NASAジェームス・ウエッブ宇宙望遠鏡:JMST


2021年(令和3年)6月16日   菊池 眞一郎

1. 天体観測用人工衛星

1996年開発が始まったジェームス・ウエッブ宇宙望遠鏡(以降James Webb Space Telescope の頭文字をとってJWSTと呼ぶ)の完成が確実となり、本年(2021年)10月31日の打ち上げが発表された。
名前の由来はアポロ計画の基礎を築くなどアメリカの宇宙開発を主導してきたNASA 2代目の長官James E. Webb氏の頭文字をとってつけられたものである。

1990年4月24日、スペースシャトル・ディスカバリー 1号によって地上600㎞上空に打ち上げられた米国NASAのハッブル宇宙望遠鏡(以降Hubble Space Telescopeの頭文字をとってHSTと呼称する)は地球の周回軌道にのせられ、宇宙観測に多大な成果を上げてきた。
HSTの運用寿命は15年程度と想定されていたため、宇宙観測に間が空かないよう後継機開発が必要と判断され、JWST の開発が決められた。 2007年打ち上げを目指して予算5億ドルを以て1996年に立ち上げられた。 しかしその開発では数々の問題が発生したため完成予定は何度も延期された。

JWSTは此処にきて予定より14年遅れでやっと本年10月31日に打ち上げが確定された。 掛かった費用も最終的には100億米ドル(1兆円)を超えてしまっている模様である。 NASAの発表によれば5月11日にNASAのJMSTの最後の地上試験が実施された。 宇宙望遠鏡としては大きさ(口径6.5m)も性能も世界最高峰のJWSTはその機能が満足に働くことが確認された。

HSTは寿命予定15年の2倍を超える今日でも稼働を継続、多々成果を上げてきている。 これを可能とした大きな理由としてHSTの地球周回軌道が600KMと比較的低高度なので、必要時には国際宇宙ステーションの宇宙飛行士によっての修理が為されてきたことによる。
一方JWSTの飛行高度は地球からみて太陽の反対側地上から約 150万キロと極めて高い高度を巡る軌道としているので、宇宙に放出後は人手による修復は不可能である。

HSTでの宇宙観測では132億光年先の銀河を確認したとの記録がある。 宇宙は誕生してから138 億年であるから随分遠くまで見ることが出来たことになる。 HSTの反射鏡の直径が2.5mに比しJMSTのそれは直径6.5メートルの集光面積なっているので、HSTのそれよりも5倍程度も大きい受光面を持つ。 金箔を貼った受光面のJWSTが宇宙の誕生時点にどこまで迫れるか、その成果を期待したい。

因みに本年10月31日のJMSTの打ち上げは、
・ 打ち上げ場所 : ギアナ宇宙ンター(南米フランス領 ギアナ・クーラー)
・ 打ち上げ機  :  アリアン5
と打ち上げ場所も打ち上げロケットも欧州の商用機関に依存することになっている。
2.構造等

JWSTの質量は6.2 tonとして計画されており、HST(約11 t)の約半分である。 ただし、ベリリウムを主体とした反射鏡の主鏡の口径は約6.5mでHST(口径2.4m)の2.5倍で、面積は 7倍以上にもなる。 この点から、HSTをしのぐ非常に高い観測性能が期待されている。尚、鏡の重量そのものも軽量化されている。

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図1 (NASA) ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)のベリリウム製の主鏡。6角形のベリリウム製鏡面18枚からなり、表面には18金のフィルムが貼られている。(黄色く見えているのが金箔を貼った受光面)

この写真では左右が後方に折り曲げられているが、これは打ち上げに際してロケットの頭部に格納できるようにしたものである。 この折り畳みはORIGAMI(折り紙)などと呼ばれている。

ロケットが地上から150万kmの高度に達し、ロケット頭部から外部へと取り出された後は高感度のマイクロモーターと波面センサーによって、左右後方に折りまげられていたセグメントは前方に曲がり出て、高感度のマイクロモーターと波面センサーによって正確な位置で中央部と繋がり、18枚のセグメントから成る直径6.5mのパラボラに 展開する。展開する際には、アクチュエータと呼ばれる作動装置132個でそれぞれの鏡の位置を調整する。鏡が展張した状態は図3を参照されたい。

