我国における「極超音速ミサイル開発」の状況


2021-01-26(令和3年) 松尾芳郎

 スクラムジェット技術

図1:(防衛省平成30年度事前の技術評価書)「極超音速巡航ミサイル」とスクラムジェットの構成。超音速―極超音速の範囲をラム・スクラム燃焼で行い長時間飛行を実現する。燃料はジェット燃料。枠内は開発の重点項目を示している。「エンジン再生冷却」とあるのはジェット燃料で機体/エンジンを冷却し、気化して燃焼器に送るための装置。

 島嶼防衛高速滑空弾

図2:(防衛省平成30年度事前の技術評価書)「島嶼防衛用高速滑空弾」計画には「早期装備型/2026年頃」と「性能向上型/2028年頃」の2つがある。大気圏上層に打上げられ極超音速滑空で飛行、目標に着弾する。

将来像

図3:(防衛装備庁)防衛装備庁は、2030年代初めまでに、研究中の将来技術の成果を集約し「極超音速誘導弾(HCM)」と「(極超音速)滑空型飛翔体(HVGP)」を開発、スタンド・オフ防衛能力を強化する、と発表した。

 

概要

防衛装備庁は2020年(令和2年)3月31日付けで「スタンド・オフ防衛能力の取組」と題する研究開発ビジョンを公開、2030年台初頭までに極超音速ミサイルの実用化を目指す、と発表した。これによると2種類の極超音速兵器、すなわち「極超音速(巡航)誘導弾 (HCM=Hypersonic Cruise Missile)」と「(極超音速)滑空型飛翔体(HVGP=hyper Velocity Gliding Projectile)」を開発する。

(Japan unveiled plans for hypersonic weapons, expected to enter service in the early 2030s, in a published document by the Acquisition, Technology, and Logistic Agency (ATLA) in March 2020. There will be two classes including Hypersonic Cruise Missile (HCM) and Hyper Velocity Gliding Projectile (HVGP).

「極超音速巡航ミサイル(HCM)」は、スクラムジェット・エンジンを装備、極超音速で飛行する長射程の巡航ミサイルで、固体燃料ブースターで超音速に加速、その後はスクラム・ジェットの推力で目標まで極超音速飛行をする。

対艦攻撃用と対地攻撃用では弾頭部分が異なる。対地攻撃型の弾頭は、広域制圧に有効な高密度 “小型爆弾(EFP=explosively formed projectile)”にする、対艦用弾頭は空母飛行甲板を撃破可能な貫徹弾になる。

弾頭は通信衛星経由で飛行し、終末段階では、「電波画像誘導」および「極超音速誘導弾用光波シーカー」で正確に着弾する。「電波画像誘導」は電波シーカーで取得したドップラー情報を画像化し、天候にかかわらず敵艦船目標を識別する。また「極超音速誘導弾用光波シーカー」は極超音速飛行に耐えられる耐熱性を備え、赤外線で画像を取得、識別する。

極超音速巡航ミサイル(HCM)は、スクラム・ジェット・エンジンの推力で、音速の5倍以上つまり毎秒1,700 mあるいは時速で6,200 km/hrの速度で飛行する。防衛装備庁が三菱重工と共同で開発中である。

極超音速巡航ミサイル概念

図4:(防衛装備庁・スクラムジェットエンジンの研究)「極超音速巡航ミサイル(HCM)」の概念図。「極超音速巡航ミサイル」本体は固体燃料ブースターで加速上昇しブースターを分離、本体のスクラム・ジェットをラムモード状態にしてさらに加速、迎撃困難な大気圏上層の高度50 km付近に到達してから、スクラム・ジェット・モードにして極超音速巡航に入り、目標に向かう。

 

開発の全体構想

防衛省では近年の中国やロシアの著しい軍備増強に対処するため、自軍の安全を確保しつつ、敵の脅威圏外から侵攻を阻止する「スタンド・オフ防衛能力」の整備を急いでいる。その中心は「極超音速巡航誘導弾(HCM)」と「極超音速滑空飛翔体(HVGP)」で、2028~2030年頃の取得を目指している。中でも「極超音速滑空飛翔体(HVGP)」の初期型は2026年の配備が目標、この性能向上型は2028年に完成させたい、としている。

このために次の4項目の要素技術の開発に取り組んでいる;―

①    「射撃管制技術」… GNSS/INS複合誘導および通信衛星による中期誘導

(GNSS=Global Navigation Satellite System/全地球航法衛星システム、INS=Inertia Navigation System/慣性航法装置)

②    「精密誘導技術」… 赤外線画像照合誘導、極超音速誘導弾用光波シーカーおよび電波画像誘導

③    『推進技術』…スクラムジェット・エンジン、高性能固体燃料ロケット・モーター

④    「機体・弾頭技術」…先進対艦・対地弾頭、高高度滑空用機体形状、滑空制御

 

