ブーム超音速機 ”XB-1”の 組立てが進む


2020-07-28(令和2年) 松尾芳郎

 6月20日XB-1組立

図1:(Boom Supersonic) 2020-06-20ブーム・スーパーソニック社ハンガーで撮影された「XB-1」組立ての状況。これから胴体上部スキン、垂直尾翼、テールコーン、エンジン、ランデイングギア、等を取付け、2020年10月7日に完成、ロールアウト式を行う。奥に見える垂直尾翼を含め構造は炭素繊維複合材製だが、右下にある尾部胴体はチタン合金。

 10-07ロールアウト

図2:(Boom Supersonic) 2020年10月7日ロールアウトする「XB-1」超音速技術実証機。「XB-1」は最新の技術、炭素繊維複合材で作る構造とコンピューター技術で最適化した空気力学設計、を試験飛行で実証し、成果を超音速旅客機「オーバーチュア」実現につなげる。

XB-1完成予想図

図3:(Boom supersonic) 超音速旅客機「オーバーチュア」の1/3縮小サイズの技術実証機「XB-1」の完成予想図。「XB-1」は複座、重量僅か7.8 ton、来年春から試験飛行を始める。

 

「XB-1」超音速技術実証機

英仏共同開発のコンコード(Concore)が退役して17年が経過、6年前に設立されたコロラド州のベンチャー企業の手で超音速旅客機「オーバーチュア(Overture/序曲)」の開発が始まった。その技術実証機となる戦闘機ほどの機体が間も無く完成する。

(Seventeen years after retirement of the Anglo-French Concorde, a small size supersonic prototype aircraft is nearing completion by Boom Supersonic in Colorado, founded six years ago. It is a trial toward development of the civil supersonic airliner “Overture” of the 21st century.)

ブーム社が製作中の技術実証機「XB-1」は、同社が2020年代末に完成を目指す55 – 75席級の超音速旅客機「オーバーチュア(Overture)」の1/3サイズである。

「オーバーチュア」はコンコードより早いマッハ2.2で飛び、ずっと経済的な運航ができる。座席-マイル当りのコストは、現在の亜音速旅客機のビジネス・クラスと変わらない。これで誰でも大陸間を超音速で旅行できるようになる。最新のコンピューター技術で作られる比較的保守的なデザインの超音速機、今では普通に使われる安全性の高いフライ・バイ・ワイヤ操縦系統を装備、機体各所にコンピューターが使われている。

細長い機首から伸びる胴体、しなやかなカーブを描くデルタ翼、などはコンコードと似ている。しかしコンコードとは違い、胴体・主翼など構造は軽量で耐熱性が高く3D整形の容易な炭素繊維複合材製で、主翼は胴体上部に取付けられる。

技術実証機「XB-1」のエンジンは3基で、垂直尾翼前のドーサル・インレットと胴体側面のインレット2個から空気を取り入れる。コンコードでは4基のエンジンを2基ずつポッドに納め翼下面に取付けていた。

コロナ・ウイルスの蔓延にも関わらず、「XB-1」の組立てはデンバー(Denver)センテニアル(Centennial) 空港内のブーム社工場で僅かの遅れはあるものの着実に進んでいる。同社のブレーク・スコール(Blake Scholl)社長は語っている。「胴体の上部スキンは間も無く取付けを終える。垂直尾翼は強度試験中で、ランデイング・ギアは収納試験を行っている。個々の試験が終われば、機体に取付けて機体全体として試験に入る。組立が完了すれば同空港で地上走行試験を開始。そして今年末ごろにはモハベ(Mojave, Calif.)に運び、飛行試験を始める。」

モハベ空港は「Mojave Air & Spaceport」と呼ばれ、ロサンゼルス北東約150 kmのモハベ砂漠にあり、敷地面積は約3,000エーカー(acres) / 1,200ヘクタール(ha)、軍民様々な航空機の実験、開発の拠点として使われている。方位120度 - 300度の長さ3,800 mを中心に3本の滑走路があり、付近の空域は試験飛行に使われる。広大な敷地には廃棄あるいは予定の航空機が多数保管され、飛行機の墓場(Aircraft Boneyard)としても有名。

飛行試験はモハベにある「フライト・リサーチ社( FRI=Flight Research Inc.)」の手で行われる。「フライト・リサーチ社(FRI)」はモハベで飛行訓練、飛行試験を受託している会社で、ブーム社と今年1月に本件に関わる契約を締結済み。FRI社は超音速訓練機「T-38」を保有しており、「XB-1」の試験飛行ではT-38が随伴する予定。

