令和2年度日米共同演習「Keen Sword 21 /KS21 」の実施


2020-11-20(令和2年) 松尾芳郎

 

既報したが、我国自衛隊と米インド・太平洋軍は10月26日から11月5日にかけて、本州周辺・沖縄列島付近の海域で「鋭い刃(KS21=Keen Sword 21)」と名付けた演習を実施した。以下その詳細を紹介する。

(As reported, Japan Self-Defense Force and U.S. Indo-Pacific Command Forces began exercise Keen Sword 21 (KS21), Oct. 26, on military bases throughout mainland Japan, Okinawa Islands, and surrounding waters. The joint exercise including field training exercise (FTX) run through until Nov. 5. Refer the detail as follows.)

レーガンとひゅうが

図1:(Commander 7th Fleet/Mass Communication Specialist 2nd class Erica Bechard)「Keen Sword 21」演習に参加した米空母「ロナルド・レーガン」・10万トンと海自ヘリ空母「ひゅうが」・1万9000トン(手前)。

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図2:(U.S. Pacific Fleet Public Affairs/Petty Officer 2nd Class Erica Bechard)「Keen Sword 21」演習に参加する米海軍「ロナルド・レーガン空母打撃群」の護衛に当たる米小艦隊と海自護衛艦。

 

防衛省統合幕僚監部の発表(2020-09-25)「令和2年度日米共同統合演習(実動演習)「Keen Sword 21」および米第7艦隊ニュース(Sept. 25, 2020 ) ”Japan Self-Defense Forces, U.S. military to begin exercise Keen Sword, Oct. 26”によれば、概要は以下のようになる.

 

自衛隊と米軍は日米共同統合演習「鋭い刃 (Keen Sword 21/02FTX)」を10月26日から11月5日の間実施し、日本の防衛とインド・太平洋地域で生じる紛争と非常事態への即応能力の維持強化を図った。

「鋭い刃(Keen Sword)」演習は、1986年から日米両軍が実施している統合演習で、即応能力の強化と共同作戦能力の向上を目指している。

今年はこれまでの最大級で、陸自の水陸機動団 (ARDB=Amphibious Rapid Deployment Brigade)と米第3海兵師団 (III Marine Expeditionary Force)が、それぞれ個別に、あるいは共同で日本近海の複数の島嶼で上陸演習を行ったのが特徴。

 

  • 演習場所;―

我国周辺の海空域、特に鹿児島県鹿児島市の南200 kmにあるトカラ列島の無人島臥蛇島(がじゃじま)と周辺の海空域で実施。

種子島では自衛隊が訓練実施、臥蛇島では日米両軍で訓練を実施した。

  • 訓練に参加した部隊規模;―

米軍:主要艦艇は「ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)」空母打撃グループとそれに搭載する「第5空母航空団( CVW 5=Carrier Air Wing 5)、ドック型揚陸艦「アシュランド(USS Ashland LSD-48)」、その他。

参加部隊は

インド・太平洋軍 (U.S. Indo-Pacific Command)

太平洋艦隊 (U.S. Pacific Fleet)

太平洋陸軍 (U.S. Army Pacific)

日本駐留の米4軍 (U.S. Forces Japan)

第3海兵師団 (III Marine Expeditionary Force)

第7艦隊 (U.S. 7th Fleet)

第94陸軍対空・対ミサイル防衛軍 (94th Army Air and Missile Defense Command)

第5戦域調整派遣司令部 (5th Battlefield Coordination Detachment)

人員 9,000名、第3海兵師団第4連隊。MV-22 テイルト・ローター機4機程度(第1海兵航空団第36海兵航空飛行団第265 テイルト・ローター 飛行隊に所属)、海自鹿屋航空基地を使用

自衛隊:人員37,000名、艦艇約20隻、航空機約170機、

陸自:水陸機動団、西部方面航空隊。攻撃ヘリAH-64  2機、輸送へりCH-47  3機、

海自:ヘリ空母「ひゅうが」、護衛艦「すずつき」、輸送艦「おおすみ」、「くにさき」

空自:第8航空団 (福岡県築城基地・F-2飛行隊 X 2)

カナダ軍:フリゲート「ウイニペグ(HMCS Winnipeg /FFH 338)」1隻

  •  統裁官

自衛隊:統合幕僚監部運用部長 下 淳一 海将

米軍 :太平洋艦隊海上作戦部長 マイケル・ボイル 海軍少将

  • 主要訓練項目

水陸両用作戦、陸上作戦、海上作戦、航空作戦、サイバー攻撃対処、統合電子戦、など

南西諸島

図3:(Wikipedia) 大きな赤枠で囲んだ部分が南西諸島と呼ぶ区域。北東から南西に約1,000 km に広がる多数の島々を含んでいる。沖縄本島から尖閣諸島までは約430 km、宮古島までは約310 km 離れている。地対艦ミサイルを配備した宮古島から尖閣諸島までは210 km ある。

南西諸島部隊配備ず

図4:(令和2年防衛白書から作図)南西諸島に配備されている陸海空各自衛隊。図中にある「空自警戒隊」は「地上電波測定装置」を持つ部隊。沖縄本島与座岳には中国本土の大半からのミサイル発射を監できる[ FPS-5 ]長距離レーダーを配備している。この数年防衛体制はかなり整ってきたが、中国軍の巡航ミサイルによる飽和攻撃に対抗するには未だ不十分。

臥蛇島位置

図5;(Google) 臥蛇島(がじゃじま)は、種子島を含む大隅諸島の南西に位置する無人島。臥蛇島では日米両軍が共同上陸作戦演習を実施。種子島では自衛隊のみで上陸作戦演習をした。

