令和2年8月、我が国周辺における中露両軍の活動


2020-09-01(令和2年) 松尾芳郎

令和2年8月、我が国周辺における中露両軍の活動に関し、統合幕僚監部発表の3件を含み、陸・海・空各自衛隊幕僚監部、および付随してロシア国防軍、中国軍、米軍から多くの発表があった。注目すべきは、月末に中国ロケット軍が南シナ海に向け弾道ミサイル4発を発射した件である。
(According to the Japan’s Defense Ministry, Russ & Chinese Military movements around Japanese Islands have been increasing ever. On August 26, China fired four ballistic missiles into the South China Sea, including DF-21D and DF-26B, one of the most noteworthy event in this region.)
以下に各幕僚監部発表の項目および中国の東シナ海・南シナ海における演習、の概要を示す。

1. 統合幕僚監部
8月6日公表 :ロシア海軍艦艇の動向について(ロシア海軍艦艇3隻が対馬海峡を南下東シナ海へ)

8月14日公表 :ロシア機の日本海における飛行について(IL-20情報収集機が日本海側防空識別圏に侵入)

8月19日公表 :ロシア機の日本海における飛行について(TU-95爆撃機2機を含む8機が日本海側防空識別圏に侵入)

2. 陸上幕僚監部
8月6日公表  :令和2年度方面隊実動演習(北部方面隊)の概要について(北海道大演習場ほか道内各地演習場で8月24日~9月10日の間実施、参加部隊は陸自北部方面隊、水陸機動団、第1空挺団、空自北部方面隊、参加車両は10式戦車、16式機動戦闘車、155 mm自走榴弾砲、水陸両用車など)

3. 海上幕僚監部
8月3日公表  :令和2年度米国派遣訓練(護衛艦)の一部変更について(8月17日〜31日の間、日本-ハワイ諸島海空域で実施されるリムパック[RIMPAC 2020]に参加する海自艦艇は「いせ」と「あしがら」)

8月7日公表  :日米共同訓練について(8月6日関東南方海空域で海自「あまぎり」および米陸軍UH-60Lヘリコプター2機が参加)

8月18日公表 :日米共同訓練について(15~17日の間東シナ海で実施、海自「すずつき」および米海軍「マステイン」が参加)

8月19日公表 :日米共同訓練について(15~18日の間沖縄南方海空域で実施、海自「いかづち」および米空母「ロナルド・レーガン」他が参加)

8月25日公表 :令和2年度第1回米国派遣訓練(潜水艦)について(8月27日~11月28日の間ハワイ諸島方面で潜水艦「うんりゅう」が米海軍と実施)

4. 航空幕僚監部
8月11日公表 :米空軍との共同訓練の実施について(日本海・沖縄周辺空域で実施、空自機14機および米軍機1機が参加)

8月18日公表 :米空軍との共同訓練の実施について(日本海、東シナ海・沖縄周辺空域で実施、空自機20機および米軍機19機が参加)

5. 中国、東シナ海、南シナ海で大規模演習を連続実施
日経、産経、NHKその他国内マスコミ、中国外務省、米国防省は相次いで東シナ海、南シナ海における中国軍の大規模演習を報道。

以下に各項目の内容を写真を交えて説明

1. 統合幕僚監部
8月6日公表 :ロシア海軍艦艇の動向について(ロシア海軍艦艇3隻が対馬海峡を南下東シナ海へ)
ロシア海軍艦艇3隻が日本海から対馬海峡を経由、東シナ海に入った。
08-06 ウダロイ564
図1:(統合幕僚監部)ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦「アドミラル・シャポシニコフ?」(564)。本級は「1155型大型対潜艦」と呼び、満載排水量8,500 ton、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、ヘリコプター2機、SA-N-9型個艦防空ミサイルを装備。1980-1991年に作られ8隻が就役中で太平洋艦隊には内4隻を配備。イージス艦に近い性能を持つ

08-06 ウダロイ572
図2:(統合幕僚監部)ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦「アドミラル・ビノグラドフ」(572)。昨年6月7日午前11時45分、フィリピン海で米海軍イージス巡洋艦「チャンセラービル/Chancellorville(CG-62)」に対し、30 mまで異常接近したことで知られる艦。

