スペースX、スーパーヘビーにスターシップを取付け、世界最大のロケットが姿を現す


2021-08-12(令和3年) 松尾芳郎

図1:(SpaceX)現地時間2021年8月6日朝、スターシップ試作20号機 [SN 20]を巨大クレーンで吊り、ローンチ・パッド上のスーパーヘビー・ブースター試作4号機 [BN 4]に取付けた。高さ120 m 世界最大のロケットの出現である。左の塔は、将来スターシップとブースターの組立て・取降ろしに使う「ローンチ・サポート・タワー(launch support tower)」。

テキサス州ボカチカ・ビーチ(Boca Chica Beach, Texas)の発射場に世界最大のロケットが姿を現した。超大型クレーンでスターシップ宇宙機を吊り上げて、29台のラプター・エンジン付きスーパーヘビー・ブースターの先端に仮取付けされた。これで高さ120 m に達する世界最大のロケットが出現した。

(The tallest rocket ever build is now standing on the launch pad in SpaceX’s Space Facility, Boca Chica, Texas. On August 6th morning, using a crane to attach the Starship to the Super Heavy Booster, with 29 newly installed Raptor engines. The two together stand roughly 120 meters high.)

図2:(BBC) 米国製大型ロケットの比較。一番右の「スターシップ」は世界最大のロケットになる。「サターンV」は1970年頃のアポロ計画・月面有人着陸に使われた。「SLSブロック1」はNASAが開発中の“スペース・ローンチ・システム”でアルテミス計画/月面着陸を目指す。「ファルコン・ヘビー」はスペースXの汎用型再使用可能なロケット、多くの実績を残しているが、「スターシップ」完成後には交代する。「スペース・シャトル」はNASA開発で「国際宇宙ステーション/ISS」向け輸送に使われたが、2011年7月を最後に退役した。

図3:(SpaceX/WAI) 左側に見える超大型クレーン「リーベール/Liebherr LR 11350 Crane」でスーパーヘビー[BN4]を吊り上げ、ローンチ・パッドに降ろすところ。

図4:(SpaceX/WAI) ローンチ・パッドにセットされたスーパーヘビー[BN4]。パッドには未だ「フレーム・ダイバーター(flame diverter)/ロケット排気ガス排除装置」が付いてない。

図5:(SpaceX/NASA) 超大型クレーン「リーベール/Liebherr LR 11350 Crane」でスターシップ{SN20}を吊りスーパーヘビー[BN4]の先端に降ろしたところ。右は「発射塔/ローンチ・タワー」、左は燃料の液体メタン(CH4)と液体酸素(LOX)を収納するタンク群で現在建設中。液体メタンは火星で精製可能と見られるため選ばれた。

図6:(SpaceX,/ NASA) 下はスーパーヘビー[BN4]の先端、多数の縦の線は今回追加された補強フレーム。上はスターシップ[SN20]の底部、一部を除いて6角形耐熱シールドで覆われている。

高さ120 mの超大型ロケットの出現は素晴らしい光景だったが、今回は仮取付け/フィット・チェックで、この後すぐにスターシップ[SN 20]は取外され、再び整備用のタワー「ハイ・ベイ」に移動・格納された。またスーパーヘビー[BN4]も発射台(launch pad)から降ろされ、「ハイ・べイ」に格納・発射に向けて整備が始まっている。

図7:(SpaceX,/ NASA) スターシップ[SN20]の取外しの様子。頂部の吊り下げ箇所周辺は耐熱シールド・タイルが未だ付いていない。

図8:(SpaceX,/ NASA) スターシップ[SN20]がブースター[BN4]から取降ろされ、「ハイ・べイ」格納タワーに搬入された。ここでエンジンを再び取外し、タイルの取付けなどを行う。

打ち上げ前にやるべき仕事が未だ残っているためだ。これを完了して数ヶ月後に、スターシップは地球を回る軌道に打上げられる。スペースXでは、将来は民間旅客機と同じように、スターシップ/スーパーヘビーは共に、着陸後、簡単な整備と燃料補給をして直ぐに再出発可能にすることを目指している。