これと並行して2028年までに「スタンド・オフ」能力整備の一つとして、亜音速ミサイルの陸自用「12式(改)」/2022年」と「12式能力向上型/2025年」の開発、および空自用の超音速ミサイル「ASM-3(改)」の開発を急いでいる。(TokyoExpress 2021-01-10 “12式地対艦誘導弾(改)の後継、長射程の「12式単艦誘導弾能力向上型」の開発が決定“を参照)

研究開発の予定表

図5:(防衛装備庁2020年3月発表)2030年代初めまでに「極超音速巡航ミサイル(HCM)」と「(極超音速)滑空型飛翔体(HVGP)」を完成するために開発中の「4つの要素技術」を示す表。これら研究は2013年から2019年まで6年間にわたり続けられてきた。米誌は、これで「極超音速巡航ミサイル( HCM)」および「極超音速滑空飛翔体 (HSGP)」は予定通り実現するだろう、と評価している。

BM, HCM HVGP 

図6:(Naval News “Hypersonic Weapons (Part-1)”)「弾道ミサイル(BM=Ballistic Missile)」の場合、3,000 kmの距離から発射され再突入弾頭(RV=Re-entry Vehicle)は着弾12分前に検知可能。「極超音速飛翔体(HSGP)」は大気圏上層部(高度50~100 km)を飛行、また「極超音速巡航ミサイル(HCM)」は高度50 km付近を飛行するので、探知できるのは着弾6分前になる。さらに弾頭は、極超音速飛行で生じるプラズマ(イオン化されたガス)で覆われるので、レーダーの探知能力が減殺される。

 

スクラム・ジェット

ここで「要素技術」の一つ、「極超音速巡航ミサイル(HCM)」に使う「スクラムジェット」開発の現況について、防衛装備庁2019年技術シンポジウム発表の内容を紹介しよう。

「スクラム・ジェット」の開発は三菱重工が担当している。

「スクラムジェット」の燃料は、常温で液体である航空用ジェット燃料に決定した。低温の水素燃料はエンジン冷却に使える利点があるが、貯蔵、入手を含む取扱いの容易さ、長射程化に見合う燃料タンク容積などを考慮してジェット燃料が有利と判断した。また、超音速燃焼を安定して続けるには揮発性の高いカーボン含有量の少ないガス化燃料(例:メタン)が望ましいが、長射程化に必要なタンク容積などで難点がある。

「図1」に“エンジン再生冷却”と書かれた装置があるが、ここは、ジェット燃料を使い高温の燃焼室を冷却すると同時にジェット燃料をガス化する装置である。ガス化することで燃料のカーボン含有量が減り、安定した超音速燃焼が得られる。

スクラムジェット概念

図7:(防衛装備庁2019技術シンポ)スクラム・ジェットの概念図。超音速飛行時に空気取入れ口に生じた衝撃波で空気が圧縮、圧縮された超音速空気流に燃料を噴射、燃焼させて推力を得る。スクラム・ジェットは構造が簡単でマッハ5以上の極超音速巡航が可能、極超音速飛行で最も高い比推力(燃費に相当)が得られる。

スクラムジェット全体

図8:(防衛装備庁2019技術シンポ)「極超音速巡航ミサイル(HCM)」の即応性を高めるためには小型化が必要。このため燃料には、常温で保存でき単位体積当たりの発熱量が液体水素の3倍と高いジェット燃料を採用する。極超音速への加速から極超音速巡航までの幅広い領域をカバーできる単一のスクラム・ジェットの開発を目指している。これで固体燃料ブースターによる加速域を少なくして、ブースターを小型にする。

スクラム: ラム・モード

図9:(防衛装備庁2019技術シンポ)「スクラム・ジェット」は、極超音速への加速と極超音速巡航の両方の役目をする「デユアルモード・スクラム・ジェット (DMSJ=Dual Mode Scramjet)」にする。加速時に使う「ラム・ジェット・モード/ RJM」は燃料使用量が多い、巡航時の「スクラム・ジェット・モード / SJM」では燃料消費量は少なくて済む。現在は地上実証試験を実施している段階、数年後に極超音速ミサイル本体での実証試験を行う。

 スクラムジェットの要点

図10:(防衛装備庁2019技術シンポ)ジェット燃料使用の「スクラムジェット」の要点と対処策を示す図。燃焼器内部の混合気・ガスの流れは超音速なので滞留時間が短い。ジェット燃料は水素に比べ燃えにくい。さらに同じ燃焼器で「スクラムジェット・モード(SJM)」と「ラムジェット・モード(RJM)」に対応する必要がある。このためには「良好な燃焼」と「十分な推力」を得なければならない。「良好な燃焼」には空気・燃料の混合を速やかに行うこと、安定した燃焼状態を維持すること、が必要である。

