2020-11-04(令和2年) 松尾芳郎
令和2年10月、我国周辺における中露両軍の活動と、それに対応する我国自衛隊および同盟諸国軍の動きに関し、各國関係部門から多くの発表があった。以下のその項目と内容を列記する。
(On October 2020 period, there are many military exercises and threats in the Indo-Pacific region by the Chinese and Russian Forces, enforcing there political issues to Japan and allied nations. Matching to the enforcements, U.S.-Japan allied forces have proceeded counter measure in the region.)
防衛省
10月2日 公表 ロシア機による領空侵犯について
10月30日 公表 次期戦闘機(F-X)の令和2年度事業に関する契約締結について
統合幕僚監部
10月9日 公表 2020年度上半期の緊急発進実施状況について
10月13日 公表 中国機の東シナ海および太平洋における飛行について
陸上幕僚監部
10月6日 公表 令和2年度方面隊実動演習(西部方面隊)の概要について
10月6日 公表 令和2年度機動展開訓練(北部方面隊及び中部方面隊)の概要について
10月30日 公表 テイルトローター機V-22スプレイの飛行開始について
海上幕僚監部
10月7日 公表 日本、インドネシア親善訓練について
10月9日 公表 対潜訓練について
10月13日 公表 日米共同訓練について
10月20日 公表 日米豪共同訓練について
10月22日 公表 日米共同訓練について
航空幕僚監部
10月3日 公表 米軍との共同訓練の実施について
10月16日 公表 令和2年度航空総隊統合訓練(実動訓練)の実施について
10月23日 公表 米軍との共同訓練の実施について
10月23日 公表 米軍との共同訓練の実施について
米海軍第7艦隊ニュース
10月13日 公表 米海軍、海上自衛隊の「かが」、「いかずち」と共同訓練
10月19日 公表 米国、日本、豪州3カ国海軍は南シナ海で共同訓練を実施
10月26日 公表 米国防軍と日本自衛隊は「鋭い刀 (Keen Sword 21)」/ KS21演習」を開始
中国China Military
11月2日 公表 中国軍機は10月中に25日間に渡り台湾海峡を飛行
ロシア海軍情報管理局ニュース
10月19日 公表 太平洋艦隊デイーゼル潜水艦2隻は日本海で魚雷発射を伴う水中戦闘演習を実施
10月24日 公表 Project 06363潜水艦「ボルホフ」が完成、太平洋艦隊に編入
10月29日 公表 太平洋艦隊旗艦ロケット巡洋艦ワリヤーグと大型対潜艦バンテレーエフは日本海で演習を実施
以下に各国関係部門が公表した内容を説明する。
防衛省
・10月2日 公表 ロシア機による領空侵犯について
10月2日(金)12時半ごろロシアぐ「Mi-8」ヘリコプター1機が北海道知床岬領海の上空・我が国の領空を侵犯したので、航空自衛隊北部方面隊から戦闘機を緊急発進させ、警告し、退去させた。
図1:(防衛省)10月2日、北海道知床岬領海上空の我国領空を侵犯したロシア軍「Mi-8」ヘリコプター。「Mil Mi-8」ヘリは、ソビエト時代1987年就航の双発中型輸送用ヘリコプターで、エンジン出力を向上させた改良型の「Mil Mi-17」を含めると世界で最も多く製造されたヘリ(17,000機と言われる)である。軍用型ではガンシップ、偵察用、作戦指揮、などがある。輸送用型では乗客24名、エンジンはKlimov TV3-117MTターボシャフト軸馬力2,000 hpを2基、離陸重量13 ton、時速250 km/hr、航続距離約500 km。