08-06補給艦
図3:(統合幕僚監部)ボリス・チリキン級補給艦は、満載排水量23,500 ton、速力17 kt、同級艦は5隻ある。ドウブナ級補給艦のほぼ2倍の大きさ。
8月14日公表 :ロシア機の日本海における飛行について(IL-20情報収集機が日本海側防空識別圏に侵入)
イリューシンIL-20情報収集機1機が北海道日本海側から本州能登半島沖の我が国防空識別圏に侵入、舞鶴沖で反転立ち去った。空自戦闘機が緊急発進、領空侵犯に備えた。

08-14 IL-20航跡

図4:(統合幕僚監部)8月14日IL-20情報収集機の飛行経路。

08-14 IL-20
図5:(統合幕僚監部)8月14日、北海道-本州の日本海沿いを飛行したロシア空軍「IL-20」情報収集機。6月10日にもほぼ同じコースを飛行した。「IL-20M」とも呼ばれ、通信傍受をするCOMINT/ELINT偵察機。1957年代から600機生産されたイリューシン(Ilyusin) IL-18旅客機をベースに開発された。IL-18は離陸重量64 ton、イブチェンコAl-20Mターボプロップ4,250 hp 4基を装備する。

8月19日公表 :ロシア機の日本海における飛行について(TU-95爆撃機2機を含む8機が日本海側防空識別圏に侵入)
ツポレフTU-95戦略爆撃機2機と護衛の戦闘機など8機が北海道日本海沿岸から本州日本海側隠岐の島北部の我国防空識別圏に入り長時間飛行を行った。航空自衛隊は戦闘機を緊急発進させ領空侵犯を防いだ。これに関しロシア国防省は、Tu-95などロシア機は公海上を飛行していたにも関わらず多数の日本戦闘機が接近、進路を妨害した、と報じた。

08-19 TU-95航跡
図6:(統合幕僚監部)8月19日、日本海側我国防空識別圏を侵犯したロシア機8機の航跡。

08-19 TU-95
図7:(統合幕僚監部)改良型Tu-95MS「戦略ミサイル輸送機」の名称で63機が配備中。軸馬力14,800 hpのクズネツオフNK-12MAターボプロップを4基、最大離陸重量185㌧、最高速度925 km/hr、航続距離は6,400 km。海軍用に対潜哨戒機Tu-142がある。Tu-95MSは、超音速対地攻撃用ラドガ(Raduga) Kh-15巡航ミサイル(射程300 km) 6発を胴体内のドラムランチャーに搭載。派生型のTu-95MS-16は、ラドガ(Raduga) Kh-55亜音速・射程2,500 kmの巡航ミサイルを胴体内に6発と翼下面に10発、計16発搭載できる。従ってTu-95は、我国防空識別圏( ADIZ)の外から容易に目標を巡航ミサイルで攻撃できる

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図8:(ロシア空軍)ロシア空軍が発表した、8月19日にウクラインカ空軍基地で離陸のためタキシー中のTU-95SM戦略爆撃機。TU-95MSはロシア空軍第37航空団(37th Air Army)が保有、傘下に4個飛行連隊がある。そのうちの一つ第79重爆撃飛行連隊(79th TBAP)は、ロシア極東アムール川沿の連邦直轄地(旧満州黒竜江省の北)スボボドヌイ(Svobodny)市近郊のウクラインカ空軍基地(Ukrainka Air Base)に展開中。ここは3,500 m滑走路を備えるロシア最大の戦略空軍基地。スボボドヌイ市には他にICBM基地と大規模な核弾頭貯蔵施設がある。

