スペースX・スターシップ [SN9]、飛行に成功するも着地に失敗


2021-02-12(令和3年) 松尾芳郎

 着地失敗

図1:(NASA)スターシップ [SN9] 打上げ後6分44秒後の写真。着地前にエンジン3基中の1基が着火できず、傾いたまま着地パッドに衝突、炎上した。右には、2月中に発射する10号機 [SN10]が見える。こちらには被害はなかった。

 

2月2日(火曜日/現地時間)午後2時25分15秒、スターシップ[SN9]は、スペース Xのテキサス州キャメロン郡ボカチカ発射基地から打上げられた。前回昨年12月のスターシップ[SN8]の打上げと同様、3基のラプター・エンジンで上昇を開始。予定した順序に従って、1分58秒後に1基のエンジンを停止、続いて3分26秒後に2基目のエンジンを停止、上昇を続け4分51秒辺りで3基目をカットオフした。そして高度約10 kmに到達。降下の前に([SN8]で問題となった)ヘッダー・タンクへ着陸用燃料を移し終えた。

(0n Tuesday, February 2, Starship [SN9] completed second high-altitude flight test followed by [SN8] from launch site in Cameron County, Texas. Similar to the [SN8], [SN9]was powered through ascent by three Raptor engines, each shutting down in sequence prior to the vehicle reaching approx. 10 km altitude. [SN9] performed a propellant transition to the header tank, which hold landing propellant, before reorienting itself for reentry and a controlled aerodynamic descent. On final stage of the flight, during the landing maneuver, one of the engine did not relight and caused [SN9] to crash landing.)

それからスターシップは、前方2枚と後方2枚のフラップ(可働翼)を動かし姿勢を変え(bellyflop)降下を開始した。この4枚のフラップは、搭載のフライト・コンピューターの指示で動き、降下開始から正確な着地まで、機体の姿勢を制御する。

「SN9」はほぼ水平の姿勢で安定した降下を続けた。2時31分35秒に地上管制は、2基のエンジンを再着火して減速しながら機体を着地姿勢に近ずけた。そして最後の姿勢制御のため残る1基に再着火を試みたが、正常に着火せず(sputtered)、機体の傾きを修正できず、打上げ後6分26秒後に着地パッドに衝突・炎上した。

 

前回の[SN8]の着陸では、やはり1基のエンジンが再着火せず失敗したが、[SN9]の場合とは状況が異なる。[SN8]の場合は、地上管制が燃料ヘッダータンクのスイッチを入れた際、燃料の圧力が不十分で着地時に作動すべき2基のエンジンのうち1基が再着火せず、減速できずに着地スポットに衝突・炎上した。

今回の失敗の原因は不明で、燃料供給システム、タンクの異常、あるいはラプター・エンジン自体、などの不具合が疑われている。

しかし今のところ試験結果について、CEOのイーロン・マスク氏も地上管制に携わった面々も概ね満足している。[SN8]も[SN9]も共に上昇、エンジン停止、姿勢変更、降下、の各過程は正常に行われたからだ。唯一まずかったのは、着地間近の段階で燃料をエンジンに送り着火し姿勢を制御する [flip and burn] ”操作が上手く出来なかった点。

イーロン・マスク氏は「エンジン3基を同時にスタートさせ、着地パッドに機体が正対した時点で、1基を停止する手法を採るべきだった。着地には2基の推力だけで十分だからだ」とTwitterで悔しがっている。

SN10以降の着地方法

図2:(SpaceX) スターシップ[SN9]の着地失敗を受けてマスク氏が云う[SN10]以降の着地前の機体姿勢の制御システムの改善点。ほぼ水平で降下する機体を垂直にするには、エンジン3基を動かし(傾けて)推力の方向を変えて、機体を重心周りに回転させ垂直にする。機体が着陸パッドに正対すれば、重心位置に最も近い1基を停止し残りの2基で着地する。

 