・10月30日 公表 次期戦闘機(F-X)の令和2年度事業に関する契約締結について
防衛省は、次期戦闘機(F-X)の令和2年度事業に関して、10月30日に三菱重工業と契約を締結した。今後、次期戦闘機(F-X)の開発を着実に進めていく。
「令和2年防衛白書」によれば、2035年(令和17)ごろに退役が始まる「F-2」戦闘機の後継として2020年度から次期戦闘機を我国主導で開発に着手する。
重視するポイントは;―
① 改修の自由度と拡張性の獲得
② 機体・システムに関わる知見を国内で蓄積・維持し、整備基盤を確保する
③ 開発コストの高騰や開発遅延のリスクの低減
この実現のため、米国および英国と協議、2020年末までに協力に関する枠組みを決める。
開発業務を効率的に行うため2020年4月より、防衛装備庁に「装備開発官(次期戦闘機担当)」を設置し、体制を強化している。
図2:(令和2年防衛白書)次期戦闘機(F-X)のイメージ。詳しくはTokyoExpress 2019-10-14 [航空自衛隊、「将来戦闘機」開発の近況]および同2019-12-28 [我国の「次期戦闘機」と英国が開発中の「テンペスト」との関係]、などを参照されたい。
統合幕僚監部
・10月9日 公表 2020年度上半期の緊急発進実施状況について
2020年度上半期(4月〜9月)の空自機による緊急発進回数は371回で、前年同期と比べ99回減少した。緊急発進の対象となったのは、中国機に対してが234回で全体の63 %、ロシア機に対するものが134回で全体の36 %であった。
方面隊別の緊急発進回数は、ロシア機に向き合う北部方面隊が116回、さらに中国機に対抗する西部方面隊が48回、沖縄に配備されている南西航空方面隊が194回になっている。
・10月13日 公表 中国機の東シナ海および太平洋における飛行について
中国軍「Y-9」情報収集機1機が10月13日(火)東シナ海から我が国防空識別圏に侵入、沖縄県宮古海峡を通過、太平洋に進出、台湾東海域に飛行、反転し往路と同じ経路で東シナ機に戻った。航空自衛隊では南西航空方面隊から戦闘機を緊急発進させ領空侵犯に備えた。
図3:(統合幕僚監部)10月13日の中国機「Y-9」情報収集機の飛行経路。
図4:(統合幕僚監部)Y-9情報収集機。
・10月13日 公表 ロシア機による領空侵犯について
(本件は「10月2日防衛省公表 ロシア機による領空侵犯について」と重複するので省略)
陸上幕僚監部
・10月6日 公表 令和2年度方面隊実動演習(西部方面隊)の概要について
敵の南西諸島への侵攻に対する反撃能力を向上させるため、10月16日〜11月5日の間、西部方面隊にある基地、演習場で実動演習を行う。この訓練は西部方面隊における最大規模の実動演習となる。参加部隊は、陸自の北部方面隊、東北方面隊、中部方面隊、西部方面隊、これらに加えて海上自衛隊、航空自衛隊も参加する。
・10月6日 公表 令和2年度機動展開訓練(北部方面隊及び中部方面隊)の概要について
民間を含む陸海空の輸送力を使い各方面隊から西部方面区域への機動展開をする。期間は10月20日から11月12日まで。西部方面区域では敵による島嶼上陸作戦に対抗する訓練及び警備訓練を実施する。
参加する主な部隊は次の通り。
・北部方面隊:第2師団司令部、第25普通科連隊、
・東北方面隊:第6師団司令部、第44普通科連隊、第6高射特科大隊、第6飛行隊、
・中部方面隊:第14旅団司令部、第15即応機動連隊、第1ヘリコプター団、
・10月30日 公表 テイルトローター機V-22スプレイの飛行開始について
テイルトローター機V-22オスプレイ(Osprey)は,今年7月10日に木更津駐屯地で受領したが、飛行開始の目処が立ち11月6日から順次飛行を開始する。佐賀県との交渉がまとまり次第、佐賀空港に基地を新設、移駐する。
