日、海上自衛隊護衛艦「あけぼの(DD-108)」・6,100 tonと米海軍強襲揚陸艦「アメリカ」が共同訓練を実施した。「アメリカ/USS America (LHA 6)」・45,0000 tonは、第7遠征打撃艦隊( Expeditionary Strike Group)の旗艦となる予定、昨年暮れに新しい母港佐世保に到着した。F-35B短距離離陸垂直着陸戦闘機(STOVL) 13機をを搭載運用している。
4月6日 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
4月3日午後3時、対馬の北東130 kmの海域を、日本海から東シナ海に向け南西に進むロシア海軍ステレグシチー級フリゲート2隻を発見した。発見・追尾したのは海上自衛隊佐世保基地大13護衛隊所属の「さわぎり」である。
図1:(統合幕僚監部) ロシア海軍の「最新鋭コルベット」。ステルス形状で、水中抵抗も従来船型より25%減となった。満載排水量2,200 ton、全長104,5 m、速力27 kt、マスト頂部はSバンド3次元レーダー、マスト本体は最新の閉囲型で内部に各種レーダーが装備されている。兵装は、対空戦用にGSh-630M 30 mm ガトリング砲 2基、陸上用対空ミサイルS-400を艦載化し12セルのVLS(垂直発射装置)に装備、対艦用に3M24ウラン対艦ミサイルを4連装発射筒2基に搭載している。小型高性能のフリゲート。艦番号[333]は2017年就役の3番艦「ソベルシェンヌイ」、太平洋艦隊に配属。同型艦は6隻で、現在2隻が艤装中なので合計8隻になる。。
図2;(統合幕僚監部)艦番号(335)は「グロムキー」、2018年12月に太平洋艦隊で就役。
4月9日 公表 ロシア機の日本海及びオホーツク海における飛行について
ロシア空軍Il-38哨戒機2機が択捉島南岸から国後島・国後水道上空を通り、北海道北端宗谷岬を通過、北海道西岸から本州日本海沿岸に沿い飛行、能登半島沖で北方に立ち去った。航空自衛隊では戦闘機を緊急発進、領空侵犯を防いだ。
図3:(統合幕僚監部)4月9日ロシア海軍Il-38哨戒機2機の飛行航跡。
図4:(統合幕僚監部)IL-18型旅客機を対潜哨戒機に改装したのがIL-38。1967年から量産、58機が製造されロシア海軍は35機を受領、5機がインド海軍に引渡された。IL-18の胴体を4m伸ばし、主翼を3 m前方に移し前部胴体のみが与圧室になっている。尾部には潜水艦探知用のMAD(磁気探知装置)、前部胴体下のドームはレーダー。胴体前後にある兵装庫は前にソノブイ、後ろに対潜魚雷を格納する。機首上部のアンテナは新開発の電子情報収集システム(Electronic Intelligence System)[ノベラ(Novella)P-38]。空自戦闘機が撮影した本機は新型のIL-38N型で、ロシア海軍では8機を保有、太平洋艦隊に配備している。
4月11日 公表 中国海軍艦艇の動向について
4月10日午後7時、長崎県男女群島の南西420 kmの海域を南東に進む中国海軍空母「遼寧」、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦2隻、ジャンカイII級フリゲート2隻、およびフユ級高速戦闘支援艦1隻の計6隻の艦隊を発見した。その後これらの艦隊は沖縄本島―宮古島間の宮古海峡を南下、太平洋に向け航行した。発見・追尾したのは海上自衛隊佐世保基地第5護衛隊所属の「あきずき」と鹿屋基地第1航空群所属の「P-1」哨戒機である。
中国China Military Com.によると;―『空母「遼寧」、「052D」型ミサイル駆逐艦2隻、「054A」型ミサイル・フリゲート2隻、「901」型補給艦、からなる艦隊が10日(金)夕刻宮古海峡を通過、太平洋に向かった。翌日には台湾東の海域に入り、演習を行なった。「遼寧」を含む艦隊が宮古海峡を通過するのは2016年12月、2019年6月に続いて3回目となる。米仏の原子力空母が乗員のウイルス感染で漂泊中なのに対し、「遼寧」は感染症に打ち勝ち作戦行動を行っている。』