臥蛇島

図6:(Wikipedia) 臥蛇島(がじゃじま)の空中写真。この島は鹿児島県トカラ列島最大の島「中之島」の西28 kmにある面積4平方キロの無人島。

ひゅうが 

図7:(海上自衛隊)海自ヘリ空母「ひゅうが・DDH-181」は満載排水量19,000 ton、全長197 m、最大速力30 kt、2009年就役、第3護衛隊群第3護衛隊・舞鶴基地に所属、SH-60J/Kヘリコプター、MCH-101ヘリコプターなど11機を搭載できる。対空兵装はMk.15 20 mm CIWS機関砲2基、Mk.41 VLS 16セル・ミサイル発射装置、など。同型艦は「いせ・DDH-182」。艦橋上部にある[ FCS-3 ]レーダーアンテナは、小型がXバンド用、大型がCバンド用。「ひゅうが」級2隻はF-35B STOVL戦闘攻撃機搭載の改修は行わない。F-35B搭載の改修は、より大型の「いずも」と「かが」満載排水量26,000 ton の2隻に実施する。

すずつき 

図8:(海上自衛隊)護衛艦「すずつき・DD-117」は、「あきづき」型護衛艦4隻中の3番艦。満載排水量6,800 ton、全長150.5 m、最大速力30 kt、2014年就役で第4護衛隊群第8護衛隊・佐世保基地に所属。兵装は、62口径5 inch単装砲1門、対空20 mm CIWS機関砲2基、Mk.41 VLS・32セル・ミサイル発射装置などを装備。SH-60Kヘリコプター1機を搭載する。

レーガン

図9:(USNI News)2015年8月、空母「ジョージ・ワシントン(George Washington CVN-73と太平洋上で交代する空母「ロナルド・レーガン(Ronald Reagan CVN-76)」(手前)。「ロナルド・レーガン」は「ニミッツ」級原子力空母の一隻で、2003年7月に就役、現在第5空母打撃群の旗艦として米海軍第7艦隊に所属、横須賀を母港にしている。満載排水量101,000 ton、全長333 m、速力30 kt以上、乗員は3,500名と航空要員2,500名、固定翼機とヘリを合わせ90機を搭載する。

アシュラン

図10:(US navy)米海軍ドック型揚陸艦「アシュランド(USS Ashland / LSD-48)」は、満載排水量17,000 ton、全長186 m、速力20 kt、上陸兵員400名+、上陸用LCACを4隻かAAV7装甲兵員輸送車64両を搭載、艦尾のドック開口部から発進させ敵前上陸を行う。対空兵装としてCIWS 20 mm 機関砲2基、RAMミサイル21連装発射機2基を装備。同型艦「ホイットビー・アイランド」級の8番艦で、1992年就役、2013年から佐世保に常駐。

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図11:(Wkipedia) 「KS21」に参加したカナダ海軍のフリゲート「ウイニペグ(HMCS Winnipeg /FFH 338)」は「ハリファックス」級フリゲートの9番艦、満載排水量5,000 ton、速力30 kt、ヘリ1機を搭載する。1995年就役。

 

中国共産党機関紙「環球時報」(電子版2020年10月28日)「Keen Sword 21」演習に関し次のように報じた。

「日米がコロナ禍にも関わらず大規模演習で力を誇示」と題し、新型コロナの感染拡大以降、日米が行う初の中国に対抗する演習である。

キーン・ソード演習は2年毎に行われ、今回は約46,000人が参加し、うち米軍は9,000名と原子力空母ロナルド・レーガン打撃群、ドック型揚陸艦アシュランド、第5空軍の航空機100機。自衛隊は人員37,000名と艦艇20隻、航空機170機を動員、カナダ海軍から1隻も参加した。

演習の重点は東支那海の無人島臥蛇島を舞台にした離島防衛/上陸訓練、臥蛇島は“中国の領土”尖閣諸島に似ている。

演習終了後、海自ヘリ空母「かが」の艦上で統合幕僚長山崎幸二陸将が「日本周辺の安全保障情勢はますます厳しくなっている。共同演習は日米同盟の強さを示す良い機会」と述べ、相手の在日米軍シュナイダー司令官は「日米の統合作戦能力が尖閣諸島を防衛するための部隊輸送能力を実証した。今後使うことがあるかもしれない」と応じた。

 

終わりに

我が国領土である尖閣諸島周辺の接続水域・領海に対する中国海警局艦艇の侵犯は、今年に入り今日まで300日に達している。中国は侵犯を恒常化させ、領有を既成事実とするのが狙いだ、と受け止められている。わが政府は外交ルートを通じ度々抗議しているが、なしのつぶて、効果は全くない。米政権交代の混乱、日米両国がコロナ対応で忙殺される機会に乗じ、何時侵攻して来てもおかしくない状況にある。

この差し迫った時期に日米両軍による大規模な島嶼奪還を想定した演習、「Keen Sword 21」が行われたことは大変意義深い。「環球時報」の報道で、中国政府も演習の規模と目的に関心を寄せていることが分かる。「KS 21」演習による抑止効果で最悪の事態 “中国軍による上陸・占領” が先送りされることを望みたい。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

統合幕僚監部 令和2年9月25日 “令和2年度日米共同統合演習(実動演習)「Keen Sword21/02FTX」について“

7th Fleet News Oct. 26, 2020 “U.S. military and Japan Self-Defense Forces kick off Keen Sword”

環球時報 2020-10-28 “日米共同演習「キーン・ソード」始まる-中国紙「コロナ禍にもかかわらず力を誇示」”

TokyoExpress 2020-10-04 “令和2年9月、中露両軍の活動と我が国の対応” 6-7ページ

TokyoExpress 2020-11-04 “令和2年10月、中露両軍の活動と我が国の対応” 14ページ

TokyoExpress 2017-02-04 “ミサイル防衛の近況”