図5:(陸上幕僚監部)ボーイング製-22オスプレイはこれまで400機が米軍に納入されているが、米軍以外では我が陸上自衛隊が最初のユーザーとなる。陸自向け初号機は、7月10日搬入先の米海兵隊岩国基地を出発、陸自木更津駐屯地に到着した。陸自は17機を導入する予定で、現在2機を受領済み。米国防総省は458機の導入を予定し、内訳は海兵隊がMV-22を360機、特殊作戦軍がCV-22を50機、海軍がHV-22を48機。性能は武装兵士24名搭載時で航続距離950 km、最高速度560 km/hr、最大離陸重量24 ton、エンジンはロールス・ロイス・アリソン製T-406 出力6,100 馬力 x 2基。
海上幕僚監部
・10月7日 公表 日本、インドネシア親善訓練について
令和2年度インド太平洋方面派遣訓練部隊は、10月6日インドネシア海軍と親善訓練を実施した。参加したのは海自ヘリ空母「かが・DDH 184」、護衛艦「いかづち・DD 107」とインドネシア海軍フリゲート「ジョン・リー」、コルベット艦「スタント」である。
図6:(海上幕僚監部)戦術運動中の海自護衛艦「いかずち・DD 107」とインドネシア海軍コルベット艦「スタント」(手前)。
・10月9日 公表 対潜訓練について
10月9日南シナ海において、海自護衛艦隊ヘリ空母「かが・DDH 184」、護衛艦「いかずち・DD 107」及び搭載ヘリ3機は、潜水艦「しょうりゅう・SS 510」と共に、対潜戦訓練を行なった。訓練後10月10日及び11日に、補給のためベトナムのカムラン港に寄港した。
潜水艦「しょうりゅう・SS 510」:2019年3月就役の「そうりゅう」型の10番艦、ここまでは水中航続時間を伸ばすためスターリング・エンジンを搭載している。11番艦以降及び「たいげい」級は全てリチウム・イオン電池に変更されている。基準排水量2,950 ton、満載排水量4,200 ton、水中速力20 kt。
護衛艦「いかずち・DD 107」:2001年3月就役で「むらさめ」型の7番艦、基準排水量4,450 ton、満載排水量6,100 ton、最大速力30 kt、62口径76 mm単装速射砲1門、Mk.15高性能CIWS対空機関砲 2基、Mk.41 VLSミサイル発射装置16セル、などを装備。
ヘリ空母「かが・DDH 184」:2017年3月就役で「いずも」型の2番艦。基準排水量19,500 ton、満載排水量26,000 ton、全長248 m、最大幅38 mは、第二次大戦中の帝国海軍空母「加賀」とほぼ同じ。最大速力30 kt、高性能CIWS対空機関砲2基、SeaRAM対空ミサイル・システム2基、などを装備。SH-60J/K哨戒ヘリ、MCH-101輸送へりなど14機を搭載する。近く導入されるF-35B 短距離離陸・垂直着陸(STOVL)戦闘機を運用するため2020年度予算で同型艦「いずも」は改修中だが、続いて「かが」も2024年から改修する。
図7:(海上幕僚監部)護衛艦「いかづち・DD 107」とソノブイを引き上げる対潜ヘリSH-60Jの姿。
図8:(海上幕僚監部)10月9日南シナ海で対潜戦訓練を実施した海自訓練部隊。手前から潜水艦「しょうりゅう・SS 510」、護衛艦「いかずち・DD 107」、ヘリ空母「かが・DDH 184」。
・10月13日 公表 日米共同訓練について
10月12日から南シナ海で、海自「かが・DDH 184」、「いかづち・DD 107」、と米第7艦隊ミサイル駆逐艦(イージス艦)「ジョン・S・マケイン/USS John S. McCain・DDG 56」が共同訓練を行った。操艦手順の再点検、通信、データ・リンク訓練を行い、これで両国が「自由で開かれたインド・太平洋」区域の安定と発展に協力し合う事を内外に示した。
図9:(海上幕僚監部)10月12日から南シナ海で共同訓練を行う日米海軍艦艇、右から「かが・DDH 184」、「いかづち・DD 107」、「ジョン・S・マケイン/USS John S. McCain・DDG 56」
