2021-10-23(令和3年) 松尾芳郎
図1:(US Air Force ) ボーイング・ウイチタ工場で完成したB-52H戦略爆撃機。B-52初号機のロールアウトは1954年3月。B-52Hは102機製造されその内76機が配備中で、これを改修し2050年以降まで現役使用する予定。計画通り行けばB-52は100年以上使われることになる。
米空軍は、今年9月下旬に ”B-52戦略爆撃に対し大規模な近代化改修を実施、7年以内に新型爆撃機として再生する“と発表した。近代化改修には、新しいエンジン、最新のアビオニクス、新しいジャマー(jammers)、新型レーダー、構造部材の交換、などが含まれる。さらに機首下面のセンサー・ポッドを取り外せば外形も変わることになる。
(Within seven years, the U.S. Air Force would get modernized reborn Boeing B-52, with new Rolls-Royce engines, new avionics, new jammers, a new AESA radar, and even new structural components. Its exterior profile might be change, if the old sensor pods underneath the nose section are removed.)
B-52はボーイング製、最も若いすなわち最終の製造機体「B-52H」がウイチタ(Wichita, Kansas)工場で完成したのは1962年なので、少なくとも59年使われてきた。。
今回の大規模改修が完了する2028年には、どの機体も66歳以上になる。エンジンは60年以上昔に作られたプラット&ホイットニー(Pratt & Whitney)製 TF-33から新しいロールス・ロイス(RR=Rolls-Royce)製 F130 に変わる。
図2:(US Air Force) 写真は、全世界攻撃司令部(Air Force Global Strike Command)配下の第5爆撃航空団(5th Bomb Wing)、ノースダコタ州ミノット空軍基地(Minot AFB, North Dakota)、に所属するB-52H。B-52は1952-1962年の間で744機が製造された。爆弾・ミサイル等兵装32 tonを搭載し無給油で “戦闘行動半径” は14,000 kmになる。現用76機中58機が第2爆撃航空団と第5爆撃航空団に配備され即応体制にある、残り18機は第307爆撃航空団で予備役となっている。乗員5名、全長48.5 m、翼幅56.4 m、高さ12.4 m、最大離陸重量219.6 ton、巡航速度819 km/hr、武装は、尾部の20 mm M61バルカン機関砲を1991年に取外したので今はない。ランデングギヤは前後に4つあるが、コクピットの操作でスイーベルし横風着陸時には機首を風向きに合わせて滑走を容易にしている。
現在の8台のTF33エンジンはアイドル運転中でも1時間当たり10 tonの燃料を消費するするが、これはF-15C戦闘機の全搭載燃料に匹敵する。
図3:(The WAR ZONE) ルイジアナ州バークスデール空軍基地(Barksdale AFB, Louisiana)のB-52H。尾部20 mmバルカン機関砲は取外して無い。写真は「YouTube “B-52 Walkaround”」(約2時間)」で説明を担当したアーロン・ボール(Aaron Bohl)空軍中佐。
図4:(YouTube “B-52 Walkaround)ランデングギヤと説明をするボール中佐。
図5:(YouTube “B-52 Walkaround)写真の上部にあるチャートを使い、ランウエイの風速・風向からランデングギアの角度を読み取り、中央の大きな円形ノブを回しセットする。
胴体内爆弾倉ラックは第二次大戦中のB-17爆撃機のものを使っているが、近代化改修で新型のスマート爆弾用に変更される。
ロールス・ロイスF130エンジン
RR 製F130エンジンは、民間用BR700系列のターボファンで、リージョナル機やボンバルデイア製グローバル・エキスプレス(BR710型)、ガルフストリームG550 (BR710型)、同G650型( BR725)などに使われている。BR725を装備したガルフストリームG650型機は2011年から引き渡しが始まっている。