モハベを選んだ理由は、ランウエイが長く、幅も十分にあり、試験空域に隣接しており、安全上好ましいからである。

「XB-1」は完成までにまだ2月ほど掛かるが、これまでの設計、風洞試験、および組立工程の経験は、並行して進んでいる「オーバーチュア」の設計改善に反映されつつある。

スコール社長は「実証機の設計、試験、製造の段階で、我々は膨大な空気力学上の最適化技術を習得できた。特に、低速時と高速時の性能の兼ね合いをどうするか、離着陸時の騒音規制に関連して、主翼に付ける高揚力装置が高速時の性能にどのように影響するか、について数年前には分からなかった多くの知見を習得できた」と話している。

「XB-1」の完成が近ずくに連れて、技術陣の主力は2020年台半ばの初飛行を目指す「オーバーチュア」の原設計の見直し、つまり第2次設計作業に着手している。

「オーバーチュア」の胴体尾部にエンジン3基を装備する基本形式は変わらないが、「XB-1」の試験飛行で得られるデータで、これまで不確かだった箇所が明らかになり、第2次設計に多く反映される予定だ。

「オーバーチュア」開発を担当するブーム社の専務(Sr. VP) ブライアン・デユランス(Brian Durrence)氏は語っている。

「XB-1は超音速旅行実現に向けての重要な一歩である。この実証機は、安全で効率的、かつ持続可能な超音速旅行の実現に必要な基礎技術を我々に教えてくれる。XB-1は設計や製造に関わる知識水準を高めるための機体ではなく、設計ツールとしてオーバーチュアの設計改良のために使う。例えば、超音速機で性能に直接影響を及ぼすエンジン・インレットの配置・形状は、両者で相似なので、試験飛行でその配置や形状に改善点が見つかれば、それを「オーバーチュア」設計に直ぐに反映できるということだ。」

試験飛行はブーム設定の方式で、造波抵抗(wave drag)、衝撃波(shockwave)をコントロールしながら行う予定、これで得られるデータは「オーバーチュア」の運用に反映される。

超音速風洞試験

図4:(Boom supersonic) 「XB-1」の超音速風洞試験の写真。青色部分は温度が低く赤色部分は温度が高い、機体上下の斜線は衝撃波を示す。エンジン・インレット部は空気が圧縮されるので高温になっている。機首、操縦席キャノピー部分も温度が高い。衝撃波が地上に達するとソニック・ブーム(sonic boom)として爆発音のような騒音となる。

 

NASAの「X-59」低ソニック・ブーム超音速技術実験機

ブーム社の計画と並行して、NASAはロッキード・マーチン社の協力を得て「X-59」低ソニック・ブーム超音速技術実験機を開発中である。また、エリオン(Aerion)社が超音速ビジネス・ジェット「AS-2」の開発を進めているが、いずれも陸地上空で衝撃波を「75 PNLdB」以下に弱めて飛行することを目標にしている。(騒音値の表示には[Effective Perceived Noise Level in Decibels (PNLdB)/実効騒音値の意]を使う)

X-59

図5:(Lockheed Martin) NASAの「X-59」低ソニック・ブーム超音速技術実験機(QueSST=Quiet SuperSonic Technology X-plane) の完成予想図。「X-59」は米国民の居住地域上空を超音速で飛行するが、発生するソニック・ブームは耳に軽く聞こえる程度に抑える技術を開発するための機体。NASAは2019年にロッキード・マーチンと2億5,000万ドルで「X-59」開発契約を締結した。「X-59」は単座、全長30 m、翼幅9 m、エンジンはGE製F414-GE-100 推力22,000 lbsを1基。55,000 ftの高空をマッハ1.4で飛行する。地上でのソニック・ブーム値を「 75 PNLdB」以下に抑える。コンコードは「105 PNLdB」だった。

 

「オーバーチュア」の環境対策

一方「オーバーチュア」は、衝撃波の制限の無い海洋上での超音速飛行を前提にしている。

スコール社長は「我々は超音速で大洋を横断することに焦点を当てており、既存の技術を活用し、できるだけ低価格でしかも短期間で実現することを目指している。“衝撃波を弱める技術”の追求は目標としては正しいが、万人の理解を得るソニック・ブームの水準に達するにはかなりの時間がかかる。そしてその成果を実機に適用するにはさらに多くの期間と資金を要するだろう。このため、我々は短期間で実現可能な超音速大洋横断飛行に的を絞った。」と語っている。

このように「オーバーチュア」は“衝撃波騒音”の減衰には対応していないが、離着陸時の騒音制限についてはICAO(国際民間航空連盟)規則14章/ FAAステージ5 “離着陸時の騒音基準”(案)には余裕を持って規制値をクリアできる予定である。またFAAの最大離陸重量15万lbs最大速度マッハ1.8以下の超音速機に対する離着陸時の騒音基準(案) “SSL1= Supersonic Level 1 “ をも満足する。「オーバーチュア」は “SSL1” より大型で速度も速いため規定(案)外となるが、適用についてFAAと目下協議を進めている。