・10月20日 公表 日米豪共同訓練について
10月19日、日米豪3ヶ国海軍は南シナ海で今年5回目となる共同訓練を実施した。参加したのは、海自護衛艦「きりさめ・DD 104」、米海軍第7艦隊アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「ジョン・S・マケイン/USS John S. McCain・DDG 56」、豪海軍「アランタ/ HMAS Arunta・FFH 151」である。
訓練の目的は “自由で開かれたインド太平洋地域” の安全確保と安定および発展を確実なものにするため。
護衛艦「きりさめ・DD 104」は、1999年就役で「むらさめ」型の4番艦。他は前掲「いかずち」の説明を参照。
図10:(海上幕僚監部)手前から豪海軍「アランタ/ HMAS Arunta・FFH 151」、海自護衛艦「きりさめ・DD 104」、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦(イージス艦)「ジョン・S・マケイン/John S. McCain・DDG 56」」、の3隻は南シナ海で共同訓練を行った。3カ国共同訓練は今年に入って5回目。
・10月22日 公表 日米共同訓練について
10月21日青森県津軽半島の東方海域で、海自八戸基地の「P-3C」哨戒機は米海軍の「P-8A」哨戒機と共同訓練を実施した。目的は戦技の向上と米海軍との連携の強化。特に対潜戦訓練と情報交換訓練に主眼を置いて実施した。
図11:(海上幕僚監部)海自八戸基地で訓練に参加した隊員たち。後ろには海自「P-3C」(右)と米海軍「P-8A」(左)が見える。
航空幕僚監部
・10月3日 公表 米軍との共同訓練の実施について
9月30日(水)日本海、東シナ海、および沖縄周辺空域で、空自戦闘機部隊は米空軍爆撃機と共同訓練を実施した。目的は日米共同の対処能力の向上と空自各航空団の戦術技量の向上のため。編隊航法訓練および要撃戦闘訓練を実施した。
参加したのは、
航空自衛隊: 千歳基地 第2航空団 F-15戦闘機 4機
新田原基地第5航空団 F-15戦闘機 8機
小松基地 第6航空団 F-15戦闘機 4機
那覇基地 第9航空団 F-15戦闘機 4機
米空軍: B-1 爆撃機 1機
・10月16日 公表 令和2年度航空総隊統合訓練(実動訓練)の実施について
10月19日〜11月10日の間、空自は陸自および海自と連携して、支援設備が十分でない飛行場への航空機の迅速な展開訓練を行うとともに、共同で基地の警備能力を維持・向上するための訓練を行った。訓練場所は空自各基地や海自の鹿屋基地など。空自からの参加は航空総隊を始め整備などの支援、教育、開発実験などの各集団、それに通信、補給の要員を含め人員5,600名、および各種航空機約20機である。
・10月23日 公表 米軍との共同訓練の実施について
10月20日(火)日本海、東シナ海、および沖縄周辺の空域で、空自戦闘機部隊は米空軍のB-1B爆撃機と共同で編隊航法訓練と要撃戦闘訓練を実施した。目的は日米共同の対処能力の向上と空自各航空団の戦術技量の向上のため。
参加したのは、
航空自衛隊: 千歳基地 第2航空団 F-15戦闘機 4機
新田原基地第5航空団 F-15戦闘機 4機
小松基地 第6航空団 F-15戦闘機 4機
百里基地 第7航空団 F-2 戦闘機 2機
那覇基地 第9航空団 F-15戦闘機 4機
米空軍: ダイス空軍基地(Dyess AFB, Texas) 第9遠征爆撃航空団
B-1 B爆撃機 1機