スペースXのCEO イーロン・マスク(Elon Musk)氏は「夢が実現に近ずいた、しかし打上げ前に[重要な仕事4項目(4 significant items)]を終えたい」と話している。

[重要な仕事4項目]とは;―

  1. スターシップ[SN 20]には大気圏再突入時に備え、機体の裏側半分に小さい6角形耐熱シールド・タイルを貼付けるが、98 %は完了している、しかし変形タイルが必要な箇所は未だ取付けてない。
  2. スーパーヘビー・ブースター打上げ時、エンジンから出る大量の排気ガスを排除する装置を発射台/ローンチ・パッドに取付ける作業
  3. ブースターに供給するCH4、LOX燃料の貯蔵タンクの設置
  4. ブースター着地に備えローンチ・サポート・タワー/発射塔に捕捉用アームが必要、このアーム(QD arm=Quick Disconnect Arm)の装着(ただし次回のSN20+BN4の打上げには使わない)

図9:(SpaceX / WAI / RGV Aerial Photography) スターシップ[SN20]の空中写真。大気圏突入時の熱を防ぐため機体の半面を小型6角形の耐熱タイルで覆うが現在98 % まで終了。先端部分の周辺やフラップ取付部など未だタイルのないところが白く見えている。

2019年に構想を発表したスターシップは、月や火星に貨物・人員を送るために開発を始めたロケットで高さ50 m (16 0 feet) 、ステンレス・スチール製。高さ70 m (230 feet)のスーパーへビー・ブースターの先端に取付けられ、全体の高さは120 m(400 feet)になる。

度々述べてきたように、スターシップの試作機はこの1年間何度も発射・着陸の試験を繰り返してきた。そして次の試験は低地球周回軌道(LEO)に乗せる飛行になる。

スペースXは、今年5月に最初の軌道飛行試験の予定を発表した。即ち、2021年9月以降に同社のテキサス州西南端にあるボカ・チカの発射施設から打上げる。スーパーヘビー・ブースター[BN4]は、打上げ後約3分でスターシップ[SN20]を切り離し、ボカ・チカ沿岸30 km沖合のメキシコ湾に着水する。スターシップ[SN20]は大気圏外の予定軌道に到達後エンジンを点火、フロリダ半島南のフロリダ海峡上空を通過して、90分飛行してハワイ諸島のカウアイ島(Kauai in Hawaii)北西約100 kmの海上に着水する。

ブースター[BN4]とスターシップ[SN20]の着水の詳細と回収の方法は公表されていない。

スターシップ

スターシップは軌道飛行速度に加速する性能を備えた2段目ロケット。地球周回軌道のみならず将来は月、火星に行き、離陸し長期間の飛行の後再び地球に帰還するのが目標。このためには月、火星での燃料補給及び宇宙空間でのタンカーからの給油などが必要になる。スターシップは高さ50 m、直径9 m (30 ft)、自重120 ton、エンジンは大気圏内用ラプター(Raptor)3台と真空用ラプター3台の合計6台。これで真空中で1,250 tonの推力を出す。これは2段目ロケットとしては世界最大。

低地球周回軌道(LEO)上で燃料補給をすれば、月、火星への航行が可能となる。火星までは片道9ヶ月掛かるので、搭乗者100名用として機内に40の客室を準備する。

機体前後には空力姿勢制御のためボデイ・フラップが2枚ずつある。フラップの操作と大気圏内用エンジン3台には推力偏向装置/ gimbalがあり、これで姿勢を制御し安全に目標の着陸パッドに着地する。2021年5月にスターシップ[SN15]が高度10 kmに打上げられ、降下して無事に着陸パッドに着陸した。

スーパーヘビー・ブースター

スパーヘビーは高さ72 m (236 ft)、直径9m (30 ft)、燃料タンクを含む全体はステンレス・スチール構造、燃料は超低温の液体メタン(CH4)と液体酸素(LOX)、エンジンは29台または33台のラプター(Raptor)、離昇時の推力は合計で17,000,000 lbs (74,000 kN)、これで低地球周回軌道(LEO)に100 ton以上最大150 tonの重量(スターシップ)を打ち上げる。搭載燃料は合計で3,400 tonになる。