燃料についてブーム社は、カリフォルニアの「プロメテウス(Prometheus) 燃料」社と協定を結び「XB-1」用として、大気中の炭酸ガス[ CO2 ]を電気的に抽出・液化して供給して貰うべく契約している。試験飛行に使う程度の量であれば供給可能だが、大洋横断の定期航空用の燃料としては供給量に問題があり、実用化は先になりそう。

「オーバーチュア」のエンジン選定は未定。2つほど候補に挙がったが、メーカー側と協議を続けている段階。ブーム社の考えは、既存のターボファン・エンジンをベースにした中程度バイパス比でアフトバーナ無しのエンジン、を使いたいとしている。候補として検討したのは一つは軍用エンジンのコアを使うもの、他は民間用ターボファンとされる。

コロナウイルス蔓延で経済が弱体化する中ブーム社の開発資金は十分で、「オーバーチュア」開発の加速に向け人員・設備の増強およびサプライヤーとの協議に力を入れている。

 

「オーバーチュア」の特徴

コンコードが初飛行してから50年、この間に航空宇宙関連の技術は長足の進歩を遂げた。これらの技術で、コンコードに比べ遥かに燃費の良い、運航費の低廉な超音速機の実現が可能となった。

①    :空気力学の進歩

空力的に「オーバーチュア」はかなり洗練されている。胴体は“エリア・ルール”に従って設計され、機体の断面積の変化による空気流の乱れ/抵抗の増大を少なくするよう、主翼近傍では細く作られる。コンコードの設計時にもエリア・ルール理論は理解されていたが、アルミ合金製の胴体では工作が難しく適用を断念された。「オーバーチュア」は加工の容易な炭素繊維複合材を使うので可能になった。

設計技術面では、コンピューターを使い数百回にも及ぶ繰り返しシュミレーションで最適解を得る手法が使われるが、これはコンコード時代には不可能だった。コンコードでは数ヶ月も要する風洞試験を繰り返して設計を進めていたが、ブームでは、電子流体力学(CFD= Computational Fluid Dynamics) を駆使して数時間あるいは数日で設計が行われてれる。

XB-1 CFD図

図6:(Boom supersonic) 正面から見た飛行中の「XB-1」をコンピューター流体力学 (CFD)ソフトで描いた図。青の部分は低圧、オレンジ色は高圧を示す。エンジン・インレットが高温、機首とキャノピーも温度が高い。空気が翼端から上に回り込む翼端渦が生じているのが分かる。

 

②     :材料

超音速飛行では、機首、翼前縁、エアインレット前縁などで空気流の圧縮が生じ温度が上昇する。コンコードはAl合金製で軽くはできたが、超音速時には温度上昇で胴体が30 cm近くも伸びていた。「オーバーチュア」が使う炭素繊維複合材は、アルミ合金に比べ高温時で十分な強度があり、高温による伸縮量も遥かに少ない。

③     :エンジン

今日では50年前に比べ遥かに改良されたエンジンが入手できる。超音速飛行に十分な推力を持ち、低騒音で空港周辺への問題の少ないエンジンが使用可能だ。コンコードはオリンパス(Olympus) 593エンジンを4基装備し、離陸時と超音速に加速する時にアフターバーナを使ったが、「オーバーチュア」では必要ない。

 

「オーバーチュア」の市場

「オーバーチュア」は、巡航速度マッハ2.2、航続距離8,300 km (4,500 n.m.)、ニューヨーク・ロンドン間は3時間15分、太平洋路線では途中給油が必要となるがサンフランシスコ・東京間は5時間30分、ロサンゼルス・シドニー間は6時間45分で飛行でき、2027年の就航を目指す。アフタバーナ無しの推力20,000 lbs級エンジンを3基搭載する。「オーバーチュア」1機の価格は220億円程度。世界の500の都市間の飛行を想定し、ビジネスクラス料金で運航可能、1,000機以上の需要を見込んでいる。

2016年3月にバージン・グループ(Virgin Group)が10機、2017年12月に日本航空が20機、それえぞれ優先購入権付き仮発注をしている。日本航空はブームに対し1,000万ドル(約10億円)を出資し20機の優先購入権を確保した。

日航発注

図7:(Boom Supersonic)「オーバーチュア」の開発経緯を示す表に記載されている日本航空発注の記事。

オーバーチュア

図8:(Boom supersonic) 2020年台半ばの初飛行を目指す超音速旅客機「オーバーチュア」。日本航空から20機とバージン・グループから10機の合計30機、総額60億ドルの優先購入予約を得ている。「オーバーチュア」が運行されると都市間の所要時間は次のように短縮される;―