U.S. Air Forceニュースによれば、10月20日、米空軍第9爆撃遠征航空団(9th Expeditionary Bomb Squadron) 所属の「B-1Bランサー(Lancer)」爆撃機4機は、テキサス州ダイス空軍基地を出発、グアム島アンダーセン空軍基地(Andersen Air Force Base)に到着したが、途中東シナ海上空などで空自戦闘機部隊と“爆撃機動(BTF =Bomber Task Force)”と呼ぶ共同訓練を行なった。参加したのは空自 F-15戦闘機16機、F-2戦闘機2機。訓練は、「自由で開かれたインド・太平洋」を守る能力を高めるために実施した。
図12:(航空幕僚監部)10月20日東シナ海で共同訓練を行う米空軍B-1B爆撃機と空自戦闘機
・10月23日 公表 米軍との共同訓練の実施について
10月20日(火)空自三沢基地第3航空団第302飛行隊所属の[F-35A]戦闘機2機は、米海軍第7艦隊の強襲揚陸艦「アメリカ」と各種戦術訓練を実施した。目的は戦術技量の向上。F-35Aは陸上基地用なので着艦はできない。
第302飛行隊(302SQ)は、「F-35A」12機体制で2019年3月に編成された。
「F-35A」は、単発・単座のステルス多目的戦闘機、ロッキード・マーチンが主契約、ノースロップ・グラマン、BAEシステムズなどが協力して作る「統合打撃戦闘機(JSF=Joint Strike Fighter)」である。
「F-35A」は基本形で、米空軍のほか我が空自を含む各國空軍で採用する機体、米空軍では1,763機を購入する予定。空自は105機を導入する。空自導入機はいずれも三菱重工でライセンス生産、またエンジンはIHIでライセンス生産している。
「F-35B」は米海兵隊使用機で「短距離離陸・垂直着陸/ STOVL=Short Take-Off, Vertical Landing」型、海兵隊では353機を購入する。我が空自では42機を導入し「いずも」、「かが」に搭載して運用する。他に英空軍・海軍が138機、イタリア空軍・海軍が15機導入する。
「F-35C」は米空母搭載用で、海軍が250機、海兵隊が67機配備する予定。
「強襲揚陸艦アメリカ(LHA-6)」・USS America(LHA-6)は、2014年春に就役、海兵隊の遠征打撃軍や上陸軍部隊(約1,700名)の輸送艦隊の旗艦任務を行う。V-22オスプレイ輸送機、F-35B多目的戦闘機、UH-1Yヘリコプター・ガン・シップなどを搭載・運用する。満載排水量45,000 ton、全長257 m、速度22 kt以上、上陸用舟艇を収納するウエルデッキはない。主な対空兵装は、RAMミサイル21連装発射機2基、20 mm CIWS機関砲2基、など。F-35Bは20機ほど搭載できる。昨年12月6日、米第7艦隊前方展開上陸軍に配属、佐世保基地に展開、第31海兵隊遠征部隊 (31st Marine Expeditionary Unit/MEU) と共同で「インド-太平洋の自由」を守るための訓練を行なっている。
図13:(航空幕僚監部)米海軍第7艦隊強襲揚陸艦「アメリカ・LHA 6」の上空を低空で飛ぶ我が空自の三沢基地第3航空団第302飛行隊所属のF-35A戦闘機2機。
米海軍第7艦隊ニュース
・10月19日 公表 米国、日本、豪州3カ国海軍は南シナ海で共同訓練を実施
本稿10ページ「10月20日 公表 日米豪共同訓練について」に記載済みなので、省略する。
・10月26日 公表 米国防軍と日本自衛隊は「鋭い刀 (Keen Sword 21)」/ KS21演習」を開始
「鋭い刀 (Keen Sword 21)」/ KS21演習」実施については、TokyoExpress 「令和2年9月、中露両軍の活動と我が国に対応」で、統合幕僚監部[ 9月25日公表・令和2年度日米共同統合演習(実動演習)「Keen Sword 21/02 FTX」について]として6~7ページに記載済みなので参照されたい。
米国防軍「インドー太平洋軍( Indo-pacific Command Forces )と日本自衛隊は、10月26日から本州および沖縄諸島とその周辺海域で「鋭い刃(やいば)21 (KS21=Keen Sword 21)」訓練を開始した。KS21訓練は11月5日にかけて行われる予定である。