幸いなことに[SN9]発射台近くの別の発射台 [Pad A]上で打上げ準備中のスターシップ[SN10]は、無傷だった。こちらは2月中にも打上げられる。

3分前

図3:(SpaceX)発射台「パッドB」上で打上げを待つスターシップ [SN9](右側)。打上げ3分前の状況。左は「パッドA」上にある[SN10]。

5秒後

図4:(SpaceX) 打上げ5秒後の[SN9]。

33秒後

図5:(SpaceX)打上げ33秒後の[SN9]およびエンジンの状況、いずれも正常に作動中。そして打上げ1分58秒後にエンジン1基を停止、それから4分50秒ごろまでに順次全エンジンを停止。[SN9]はこのまま慣性で上昇、高度10 km近辺に到達した。

6分後降下

図6:(SpaceX)打上げ6分後降下を開始した様子。4分50秒後あたりから機体前後にある4枚のフラップ(可働翼)で姿勢を水平(ベリー・フロップ/belly-flop)にする。

6分20秒ご 

図7:(SpaceX)打上げ6分15秒あたりでエンジン2基を再着火、姿勢を着地態勢に近付けて降下する。

着地寸前

図8:(SpaceX)打上げ6分25秒後、着地寸前の[SN9]。

拡大写真

図9:(Cosmic Perspective @concidercosmos)打上げ6分26秒後、着地寸前のスターシップ[SN9]、ラプター・エンジン1基が着火しなかったため姿勢を垂直にできず傾いたまま着地した。「Cosmic Perspective」撮影の写真。奥にある6本の支柱は建設中のスーパーヘビー・ブースター用の発射台。、右は昨年秋に打上げ成功した「スターホッパー」。

11日SN10

図10:(NASA) 2021年2月11日早朝の [SN10]。2日前に燃料タンクに液体窒素を封入して低温加圧試験を完了し、現在3基のラプター・エンジンを装着中。この後エンジンの着火試験が行われ2月中には再び高空飛翔試験に挑む。

製造状況のコピー

図11:(By Brendan Lewis@brendan2908) スターシップ原型機は、[SN10]がパッドAに設置済みでエンジン取付け中、[SN11]は組立工場(Highbay)で組立て中で、[SN18]までそれぞれ作業中。スーパーヘビー・ブースター原型機は[BN1]が完成間近になり、次の[BN2]のドーム作業が始まっている。いずれも試験結果を取入れ改良される。

 ボカチカ基地

図12:(Observer/RGV Aerial Photography/Twitter)[SN9]打上げ前の2021年1月に撮影したスペースX社のボカチカ・ビーチ打上げサイト。中央右に[SN9]、左が[SN10]。その上にある着地パッドには未だ整理されていない[SN8]の残骸が残っている。着地パッドのやや右上にある6本の支柱はスーパーヘビー・ブースターの発射台で、現在建設工事を急いでいる。左側道路はボカチカ・ブルバード/TX4、道路脇にスターホッパーが見える。

 

以上、スターシップ[SN9]の着地失敗を中心に述べてきたが、スペースX社は2度の失敗にも滅入ることなく次の[SN10]の打上げ、さらにはスーパーヘビー・ブースター[BN1]の打上げ準備に力を入れている。

そしてこれら原型機の打上げで、スターシップの機体の設計、飛行制御システム、および大気圏への再突入能力、の検証を進めている。これらが完了すれば、スターシップ[BN1]はスーパーヘビー・ブースターの2段目として使い、地球周回軌道に打上げる予定だ。これに成功すれば[BN1]は、完全に再使用可能な宇宙輸送システムとなり、低地球周回軌道に100 ton以上の重量を打上げるのに使える。

これが成功すれば、イーロン・マスク氏の長年にわたる夢、願望である宇宙探査が実現に向けて大きく歩を踏み出すことになる。

次の[SN10]が高度10 kmの成層圏飛行に成功し、無事に着地することを願いたい。。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

SpaceX  “Starship SN9 High-altitude Flight Test”

Universe Today February 5, 2021 “SN9 Tests Ends with a Boom, You’re up SN!0”

YouTube BRILLIANT “Elon Musk’s solution for SpaceX Starship Landings – Perseverance prepairing for safe landing”

NASA “SpaceX Boca Chica: StarshipSN10 Cryo Proof Tested