降下の際には本体先端の4枚のスチール製グリッド・フィン(grid fin)でエア・ブレーキ効果で減速、姿勢制御をする。着地用にランデイング・レグが検討されたが重量増のため廃案、代わりにローンチ・タワー(発射塔)頂部のアームでグリッド・フィンを支えながら着地する方法を採用する。

これまで製作されたスーパーヘビー・ブースター

  • [BN1]: 2021年3月に組み立て、Hi Beyから発射台への移動方法を検討するために使用、
  • [BN2]:超低温燃料タンクの試験に使用、2回使用
  • [BN3]:High Bay組立棟から発射台に初めて移動した、現在も試験継続中
  • [BN4]:スターシップ[SN20]を軌道に打上げる予定。8月5日に発射台( launch table)にセット、6日に[SN20]を仮付けした

図10:(SpaceX、WAI)グリッド・フィンは降下中の姿勢制御と減速のための装置で[BN4]の先端に4個取り付けられる。同社の打上げロケット、ファルコンヘビーでは穴あき・メッシュ型で、可動式だったが、今回のブースター[BN4]は固定式で穴はない、これで減速効果を高め、ロケットによる減速用燃料消費を少なくする。

図11:(SpaceX/WAI )スーパーヘビー [BN4]をローンチ・パッドに取付ける直前に撮影したエンジン室、29台エンジンの配置がわかる。中央は中心に1台、周りに8台の合計9台のエンジンが装備され、飛行中は推力偏向/Gimballing操作で姿勢制御をする。各エンジンの推力は230 ton。外周の20台のエンジンは固定式で、上昇時に必要な推力の大半を受け持つ。BN5及びBN6はこれと同じになる予定。[BN7] 以降は中心に3台、周囲に10台、外周は20台の33台装備になる。これで上昇時は最大で7,600 ton (6,670 ton? )の推力を出す。サターンV月ロケットは3,600 ton推力だったのに比べ桁違いに大きい。

図12:(SpaceX/ WAI)スターシップ[SN20]のエンジン室。中央に推力偏向/Gimballing型エンジンが3台、周囲に真空用固定エンジンが3台が付く。真空用のノズルスカート・エッジに黄色のリムが取付けられている。リムの目的は、再突入時にプラズマが漏れるのを防ぐためか?あるいは補強?これら6台で真空中で1,250 tonの推力を出す。

図13:(SpaceX/ WAI)将来のブースター回収システムの想像図。「ローンチ・サポート・タワー(launch support tower)」のアームでブースターを捕捉、静かに降ろす。アームはブースターの降下位置に正確に動き、キャッチしてローンチ・パッドに降ろす。次の発射までのターン・アラウンド(turnaround)は1時間にするのが目標。

終わりに

スターシップ[SN20]とスーパーヘビー・ブースター[BN4]は、改修工事が終わり次第、エンジンの着火試験をしてから再び組立てられ、今年2021末にはボカ・チカ・ビーチから初の軌道飛行に向け打ち上げられる。そして2023年には前園氏が搭乗する有人月周回飛行が予定されている。マスク氏の計画通り実現することを期待したい。

―以上―

本稿作成の参考にした記事は次の通り。

  • Fraser Cain / Universe Today Aug 7, 2021 “Starship is stacked on the Super Heavy Booster. The Tallest Rocket Ever Built”
  • CNBC Aug. 6, 2021 “Musk: ‘Dream come true’ to see fully stacked SpaceX Starship rocket during prep for orbital launch” by Michael Sheetz
  • Tech Crunch Aug. 6, 2021 “SpaceX stacks the full Starship launch system for the first time, standing nearly 400 feet tall” by Darrell Etherington
  • BBC News website Aug 7, 2021 “What is Elon Musk’s Starship?” by Paul Rincon
  • Square Space.com / Marcus House  2021/08/07 “SpaceX Starship Fully Stacked for the first time, Starlier and Starlink Updates 

WAI 2021/08/11 “First SpaceX Starshiip & Super Heavy  stacked in preparation for orbital flight!” by Felix