これら要素を組入れた試験用燃焼器を製作、JAXAの協力を得て、宮城県角田市の「JAXA角田宇宙センター」にある基礎燃焼風洞を使い燃焼試験を行った。

角田試験結果

図11:(防衛装備庁2019技術シンポ)「スクラムジェット」燃焼器のJAXA角田宇宙センター試験設備での試験結果を示す図。燃焼試験は予期した通りで、極超音速にむけた加速時に使う「ラムジェット・モード」では火炎はキャビテイ上部で、また極超音速巡航で使う「スクラムジェット・モード」ではキャビテイ後端から下流で、それぞれ火炎が保たれている。

 

2019年(令和元年)までに「デユアル・モード・スクラムジェッt(DMSJ)」の主な要素、燃焼器および再生冷却パネル/燃料気化装置、の基本性能の確認を終了。この成果を新たな「DMSJ」の施策に反映、地上試験でシステムとしての燃焼性能および再生冷却性能の実証を行う。そして目標とする「極超音速巡航ミサイル」の飛行実証試験を行う。

実証機

図12:(防衛装備庁2019技術シンポ)「スクラムジェット」実証機のイメージ。

 

終わりに

「日本は極超音速技術に関して世界で最も進んでいる国の一つ、米国、ロシア、中国と並ぶ水準にある」と米国の国防関係ウエブサイトは指摘する。「日本は1980年代から組織的な研究に取組み始め、特に近年ではその研究を加速している。1996年2月12日にはNASDA、 JAXAの手で ”極超音速飛行実験機「HYFLEX= Hypersonic Flight Experiment」“の飛行試験を行った」と評価している。

HYFLEXは重さ1トン、全長4.4 mで、姿勢制御はスラスターと舵面で行う方式。種子島から高度110 kmに打上げて大気圏に再突入、マッハ15の極超音速で飛行、パラシュートで小笠原諸島父島近くの海面に着水した。しかしケーブルの切断ができず回収に失敗した。

その後NASDAと JAXAの手で再利用可能な無人宇宙往還機「HOPE (H-II Orbiting Plane)を計画したが、H-IIロケットの失敗などの影響で2000年に中止になった。しかし、これらの技術で国際宇宙ステーション(ISS)への無人輸送機「こうのとり(HTV)」が実用化された。このように日本は極超音速飛翔体の開発に十分な経験を有する。

「ブラタモリ」テレビ放送で「大和ミュージアム」の紹介(1月23日)があったが、これで感じたこと。

戦艦「大和」の起工は1937年、就役は真珠湾攻撃の直後(1941年12月16日)。当時の日本の生活は、電灯、ラジオ、扇風機と少し余裕のある家には電話があったくらい。風呂と炊事は薪を燃やして、暖房は炬燵と火鉢で過ごしていた時代だ。その頃に我国は保有する最高の技術を結集し、当時として世界最新・最強の兵装を備えた7万トン近い巨艦を完成させたのである。国民が一致協力してことに当たれば、如何なる目標も達成・成就できる、と云う良い事例だ。

中国、ロシアの我国周辺における軍備増強の脅威を肌身に感ずる昨今だが、2030年と言わず一刻も早く「極超音速飛翔体」を完成させて、国民の生命、財産を護って欲しいと願うのは筆者だけではない。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

・Defense News TechWatch March 13, 2020 “Japan unveils its hypersonic weapon plans” by Mike Yeo

・Global Scurity.org 12-08-2020 “Hypersonic Cruise Missile(HCN), Hyper Velocity Gliding Projectile(HVGP)# by John Pike

・防衛装備庁 令和2年(2020年)3月31日 “スタンド・オフ防衛能力の取組”/ 研究開発ビジョンー多次元統合防衛力の実現とその先へー解説資料

・防衛装備庁技術シンポジウム2019 令和元年(2019年)11月13日 “極超音速飛行を可能とするスクラムジェットエンジンの研究“ by 中山 久広

・JAXA 1996年2月13日”極超音速飛行実験「HYFLEX」“

・Naval News May 13, 2020 “Hypersonic Weapons (Part-1):What is Hypersonic Weapon? What Makes these missiles nightmare? Why it is hard to detect the Hypersonic Weapons? “  by Ryan White

・Naval News May 13, 2020 “Hypersonic Weapons (Part-2): Hypersonic Missiles in Use/Development Phase” by Ryan White

・Naval News May 13, 2020 “Hypersonic Weapons (Part-3): Counter Hypersonics: Defeating the Invincible by Ryan White

・防衛省平成30年度 事前の事業評価 2・島嶼防衛用高速滑空弾の研究、6・極超音速誘導弾要素技術の研究