2. 陸上幕僚監部
8月6日公表  :令和2年度方面隊実動演習(北部方面隊)の概要について(北海道大演習場のほか道内各地に散在する15箇所の演習場で8月24日~9月10日の間実施、参加部隊は陸自北部方面隊、水陸機動団、第1空挺団、空自北部方面隊、参加車両は10式戦車、16式機動戦闘車、155 mm自走榴弾砲、水陸両用車など)
演習目的は、北部方面隊の各種事態に対応する練度を向上させることと、離島侵攻に対処する実動訓練を通じて、島嶼部における対処能力を向上させること。以下に参加車両のうち10式戦車と16式機動戦闘車を例示する。
10式戦車
図9:(陸上幕僚監部)10式戦車、乗員3名、重量約44 ton、長さ9.4 m、幅3.2 m、最高速度70km/hr、エンジンは水冷4サイクル・8気筒デイーゼル1,200 hp、武装44口径120 mm滑腔砲および12.7 mm機関銃。車体・砲塔は三菱重工製、120 mm滑腔砲は日本製鋼所製。重さ44 tonとしたため、北海道、本州、九州、四国の主要国道の橋梁18,000箇所のうち84 %は通過できる。諸外国主力戦車に配備が進む「C4I」システムを搭載、指揮、射撃統制を友軍と共有化できる。これまでに100両ほどが配備された。

16式機動戦闘車、
図10:(陸上幕僚監部)16式機動戦闘車、装輪装甲車で乗員4名、重量26 ton (C-2輸送機で輸送展開が可能)、長さ8.5 m、幅3 m、武装105 mm砲と12.7 mm機関銃。車体・砲塔は三菱重工製、105 mm砲は日本製鋼所製、570 hpデイーゼル・エンジンの動力で車体底部中央の駆動軸を回し、そこからギアを通して車輪を駆動する。これまでに陸自各方面隊隷下の即応機動連隊を中心に140両ほどが配備されている。

3. 海上幕僚監部
8月3日公表  :令和2年度米国派遣訓練(護衛艦)の一部変更について(8月17日〜31日の間日本-ハワイ諸島海空域で実施されるリムパック[RIMPAC 2020]に参加する海自艦艇は「いせ」と「あしがら」)に決定。
リムパック/環太平洋合同演習(Rim of the Pacific Exercise)は1971年から開催、海上自衛隊の参加は1980年からで隔年開催に合わせて参加している。2020年は10カ国から艦艇22隻、潜水艦1隻が参加、8月17日〜31日の間実施中。米海軍からは空母に代わり強襲揚陸艦エセックス(LHD-2) を含む艦艇8隻が参加している。エセックスはワスプ級強襲揚陸艦の2番艦で満載排水量40,000 ton、F-35B戦闘機、MV-22Bオスプレイ輸送機など各種航空機30機を搭載する。

リムパックいせ
図11:(海上幕僚監部)ヘリ空母「いせ (DDH-182)」は「ひゅうが」型の2番艦。佐世保基地第2護衛隊群第2護衛隊に配属されている。IHIマリン・ユナイテッド横浜工場製で2011年3月就役。満載排水量19,000 ton、全長197 m、最大速力30 kt、主機はIHI製LM2500 ガスタービン4基で合計出力10万馬力。SH-60K哨戒ヘリコプターおよびMCH-101輸送へ入りコプターを最大11機搭載する。兵装は、CIWS Mk 15高性能20 mm対空機関砲を2基、Mk.41 VLS対空・対艦・対潜ミサイル発射装置16セルなどを備える。

リムパックあしがら
図12:(海上幕僚監部)ミサイル護衛艦「あしがら・DDG-178」は「あたご」型護衛艦の2番艦、三菱重工長崎造船所製で2008年3月就役、佐世保基地第2護衛隊群第2護衛隊に所属。満載排水量10,000 ton、全長165 m、主機はIHI製LM2500ガスタービン4基、出力10万馬力、最大速力30 kt以上、兵装は、62口径5 inch単装砲1門、Mk.15高性能20 mm対空機関砲2基、Mk. 41 VLS対空・対潜ミサイル発射装置96セル、対艦ミサイルSSM-1B 4連装発射機 2基などを装備する。ヘリコプター1機を搭載できる。本艦はイージス艦。

8月7日公表  :日米共同訓練について(8月6日関東南方海空域で海自「あまぎり」および米陸軍UH-60Lヘリコプター2機が参加)