図5:(Google) 2020年4月の米中艦艇の行動を示す図。
図6:(統合幕僚監部)「遼寧(Lianning)」はソ連が崩壊前に建造を始めたアドミラル・クズネツオフ級空母「バリヤーグ」の未完成艦を、ウクライナから購入(1998年)、中国が10年以上掛けて完成(2012年)した空母。満載排水量約60,000 ton、飛行甲板長305 m、速力30 kt、J-15艦上戦闘機24機と各種ヘリコプター14機ほどを搭載する。発艦はスキージャンプ方式、カタパルトはない。
図7:(統合幕僚監部)「ジャンカイII/江凱II」型は「054A」フリゲート、2008年に1番艦「舟山」が就役した。満載排水量4,500 ton、全長137 m、速力27 kt、HQ-16対空ミサイルを米国のMk 41 VLSに似た32セルVLSに収めている。対艦ミサイルは艦中央部にYJ-83型を4連装発射機2基に格納している。[045A]フリゲートは外洋艦隊用で防空能力の強化している。写真の[542]「銅陵」は4番艦で2018年就役、東海艦隊に所属。
図8:(統合幕僚監部)中国海軍補給艦の中で[901]型と呼び2隻を建造、写真の艦番号[965]「呼倫湖」は1番艦。2017年9月就役。満載排水量48,000 tonで、これまでの主力補給艦[903/903A]福地型の2倍近いサイズ。空母打撃艦隊の専用補給艦として建造された。米海軍の空母随伴の戦闘支援艦「サプライ」級を参考にした。艦中央に門型の補給ポスト3基が見える。艦尾には大型ヘリ発着可能な甲板があり、艦載ヘリZ-8を2機搭載する。推進は4基のガスタービン、2軸推進で最大25 ktで空母に随伴する。
ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦(117, 119)およびジャンカイII級フリゲート(598)の往路の写真はない。しかし28日、同艦隊の帰路の写真が公表されているので以下に示す。
図9:(統合幕僚監部)「ルーヤンIII/旅洋III」型は[052D] 型駆逐艦、前身の[052C]を改良した最新の防空駆逐艦。1番艦「昆明」は2014年に就役。写真の[117]は5番艦「西寧」で2017年就役。同型艦は12隻が完成済み、建造中を含めると23隻になる予定。満載排水量7,500 ton、全長160 m、速力29 kt。兵装は対空/対艦/対巡航/対潜ミサイル発射用8セル型VLSを8基(合計64セル)を装備、これにHQ-9B対空ミサイル、YJ-18対艦ミサイルなどを搭載する。我が海自の「あたご」型イージス艦に比べるとやや小型だが、総合的な性能はほぼ同じ、しかし数では圧倒的に中国海軍の方が多い。
図10:「ルーヤンIII/旅洋III」型は[052D] 型駆逐艦、写真の艦番号119は8番艦「貴陽」、2019年就役、北海艦隊に所属。
図11:(統合幕僚監部) 「ジャンカイII/江凱II」型は「054A」フリゲート。写真の[598]「日照」は27番艦で2018年就役、北海艦隊に所属。
4月10日米空軍情報蒐集偵察機RC-135U、台湾南部海域上空を飛行
「Global Security Org.」によると、RC-135U偵察機1機が台湾南方海域上空を飛行、折から演習中の中国軍H-6爆撃機、KJ-500早期警戒機などの発する電子情報を収集した。
図12:(USAF)ボーイングRC-135偵察機の派生型の一つ3機作られた、別名「Combat Sent」。機首下、テイルコーン、翼端、にアンテナ/センサー類を装備、オファット空軍基地(Offutt AFB, Nebraska)に常駐、嘉手納にはしばしば飛来する。
4月10日中国軍機編隊が台湾の南西空域で演習
「環球時報」によると、中国空軍のH-6爆撃機複数、KJ-500早期警戒管制機、そしてJ-11戦闘機複数の編隊が10日(金)が台湾近くの空域で演習を行なった。これは今年に入って4回目。編隊はバシー海峡を通過太平洋に入り北上、演習ののち同じ経路で中国本土に帰還した。この演習は台湾をめぐり生じる紛争に備え行われた。
図13:(環球時報)H-6爆撃機とJ-11戦闘機。