BR700系列のエンジンは、RRとドイツのBMWが出資し1990年に設立の「BMW Rolle-Royce Aero Engines」社が開発したエンジンである。2000年にRRが同社の全株を取得「ロールス・ロイス ドイチュランド」となった。BR700系列エンジンは1995年以来3,600台以上が生産され27,000,000時間の使用経験があり、低燃費、高信頼性を実証済み。
RRは民間用BR725エンジン、すなわち軍用名F130、推力17,000 lbs 、をB-52H改修用に提案、競合するP&WおよびGE製エンジンを退け2021年9月24日に米空軍より「B-52H Commercial Engine Replacement Program (CERP)」に採用された。
RRとの競争に敗れたたエンジンは、P&W提案のPW800 (エンブラエル製リージョナル・ジェットE2シリーズおよびエアバスA220に採用)、GE提案のCF-34 (エンブラエル製初期型Eジェットに採用)および新しい「パスポート(Passport)」である。
米空軍はF130を650台購入する予定(608台を交換用、42台を予備用)にしている。これはB-52H の76機分で、合計で26億ドルになる。このCERPエンジン、即ちF130、は「RR北アメリカ/ RR North America」社のインデアナポリス(Indianapolis, Indiana)工場で生産される。
F130の概要は;―
- 直径130 cm (50 inch)チタン合金製後退翼型24枚ブレードのファン1段、これを3段低圧タービンで駆動する。ファン・バイパス比は4.2 : 1。
- 高圧コンプレッサーはV2500エンジンを小型化した10段で内5段を[ブリスク(blisk)/ブレード・デイスク一体]構造にして軽量化と性能向上を図っている、これを2段高圧タービンで駆動する。
- マッハ0.85、高度45,000 ftの巡航時の燃費は0.66 lb/hr/lb (18.6 gr/kN-sec)。
空軍はエンジン選定に長期間検討を重ねてきたが、9月中旬にRR 製F130の採用を発表、TF33と同じように主翼下面のパイロンに取り付けることを決定した。
図6(Rolls-Royce)RR BR725 / F130は通常の2軸式ターボファン、離陸推力17,000 lbs。ファン・ダクトで全体を覆い長さは3.3 m。2段高圧タービンはチップ・クリアランス・コントロールで先端部のリークを抑えている。
図7:(Rolls Royce) BR725 / F130エンジンのファン部分。直径130 cm (50 inch)チタン合金製後退翼型24枚の幅広ブレードで構成される。
B-52の現状と改修の予定
B-52は、4年毎にオクラホマ州テインカー空軍基地(Tinker Air Force Base, Oklahoma)で数ヶ月に及ぶ大規模な整備を受けているが、ここでは塗装をストリップ、パネルを剥がし、内部を詳しく検査、必要があれば部品、部材を交換している。従ってほとんどの部品、構造部材は交換されるので、旧い部品、構造部材はほぼ更新されていると言って良い。
これはギリシャ神話にある「テセウスの舟 / the Ship of Theseus pardox」の航空機版の例と言える。
「テセウスの舟パラドックス」とは、「アテネの人々は、ギリシャの神テセウスがクレタ島から帰還した際使った舟を大切に保管してきたが、2000年も経つうちに部材が徐々に朽ち次々と新しい木材に交換されていった。これについて、紀元前400年ごろ哲学者(Heraclitus)はこの舟は最早同じもではないと言い、他の人(Plato)は同じものだと主張した」という論争を指す。
ボーイングでは、1970年代終わりに、当時稼働中のB-52全機の主翼上面スキンの交換・改修を実施をした。後日サウスダコタ州 (South Dakota)の第28爆撃航空団司令官に赴任したロバート・ダーキン(Robert Durkin)中佐は「この改修は事実上主翼の再生あるいは交換に相当する大規模工事だった」と述べている(1983年)。
P&W 製TF33からロールス・ロイス製F130エンジンへの換装には26億ドルの予算が見込まれているが、この中にはパイロンの更新も含むと見られる。
1970年代に低高度飛行時に使うため機首下面に装備した赤外線センサーとビデオ・カメラの入った2個のポッドは、取り外すことになる。現在B-52はもっぱら高高度飛行をするので、これらは不要だし、必要なら技術の進歩で高感度・小型のセンサーがすぐに入手できるし、ポッドを無くせば抵抗節減で燃費も少なくて済む。