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図13:(海上幕僚監部)米陸軍との共同演習で護衛艦「あまぎり」に着艦する米陸軍UH-61Lヘリコプター。「あまぎりDD-154」は「あさぎり」級護衛艦の4番艦。IHI東京造船所で建造、1989年就役、現在は横須賀基地第11護衛隊に所属。満載排水量4,900 ton、長さ137 m、兵装は76 mm単装砲1門、CIWS 20 mm対空機関砲2基などをもつが、VLS/垂直ミサイル発射装置はない。SH-60J哨戒ヘリを搭載する。
米陸軍の[UH-61L]ヘリコプター「ブラックホーク(Black Hawk)」は、1979年から配備が始まり、多くの派生型が生まれ、我が国自衛隊配備も含め4,000機以上作られた。「L」型は1989年に完成、性能向上型のT700-GE-701Cエンジンを搭載、外部懸架重量を450 kgから4,100 kgに増加、フライト・コントロール・システムの近代化、をしている。2001年になると[ UH-61M ]型が出現した。UTC傘下のシコルスキーが開発、維持、改良をして来たが、先般ロッキード・マーチンに売却され、その部門として改良生産を続けている。

8月18日公表 :日米共同訓練について(15~17日の間東シナ海で実施、海自「すずつき」および米海軍「マステイン」が参加)
米第7艦隊ニュース(Aug. 17, 2020)によると、米海軍アーレイ・バーク級イージス駆逐艦「USSマステイン・Mustin(DDG 89)」と海自「あきずき」級駆逐艦「すずつき(DD 117)」は、東シナ海で8月15日から地域の安定のための共同訓練を実施、同時にこれは「日米両海軍の60年にわたる連携の一つである」と発表した。「マステイン」は第15駆逐艦隊(Destroyer Squadron/DESRON 15)所属の駆逐艦で、米第7艦隊の配下として「インド-太平洋」の平和と安定のために活動中である。訓練では、ヘリコプター運用を含む実戦を想定した通信、編隊航行を行なった。
08-17 すずつき、マステイン
図14:(海上幕僚監部)米イージス駆逐艦「マステイン・DDG 89」と並走する海自「すずつき・DD 117」(手前)。「すずつきDD-117」は、「あきずき」型護衛艦の3番艦。三菱重工長崎造船所製、2014年3月就役、佐世保基地第4護衛隊群第8護衛隊に所属。満載排水量6,800 ton、全長150 m、主機はRR製SM1Cガスタービン4基、出力64,000馬力、速力30 kt。兵装は62口径5 inch単装砲1門、20 mm CIWS対空機関砲2基、90式対艦ミサイル4連装発射機2基、Mk. 41 Mod29 VLS対空・対潜ミサイル発射装置32 セル、その他を装備する。イージス艦に近い性能を持つ。
「マステインDDG-89」はミサイル駆逐艦(イージス艦)「アーレイ・バーク」級の39番艦、同型艦は67隻が就役済み、満載排水量,9,700 ton、長さ155 m、Mk 41 VLS 96セルを装備する。横須賀基地の第7艦隊に所属。海自「すずつき」との共同訓練のあと、8月27日には南シナ海で“航行の自由作戦”を実施した。ここではパラセル諸島(西沙諸島) 近海を航行した。

8月19日公表 :日米共同訓練について(15~18日の間沖縄南方海空域で実施、海自「いかづち」および米空母「ロナルド・レーガン」他が参加)
米第7艦隊ニュース(Aug. 18, 2020)は「米国-日本両海軍の60年にわたる連携」と題して、米海軍「ロナルド・レーガン(CVN 76)」が旗艦を務める第5空母打撃群と海自「むらさめ」級駆逐艦の「いかづち(DD 107)」が8月15-18日の間フィリピン海で共同訓練を実施した」と発表した。訓練は空母艦載機の離発着を含むあらゆる実戦場面を想定したもので、相互の技量向上に大きく寄与すると共に「開かれたインド-太平洋」を守る固い意思を内外に示した。