4月27日 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
4月24日(金)午後4時、北海道宗谷岬北東40 kmの海域を南南西に日本海に向け航行するロシア海軍のタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇6隻とロプチャーI級戦車揚陸艦1隻の合計7隻の艦隊を発見した。発見・追尾したのは海上自衛隊余市基地第1ミサイル艇隊所属の「くまたか」と八戸基地第2航空群所属の「P-3C」哨戒機である。
タランタルIII級ミサイル哨戒艇については「艇番号924」の写真を代表掲載し、他の「921」、「937」、「946」、「954」、「978」、は省略する。
図14:(統合幕僚監部)タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇。超音速対艦ミサイルSS-N-22連装発射筒を両舷に備える。現役にあるのは主にIII型で25隻、満載排水量462トン、速力36ノット、兵装はSS-N-22対艦ミサイル4基と76 mm単装砲1門。SS-N-22は西側呼称で、ロシアでは「P270」モスキートと呼び、全長約10 m、直径0.74 m、重量4.5 ton、弾頭は300 kg HEまたは200 k ton核弾頭。射程は最大で250 km、速度はマッハ M2.2~M3。推進はインテグラル・ロケット・ラムジェット(IRR)。ソブレメンヌイ級駆逐艦、ウダロイII級駆逐艦にも搭載している。今は[P-270]の後継として[P-800]ヤーホント/オーニクスが実用化されている。
図15:(統合幕僚監部) プロジェクト775と呼ぶ揚陸艦。満載排水量4,000 ton、全長112.5 m、速力17.8 knot、艦内には全長95 m、幅4.5 m、高さ4.5 mのデッキがあり装甲戦闘車両24両を含む482 tonの積載能力がある。また海軍歩兵225名を収容できる。現在19隻が就役中。
4月28日 公表 中国海軍艦艇の動向について
4月28日(火)午前9時、宮古島南東80 kmの海域を北西に進む中国海軍空母「遼寧」、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦2隻、ジャンカイII級フリゲート2隻、およびフユ級高速戦闘支援艦1隻を発見した。同艦隊は沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を通過、東シナ海に入った。発見・追尾したのは海上自衛隊佐世保基地第5護衛隊所属のイージス艦「こんごう」、呉基地第12護衛隊所属の「うみぎり」、那覇基地第5航空群所属の「P-3C」哨戒機である。
なおこれらの艦艇は、4月10日(金)に長崎県男女群島南西で発見、その後宮古海峡を通り太平洋に進出したものと同じである。したがって艦艇の写真と説明は省略する。
4月30日 公表 中国海軍艦艇の動向について
4月29日(水)午前8時半、宮古島北北東160 kmの宮古海峡海域を東シナ海から太平洋に向かう中国海軍ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦1隻、ジャンカイII級フリゲート1隻及びフチ級補給艦1隻を発見した。発見・追尾したのは海上自衛隊沖縄基地第46掃海隊所属「くろしま」である。(以下の写真は「くろしお」ではなく航空機から撮影したように見える)
図16:(統合幕僚監部)「ルーヤンIII/旅洋III」型は[052D] 型駆逐艦、写真の艦番号(131)は「太原」、2018年末に就役、東海艦隊に所属。
図17:(統合幕僚監部)江凱II級フリゲート、写真の艦番号(532)は21番艦「荊州」、2016年東海艦隊で就役。
図18:(統合幕僚監部)フチ(福池)級補給艦は、基準排水量23,000 ton、速力20 kts、で各種燃料11,000 tonのほかドライカーゴ700 tonを搭載できる。同型艦9隻が就役すみ。
写真の艦番号(890)は4番艦「巣湖」で2013年就役、東海艦隊に所属。
―以上―