ベル、ジェット機並みの高速で飛行する垂直離着陸機(VTOL)構想を発表


        2021-08-08(令和3年) 松尾芳郎

図1:(Bell Textron) ベルの高速垂直離発着機「HSVOL」構想の3機種、いずれも高速水平飛行の姿である。垂直上昇・下降に使う翼端ローターは、水平飛行時はナセルに畳まれ空気抵抗を少なくする。左は40 ton級の輸送機、中はやや小さい多目的有人機、右は小型無人機で有人機の護衛機として考えているようだ。

テキストロン社(Textron Inc.)の傘下企業、ベル・テキストロン(Bell Textron Inc.)は、8月2日に軍用の次世代型革新技術航空機「高速垂直離着陸機(HSVTOL=High-Speed Vertical Take-Off and Landing)」の構想を発表した。「高速垂直離発着機(HSVTOL)」は、ヘリコプターと同じホバリング性能を備え、同時に戦闘機並みの速度、航続距離、生残性を備える。

(Bell Textron Inc announced, August 2nd, the unveiling of design concepts for new aircraft systems for military use, which would use Bell’s High-Speed Vertical Take-off and Landing (HSVTOL) technology. The technology blended in the hover capability of a helicopter, with the speed, range and survivability of a fighter.)

同社の革新技術担当部門副社長ジェイソン・ハースト(Jason Hurst)氏は「このHSVTOL技術は従来の回転翼機の概念を遥かに超える技術(a step change improvement)だが、これまで米国防総省と傘下の各研究所と共同で築いてきた確実な技術を基に、最新のデジタル・エンジニアリング設計技法を使うことで開発のスピードはずっと早くなる」と語っている。

「HSVTOL」技術の特徴は次の通りl―

  • 地上近くでのホバリング時のダウンウオッシュはCV-22 オスプレイよりずっと少ない
  • 水平速度は400 kts ( 740 km/hr)を超え、ジェット機並みのスピードを出せる、オスプレイの最高速度は275 kts (509 km/hr)だ
  • 垂直離着陸性能がヘリコプターと同じなので滑走路は不要
  • 戦場から救出作戦をする無人機から兵員輸送機まで幅広い範囲の機体の開発に適用できる
  • 製造可能な機体の重量は4,000 lbs ( 1.8 ton)から100,000 lbs ( 45 ton)の範囲(兵員24名を輸送できるCV-22オスプレイは重量60,500 lbs (27 ton)である)

「HSVTOL」は、滑走路が不要、頑丈な機体、用途に柔軟に対応でき、従来の回転翼機の性能を大きく上回る。V-22 オスプレイのようなテイルト・ローター機の能力を備え、最新のデジタル・フライト・コントロール、性能向上したエンジン、などを装備する「HSVTOL」は、次世代の戦闘用航空機として近代戦には欠かせない存在になるだろう。

ベルはこれまで85年以上にわたって高速垂直離着陸機の進歩・発展に携わってきた。NASA、米陸軍、および空軍のX-14、X-22、XV-3、およびXV-15、の各プログラムである。このうちXV-3およびXV-15の研究で得られた知見は、ベル・ボーイング V-22オスプレイ(V-22 Osprey)の開発に大きく役立った。今やV-22は米軍、陸軍・海軍・空軍と海兵隊で400機ほどが配備され、欠かせない輸送機となっている。同クラスの輸送能力を持つヘリコプターに比べ2倍の航続距離があるため、水陸両用作戦、長距離侵攻作戦、戦場離脱作戦、補給作戦に多用されている。

ベルが公表した「HSVTOL」は3機種ありどれも似ているが1機種は無人機。いずれも翼端に垂直離発着用のローターを備え、高速巡航では胴体後部のターボファンで飛行するが、ローターは折りたたまれ抵抗を少なくする。このアイデアはベルが以前に特許を取った「コンバーテイ・プレーン(convertiplane)」に始まったものである。

図2:(USTPO=Trademark and Patent Office) ベルが特許を取得した「HSVTOL」の初期型 “コンバーテイ・プレーン”の概念図。両翼端のナセル前方に取付けたローターは、ホバリング時には垂直になり揚力を出す。ナセル内にはローター駆動用のモーターがある。巡航になるとローター・ブレードはナセルに周囲に折り畳まれる。ファンジェットの推力で前進するが、その一部はジェネレーターの発電でバッテリーの充電をする。

「HSVTOL」に搭載する将来型エンジンはコンバーテイブルで、飛行姿勢に対応して「ターボシャフト」と「ターボファン」の2つのモードに切り換え使用する。これでリフト用と巡航用のエンジンを1つにしている。翼端ナセルにはエンジンは無く、ローターはハイブリッド電動モーターで駆動する。つまり、上昇・降下時 (terminal flight mode)には、ターボシャフト・モードにしたエンジンからのドライブ軸経由の力と、エンジンからの電力を加えローターを回転させ揚力を生み出す方式。

第1図で示した3機種とも大きさは違うが同種のエンジン/推進システム、エンジン・インテーク、尾翼、を使い、外形全体はステルス形状になっている。

第1図左端の機体はオスプレイより大型の機体で中央はやや小型、右端の無人機は最も小型、これで「HSVTOL」の設計概念は拡張性が大きいことが分かる。

有人機2機の尾翼には、軍用輸送機やタンカーに描かれている所属部隊を示す「テール・フラッシュ(tail flash)」が書いてある。右端の無人機は、大型の「HSVTOL」の護衛に使うことを想定しているようだ。

図3:(Bell Textron) 第1図左端の有人機の拡大写真、これはエンジン空気取り入れ口(air inlet)が胴体上部についている。V-22オスプレイより大型の輸送機。

図4:(Bell Textron) 写真中央の拡大写真。小型有人機でエンジン・エアインテークは翼の付け根にある。胴体下にはセンサー・ターレットがあり、対地攻撃を想定した機体のようだ。

図5:(Bell Textron) 「HSVTOL」無人機の拡大写真。ずっと小型になりエアインレットは主翼下、胴体になっている。有人機の護衛機と見られる。

図6:(USAF, US Army & Bell)) 米空軍と陸軍の共同開発でベルが製作したXV-3 コンバーテイプレーン。胴体内にエンジンを装備、両翼内を通るドライブ・シャフトで翼端の2枚羽根ローターを回す仕組み。翼端のローターは水平から垂直まで90度回転する。これでヘリと同じように垂直上昇、下降ができ、同時に高速前進飛行ができる。初飛行は1955年8月、1966年の風洞試験で破損するまで試験された。この経験はXV-15およびV-22オスプレイの開発に役立った

終わりに

垂直離発着可能な輸送機、V-22オスプレイは、米軍の主力輸送機器となり400機ほどが使われている。我国では陸自用に17の導入が決まり、搬入が始まっている、しかし配置予定の基地が地元の反対で準備が進まず、戦力化の見通しが立っていない。一方米国では上述の通りオスプレイ更新の新機種「HSVTOL」の開発が始まっている。日本周辺では中国、ロシアの軍備が急速に拡張する中、我国の国防体制が遅々として進まないのは歯がゆい限りだ。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Bell News 2 August 2021 “Bell Unveils New High-Speed Vertical Take-Off and Landing Design Concepts for Military Application”
  • Flight Global 3 August 2021 “Bell unveils three ‘High-Speed Vertical Take-Off and Landing’ dexiign concepts” by Garrett Rein
  • The Warzone August 4th, 2021 “bell unveils VTOL aircraft concepts That all Feature Fold-away Rotor for Jet-speed Flight” by Thomas Newdick