08-18いかずち、レーガン
図15:(海上幕僚監部)補給艦を挟んで米空母「ロナルド・レーガン」と並走する護衛艦「いかずち(DD-107)」。同艦は「むらさめ(DD-101)」級の7番艦で日立造船舞鶴工場で建造、2001年就役、横須賀基地第1護衛隊軍第1護衛隊に所属。満載排水量6,200 ton、長さ151 m、兵装は、62口径76 mm単装砲1門、20 mm CIES対空機関砲2基、Mk. 41 VLS 垂直発射器16セルなどを備える。

8月25日公表 :令和2年度第1回米国派遣訓練(潜水艦)について(8月27日~11月28日の間ハワイ諸島方面で米海軍と海自潜水艦「うんりゅう」が実施)

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図16:(海上幕僚監部) 潜水艦「うんりゅう」(SS-502)は「そうりゅう」型の2番艦、AIP通常動力型潜水艦、川崎造船製で2010年3月就役、呉基地第1潜水隊群第5潜水隊に所属。基準排水量2,900 ton、水中排水量4,200 ton、長さ84 m、速力は水上13 kt、水中20 kt。533 mm魚雷発射管6門装備(89式長魚雷およびハープーン対艦ミサイル発射可能)。

4. 航空幕僚監部
8月11日公表 :米空軍との共同訓練の実施について(日本海・沖縄周辺空域で実施、空自機14機および米軍機1機が参加)
8月7日(金)、空自戦闘機部隊は日本海および沖縄周辺空域で、米空軍と共同で編隊航法訓練を行なった。参加したのは、航空自衛隊から第2航空団千歳基地からF-15戦闘機2機、第7航空団百里基地から F-2戦闘機4機、第8航空団築城基地からF-2戦闘機4機、第9航空団那覇基地からF-15戦闘機4機、の合計14機。米空軍からB-1爆撃機1機、である。
米空軍ニュース(August 11, 2020)は、第37遠征爆撃航空団(37th Expeditionary Bomb Squadron)所属のB-1B爆撃機1機が、空自F-2戦闘機8機およびF-15戦闘機6機と有事即応のための共同訓練を行なった、と発表した。参加したB-1B爆撃機は、サウス・ダコタ州エルスウオース空軍基地(Ellsworth AFB, South Dakota)を出発、グアム・アンダーセン空軍基地(Andersen AFB, Guam)まで、長距離“爆撃機動ミッション(BTF=Bomber Task Force missions)を実施、そこから演習に参加した。
08-07空自機14機
図17:(航空幕僚監部)8月7日、沖縄周辺空域で米空軍B-1B爆撃機と編隊飛行を行う空自F-15戦闘機。

8月18日公表 :米空軍との共同訓練の実施について(日本海、東シナ海・沖縄周辺空域で実施、空自機20機および米軍機19機が参加)
8月18日(火)に日本海、東シナ海および沖縄周辺空域で米空軍と共同で編隊航法訓練および防空戦闘訓練を含む戦技向上訓練を行なった。参加したのは航空自衛隊から、第2航空団千歳基地のF-15戦闘機4機、第6航空団小松基地のF-15戦闘機4機、第8航空団築城基地のF-2戦闘機4機、第9航空団那覇基地のF-15戦闘機8機、の合計20機。米軍からは、空軍のB-1爆撃機3機、海軍のF/A-18戦闘攻撃機2機、海兵隊のF-35B VTOL戦闘機3機、の合計19機であった。
米空軍ニュース(August 19, 2020)は、8月18日に米空軍、海兵隊、日本航空自衛隊は大規模な訓練を実施、と発表した。空軍からは、B-1B ランサー(Lancer)爆撃機4機、B-2スピリット(Spirit)爆撃機2機、F-15C戦闘機4機、で爆撃機動軍(BTF=Bomber Task Force)を編成、日本の空自戦闘機などと『インドー太平洋地域の自由と安定』を維持するための訓練を実施した。まず、サウスダコタ州エリスオース空軍基地(Ellsworth AFB, South Dakota)から2機のB-1Bが東シナ海に入り、飛来した空自機と訓練を開始、続いてグアム島アンダーセン空軍基地(Andersen AFB, Guam)から2機のB-1Bが東シナ海に到着、訓練に参加。それから嘉手納空軍基地からF-15C戦闘機が参加した。さらにロナルド・レーガン(USS Ronald Reagan)空母打撃群に搭載の海兵隊岩国基地所属F-35B もこの訓練に加わった。
訓練終了後、米空軍の戦闘機は嘉手納基地に帰投したが、4機のB-1Bそのままサウスダコタ州の基地まで戻った。また、ミゾーリ州ホワイトマン空軍基地(Whiteman AFB, Missouri)から来たB-2爆撃機2機は、インド洋中央にある米海軍基地デイエゴ・ガルシア(Diego Garcia)に向かい、そこでの新任務に就いた。
この訓練を通して、米空軍の「Air Force Global Strike Command (全地球攻撃軍の意)」は、いつでも世界中あらゆる地点に必要があれば直ちに出動、敵を撃破する能力があることを世界に示した。