「鋭い刃」演習は隔年に実施され、米統合参謀本部議長が主催、米インド-太平洋軍が実施、我が自衛隊が共同参画する演習で、日米両軍の相互運用、有事即応体制を強化するのが狙い、インド-太平洋区域で不測の事態が発生すれば、直ちに対応する事を内外に知らしめる。
図14:(U.S. Pacific Fleet Public Affairs / Petty Officer 2nd Class Erica Bechard)「鋭い刃21」演習に参加する米海軍「ロナルド・レーガン空母打撃群」護衛する米小艦隊と海自護衛艦。
中国China Military
・11月2日 公表 中国軍機は10月中に25日間に渡り台湾海峡を飛行
チャイナ・ミリタリーによると、中国軍は米国が台湾に対し武器輸出を決めたことに抗議して、10月中の25日間に渡り台湾海峡に軍用機を飛行させ、武器供与反対の意思表示をした。
台湾リバティ・タイムス(Liberty Times)は11月1日に「中国軍機が10月中に25日間台湾の防空識別圏(ADIZ)を侵犯し、これに対し台湾空軍は戦闘機で84回以上の緊急発進を実施、領空侵犯を防いだ」と報じた。ADIZを侵犯したのは主としてY-8対潜哨戒機とY-9電子戦機であった。
図15:(令和2年防衛白書)日本、台湾、中国、韓国、及びフィリピンの防空識別圏(ADIZ)。
図16:(China Military) 中国海軍南部軍区所属の対潜哨戒機Y-8が哨戒飛行に出発するところ。
ロシア海軍情報管理局ニュース
・10月19日 公表 太平洋艦隊デイーゼル潜水艦2隻は日本海で魚雷発射を伴う水中戦闘演習を実施
太平洋艦隊第19潜水艦旅団(6隻が配備)のデイーゼル潜水艦2隻は、日本海でお互いの水中音響対抗手段を使い相手艦の探索を競い、1隻が相手を探知、実弾魚雷を発射した。相手艦は直ぐに退避行動に入り、ダミーを発射し追跡から離脱した。
第19潜水艦旅団は6隻の通常動力デイーゼル潜水艦(Project 877)で編成され、ウラジオストック南部のウリス湾に駐留している。
図17:(ロシア海軍情報管理局)日本海で実弾魚雷発射訓練を行なった第19潜水艦旅団所属のキロ級と呼ばれる通常動力デイーゼル潜水艦。
・10月24日 公表 Project 0636.3型潜水艦「ボルホフ」が完成、太平洋艦隊に編入
プロジェクト636.3型デイーゼル潜水艦「ボルドフ」が「アドミラルテイ造船所」で完成、太平洋艦隊に編入された。これは同造船所で建造される6隻のうちの2番艦になる。この潜水艦は第3世代デイーゼル・エレクトリック潜水艦で低騒音。排水量3,900 ton以上、全長74 m、潜行深度は240 m、航続距離は7,500 n.m.、魚雷発射管から対地攻撃用巡航ミサイル、有翼ミサイル「カリプル-PL」を発射できる。
図18:(ロシア海軍情報管理局)Project 0636.3型潜水艦「ボルホフ」は、サンクトペテルブルクの「アドミラルテイ造船所で建造された。
・10月29日 公表 太平洋艦隊旗艦ロケット巡洋艦「ワリヤーグ」と大型対潜艦「パンテレーエフ」は日本海で演習を実施
ロシア海軍太平洋艦隊旗艦ロケット巡洋艦「ワリヤーグ・011」と大型対潜艦「パンテレーエフ・548」は、日本海で一連の演習を行なった、と題してその行動を次のように報じた。
10月16日:8月中旬から9月下旬にかけてオホーツク海で行われた「大洋の盾-2020」に参加した太平洋艦隊主力はウラジオストックに帰還した。そして「ワリヤーグ」はピョートル大帝湾で対空射撃及び機雷掃討訓練を行なった。
10月19日:「バンテレーエフ」はピョートル大帝湾で対水上射撃及び機雷掃討訓練を行なった。
10月29日:日本海上の射爆場で、戦術操艦訓練と通信システムの点検を行った。そして海軍航空隊と連携、空中攻撃を撃退し、海上での貨物移送の演習、水中攻撃の防御、等の訓練を行なった。