図8:(Wikimedia) B-52Hの機首下面の赤外線センサー(奥)とビデオカメラ(手前)。近代化改修で共に取外す。機首内部のAN/APQ-166レーダーは新しいAN/APG-79/82系列のAESAレーダーに換装される。写真はバークスデール空軍基地第2爆撃航空団所属の機体。
新型エンジンの搭載とその他の改修で、B-52の燃料消費は40 %改善され、標準的な兵装搭載で1時間の予備燃料を残す航続距離は現在の5,100 milesから7,400 milesに伸ばすことができる。これでB-52は1回の空中給油を受ければ世界中どこからでも巡航ミサイルを発射できるようになる。
2011年、ボーイングは12億ドルの予算で、就役中のB-52H合計76機に対し、機内全てのワイヤリングを更新、リンク16 (Link 16)データリンク/システムを搭載、コクピット・デイスプレイを最新システムに改修した。ワイヤリングを更新したことで、それまで翼下面パイロンに取付けていた精密誘導爆弾を機内ボンブベイに収納・発射できるようになった。
2021年7月11日、空軍はレイセオン(Raytheon)社にB-52H用として現在の旧式な機械式スキャンのノースロップ・グラマン製AN/APQ-166レーダーに代わる新しいAESA (Active Electronically Scanned Array)レーダーの開発・製造を77機分発注した、と発表した。現役の76機とデービス・モンサン空軍基地(Davis-Monthan AFB)に保管中の退役機1機を含む。これで2023年から新レーダーAN/APG-79/82系列に換装が始まる。APG-79は海軍のF/A-18E/Fスーパーホーネット戦闘機、EA-18G グロウラー電子戦機に、またAPG-82は空軍の最新型F-15EX戦闘機に搭載されている。
図9:(Raytheon) レイセオン製AN/PG-79/92 系列AESA レーダー。右からF/A-18 RACR、F-16 RACR、APG-79、APG-63、APG-82。アンテナ素子面(赤色)からの電波は電子的に高速でスキャンされる。
今年2021年には、予算10億ドルでL3ハリス(L3 Harris)社の手で、現用の古いアナログ式レーダー・ジャマー(radar-jammer)ALQ-172を新型のデジタル式ジャマーに交換を始めた。
こうして1960年代製造の高齢化したB-52Hは、新しい主翼、新しいワイヤリング、近代的なセンサー類とジャマー、それに新エンジンを装備した新型機に生まれ変わる。外形はほぼ同じだが、能力は一新される。空軍では“新型機の呼称”を「B-52H+」あるいは『B-52J』にすることを検討中、と言われる。
以上述べてきた過去20年間にわたり目立たない形で進められてきたB-52の改修費用は総額で150億ドルにも達する。これで76機のB-52は、目下開発中のステルス爆撃機B-21と共に2050年まで使われることになる。
B-21爆撃機は現在5機が製造中で2022年中に初飛行の予定、空軍では合計100機を調達する。B-21は単価6億ドルなので100機では600億ドルになる。空軍では非ステルス機のB-52を巡航ミサイル発射機として使い、B-21は敵の防空圏内に侵入・攻撃するミッション用の機種とすることを計画している。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
- Air Force Magazine Sept.21, 2021 “Contract for New B-52 Engines ‘Imminent’ by John A. Tirpak
- Forbes.com Sept. 27. 2021 “The US Air Force is Gradually Rebuilding its B-52 Bombers from The Rivets Out” by David Axe
- Rolls-Royce Press releases 24 September 2021 “Rollse-Royce North Amerika selected to power the B-52 Commercial Engine Replacement Program”
- Air Force Magazine Sept. 24, 2021 “Rolls-Royce Winw B-52 Re-engineing Program Worth $2.6 Billion” by John Tirpak