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図18:(航空幕僚監部)8月18日東シナ海空域で行われた、米空軍B-1BおよびB-2爆撃機を中心とするBTF訓練は、空自戦闘機、海兵隊戦闘機などが参加、合計40機ほどで実戦さながらの大演習となった。

5. 中国、東シナ海、南シナ海で大規模演習を連続実施
日経、産経、NHKその他国内マスコミ、中国外務省、米国防省は相次いで東シナ海、南シナ海における中国軍の大規模演習を報道した。
ロイター通信(Reuters) 8月26日によると、台湾を巡り米中両国の軍事衝突の懸念が高まりつつある。
中国軍は過去3週間で、北の渤海湾、黄海、東シナ海に面した舟山列島、そして南シナ海の4つの沿岸海域で相次いで演習を実施、中国軍は「台湾海峡全般にわたる安全保障」を念頭に置いた演習と説明している。
8月アザー米厚生長官の台湾訪問に合わせて中国戦闘機が台湾に接近、威嚇したが、台湾軍は地対空ミサイル・レーダーで追尾、発射はしなかったがいつでも撃墜可能なことを示した。これについて台湾国防部は25日、中国軍機が台湾に接近すれば「より積極的に」対応すると断言した。
中国外務省はロイター通信に対し「中国には中台分離に関わる企てを阻止する決意と力がある」と述べている。
米政府高官は「中国はこの地域で一段と攻撃的になっており、軍が事態を読み誤って不測の事態を招く恐れがある」と語っている。元米政府有力者が最近発表した論文には「米大統領選が11月にあるが、もしこの勝敗判定を巡って紛糾することがあれば、このタイミングが中国に取り台湾侵攻のチャンスとなる」と書いている。
8月27日報道によると、26日にハワイで演説したエスパー国防長官は「米国は太平洋で指導的役割を担う責任があり、自らの政治体制を良いとする他国(中国を指す)には1インチたりとも譲歩しない」と述べた。
中国軍英文ニュースChina Military com (8月25日)は、米軍のU-2偵察機が中国北東部の海域で実施中の実弾射撃演習区域に不法侵入した、と非難した。
同ニュース(8月27日)は、米軍による不法な挑発に反対する、として「米軍機がしばしば中国本土沿岸に接近飛行していること、米艦艇が南シナ海、東シナ海で演習を行なっていること、」を非難し、中国は今後必要な対抗措置を取ると述べている。
同ニュースはまた、中国海軍が建造した最初の「075型」強襲揚陸艦が初航海を行なった、と発表した。これに関しロイター通信(2020-07-24)は、「中国海兵隊の拡充」と題して「075型」を取り上げ、中国は同型艦7隻以上を配備する計画ですでに2隻が進水済み、と報じている。「075型」は排水量40,000 ton、空母型で900名の兵員と装甲車両などを搭載、艦載のヘリコプター30機で上陸作戦を行う。

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図19:(China Military Com.) 中国海軍が新造した排水量40,000 ton級の強襲揚陸艦「075型」。同型艦は7隻以上建造する予定と云う。沖縄県南西諸島、台湾、などへの侵攻作戦のため整備を急いでいる。米海軍強襲揚陸艦「ワスプ」や「アメリカ」級に匹敵する。