10月31日:「ワリヤーグ」と「バンテレーエフ」は、中型給油線「べチェンガ」を伴い、ウラジオストックから東南アジアへの遠洋航海に出発した。
図19:(ロシア海軍情報管理局)ロシア太平洋艦隊旗艦・スラバ級ミサイル巡洋艦「ワリヤーグ (011)」。1989年就役、2008年に近代化改修を完了。満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で空母機動部隊攻撃が主任務。同級は3隻が配備中。両舷4本ずつの筒には、射程700 km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン(Vulkan)」対艦ミサイルを各筒に2基ずつ計16基を搭載。
図20:(ロシア海軍情報管理局)大型対潜艦と呼ぶウダロイI級駆逐艦「アドミラル・バンテレーエフ (548)」。ウダロイ級駆逐艦は、満載排水量7,500 ton、全長163 m、速度35 kt、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、ヘリコプター2機、SA-N-9型個艦防空ミサイルを装備。1980-1991年に作られ8隻が就役中で太平洋艦隊には内4隻を配備。イージス艦に近い性能を持つ。
図21:(ロシア海軍情報管理局)中型給油船べチェンガ。ドウブナ級補給艦4隻の3番艦で1979年に完成、太平洋艦隊に編入された。満載排水量11,500 ton、速力15 kt、燃料約4,000 tonなどを搭載できる。
海上保安庁/尖閣諸島接続水域への中国海警局艦艇侵入問題
沖縄県・尖閣諸島周辺の接続水域や領海に中国海警局所属の艦艇が連日のように侵入、航行しているが、これについて海上保安庁あるいは同第11管区(那覇)からサイト上で直接公表することはない。これだけの問題であるにも関わらず、海保長官・運輸大臣は何を考えているのだろうか?解せない。
以下に新聞、テレビ等が海上保安庁を取材して報道した内容を元に本件を紹介する。
中国海警局の艦艇が尖閣諸島の領海あるいは接続水域に侵入した事例は、今年1月から10月末までの10ヶ月/300日間で280日を超え、今年はこれまでの年間最多となった。つまり悪天候などの影響で20日ほどは現れなかったが、それ以外は毎日2~4隻編成で尖閣諸島の領海・接続水域内を航行しているという事だ。
10月11日には2隻が領海内にとどまり、これまでの最長となる57時間半後にやっと外に出た。この時、我が外務省の抗議に対し中国外務省の報道官(趙立堅)は「尖閣諸島は中国固有の領土、周辺海域を中国公船がパトロールするのは中国固有に権利だ」と述べ開き直っている。
東海大学海洋政策の山田吉彦教授は「今年になって侵犯の連続日数や侵犯する艦艇の質が格段に変わってきた。もはや海保の巡視船だけでは対応できない。政府として国防上の観点から対応すべきだ」と指摘している(夕刊フジ11月2日)。
前述したが10月に入ってから中国は台湾海峡でも台湾防空識別圏(ADIZ)を連日侵犯、また対岸の福建省には新型の中距離弾道ミサイルを配備して緊張を高めている。中国主席の習近平は中国軍に対し「全身全霊で戦争に備えよ」と指示したと伝えられる。
米大統領選が混迷すると、さらに緊張が高まるだろう。
図22:「領海」、「接続水域」、「排他的経済水域(EEZ)」、の関係を示す図。”航行の自由“があるのは「接続水域」、「排他的経済水域」とそれ以遠の公海。「領海」内は ”無害通航権“ があるが航行するには事前に主権国の了解を得る必要がある。
図23:(海上保安庁)尖閣諸島とその周辺を示す地図。一番大きい魚釣島を中心に北東に約100 kmの範囲に広がっている。
図24:尖閣諸島の島々。手前から南小島、北小島、遠くが一番大きい魚釣島。この周囲の領海、接続水域を中国海警局艦艇が連日侵犯している。
―以上―