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図2 (NASA) 打ち上げロケット:アリアン5の頭部に収納されている。JWST主鏡は左右が後方に折り畳まれている。
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図3 (NASA) 高度150万kmのJWST(James Webb Space Telescope)想定図
現在運用中のHST(Hubble Space Telescope )の運用高度は地上から600Kmで必要な時は国際宇宙ステーションのクルーによる修理が可能であるが、JWSTの運用高度は地上から150万Kmと人間の手の届かない彼方である。人為的な修復が不可能なので故障の起きないよう高い信頼性が求められる。

宇宙誕生初期の星や星雲をとらえるためには非常にエネルギーの小さい赤外線を捉える必要があり、反射鏡を-220℃にまで冷却しておかなければならない。その冷却のためにも、JWSTは地球から遠く、また太陽と地球からの光(赤外線)を同時に遮光/遮温できる場所(ラグランジュ点)に位置させなければならない。

JWSTの質量は6.2 tで、HST(約11 t)の約半分であるが、主鏡の鏡面積は全体としても六角形をなしており、集光部と鏡がむき出しとなっている。 このため主鏡の鏡面は電波望遠鏡のアンテナを連想させる形状をしている。
また、本体は筒型ではなく、主鏡の下にシート状の遮光板が広げられた形となっている。 鏡面に金箔を施してあるのは赤外線をよく反射させるためであるが、黄色より波長の短い可視光域は金に吸収され観測できない。
空気(地球の大気)が希薄な超高空にあって、光学望遠鏡で130億光年以上の遥かな彼方の映像撮影を可能にしようとしているJWST、どんな画像を撮影してくれるのか、天文学上多大な収穫を期待したい。
繰り返しになるが、130億年前というのは宇宙誕生から8億年の世界である。その時の光学的な画像がえられようとしている。

3.備考

「なんで130億年の昔が今見えるんだ?」と疑問に思う方もおられるでしょう。
光は地球上では1秒間に地球7周り半もの高速で走っているのは目に見えるわけはありません。
しかし太陽の光でも今私たちが見ているのは8分19秒前に発しられたものです。
我々が今見ているのは8分19秒前の太陽なのです。
星も同様で今見ている星の光はその星までの距離によって何年前の光なのかが違っているのです。
現在の科学で想定している宇宙は今から138億年まえに誕生とされています。
そのころ起きた映像は今も宇宙の中を進んで来つつありますが、現在人間の宇宙観測で見ることのできるのは約130億年前後となっています。
地上の観測所はなるべく空気密度の小さい高地に国際観測所を建設し、国々の協力観測が進められ ています。 ハワイ島のマウナケア山頂(高度4,200m)(国際天文台、日本のスバル望遠鏡もある。)と もう一つはチリのアルマ山頂(5,000m)に日本が主導してアジア、北米、ヨーロッパ、チリで建設したアルマ天文台があります。
現在の天文科学/技術レベルではこれら地上の天文研究施設でも130億年前後の宇宙画像は得ることが出来ています。 でも地球大気の揺らぎを更に少なくした観測は地上からは無理で、宇宙からの観測ということになりましょう。

このような理由から、今回のJWST(ジェームス・ウエッブ宇宙望遠鏡)の遥か150万km上空への打ち上げが成功すれば、空気の揺らぎも殆ど無い宇宙空間からの素晴らしい観測データや写真を送ってくれることになるでしょう。

次ページにハワイ島にある日本のスバル望遠鏡から撮った130億年前の宇宙の画像を載せておきます。


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参考文献
① NASAのHome-Page :原語版(英語)
② ウイキペディア:JWSTに関するもの最新版
③ その他JWSTの最新情報など
④ Tokyo Express、2020-07-15 “NASA, ジェームス・ウェブ宇宙望遠鏡の総合システム試験を実施”
⑤ Tokyo Express 2020-07-19 “ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡打ち上げ、来年10月に“

【付録】

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すばる望遠鏡が撮った130億年前の宇宙の写真(撮影2019年9月27日)

(国立天文台/Harikane et al.)
四角く囲った中の星々が今から130億年ほど前のものです。
地球から150万kmも離れたJWSTからは、更にクリアで詳細な素晴らしい画像が得られるのを期待しています。