米AFP通信(8月28日)によると、米国防総省は27日声明を発表し「中国が南シナ海で行なった弾道ミサイルの発射実験は、地域の平和と安全を脅かしている」と非難した。国防総省は、中国が西沙諸島(パラセル諸島、Paracel Islands)周辺で今月23日から実施中の演習で、4発の弾道ミサイルを発射したことを確認。この行動は南シナ海の状況をさらに不安定にする」と言明した。
香港South China Morning Post(2020-08-26)によると、中国北西部青海省から射程4,000 kmの弾道ミサイル「DF-26(東風)」、浙江省からは射程1,500 kmの「DF-21D」、がそれぞれ発射され、いずれも海南島とその南パラセル諸島(西沙諸島)の間に中国軍が設定した演習海域に着弾した、という。中国軍事筋によると「他国軍が南シナ海に接近するのを拒否する中国側の能力を向上させるための試射」と述べている。
中国ロケット軍は、中距離弾道ミサイル「DF-21系列」、「DF-26系列」合計で200~300発を配備済みと報じられている。

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図20:(Google) 中国人民解放軍ロケット軍は、8基地に分かれ、30個ミサイル旅団10万人で構成する。青海基地は第56基地と呼ばれ西寧に本部、4個旅団を配下に持つ。浙江省の発射基地は金華にあり、安徽省稽霊山に本部を置く皖南基地(第52基地)の配下8個旅団の一つが運用している。

「DF-21D」は[CCS-5 Mod-4]とも呼ばれる対艦弾道ミサイル、「米国航空宇宙情報センター(National Air and Space Intelligence Center)」によると、射程は1,800 km、弾頭は500 kgだが搭載する炸薬は200 kg程度。移動式発射台から偵察衛星あるいは警戒管制機のデータを使い、航行中の空母の位置を特定、攻撃する。大気圏外を飛翔した弾頭は目標に速度マッハ10で降下するが着弾30秒前の高度5 kmでは搭載レーダーの機能回復のため速度をマッハ2程度に減じ目標位置を確認する必要がある。専門家は「弾道ミサイルで移動目標を正確に攻撃するのは至難の技。防御側は電子戦攻撃でデータ通信を妨害できるし、着弾前にはSM-3対空ミサイルで迎撃できる」とその効果を疑問視する。
DF-21D
図21:(Taiwan News) 天安門広場を行進する「DF21D」。重さ14,7 ton、長さ10.7 m、直径1.4 m。核弾頭搭載可能。

「DF-26」は[DF-21]の射程を伸ばした中距離弾道ミサイルで、3,000-4,000 kmの射程を持ち、太平洋上のグアムを含む多くの米軍基地を通常弾頭または核弾頭で攻撃できる。重さ20 ton、長さ14 m、直径1.4 m、弾頭は1,200-1,800 kg、固体燃料2段式、2015年から配備開始。対艦弾道ミサイル型も開発済みと云う。

DF-26
図22:(Missile Threat) 「DF-26」は2015年9月の北京軍事パレードで初めて公開された。北京の南、黄河南岸の河南省洛陽市(Luoyang, Henan province)近郊およびモンゴルなどに配備されている。

台湾、南シナ海にUAVを配備
Defense Industry Daily (August 28, 2020)、台湾英文ニュース(2020/08/26)、によると、台湾国防省は25日、自国開発のAlbatross(鋭鳶) UAV無人偵察機を、台湾が領有する東沙諸島(香港の南東340 km)のプラタス島(Pratas Islands)(壙大島)および南沙諸島の太平島(Taiping Islands )に間もなく配備する、と発表した。両島共に1,000 m級の滑走路があり、アルバトロス無人機は4機と管制装置のセットでそれぞれに配備される。緊張が高まる南シナ海の情勢に対応した措置。

アルバトロス
図23:(Taiwan News) 台湾開発のアルバトロス無人偵察機。台湾海軍が30機以上配備している。翼幅8 m、全長5.3 m、航続距離180km、搭載量55 kg、滞空時間は約12時間。

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