東京―シアトル間:現在の8時間30分が4時間半へ

パリーモントリオール間:現在の7時間15分が3時間45分へ

ロサンゼルスーシドニー間:現在の14時間半が8時間へ

 

「オーバーチュア」の構造

超音速時の抵抗を減らすためデルタ翼で、コンコードのほぼ75 %の大きさ、NASAの低ソニック・ブーム超音速技術実験機「X-59「QueSST」の技術は取り入れていない。デルタ翼なので主翼の縦横比/アスペクト比は1.5と極めて低い、従って低速時の抵抗が大きく離陸時には大きな推力が必要となる。最大離陸重量は77.1 ton、客室はファースト・クラス10席とビジネス・クラス45席の合計55席を想定、全長は52 m、翼幅は18 m。

オーバーチュア2

図9:(Boom supersonic) 「オーバーチュア」は、全席ビジネス・クラスの場合75席で、洋上をマッハ2.2で飛ぶ旅客機。炭素繊維複合材で作る胴体は超音速時の抵抗を減らすエリア・ルールを使い設計してある。客室は中央通路を挟む座席2列配置で、大型の窓から景色を楽しめる。エンジンは両翼下面と胴体後部に計3基を装着。エンジン騒音の小さい、効率の高いターボファンを予定している。胴体後部エンジンの空気インレットは胴体の両側面にある。

客席1

図10:(Boom supersonic) 座席は全て窓側に一列配置、その間が通路となる。

客席2

図11:(Boom supersonic) 座席の下にはロッカーが装備され、これまでのオーバヘッド・ビンの代わりとなる。これで手荷物の出し入れが楽になり、頭上スペースが広くなる。

 

ブーム・スーパーソニック社の幹部

・ブレーク・スコール社長

ブレーク・スコール(Blake Scholl)社長は、カーネギー・メロン大学(Carnegie Mellon Univ.)コンピューター・サイエンス学科でBSを取得、2001年にアマゾン(Amazon)にソフトウエア・エンジニアとして入社、自動販売ソフトの開発で功績を挙げ、24歳で3億ドル企業P&L社のオーナーとなった。2010年に共同購入型クーポンサイトを運営する“グルーポン(Groupon)に転じ、自動車技術の企業”キマ・ラブ (Kima Lab)”の共同創立者となった。

スコール氏は世界が見過ごしている問題の解決に情熱を持ち、博物館で退役したコンコードを見て超音速旅客機の復活を志すようになった。そして2014年9月に、超音速旅客機を開発し人々の旅行時間を短縮することを決意、ブーム・スーパーソニック(Boom Supersonic)社を設立した。

スコール氏はシンシナチ(Cincinnati, Illinoi)郊外で生まれ、少年時代から飛行機が好きで、大学時代に自家用操縦士および計器飛行証明を取得。現在はデンバー在住、3児の父親。

ブライアン・デユランス専務取締役

ブライアン・デユランス(Brian Durrence)氏は専務取締役(Sr. VP)で超音速旅客機「オーバーチェア(Overture)」開発を担当する。ジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)でBSを取得、ジョージア・サザン大学(Georgia Southern Univ.)でMBAを取得、ガルフストリーム(Gulfstream)社で30年間勤務、同社のG550、G650などの大型ビジネス機の開発に携わってきた。2010年からガルフストリームのチーフ・エンジニアを務めた後、2015年にブームに参加、現職を務める。

グレッグ・クローランド(Greg Krauland) チーフエンジニア XB-1担当

クローランド氏はカーネギー・メロン大学で工学士、工学修士号を取得、スケールド・コンポジット社を経てスペース X社に入社し8年間勤務、ファルコン9打上げロケットの第2段開発担当責任者としてスペースXに貢献してきた。

・その他

ブーム社の現在の社員は約140名だが、最近でも有能な人材の採用が続いている。

ブラジル・エンブラエル社の販売担当Sr. VPだったライアン・スコット(Ryan Scott)氏を迎い入れ、さらにロッキード・マーチンでSr. VPを務めたレイ・ジョンソン(Ray Johnson)氏を顧問会議のメンバーに招聘している。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Aviation Week Jun 29 – July 12, 2020 “Pathfinder Progress” by Guy Norris

Boom Supersonic Nov. 20, 2020 “What is a Demonstrator Aircraft and Why build one?”

Boom Technology “We’re Boom”

Boom Supersonic Sept 18, 2019 “The Big 3 Components of Supersonic Aircraft”

Forbes Apr 9, 2020 “Boom Supersonic Moves Closer to Re-Establishing Faster-than Sound Passenger Air Travel” by Jim Vinoski

Wikipedia “Boom Overture”